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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第三十九話(2)】卒業記念品(後編)

[おい、空見ろ]

[えなになにこれなに]

[空に突然モニターが浮かんできた]

[これ、セイレイの配信画面じゃん]

[視聴者参加型配信ってこういうことかよ]

『セイレイ!!ホズミ!!上を!!』

コメント欄に異変を感じ取ったnoiseは、すぐさま二人に声を掛ける。

その声に、セイレイとホズミは空を見上げた。

「……これは、俺達の配信画面の……」

「千戸、貴方は一体何をしたの……!?」


見上げた空には、一面を覆いつくす巨大なモニターが等間隔で、地平線の奥向こうまで延々と並んでいた。そのいずれも、セイレイ達の勇者配信の映像を映し出す。

この世の理を大きく書き換える非現実的な現象に、セイレイは再び千戸を睨む。

「センセー……これ、一体なんだよ……!?」

千戸はちらりと空を仰いだ後、眼鏡の位置を整えながら答えた。

「端末を持たない者が、この配信を観ることが出来ないのは不平等だろう?」

「意味が分からない。貴方の身勝手で、セイレイ君を勇者に仕立て上げたくせに。魔災が起きることも知っていたくせに、何がしたいの」

「随分と嫌われたものだな」

やれやれと言わんばかりにため息を吐く千戸に、ホズミは激昂して駆け出した。

桜の花弁を蹴り上げ、大振りに両手杖を振り下ろす。

「誰のせいでっっっ!!」

だが、そのホズミの振り下ろす一撃は千戸に直撃することはなかった。

彼の眼前に、突如として伸びる蔦。それが、千戸を庇うようにしてホズミの一撃を受け止めたからだ。

「一度冷静になれ。言わなかったか?まず自分の命が最優先、だと」

「うるさいっ!!」

千戸がそう言うや否や、伸びた蔦の先端が、棘のようになりホズミに襲い掛かる。

「穂澄ッ!!」

セイレイはホズミの前にすかさず躍り出て、ファルシオンを顕現させた。素早く振り払う剣戟が、ホズミへと襲い掛かったすべての蔦を斬り払う。

それでも、次から次に蔦が伸びて襲い掛かる。


遂にはセイレイの剣戟を潜り抜けた棘が、セイレイの鳩尾へと突き刺さった。

「ぐっ……!!」

「セイレイ君っ!!」

『セイレイ!!体力が三割削れた!!下がれ!!』

noiseの指示に従い、セイレイとホズミは素早く襲いかかる蔦から退避。

蔦は彼らが遠ざかると、追撃をすることなく再び地面の中へと消えた。

「そうだ。それが最善の選択肢だ」

千戸はうんと頷き、再び空を仰ぐ。

「げほっ……センセー……っ」

「セイレイ君、これを」

セイレイは、ホズミから受け取ったスナック菓子を口へと運ぶ。

徐々に傷が癒えるのを確認したセイレイは、ゆっくりと身体を起こし千戸と対峙する。

「さて、ひと段落もついたことだ。この世界のヒントを与えようか」

真正面から睨まれた千戸はそれでも飄々としていた。そのまま、ゆっくりと追憶のホログラムに手を近づける。

瞬く間に、地面をプログラミング言語が走る。光が、世界を覆いつくす。


「魔災が、どのようにして起きたのか。生き残った、生きてきたお前達には、知る権利がある。魔災は、ただの自然災害ではないんだ」


----


光が、かつての姿の商店街を映し出す。

その道を通る人々はまばらで、誰も彼もがお互いに興味を持つこともなく通り過ぎていく。

退屈で、殺風景で、静寂の漂う商店街。

まるで面白みもない大きなレンガの橋の傍らにポツンと配置されたベンチに腰かけていたのは、若き頃のスーツに身を包んだ生真面目そうな千戸と、無精ひげを生やした中年男性。そして。

『ねえ、お父さん。何を話してるの?』


「……俺だ」

そのホログラムが映し出したのは、まだ幼きセイレイ——瀬川 怜輝だった。


幼い瀬川に向けて、中年男性は彼の頭を撫でながら微笑む。

『怜輝には難しい話だよ。向こうで遊んできなさい』

『やだー。ここ何もないもん、つまんない。ねえ、ゲームとかない?』

不服そうに不貞腐れた瀬川に向けて、中年男性は持っていたカバンから一台のゲームを取り出した。

『じゃあこれで時間でも潰してなさい。勝手にストーリーは進めちゃだめだぞ』

『うん!ありがとー!!』

瀬川はその受け取ったゲーム機を持って、嬉々としてプレイし始める。


noiseが操作するドローンが、そのゲームの画面をのぞき込む。

それは、昔からある勇者が魔王を倒す、典型的な王道のRPGだった。

『……勇者……』

ポツリとnoiseはその言葉を漏らす。


その最中、無精ひげの中年男性は千戸に静かに語りかけた。

『ホログラムの実体化実験には、人工知能が用いられていた。インターネット上の人々の言葉を借りて、より完成された人間を生み出す実験のはずだったんだ』

『聞いたさ。生み出した人工知能を、ホログラムとして現実世界に生み出す。それがお前が行っていた実験だったよな』

千戸の言葉に、中年男性は深く頷いた。

『ああ。インターネットには様々な感情が流れる。喜怒哀楽、本当に多種多様だ。私の実験は、そのインターネットが生み出す感情や情報を切り取って、繋ぎ、無から有を作り出すことが目的だった』

