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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
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【第四十六話(3)】戦い続けた先の景色(後編)

げっそりとした顔色で、瀬川は集落のはずれにあるぽつんと残された切り株の上に腰掛ける。

「……つ、疲れた……」

早々にメンタルを削られた瀬川はぐったりと項垂れていた。

そんな彼の横に、青菜はニコニコと楽しそうに微笑みながら佇む。

「お疲れ、勇者様っ。いつも配信見させてもらってます」

「ぜってぇこのタイミングで言う事じゃねえだろ……」

「あははっ」

瀬川は恨めしそうに青菜を睨む。だが、そんな彼の様子も気にすることなく青菜は屈託のない笑顔で楽しそうに笑った。

しかし、それから突如として真面目な顔を作り、瀬川の顔を横目で見やる。

「……でも、このタイミングで言う事だよ。勇者様の最近の配信、すごく顔が険しかったよ?」

「そ、それは……」

突如として切り込んだ指摘をする青菜の言葉に、瀬川は思わず面食らう。

腰が引けた瀬川に対し、青菜は一視聴者として鋭くさらに踏み込んだ。

「僕ね。勇者様の配信、いつも見てるの。でもね、あの商店街ダンジョンの配信からずっと、勇者様追い詰めた顔してる」

「……配信見てるなら、分かるだろ。俺は、俺のせいで」

再び自虐的な呟きをしようとした瀬川の両肩を、青菜はすかさず掴む。

「はい、どーんっ」

そして、そのまま瀬川を切り株に座った状態のままから、大きく押し倒した。

「おわっ!?何すんだよてめぇっ!?」

困惑しながらも、瀬川は青菜を怒鳴る。だが、青菜は瀬川を逃すまいと押し倒した姿勢のままにこりと微笑む。

「ふふー、まさかこんなところで出会えるなんてねえ。これも天の導きかなー」

「はっ?お前何を言ってるんだよ」

動揺する瀬川を他所に、青菜は彼の隣にごろりと寝転がった。

「よっと。今日はいい天気だもん。こんな日は寝転ぶに限るんだよ」

「いや、今はそんな気分じゃ」

そう言って起き上がろうとした瀬川の腕を青菜は引っ張って引き留める。

「だーめーっ。ほら、気持ちいいよ?寝転がるの」

「……少しだけだぞ」

強情な青菜を振りほどくことが出来ず、渋々瀬川は青菜の隣に寝転がった。そして、地平線の遠くまで広がる青空を二人で見上げながら、瀬川はぽつりと呟く。

「……綺麗な空だな。気持ちのいい青空だ」

「でしょ。こんな大きな空を見てたら、何もかもどうでもよくならない?」

「いや、あんまりよく分かんねーけど……」

「たまにはこういう日も大事だよー……とか言ってたら、なんだか眠くなってきちゃった」

そう言って、青菜は大きく欠伸をした。

うとうととまどろみ始めた青菜に釣られるように、瀬川も大きく欠伸をする。

「くぁあ……なんかお前見てると俺まで眠くなってきたわ……」

「ふぁあ……じゃ、一緒に寝よっか……すぅ……」

そう言うや否や、青菜は寝息を立ててぐっすりと眠り始めた。

まるで幸せそうに眠る青菜の表情を見て、瀬川は思わず破顔する。

「呑気なやつだな……まあ、こういう時間も大切……か……」

大きく息を吸えば、青々とした草原の匂いがつんと鼻腔を刺激する。土の匂いと、草木の匂いが暖かな日差しに照らされて、どこか落ち着く香りを生み出していた。

ぽかぽかと包み込むような日差しの下、まるで自分を包み込むような草原に寝転がると、布団の中でくるまっているような心地よさを瀬川は覚える。

そうした安らかな時間を堪能しているうち、瀬川は思わずぽつりと言葉を漏らしていた。

「……こんな時間、いつぶりだろう……」

ゆっくりと瞼を閉じる。すると、自分の体がふわりと柔らかな羽毛に覆われたような心地よさが身を包む。

深く、沈む。

自分を抱き寄せるように。自分の居場所はここなんだと言っているように。


----


ぐるぐると、色々な想いが脳裏を渦巻く。


