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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第三十三話(1)】 居場所と希望(前編)

今まで幾度となく瀬川達の前に立ち塞がった、ダンジョン内に巣食う魔物達。

森本は魔物とは何か、改めて問いかける。

だが、瀬川は首を傾げた。

「え、魔物は魔物、俺達が戦う相手……というだけじゃダメなの?」

森本は首を横に振る。

「瀬川君、私はこの世界には何かしらの意味があると思っています。ダンジョンの最深部に設置された追憶のホログラム、Sympassという配信サイト、そして前園さんのドローン。いずれも、似通った部分があると思いませんか?」

瀬川は腕を組み、唸り声を上げながら言葉の意味を考える。

「……ごめん、何となく機械が関係してるのかな?って思うけどそれ以上は分からないかな……」

「いえ、それだけ分かっていれば十分ですよ。そうです、機械が関係していますね。ですが、追憶のホログラムと魔物という存在に直接的な関係はない……ですが」

「でも、ゲームって存在が機械という言葉に結び付けられますよね。実際、ダンジョンで戦った相手はゴブリンやコボルトなどのゲームに関係した魔物でした」

一ノ瀬が話に割って入り、自身の意見を述べる。森本はその言葉に頷く。

「そうです、全ては一つの答えに繋がっている……そう思います。なので、魔物という存在について分からなくても、向き合うことに意味はあるはずです」

勇者一行はその言葉に、お互いの顔を見る。

まず、初めに瀬川が簡単に思いつく答えを出した。

「えっと、何かしらのゲームの世界に俺達が放り出された、とか。Sympassの運営は、ゲーム会社の運営!とか」

「なるほど……確かにそういう考えもできますね。ですが、運営側の船出さんは一ノ瀬さんの後輩にあたる方、でしたね?そうなると船出さんがゲーム会社で勤務しているという答えに至りますが……一ノ瀬さんはどうですか?」

話を振られた一ノ瀬は、大きく首を横に振った。

「みーちゃんがゲームに興味を示したって話は聞いたことがないから、私はあまり納得できませんでした。負の感情が魔物を生み出す、というのは……?」

「負の感情、ですか……魔災に巻き込まれ、辛い思いをした人達がたくさんいる世界。負の感情が漂うことから生まれる魔物も多いですね……ディルさんも、船出さんも、きっと相応の負の感情は持ち合わせているはず。可能性としては確かにありますね」

「みーちゃんは魔災前まではもっと、ひたむきに真っすぐだったんです。いつだって真っ先に手を差し伸べてくれたのは彼女でしたから……」

一ノ瀬は総合病院ダンジョンの中で出会った、雰囲気の変わり果ててしまった船出の姿を思い返し俯く。

そんな一ノ瀬の肩を叩きながら、続いて森本は前園の方を向いた。

「前園さんは、どう感じますか?この中で最も機械に触れることの多い貴方は、この世界をどう思います?」

その言葉に、前園は両手を組んで机をじっと見る。

配信中、新しく視聴を始めた人が今までいた視聴者を蹴落とすように振る舞う行動。

魔物巣食うダンジョンの最深部に設置された、かつての世界を移し出す追憶のホログラム。

一ノ瀬のキャンパスノートに記された、過剰な魔素の吸入に伴う魔物化という現象。

そして、Sympassの運営である、Dead配信を謳うディルと、Relive配信を謳う船出。

船出に洗脳され、自我を失ったストー。


様々な記憶が、前園の脳裏を渦巻く。やがて、その記憶の螺旋は、彼女の中に一つの答えを生み出した。

「……私は、森本さんの言うように、”居場所”……そこに、答えがあると思います」

「ふむ……」

その言葉に森本は興味深そうに前園に向けて顔を近づける。

「……どういうこと?穂澄」

しかし瀬川は言っていることの意味が理解できず、きょとんと目を丸くしていた。

当然理解されるとは思っていなかった前園は、そのまま言葉を続ける。

「ずっと思っていたんです。私が求めたのは皆が居て、満たされた居場所でした。ですが、この魔災に墜とされた世界で、居場所を確保することが出来る人はどれだけいるのでしょう。現実が厳しくて、辛くて、苦しくて。逃げ出したくて、たどり着いたSympassというインターネットの世界。皆、どこかに居場所が欲しいんです。ここにいていいよ、ここが君の居場所だよ。そう言って欲しい、けど、誰もそれを認めてくれない」

そこで言葉を切って、静かに前園の意見を聞いていた瀬川達を見渡す。

「……続けてください」

森本は前園の言葉を促した。それに、前園は強く頷く。

「居場所が欲しい、でもそれを誰も認めてくれない。だから、奪い取るしかないんです。居場所を求める想いは、やがて人々を魔物に変える。居場所が欲しいから、今までそこにいた人達を蹴落として、席を確保しようとするのだと思います」

