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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
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【第四十七話(1)】久々の安らぎ(前編)

いつの間にか、日は夕暮れ時を迎えていた。そんな中、瀬川は静かに重い瞼を開く。

「……どういう状況だ、これ」

眠りから覚めた瀬川の視界に飛び込んできた景色。それに思わず彼は困惑せざるを得なかった。


まず、瀬川が認識したのは、集落に住まう藍色の髪の少年こと青菜 空莉の姿だ。

「……あは、セーちゃん……おはよう」

彼は引きつった笑いを浮かべ、縮こまった様子で正座している。

そして、彼の正面には切り株の上に腰掛ける一ノ瀬の姿があった。

「……あ、セイレイ。ようやく起きたね」

ちらりと瀬川の方に視線を投げた彼女だったが、その鋭い目つきは青菜の方へと向けられていた。

……まるで刑事を思わせる鋭い目つきだ。

彼女の後ろに立っているのは、瀬川の幼馴染である前園。

「……セイレイ君。貴方にも、後で色々と話を聞きたいです」

「は?」

前園はどこか冷めきった目で、瀬川に視線を送る。言葉の意図が読めない瀬川は、頭に疑問符を浮かべ、そして引きつった笑みを浮かべてその場をやり過ごす。


一ノ瀬は、じっと青菜の目を見つめる。その鷹の目を彷彿とさせる鋭い双眸は、青菜が言い逃れをすることを許さない。

「青菜 空莉君」

「は、はいっ」

「君は、本当に、瀬川 怜輝……セイレイの幼馴染、なんだね?」

「えっそうなのか?」

「なんでセイレイ君が驚いてるの……」

素っ頓狂な反応を示した瀬川に、前園はより一層冷ややかな視線を送る。

「えっ、覚えてないの……?」

その瀬川の反応に、衝撃を受けた青菜は驚いたように目を見開く。彼の反応の意図を悟ったのか、代わりに一ノ瀬が話を続けた。

「青菜君。セイレイはね、どうやら魔災前の記憶が無いみたいなの」

「魔災前の記憶が……?」

「そう」

頷いた一ノ瀬の隣に、会話に割って入るように前園が並ぶ。彼女はじっと青菜の顔をまじまじと見つめる。

「……えっと?穂澄……ちゃん?」

戸惑う様子の青菜に対し、前園はどこか怒ったようにも思える表情で語り掛ける。

「セイレイ君の幼馴染っていうのは聞き捨てならないね?私だってセイレイ君と魔災の後、ずぅーーーーっと一緒に生きて来たんだから」

「は、はあ」

「青菜君。君は貴重な情報源なの、だから勇者一行のチカラになってくれるよ、ね?ね?」

ずいと可愛らしい顔を近づける前園。同年代の女性との接点が少ない青菜は思わずドキリとした様子で、すぐさま彼女から目を逸らした。

「べ、別にそんな尋問みたいなことしなくても、答えるよっ。あんまり大した話は出来ないかもだけど……」

観念したように、しおらしくなった青菜。

そんな三人の様子をどこか遠巻きに見ていた瀬川は、戸惑いながらもぽつりと呟いた。


「……いや、何でお前ら俺の昔の話に興味津々なんだよ。割とどうでもいいだろ」


----


僕——青菜 空莉は、セーちゃんと家が隣同士だったの。お父さんがどうやら同じ会社に勤めていたみたいでね。そのよしみで仲良くなって、時々一緒に出掛けたりしてたんだ。

セーちゃんは昔からこんな感じで、どこか抜けた感じだったよ。


「おい」

「今は青菜君が話してる最中でしょ?セイレイ君は静かにしてて」

「……」


……話を戻すよ?

本当に、毎日のように遊んだなあ。よくセーちゃんのお父さん、忙しそうだったから僕の家に招いて一緒に遊んだよ。

沢山ゲームしたり、公園ではしゃいだり。楽しかったなあ……。

でも、よく思い付きで他人の敷地に入るし、あちこちに連れ回されるし、よく土塗れにされるし。

セーちゃんは昔から自分勝手で、やりたい放題だったなあ。

散々僕もとばっちりで大目玉を喰らったけど、今となっては懐かしさしかないや……。

……でも、魔災が起きるちょっと前くらいかな?