『それは、より科学の発展に貢献する為、だったな』

『ああ。零から作り上げた生命という存在。そこに人工知能を組み込んで、完璧な存在を作り出すことが可能という前例が出来れば、大きくこの国——世界は発展する……はずだった』

中年男性はそこで言葉を切り、力なく項垂れた。千戸はその彼が続けるはずだった言葉を代弁する。

『だが、そうはいかなかった。お前達は、人工知能の持つ力を侮っていた』

『そうだ……AIの暴走は、遂には止まらなかった。特にインターネットを介していたというのが大きな過ちだった。ゲームを初め、様々な情報という情報を巧みに取り込んだ人工知能。それはホログラムとして、世界に魔物を生み出した』

千戸は何も言い返すことが出来ず、空を仰いだ。

『……俺は、それを聞いてどうすればいいんだ?』

『……千戸。俺は、本当に申し訳ないと思っている』

中年男性は千戸の問いに答えることなく、力なく項垂れた。

その言葉に対し、千戸はため息を吐き、首を大きく横に振る。

『今更謝ってもどうにもならないことだろ。一度狂い始めた歯車は、二度と元には戻らない。ならば、進むのみだ』

『辛い思いをさせる……な』

『……お互い様だ』

中年男性と千戸は、そこで言葉を切りゲームをしている瀬川に視線を向ける。どこか同情するような、穏やかな視線だ。

『頼んだぞ。彼のことを』

二人はベンチから腰を上げ、ゲームをしている幼い瀬川へと身を屈めた。

『どうしたの?』

突如眼前に現れた二人の姿に、幼い瀬川は首を傾げた。

しかし彼らは、瀬川の問いかけには答えることなく会話を続ける。

『ああ。セイレイ、だったな。彼のことをそう呼べばいいのだな』

『そうだ。セイレイは、希望の種なんだ。絶対に、希望を絶やさず、育てるんだ……それが、やがて世界という大きな、とても大きな花を咲かせる』

『……わかった。手段は選ぶまい』

千戸がそう返した途端、中年男性は一つのスマートフォンを千戸へと渡した。

『お前にこれを託す。ホログラムの実体化実験が失敗したのを悟った時に作ったプログラムだ。これが、セイレイの力の素となる』

『……なるほど。この力をセイレイが正しく使えるように教育することが、俺の役割という事か』

『……頼んだ。教師であるお前にしか頼めない』


そこで言葉を切った中年男性は、腰を上げて商店街の奥へと足を運ぶ。

瀬川は突然立ち去ろうとする父親に驚いた顔をした。

『お父さん、置いて行かないでよー!』

『……済まない。怜輝——いや、セイレイ』

『へ?俺、セイレイって名前じゃないよ』

瀬川は中年男性の言葉にきょとんとした顔をしたその時だった。

世界は、突如として轟音と灼熱に包まれる。世界を駆け巡るプログラミング言語が、実体を持つ。

瞬く間に、世界は人工知能によって書き換えられた。


----


「……これが、魔災の、真相……」

セイレイは呆然とした様子でそのホログラムが映し出す映像を眺めていた。

千戸はそんなセイレイに向けて語り掛ける。

「思い出したか?魔災は、人類史における史上最悪のヒューマンエラーなんだ。より、人類の貢献に発展する為の行動が、(あだ)となった結果だ」

「……俺の、親父が全ての始まり……」

その事実を突きつけられ、セイレイは頭が真っ白になる。

ホズミが抱いた想いも同様のものだっただろう。だが、彼女はセイレイに静かに語りかけた。

「……セイレイ君。デッサンしておこう」

ホズミはそう言いながら、”ふくろ”からスケッチブックと鉛筆を取り出した。

だが、セイレイは力なく首を横に振る。

「今は、そんな気分じゃない……」

「気分じゃなくても、残すんだよ。この世界の始まりを最も身近に残すことが出来るのは私達だけなんだ。アーカイブには残らない感情を残すの」

「……分かった」

セイレイは、渋々ホズミからスケッチブックを受け取り、ホログラムが映し出す世界を描いていく。

轟音と灼熱。人々の阿鼻叫喚。

幼い瀬川が、懸命に父親を呼ぶ声。

灼熱と舞い上がる土煙に、姿を隠す瀬川の父。

遠くに舞い上がる、爆風と残響するサイレンの音。

残したくない全てを、セイレイは——瀬川 怜輝は懸命に書き留めていく。

千戸は、そのセイレイの姿を、満足そうに眺めていた。


To Be Continued……

【登場人物一覧】

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

本作ヒロイン。大人しめで引っ込み思案気味な性格。

配信ナビゲーターがメインの役割であるが、新たに魔法使いとしての素質を開花させた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

セイレイから「姉ちゃん」と呼ばれる、ひたむきに真っ直ぐな女性。

勉強熱心であり、日々魔物やダンジョンに関した研究を独自で行っていた。洗練された回避技術を持ち、戦闘ではその能力を惜しみなく発揮する。

森本 頼人(もりもと よりひと)

配信名:ライト

道の駅集落を管理している初老の男性。

元医者であり、その持ち余る知識から彼等を助ける。

・ディル

配信名:ディル

Dead配信を謳う、素性不明の少年。その行動の一つ一つには、彼なりの信念が宿っているらしい。

・魔王セージ

かつて瀬川 怜輝と前園 穂澄の育ての親だったもの。


瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

全ての始まりに、最も近い存在。

希望の種として育てられ、お膳立てされた勇者。

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