26話:メルヘンの世界!
宮殿のエントランスに着き、馬車を降りた。
そのままエントランスホールに行くと、沢山の子供達がいる。
そこで理解した。
今回のイースターエッグハント。
そもそもこのイベントは子供向けだ。
そしてセシリオは自身主催でイースターエッグハントを開催するにあたり、貴族の令嬢令息を招待したわけではない。孤児院の子供達を招待したんだ!
孤児院は修道院や教会に併設されていることが多い。
よってシスターが子供達に付き添い、エントランスホールにいた。
「キャンデル伯爵令嬢!」
声の方を見ると、アクアグリーンのフロックコートを着たヴェルナーがいる。
クリームイエローの刺繍が袖や裾にあしらわれ、とても美しいデザインだ。
「ホルス第二皇子も招待されたのですね!」
「ええ。本来、孤児院の子供たち向けのイベントですが、特別に」
やはり私の予想通りだ!
するとそこへセレストブルーのフロックコートに、ホワイトシルバーのマントを着用したセシリオがやって来た。
セシリオは一瞬、ヴェルナーと私に視線を向け、その澄んだ泉のような碧眼を細める。
「わあああ、王子様だ!」「王様だ!」「カッコいい~!」
子供達がセシリオを見て喜びの声をあげた。
「みんな、ようこそ。これから王宮の庭園に案内するよ」
「「「わーい」」」
子供達は大喜びでセシリオの周りに集まる。
セシリオは、左手に男の子、右手を女の子とつなぎ、移動を開始する。
「わたし達も行きましょうか」「はい!」
ヴェルナーにエスコートされ、歩き出す。
しばらくは宮殿の回廊を進み、子供達は「ひろーい!」「おおきい~」「綺麗~」と感嘆しっぱなし。子供達はあちこち行きたがるが、それはシスターと執事やメイドがガードしている。
途中で右に曲がると、その先には庭園が見えた。
でもそこはまだ王宮の庭園ではない。
宮殿の庭園だ。
「わあ~素敵!」「すごーい!」「すげー!」
春の風物詩であるミモザの黄色の花畑に、子供達の歓声が上がる。
「子供達は元気ですね」
「本当に。素直に感動する姿が、微笑ましいです」
ヴェルナーとそんな牧歌的な会話を交わしていると、ついに王宮の庭園の入口へ着いた。
門番が門を解放すると――。
もうそこに広がるのは、メルヘンの世界!
ミモザは勿論、パンジー、チューリップ、クロッカス、スイートアリッサム、ライラックなど、花壇には春の花が溢れている!
子供達は歓声を上げ、花壇に向け駆け出す。
そこでセシリオは「集合~!」と声をかけた。
子供達が集合すると、ペイントしたイースターエッグを見せる。
イエロー、ホワイト、ピンク、グリーン、パープルとイースターカラーにペイントされ、花や水玉模様、ウサギなどが描かれていた。クオリティが高く、その卵が芸術作品になりそうだった。
「今から三十分かけ、こんな風にペイントされているイースターエッグを見つけて欲しい。見つけたら、今、メイドや従者が配っている籠にいれるんだ。時間が来たら『終了』と合図するから、ここに戻って来るように。ちゃんと戻って、何個見つけたか報告してくれたら、ご褒美をあげよう。それに美味しいスイーツと飲み物も楽しめるぞ!」
セシリオの言葉に子供達は元気よく「「「はーい」」」と返事をしていた。
受け取った籠も大事そうに眺めている。
「注意点は、花壇に足を踏み入れないこと。こんなに綺麗に咲いているんだ。頑張って春を目指して咲いている。それを靴で踏んだら、可哀想だろう?」
セシリオが問いかけると子供達は「可哀そう!」「花壇には入らない」「お花は守る!」と返事をする。
「よし。後は庭園は広いから、迷子になる。だから大人と一緒に必ず行動だ。迷子になると美味しいスイーツと飲み物も楽しめなくなる。守れるか?」
「「「はーい」」」
こうして子供達は、シスター、メイド、従者に連れられ、イースターエッグハントを始める。
「お姫様も一緒に行きましょう!」
「もう一人の王子様も~」
ヴェルナーと私のそばにも、女の子二人がやって来た。
さらに男の子と女の子を連れたセシリオとも合流し、七名でイースターエッグハントとなる。
幼い子供達が探すのだ。
分かりにくい場所には隠されていない。
空のブリキの鉢の中、ベンチの下、如雨露の中などに、イースターエッグは隠されている。
みんな沢山のイースターエッグを見つけ、三十分の探索は終了。
元の場所に集合し、セシリオは見つけた数に応じ、お菓子を籠に入れてあげていた。
芸術作品のようなイースターエッグをもらうことができ、さらにお菓子も手に入った。
子供達はみんな、大喜び。
その上でパーゴラ(藤棚)に案内されると、そこにはテーブルと椅子がセッティングされており、スイーツやフルーツがズラリと並べられている。
甘い香りが漂い、子供達はもう大歓声を上げた。
席についてからも、ワイワイガヤガヤで、スイーツを楽しむ。
チョコレートもケーキも普段、食べることはないため、みんな物凄い勢いで食べている。喉に詰まらせないか、心配になるぐらいだ。
そうやってスイーツを満喫していると、セシリオに声をかけられた。
「キャンデル伯爵令嬢、ちょっとこちらへ来てもらっていいいかな?」
そこでセシリオに案内されたのは、猫の額ほどの広場だ。
周囲を薔薇の生垣で囲まれ、小さな噴水がある。