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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第四十二話(2)】別れの挨拶(後編)

稲妻が、天地を貫く。

セイレイが振るう一撃が、やがて雷鳴の如く魔王セージを貫いた。

「ぜああああああああっ!!!!」

誓いを込めて。想いを込めて。憎しみを込めて。

強く、握るファルシオンを押し込む。

セイレイの放つ一撃に、深く身体を貫かれた魔王セージ。


「……ふっ、勇者として本当に開花したのだな。お前は」

彼はあろうことか、にやりと笑っていた。

次の瞬間、魔王の肉体にノイズが走る。徐々に、その全身にノイズが迸り身体が分解されていく。

「——何だっ!?」

セイレイはその様子に驚愕を隠すことが出来ない。

徐々に魔王の姿がホログラムと化し、商店街から消えていく。商店街から、魔王の存在した痕跡が消える。

——崩壊した橋の上に、追憶のホログラムを残して。


川の中から大きく隆起した、木の根に降り立ったセイレイ。それと同時に彼を纏っていた雷がセイレイから離れ、大気に溶けて消えた。

舞い散る桜が、セイレイに降りかかる。

そんな中姿を消した魔王セージの声だけが、桜吹雪の中から響く。

「卒業証書、授与。勇者セイレイ、魔法使いホズミ。本日をもって、お前達は教師である千戸 誠司の教育を修了したものとする」

徐々に、魔王の声は遠ざかっていく。

セイレイは、そのどこに消えたとも分からない魔王セージに向けて、大声で叫んだ。


「いつか!!俺は、お前を倒す!!魔王セージ!!!!」

勇者セイレイの決意に満ちた声に対し、返ってくる言葉はなかった。


----


どれくらい、静寂が続いただろう。

セイレイは、ずっと木の根の上に立ち尽くしていた。

いつしか、空を覆いつくしていたモニターは消え、あちらこちらに伸びた桜の木々だけが魔王の残滓を残す。

「姉ちゃん」

思い立ったように、セイレイはドローンに視線を送る。

『……セイレイ?』

noiseは、セイレイの様子に違和感を感じた。

そんな困惑するnoiseを気に留めることもなく、セイレイは言葉を続ける。

「追憶のホログラムを、融合させるぞ。こんな所で立ち止まっている暇は無い」

『……わ、分かった……』

やはりというか、セイレイの言葉は以前よりも覚悟に満ちたものとなっている。

確信を得たnoiseは、セイレイの指示に従ってドローンを操作。追憶のホログラムに近づけた。

瞬く間に、光が一層強く輝く。追憶のホログラムが、ドローンに吸収されていく。

追憶ホログラムが吸収されるのと同時に、セイレイを乗せた木の根は、誘導するように商店街の通路へと移動し始めた。

セイレイはそこからアスファルトの通路へと降り立ち、それから周辺をぐるりと見渡す。

「……取り戻そう。俺達は、勇者として配信しなければならないんだ」

「……セイレイ君……」

ホズミは静かにセイレイの隣に立つ。じっと見上げた幼馴染の顔は、以前とは大きく変わっていた。

以前までの、気の抜けた雰囲気の彼ではない。

いつの間にかセイレイのその姿には、真っ直ぐな意思が伴っていた。


追憶のホログラムが吸収されると共に、商店街を覆っていた木の根が光を帯び始める。

それらは光の粒子となって、徐々に掻き消えていく。

勇者一行は、静かにその光景を見届けた。


[information

サポートスキル ”影縫い”を獲得しました]