「居場所、か……思い返せば確かに、基本的にダンジョンから魔物が出ることはない。セイレイ達から聞いた、三年前に集落を魔物が襲い掛かったという話以外はね……」

一ノ瀬の言葉に、前園はこくりと頷いた。

「居場所がないと、自分の存在が消えてしまうから。だから魔物は必死になる、必死にそこにいる人々の命を奪ってまで席を確保しようとする。……追憶のホログラムもそうですね、『ここに居たかった、この場所が大事だった』と居場所を思い出させる役割を持っているんですよ」

「三年前に俺達が過ごした集落を襲い掛かった魔物も、自分達の居場所を新たに手に入れようとしていたってことか……もう、今あの集落を思い出させるのは穂澄が撮ってた集落の最期だけ、なんだけどな……」

三年前に瀬川達が過ごしていた集落を襲い掛かった魔物達。その集落の最期を、前園はドローンで撮影していた。

瀬川はそのことを咎め、激怒したことを思い出す。

「そう、そうなの。どれだけ見返すのが辛くても、記録として残さなかったら。私達が居なくなった世界で、誰もその集落で生きた人達の痕跡を残せなくなるから。歴史の中にその人達の居場所があったという事実を残すのは大切なんだ」

「そっか……あの日怒って悪かったな……悪い、話が逸れた。続けてくれ」

「ううん、大丈夫。……ディルも船出さんも、何かしら自分の居場所を証明したい、だからインターネットを介して配信している。そこには何か明確に伝えたい思いがあるんだ、と思います」

前園の考えは、確かに今までの配信の中で辻褄が噛み合っていた。

森本が改めて、前園の考えに口を出す。

「前園さんは、居場所を過剰に求めた結果、魔物が生まれる……と考えているんですね」

「はい。魔素が居場所に対する強い想いだとすれば魔物化にも説明を付けることが出来ます。『現世に留まりたい』という居場所への執着が魔物化を生み出すんだと」

「現世への、想い……もしかして、あのゾンビも……」

瀬川は前園の言葉にハッとした様子で、総合病院ダンジョン内で戦ったゾンビの懐に入っていた手帳を思い出す。


『俺はここにいたよ。いたんだよ。

それだけは分かって欲しい。

でも、もう少しだけワガママを言うなら。

もっと、生きたかった』


「……俺達が配信でやっていることは、魔物達から居場所を取り返すこと、穂澄はそう言うのか?」

瀬川は改めて、前園に確認する。

前園は自身の眼前にあるホットミルクが入ったコップの持ち手を握った。

「多分、そうなんだと思う。私達だって、理不尽に居場所を奪われるのは嫌だから。今いる居場所を蹴落とされて、追いやられて。皆散り散りになった世界で、居場所を求めること。その答えが配信に繋がってる。私はそう思うよ」

「現実が辛くて、逃げたくて。認めてくれる居場所を、インターネットはすぐに提供してくれるもんね……」

一ノ瀬は自身の行いを悔いるように、俯きながら前園の意見に賛同した。

そこから、何か思い立ったように顔を起こし再び前園の方を見る。

「……でもさ、穂澄ちゃん。今、私達のアカウントは荒れてるけど、これからどうしよう?このままじゃあ皆の居場所とは言えない……」

「うーん、俺達だけ一致団結しても仕方ないもんな……」

瀬川がぽつりと漏らした言葉に、前園は反応した。瀬川の肩を掴み、軽く揺らす。

「セイレイ君、そうなんだよ!私達だけがまとまっても仕方ないの。視聴者が私達の配信に対して、ここに居ていいんだ。そう安心できるような配信にしていく必要があるの!集落を出る前にさ、ぼそっと言ってたでしょ、言葉の力って」

「え?う、うん……言ったけど……」

困惑する瀬川を他所に、前園は興奮した様子で饒舌に語る。

「スパチャブーストと一緒だよ!言葉には大きな力が宿るの!今度こそ間違えないように、始めようよ、希望の配信!!」

「前園さん、貴方は一体何を閃いたんですか……?」

森本は一人暴走する前園の姿に疑問を呈した。

「ちょっと試したいことがあるんです!今の私達なら配信を始められる!」

そう言いながら、いそいそとパソコンを取り出し、机の上に置いた前園。Sympassをすぐさま起動させるが、突如として前園の表情が曇る。

「……あれ?配信が起動できない……」

「さっき標識に書いてたじゃん、『撮影禁止区間』って」

「あれそういう意味……?えー、このタイミングで?」

瀬川の指摘にげんなりした様子を見せる前園。

コロコロと表情が変わる前園に、思わず一ノ瀬は噴き出した。

「ふふっ、ここまで表情豊かな穂澄ちゃんは初めて見たよ。集落に戻ったら、穂澄ちゃんのやりたいことに存分に付き合うよ」

「ありがとっ、一ノ瀬さん!皆で居場所を作ろうよ、私達の居場所を作ろう!!」

前園の目はきらきらと輝き、希望に満ちていた。


To Be Continued……

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