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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第三十七話(2)】 舞い散る桜吹雪(後編)

[トレントの動きが妙だ]

[自分で桜を振り落としてる]

[一回引いた方が良いかも]

[何かを狙ってる?]

セイレイとホズミに相対するトレントは、自らの全身に咲き誇る桜の花弁を散らすように大きく左右に揺れ始めた。

その行動に不審な気配を感じ取ったコメント欄から、各々の考察を交えたコメントが流れる。

『二人とも!トレントから距離を取って防御態勢!!』

コメント内容を要約したnoise。素早く二人に行動指示をを繰り出し、警戒態勢を整える。

「わ、分かった」

「セイレイ君、この看板の影に隠れよう」

二人は素早く、シャッターの降りた店舗の前に放置された看板の前に身を寄せ合いながら隠す。

「ギギ……ギィィィィ……ッ」

次の瞬間だった。トレントの身体から舞い散る桜の花弁が一同に、セイレイ達が隠れる看板へと射出される。

まるで、それは矢の雨のようだった。

大地を抉り、激しく土煙を舞い上げながら徐々にセイレイ達の方向へと襲いかかる。

その威力に看板では防ぎきれないと判断したホズミ。看板の前から飛び出し、セイレイを庇うように両手杖を正面に突き出す。

「スパチャブースト”緑”っ!!」

『ホズミ:障壁展開』

システムメッセージが表示されると共にホズミの正面に淡い、緑色の光を纏った障壁が展開される。一同に襲い掛かる花弁の全てが、障壁へと襲い掛かった。

「……なんて、威力……なのっ!!」

ビリビリと大気を震わせるその威力に、ホズミの額から汗が流れ落ちる。彼女の足元を穿つ花弁が、激しく土煙を舞い上げた。

轟音は全弾の花弁を弾き落としたところで鳴り止む。それと同時に、緑色の障壁もゆっくりと姿を消した。

「——スパチャブースト”青”!!」

「セイレイ:五秒間跳躍力倍加」

その隙を逃すまいとセイレイは宣告(コール)と共に一気に駆け出す。

「きゃっ!!」

大地を蹴り上げるその威力に、衝撃波が起こりホズミの衣服を激しくはためかせる。思わず彼女はその勢いに腕で顔を覆った。

だがそんなことなど気にも留めず、セイレイは一気にトレントまで距離を詰め、トレントの足元から高く跳躍。

「枝が痛いん、だったよなっ!!」

右手に持つファルシオンを上昇する勢いのままに、大きく斬り上げる。

「ギィ……!!」

枝の一つを斬り落とされたトレントは、苦悶に似た悲鳴を上げると共に、大きく身体を仰け反らせる。その瞬間に赤色の宝玉が姿を覗かせたのを観察力に優れたセイレイは見逃さなかった。

「ホズミっ!!今だっ!!」

着地したセイレイは、すかさずホズミの方を振り返った。

「——いけっ!!」

[ホズミ:炎弾]

セイレイの声に反応したホズミは、両手杖をすかさずトレントの幹から覗かせる赤色の宝玉に向けて掲げる。彼女が叫ぶ声と同時に、鋭い矢の如き炎弾が放たれた。

大気を穿ち、鋭く唸りを上げながら真っすぐにその炎の弾丸は、赤色の宝玉に命中する。

その瞬間、大きな轟音と共に橙色の光が、世界を包み込んだ。


爆風が、トレントを包み込む。

内から、外へ。炎は駆け巡り、徐々にその身体の枝葉の隙間から炎が吹き荒れる。

「ギ……ギギ……」

その炎を振り払うように、トレントは大きく身体を左右させるがもはや全身を這い巡る炎を抑えることなど出来ない。

揺れる身体に伴って、桜の花弁が大きく舞い散る。それは、セイレイとホズミの頭上に覆いかぶさっていく。

「……悪いな。俺達は止まる訳にはいかないんだ」

セイレイはファルシオンを大気へ溶かしながら、そう呟いた。

徐々にトレントが灰燼と化す姿を見届けたセイレイ。彼はそのまま、台座に配置された追憶のホログラムへと手を伸ばす。


すると、大地を駆け巡るプログラミング言語と共にまばゆい光がセイレイを、商店街の景色を包み込んだ。

トレントの絶命と共に、シャッター街を覆っていた巨木の根が枯れ果て、姿を消していく。


やがて、追憶のホログラムはかつての姿を映し出した。

——と言っても、魔災以前からシャッター街の様相であったその商店街の姿は、さほど変わることはなかったのだが。

[ごめん、何か変わった……?]

[時々通路として使うことはあったけど、思い入れが無い……]

[たまに買い物に来る分には楽しかったよ]

[↑わかるけど、わかるけど……ぶっちゃけそれだったら大きな店舗の方へ行ってたわ]

[まあ今回のメインはセイレイ君とホズミちゃんに関係してるだろうしなあ。勇者様のルーツにまつわる話を大人しく見ようぜ]


----


『……千戸。ばかげた話だと思うが、聞いてくれるか』

『……なんだ?』

その声に、セイレイは驚いた顔色で振り向いた。目を丸くし、明らかに動転した様子を見せる。

「……セイレイ君?」

「……」

「……?あっ……!」

ホズミの呼びかけに反応することもなくじっとある点を集中して見続けるセイレイ。彼の視線の先には、二人の男性がいた。

一人は、白衣を羽織った無精ひげを生やしきった中年男性。そして、もう一人は——。

『……千戸、先生……?』

スーツに身を包んだ、生真面目そうな眼鏡をかけた男性。それは、noise——一ノ瀬のかつての恩師の姿だった。

noiseは配信中という事も忘れ、うっかりその名前を出してしまう。

すぐに、『あっ』と声を漏らすが時すでに遅し。コメント欄には考察と質問が飛び交い始めた。

[皆の知り合いなの?]