「戻ろっか。もう二度と魔王なんかに、好き勝手させるわけにはいかない」

ホズミの言葉に、セイレイは強く頷く。

「ああ。体勢を立て直そう」

振り返った彼らの視界に映るもの。

それはもはや、見る影を失った商店街だった。

ひしゃげたシャッターが、ぼろぼろに割れた看板が、通路に散乱している。

少し視線を下げた先にあるのは、二度と動くことのないライトだった肉塊だ。

それは血だまりとしてその場に残っている。

もう二度と、喋ることの無い肉塊の隣に転がるは、ひび割れた拳銃。


ちらりとセイレイはそれに視線を送り、それから血だまりに向けて頭を下げた。

「……ライト先生……俺達は、進むよ。インフルエンサーとして、世界を変えるんだ。本当に、今までありがとうございました」

セイレイとホズミは、踵を返しその場を後にした。


--当配信は終了しました。アーカイブから動画再生が可能です。--


★★★☆


「……姉ちゃん。戻ったよ」

瀬川は、ボロボロになってしまった商店街でパソコンを抱えて佇む一ノ瀬に声を掛けた。

だが、その声に一ノ瀬は何も答えない。

「一ノ瀬さん?」

前園は、何も答えることなく俯く一ノ瀬を心配そうにのぞき込む。

やがて、一ノ瀬はぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。

「森本さんは、セイレイ達のことを気にかけて、後を追いかけた。だから、あの時二人を助けることが出来たんだ……でも」

そこで言葉を切った一ノ瀬。彼女の頬から、温かい涙が零れだす。

「……私は、こうなると知っていたら行かせなかった……でも、でも……」

もし、森本を止めていたら今頃、前園はこの場にいない。

それが容易に想像できたからこそ、一ノ瀬は続く言葉を発することが出来なかった。

彼女が言おうとしていることを、前園は理解したのだろう。

前園はその両腕で優しく、彼女を抱きしめた。

「分かってるよ。一ノ瀬さん。どっちが正解か、分からないよね」

「……うん。私は、どう選択するべきだったのか分からない」


「悪いのは、全て魔王だ。決して姉ちゃんのせいじゃない」

瀬川は、弱気になった一ノ瀬を励ますようにそう言葉を掛けた。

一ノ瀬は雰囲気の変わった瀬川へと視線を向ける。

その視線に気づいているのかいないのか分からないが、瀬川はじっと戻ってきた道を振り返った。

「何を選んでも、後悔はするし、後悔はしない。どんな道が待ち受けていようと。どんな選択をしようと……もう進むしかなくなった。俺は、勇者セイレイだ……あいつの呼び名を使うのは、嫌だがな」

強く、拳を握り、歯を食いしばる。

再び沸き起こる怒りを抑え込むように、瀬川は大きく深呼吸した。

「戻ろう、道の駅集落へ」

「……ああ」

「うん。私達は、勇者パーティだよ……紛れもない、本物の勇者一行なんだ」

一ノ瀬を抱きしめた手を解き、前園も強く頷いた。


----


「……これは」

道の駅集落へと戻ってきた一ノ瀬は、茫然とした。

森本の指示で、綺麗に整えられていた道の駅集落。花が咲き乱れ、綺麗に整えられていたはずのそこは。

「……魔王……」

瀬川は、苛立ちを隠しきれず、顔を伏せて呟いた。


森本と出会い、様々な想いを共にしたその場所は。

——巨大な桜の木に侵食され、見る影も失っていた。


「——っ、誰か!!誰かいませんか!!」

ハッとした前園は、すぐさま桜並木が侵食する中へと駆け出した。

それを追うべく、一ノ瀬は瀬川の方を振り向く。

「セイレイ、私達も行こう」

「……ああ」

勇者一行は、道の駅集落の生存者を探すべく、道の駅集落の跡地を探索することにした。


「誰か!!生きている奴はいないか!?」

「皆!!皆どこにいるの!!」

「ねえ!生きている人は返事をして欲しい!!ねえ!!」

勇者一行は、必死に呼びかけた。

必死に、必死に。集落の隅々にまで声が響くように。

かつて森本とダンジョン配信の為の会議を行った管理事務所や食堂は、見る影もなく瓦礫と化している。

前園が配信者となる為、共に訓練に励んだ公園は、桜の木で埋め尽くされ通ることさえままならない。

もはや、そこにかつての痕跡を辿ることは困難だった。


結論から言えば、道の駅集落の跡地に、生存者はいなかった。

どれだけ探せども、叫べども。

勇者達の声に反響する返事はなかった。


気づけば、日は暮れて夕焼けが世界を照らしていた。

瀬川達は呆然とした顔をそれぞれ浮かべながら、草原の上に座る。

辺り一帯に、舞い散る桜吹雪。

瀬川は、その花弁の内の一片を掴み上げた。

「……いつもなら、桜の花弁も綺麗だと思えるはずなんだ。でも今は、憎しみしかない……」

その言葉に、前園も頷いた。

「私もだよ。全部、全部。人が生きていた痕跡を奪っていった千戸 誠司を私は許すことが出来ない」

一ノ瀬は、じっと己の手を見つめる。

「……もう、続けるしかない。こんな形で配信を続けるのは不本意だけど……私達は皆の力を借りないと戦えないから」

「そう、だな」

瀬川は一ノ瀬の言葉に頷き、静かに立ち上がった。

衣服にまとわりついた桜の花弁が、それに伴ってはらりと落ちる。


「旅に出よう。勇者一行として、世界を救う旅に」


勇者は、16歳で旅に出るとのことらしい。

そして。奇しくも勇者セイレイは、同じく今年で16歳だった。


配信者、勇者パーティの旅は、ここから始まる。


To Be Continued……

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