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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第三十話(1)】 広がっていく力(前編)

静寂漂う道の駅の食堂。

今、この場にいるのは配信ナビゲーターを務める前園のみだ。

前園は、日課である情報収集を行うため、Sympassを起動させた。

「……ん?」

そのサイト内のトップページに気になる動画サムネイルが表示されていることに気づく。

【ディルのDead配信 重要なお知らせ】

どこか硬い雰囲気の漂うサムネイルと共に、そう命名されたタイトル。

「……ディルさんの、動画……」

いい加減なことしか言わない彼にしては珍しい雰囲気の動画だった。

怪しさ全開の動画タイトルではあるが、Sympassの運営側であることを公表したディル。そんな彼からのお知らせということもあり、前園はどこか嫌な予感がしながらもカーソルをそのサムネイルに合わせる。

「おっ、僕の動画じゃん」

何時からそこに居たのかはわからない。

前園の後ろには、その肝心の動画投稿者であるディルがにやにやと楽しそうに笑みを零していた。

そんな彼を、前園は冷めた目で睨む。

「なんでここにいるんですか。とっととどこかに消えたらどうですか?」

彼女の冷ややかな言葉に、ディルは思わず後込みした。余裕に満ちていた笑いは、徐々に引きつった笑いへと変化していく。

「あははっ、随分と嫌われたものだね……あの美人のおねーさんの影響かな……」

「散々貴方に引っ掻き回されましたから。どうせこのお知らせも(ろく)なものじゃないんでしょう」

「それは見てからのお楽しみだよ。というか、皆を呼ばなくてもいいの?」

前園は黙りこくった。しかし、彼女の表情には逡巡の色が映る。

気持ちを落ち着けるように、前園は大きく深呼吸をする。それから彼女は再び画面に向き直った。

「……私が、先に確かめます。貴方のことですから、くだらない動画を投稿しているとも否定できませんし」

辛辣な意見を受けたディルは、思わず苦笑を漏らした。

「心外だなあ。これでも意味のある行動しかとらないよ、僕は」

「……貴方は、一体何を企んでいるんですか。貴方と出会ってから、センセーは物思いに耽ることが多くなりました」

前園の言葉に、ディルの表情が硬直する。

「……センセーを巻き込んで、貴方は一体何を成そうとしているのですか?」

「センセーは巻き込むつもりはないよ」

「また減らず口を……」

じっと睨む前園に対し、ディルは手をひらひらとさせる。

「本心さ。大人一人巻き込んで解決するようなレベルの問題ならとっくに解決してるし」

「……貴方の言う、セイレイ君に近しい大人の話です。他の大人とは、話が違います」

警戒姿勢を崩そうともしない前園に、徐々にディルの表情が如実に引きつり始めた。

「あーもう、疑い深いなあ……確かに、最近ちょっとお話する時はあるよ?まあちょーっと配信に関係したお話をね。ほら、配信と言っても所詮ビジネスだから」

「ビジネス……貴方にとても似合わない言葉ですね」

皮肉たっぷりに前園は言葉を返す。ディルは呆れたようにため息を吐いた。

「……そんなに気になるならさ、自分で聞きなよ。育ての親でしょ、千戸さんさ」

「……それは」

前園はその言葉に何も言い返すことが出来なかった。

思い返せば、前園はほとんど千戸の過去を知らない。三年前、暮らしていた集落で聞いた「娘と妻を魔災で亡くした」という話以降、どんな生活をしていたのか聞いたことがない。

魔災に関する話題はどこかタブーな気がして、今までほとんど触れてこなかった。故に、大切な幼馴染である瀬川の過去ですらほとんど知らない。

口を噛んで俯く彼女に対し、ディルはげんなりとした様子で彼女のパソコンを叩く。

「はぁ……悪かったよ。ほら、動画見るんでしょ?さっさとクリックしなよ」

「……はい」

話題の逃げ道が出来たことに前園は正直、安堵していた。そんな自分がいることに自己嫌悪を感じながら、彼女はディルの配信動画のサムネイルをクリックする。


----


軽快な音楽が、まず動画開始と同時に流れる。

重みのあるタイトルとはかけ離れた、賑やかなBGMが動画を彩る。

前園は明らかにサムネイルとかけ離れた動画の雰囲気に不快感を抱き、そのままシークバーを操作した。

後ろからディルの「あっ!!」と嘆くような小さな悲鳴が聞こえたが、あえて無視することにした。


『——えっとね、今日の晩御飯の話なんだけど、準備できなかったから仕方なく魚を釣ってね——』

『セイレイ君の動画見た!?僕の雄姿がありありと映ってたでしょ。でもさー、あれは無いよねえ、何だよrelive配信って。追体験だってさ、あー面白くない、あー……』

『だってさぁ……この間読んだ漫画が面白くって面白くって……僕つい全巻ネカフェから拝借しちゃったもん……ずびっ』

シークバーをどれだけ動かしても、延々とディルの無駄話ばかりが続き、前園はついにため息を吐いた。


「……やっぱり、いい加減な動画じゃないですか」

冷ややかな目でディルを睨む。そんな彼女に対して、ディルは苦笑を漏らした。

「あれっ、僕そんなに話し込んでたんだ!あははっ!まあ、多分もうそろそろ本題に入ると思うよ?」

「……分かりました、じゃあこれ以上は操作しません」

前園はディルの言葉を信じ、渋々そこからはシークバーを操作することなく静かに動画を見守ることにした。

すると、動画内のディルは何か思い立ったように、画面外に消えてがさがさと何かを漁る音を響かせる。

そして、持ってきたのは一つの手書きのプレートだった。

『セイレイ君達頑張ってるよねー、ダンジョン配信。でさ、僕閃いたんだ、配信者の中で素質のありそうな人を僕がピックアップして、その配信者達に最初からスパチャブースト使えるようにしちゃえ、ってね』

「……え?」

動画内でディルが伝えた言葉に、前園は目を丸くする。だが、当然というか前園の反応を待たずに、動画は続く。

『だってさ、セイレイ君達がいる地域だけ平和になって、色々と安心できるのに。他の地域は全く救われないの、不公平だよねー?なんであいつだけ、なんで、ってならない?じゃさ、戦える能力を付与しちゃえばいいじゃんって!僕天才!!』


「……っ!!」

前園は、その動画を最後まで見ることなく食堂を飛び出した。

ディルは彼女の後ろ姿を見送りながら、呆れたようにため息を吐く。

「……君達が、どれだけ特別な存在なのか、自覚してないようだね……あははっ、そんな単純な問題じゃないのにさ」

前園のパソコンを勝手に触り、ディルはSympassのトップページへと画面を戻す。それから、徐々に画面をスクロールさせる。すると、次から次に動画のサムネイル画像が流れる。

その中には、早速スパチャブーストを付与されたと思われる配信者の動画があった。ダンジョン配信を行うとでかでかと告知されたサムネイルが表示される。

「どれだけテクノロジーが発達しようと、どれだけ外部から与えられようと。結局はそれを使う人間の問題なのにさ、なーんで魔災に巻き込まれても同じことを繰り返すのかな」

ディルはどこか楽しげに笑いながら、ダンジョン配信と表示されたサムネイルにカーソルを合わせ、クリックする。

しかし、動画が再生されることはなかった。

代わりに、黒地の背景に赤文字で、次のシステムメッセージが表示される。


[このアカウントは非公開です]


「ま、だろうね」

ディルはもう一度くすりと笑って、配信画面を閉じてトップページに戻した。それから、大きく背伸びをしながらディルは食堂から姿を消す。


To Be Continued……

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