セーちゃんが交通事故に遭ったことあってね。

その時、脳死?とかよく分からないけどそんなこと言われたんだって。子供の頃はその言葉の意味も分からなくて、ただもう二度と会えないって話ですごく泣いた記憶があるんだけどね。

……でも、セーちゃんと今こうして話が出来てるってことは、多分記憶違いなんだろうね。


----


「まあ、大体僕が話せる範囲って言えばこれくらいかなー……散々セーちゃんには振り回された記憶しかないや」

青菜の追憶を共に辿った前園は、とても暖かく、柔らかな笑みを瀬川に向けた。

「セイレイ君……昔から変わらないね。ほーんとに、昔から変わらないんだね」

「……なんか、すまん」

記憶にない話とはいえ、幼い頃の自分自身が、青菜に散々迷惑をかけたことに瀬川は素直に頭を下げた。

その言葉に青菜は楽しそうにけらけらと笑う。

「あははっ、大丈夫だよー。でもさ、本当に驚いた、居なくなったと思ってたセーちゃんの顔が急に空一面に映し出されたんだよ?」

魔王が引き起こした、全世界生中継の話だ。

世界を再び崩壊へと導いた行動の一つであるため、瀬川にとっては複雑な心境を呼び起こす内容の話である。

しかし、青菜はそんなことも気にせず話を続けた。

「まさかとは思ったけど。追憶のホログラムが映す映像は、明らかに記憶にあるセーちゃんそのものだったし。これは間違いないなーって……」

「……交通事故、かあ」

青菜の語った内容にあった”交通事故”の単語を一ノ瀬はぽつりと反芻する。

それから、確かめるように一ノ瀬は青菜に問いかけた。

「青菜君、セイレイが交通事故に遭ったって話。それ以上のことは何か知ってるの?」

「え?ううん。僕もそこまでしか聞いてないや……まあ、頭打ったりしたなら魔災前の記憶が飛んでても仕方ないのかなとは思うけど……どうして?」

青菜は彼女の問いかけの意図を理解できず、そのまま質問を返す。だが、一ノ瀬は顎に手を当てたまま青菜の問いかけには答えなかった。


一ノ瀬の脳裏を過ぎるのは、商店街ダンジョンで映し出された追憶のホログラムの映像だ。

ホログラムの実体化実験。魔災。脳死。

何もかもリセットされた世界。それが、この魔災に墜ちた世界ではなく、瀬川の記憶のことだとしたら?

「……」

——考えすぎ、か。


そう思い直した一ノ瀬は、首を横に振って笑顔を作った。

「ごめんね?私、元々医者志望だったからその辺りの話に興味あっただけ」

「そっかぁー……セーちゃんに会えない方が僕はショックだったから。でもこうして久々に再会できて僕は嬉しいよー、ねー」

そう言って青菜はぴたりと瀬川に引っ付いた。

瀬川は鬱陶しそうに青菜を引きはがそうとする。

「うぉ、なんでみんな揃いに揃って引っ付くんだ、離れろっ。俺、お前のこと記憶にねーんだから」

「ふふんっ、まーさかセーちゃんが勇者になってるとはねー。人生何が起こるか分からないもんだねー」

「セイレイ君に関しては起こりすぎだと思うけど……」

前園は困惑しながらも、話に割って入るようにツッコんだ。


「よっと」

青菜はゆっくりと草原の中を立ち上がり、それから勇者一行の方へと振り向いた。

「ま、たまには肩の力抜いてゆっくりするのも大切だと思うよ。何事も緩急、ね?」

跳ねるように、青菜はスキップしながら民家の集う集落の方向へと戻っていく。

その後ろ姿を見送った後、勇者一行はお互いに顔を見合わせる。

「……まあ、一理あるか……」

「青菜君も、人のこと言えないんだろうけどね……」

前園はじっと青菜の後ろ姿を見送りながら、呆れたような言葉を漏らした。

「その話は今度聞こっか。私、こういう村に来るの初めてだから色々見てみたいよ」

一ノ瀬はどこか好奇心に満ちた瞳で、目を輝かせて二人に語り掛けた。

そのどこか子供じみた彼女の様子に、瀬川と前園は苦笑を漏らす。

「姉ちゃんも大概さ、人のこと言えねーじゃねえか……」

「……あはは。でも、色々知るにはいい機会かもしれないね」


そうして、勇者一行は久々に体を休める時間を作ることにした。


To Be Continued……

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