[もしかして、皆が時々話してる先生って人?]

[そう言えば配信中時々声が入ってたね]

[誰?]

『——セイレイとホズミの育ての親。そして、私、noiseの元担任教師だ……しかし、何故……』

noiseは隠すこともせず、大人しく白状した。

それ以上、noiseも何も言葉を発さず、ドローンカメラを用いてホログラムが映し出す二人の姿を追いかける。


『実験は……失敗した。もう、止める手段は存在しない……』

『失敗って——まさか』

千戸の言葉に、中年男性は逡巡の色を見せた後、ぽつりと呟いた。

『これから、世界は大混乱に陥る。何千、何万。いや、もはやそんな生易しいレベルでは済まないことが起きる』

男性の言葉に、千戸は頭を抱えた。

『……何という事を……。お前の見解では、世界はどうなる?』

『ああ。この世の理を超えた生き物達が世界中に生まれるだろう。魔物が呼び起こす大災害……魔災、と言ったところか……』

——魔災。

その単語が出た瞬間、勇者配信のコメント欄は大きく加速し始めた。

[魔災、だって?]

[それを千戸とかいう男は知っていたのか?]

[まってまって情報が追い付かん]

[え。待って]

[白衣の男が魔災を予見していて。そいつが千戸に教えて。んで千戸がセイレイ達を育てて?]

[え、え]

[実験って何!?]


「……セン、セー……?」

その言葉に驚愕していたのは、千戸に育てられたセイレイも同様だった。

足の感覚が突然消えた。

呼吸の仕方を忘れた。

世界は、真っ白になった——。


「——セイレイ君っ!!」

ホズミの叫び声に、セイレイは世界の色を取り戻す。ハッとしたセイレイは、すかさず呼びかけた幼馴染の方向を振り返った。

彼女も内心は動揺で平常心を保つのでやっとなのだろう。だが、気丈にも首を横に振り、それからホログラムが映し出す千戸の方に視線を投げる。

「情報を得ることを止めないで。まだ、ホログラムは続いてる。センセーは……千戸 誠司は、一体何を知っていたのか。教え子で、彼に育てられた……っ、私達はそれを知る責務があるんだ」

そう語るホズミの肩は大きく振るえていた。呼吸は荒く、大きな瞳は涙に潤む。

彼女の様子を見かねたセイレイは、優しく彼女の手を握った。

「……セイレイ君……?」

「そうだな。俺達はセンセーのことを何一つ知らない。どういう理由で俺達は育てられたのか……知らなきゃ」

「……うん」

二人は懸命に動揺を抑え込み、映るホログラムに再び意識を向ける。


ふと、その中年男性の足元に一人の子供が隠れていることに気が付く。

大人たちの話について行けないようで、退屈そうにきょろきょろと辺りを見渡している一人の男の子だった。

無精ひげを生やした中年男性は、その子供の前にしゃがみこんだ。

『怜輝。お前には、これから辛いことが待ち受けているかもしれない。何もかもリセットされた世界がお前を待ち受けている。だが、その世界でお前は生きるんだ。……零から。その思いを忘れないように、お前をこう呼ぼう——生・零(セイ レイ)……と』


『……怜輝、って……?』

セイレイを本名で読んだことがないnoiseは、ホズミに問いかける。

すると、ホズミはポツリと呟くように答えた。

「……セイレイ君の、名前だよ」

『そっか……セイレイは、あの男の人から託された命だったんだね。多分、父親なのかな……』

noiseがそう呟いた瞬間。突如として追憶のホログラムが映し出す映像は途切れ、元の景色へと姿を戻す。

「……これ以上は、まだ見せないってことか……」

セイレイは再びホログラムに手を伸ばすが、もう追憶の姿を起動することはなく静かに佇むのみだった。

ホズミは、複雑な胸中を誤魔化すように空を仰ぐ。

「生きる……零から。だから、セイレイ……。私達が何気なく呼んでいた名前に、そんな意味があったなんてね……」

かつてホズミがセイレイ達と出会った時には、既に彼は千戸から「セイレイ」と呼ばれていた。

そのことを思い出したホズミは、じっと幼馴染に視線を送る。

「……センセーは、俺にどうなって欲しいんだろう。ダンジョン配信をする俺の姿を、センセーはどう捉えているのかな」

「センセーは。セイレイ君が死んだ時も……淡々とした様子だった。魔災に、ダンジョン配信に——度重なる死の先に、何かを見ている……私はそんな気がするよ」

「……ホログラムを融合させよう」

セイレイは、ホズミの言葉にはあえて反応せず、noiseが操作するドローンにちらりと視線を送った。

『……追憶のホログラムを融合させる。恐らく、これで橋までの通路は開通されるだろう』

noiseはそう宣言し、ゆっくりと追憶のホログラムへとドローンを近づける。

追憶のホログラムから眩い光が一層強く放たれた。しかし、やがてその光は徐々にドローンに取り込まれるにつれて収束する。


[information

”撮影禁止区間” が解除されました。以降、自由に撮影が可能となります。]


To Be Continued……

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