いつしか、戦い続けた先の景色の中に、喪ったものばかりしか見えなくなっていた。

自分を大切にしてくれる人がそこにいることを、いつしか忘れていた。

「……センセー……」

沈む意識の中、瀬川は今となっては憎しみしかないはずの恩師の呼び名を無意識のうちに呟く。


——センセーは、どうしてこんなことをしたんだろう。

いつだって、センセーは俺のことを考えてくれていたはずなんだ。

『他人を助ける資格は、自分を助けることの出来る者にしか無いんだ。俺達は、運よく生き残っているだけなんだ』

三年前、センセーはそう言ってたじゃん。何で、俺に他人を助ける力を与えるきっかけを作るくせに。センセーは皆を助けようとせず、逆に皆を苦しめるんだよ。

分からない。分からないよ。

——知りたい……。

知りたいと言えば、ディルのこともそうだ。

あいつは、Dead配信を謳っていて。いつもめちゃくちゃばっかりするやつだ。

でも、ディルはいつも口を開けば「セイレイ君の為」って言ってる。実際に、俺が死の狭間を彷徨った時は狂ったように怒ってた。

なんで、ディルもセンセーも。俺の為に、そんな滅茶苦茶ばっかりするんだろう。


ふと立ち止まって周りを見れば分からないことばかりで。知らないことばかりで。

いつしか、俺は自責の念に囚われ続けて。周りが見えていなかった。自分のせいだ、自分が頑張らなきゃ。って自分のことしか見えてなかった。

でも、それだけじゃ足りないんだ。

知らなきゃ。まだ、判断材料が足りていないんだ。


道の駅集落に着いて、初めて森本先生と出会った時。先生も言ってた。

『——自身の行動が周りに及ぼす影響……一度、それについて考えを改めた方が良いかもしれませんね』


「……穂澄。……姉ちゃん……」

俺がむきになって配信を続けようとした時。二人はとても俺のことを心配してくれた。すごく気を遣って、守ろうとしてくれた。

目が覚めたら、謝らないとな……。


----


「……すぅ……すぅ……」

気づけば、瀬川はすやすやと寝息を立てて眠っていた。

先に目を覚ました青菜は、穏やかな表情で瀬川の寝顔を見つめる。

「……ぐっすり眠ってる。まだ、起こしちゃだめだよ?」

しーっ、と人差し指を自身の唇に当てて、”静かに”のジェスチャーを作る。

彼の視線の先にいるのは、二人の元を訪れた前園と一ノ瀬だった。

「セイレイ君。すごく気持ちよさそう……」

「なんだか。安心したよ。最近すごく張り詰めていたから」

二人は安堵に胸をなでおろす。その安心感を抱いた女性陣に向けて、青菜は優しく微笑んだ。

それから、ぐっすりと眠る瀬川の金色の髪を優しくなでながらぽつりと言葉を漏らす。

「セーちゃんは……頑張りすぎちゃうんだよ。昔から、本当にそう……」

「……セー、ちゃん?」

「あっ」

前園が、青菜の呟きを反芻する。その言葉に己の失言に気づいたとばかりに、青菜は女性陣から顔を背けた。

しかし、案の定というか勘の鋭い勇者一行の魔法使いと、盗賊は彼の失言を逃さない。

「ねえ、青菜君、だったよね。ちょっと質問いい?いいよね?ね?」

「ダメ。ホズミちゃんが何を言っても黙秘権を行使します」

「”昔から”ってさっき言ったよな?ということは、青菜君。君は、魔災前のセイレイを知っているという事で良いんだよな?」

「……あー、あー……」

白々しく両耳を手で覆った青菜を逃すまいと、一ノ瀬は更に畳みかける。

「魔災の後の記憶はないって君は言っていたけど。魔災前の記憶はしっかりと残ってるんだよね?私、知りたいなあー……君と、君の言う勇者様との関係性ー?」

「う。うー……」

青菜は己の失言に頭を抱え、女性陣から顔を背け、沈黙に俯いた。

しかし、いつまで経っても諦めようともしない二人に遂に観念する。


恥ずかしそうにもう一度ちらりと前園と一ノ瀬の方を見やり、それから観念したようにぽつりと白状した。

「……僕、青菜 空莉は。勇者様……セーちゃんの、幼馴染……です……」


To Be Continued……

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