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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第三章】終幕

広々とした草原の中、巨大な桜の木が魔王の前に(そび)え立つ。

三年前、勇者達と寝食を共にした集落跡地。そこは全ての始まりの場所だ。

かつての名残を辿るように、魔王は一歩、また一歩と桜吹雪舞う中で歩みを進めていた。

「懐かしいな……」

骨と瓦礫と、崩壊した家屋の残骸。それに覆いかさなるように、草や花と言った新たな命が芽吹いていた。

どこか感慨にふけるように、魔王はそれらの景色をぐるりと見渡す。


そんな魔王セージの背後に、立つ一人の少年。

「……やりすぎだよ。こんなことしろって、僕は頼んでいない」

「ディル、か」

上下黒のスウェットに身を包み、ぼろきれのようなマントを首に巻いたディルだった。

彼は、苛立ちを隠そうともしない剣幕で魔王を睨む。

「魔王セージ。君はいくら何でもやりすぎだ。こんなことが、セイレイ君の為になるって本当に思ってるの?」

その問いかけに対し、魔王は見下すようにせせら笑う。

魔王は胸元に刻まれた傷を触りながら、ディルへと答えを返す。

「実際に、勇者として開花しただろう?希望の種は、遂に花開いたんだ」

「ふざけないでよ、こんなめちゃくちゃになった世界で、どう希望を見出せって言うんだよ」

「お前は、随分と人間の肩を持つんだな。Dead配信を謳っているくせに」


ディルは、静かにチャクラムを顕現させる。

「それと、これとは、話が別だよ」

「いいや、同じさ。最終的に世界を救う結果となるのなら、どれだけの人が犠牲になろうが関係ない」

「ふざけるなっ!!!!スパチャブースト”緑”!!」

その言葉と共に、ディルはチャクラムを素早く投擲した。

緑色の淡い光を纏ったチャクラムが、魔王セージへと襲い掛かる。だが。


「落ち着けよ。勇者セイレイのスペアめ」

魔王はそのチャクラムを、難なく手の平で弾いた。光を失ったチャクラムはひらひらと空気抵抗を受けながら地面に落下する。

やがて、そのチャクラムは光の粒子となって姿を消した。

苛立った様子を隠すこともせずにディルは鋭く、睨み続ける。

「随分と気に食わない呼び方をするんだね。僕は僕だ」

「最高峰のテクノロジーから生まれた人造人間。人間まがい、だったか?お前がいつかの配信で自分で言ったんだ」

「……っ」

その言葉に、ディルは口を閉ざした。拳を強く握りながら、歯を食いしばり俯く。


黙りこくったディルに、憐れむような視線を魔王は送る。

「お前は、最も人間に近い存在だ。だからこそ、人間にはなれない。どうしても我が憎いというのなら、Live配信を謳っている勇者パーティにでも入れてもらったらどうだ?僧侶ディル」

「……僕は、僕は……」

「まあ、我はどうでもいいがな」

そう言って、魔王は巨大な桜の幹に触れる。

「あまりにも、人々は文明を発展させ過ぎた。だからこそ、戻さなければならない。今の娯楽は、かつての必要だった」

「……だから、Sympass。だから、配信なんだろ」

ディルがそう言うと、魔王はこくりと頷いた。

「そうだ。人々に世界で起きた事実を伝えるはずだった配信。いつしか、それは情報の中で生み出される感情のみが優先され、娯楽へと姿を変えていた」

「随分と尖った考え方をするんだね。そもそも魔王セージは、どうしてセイレイ君にデッサンを教えたんだよ?」

その問いかけに、魔王は空を仰ぐ。

「……写真も無かった大昔の時代。絵は、狩猟対象を知らせる情報伝達手段として、必要不可欠だったものだ……言わば、最古の娯楽と言えるだろう」

「へぇ?最古の娯楽と、最新の娯楽。その二つを掛け合わせようって算段?」

「そうだ。勇者が生まれるには、娯楽のままでは駄目だ。ダンジョン配信は、ただの娯楽ではない」

「……君の言いたいことはよぉーーーーく分かったよ……。でも、だからこそ、君は世界の敵だ」

「ああ、そうだろうな。我は目的を果たす為なら、役割が変わろうと、何でもするさ」

「役割……」

ディルは、ぽつりとその言葉を反芻する。

その言葉を聞き取った魔王は振り返り、ディルに問いかけた。

「役割と言えば。ディル、お前はこれからどうするつもりだ。人々の感情を扇動し、悪であろうとしたお前は、世界の敵に対して何を成す?」

「……僕は……」

「船出や、ストー。Relive配信を謳うあいつらも、我の前ではただの乗り越えるべき障害という役割に過ぎない。他にも、特別な配信を謳う者達はいるようだがな」

「僕や、あいつら以外にも……?」

魔王は桜の花弁を手に取り、それを強く握りつぶす。

それから開いた手のひらには、四色のカードが姿を現していた。

黒。赤。緑。青。

トランプほどの大きさを持つそのカードを、魔王は空高く放り投げた。

「漆黒のドローンである船出……あいつ以外にも、特別なドローンは存在する。……らしく表現するとすれば、”四天王”だろう」

その言葉に、ディルは皮肉染みた笑みを浮かべる。

「へえ?随分とゲームが好きなんだね。魔王セージはさ?」

「ああ。その方が分かりやすいだろう?」

「……チッ」

皮肉もまともに通じない魔王に、ディルはいらだったように舌打ちをした。

それから、魔王は街並みを見下ろす。


桜が世界を蝕む、かつての姿を失われた街並みを。


「我は、勇者セイレイを待とう。色々な配信者の力を借りて、いつか我に立ち向かうその日を待っている。ふふ、ははは……くはははははっ!!」

魔王は、心底楽しそうに笑う。


「……」

その後ろ姿を、魔王を。憎むように僧侶ディルは睨み続けた。


To Be Continued……

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