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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
③商店街ダンジョン編
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【第三章】序幕

穂澄のドローンが、俺達の後ろで静かにモーターの音を響かせながら飛び回っている。

俺と、有紀姉ちゃんが一緒に並んで、魔物に立ち向かう。

後ろにはセンセーが立って、俺達を温かい目で見ていた。

なんでかわからないけど、センセーがいるって思うと、どこか安心できるんだ。


皆がいるから、俺がここに居ていいんだ。そう思える。

だが、そんなある時に俺の心の声が、語り掛けてきた。

『お前は何者だ?』

俺は、瀬川 怜輝。勇者セイレイだ。

『違う。お前は、瀬川 怜輝ではない』

違う。俺は、俺は。

『何者かであるということは、何者でもないということ』

お前は、何を言っているんだ。意味が分からない。

俺は、ここに存在していて、皆と配信している。

コメント欄の皆も、俺を応援してくれている。俺を認めてくれているから、俺が勇者セイレイだって認めてくれているから。

『……本当に、そうだろうか……お前は死を通して何を感じた?』


……死を、通して?

――ふと、穂澄のドローンが俺の姿を映していないことに気づく。映しているのは、有紀姉ちゃんだけだ。

センセーの目線の先は、俺だと思っていた。けど、その視線は有紀姉ちゃんにだけ向けられている。


俺のことを、誰も見ていない。

認めたくない。俺が存在しない人間だと。


——違う!!

いるんだ!!いるんだ!!

俺は確かにここに!!

『いいや。お前は、存在しない人間だ。世界を救う希望の種である勇者セイレイ。お前は、誰からも認められる人間であるが故に、どこにも存在しない人間なんだ』

ふと、その言葉と同時に手足が冷え切る。

心臓の鼓動が消え去る。

嫌だ、嫌だ、嫌だ。

俺の体が、ホログラムとなり、やがて世界から搔き消える。

『そうだ、それがお前の正しい姿だ。覚えておけ、お前はインターネット上にのみ存在する、どこにも存在しない架空の英雄なんだ』

俺が見たもの、俺が感じたもの。それらはここにあるんだ、俺は存在するんだ。

だって、俺のスケッチブックが。

俺の冒険の書は確かにここに——。


★★☆☆


瀬川は、全身ににじみ出た汗を感じながら、ゆっくりと身体を起こした。

身体の震えが止まらない。まるで、自分の存在を否定されたようなうすら寒い恐怖が瀬川を襲い掛かる。

夢の内容は覚えていない。ただ、どこか自分の存在を完全に否定されたという絶望感だけが心の内に残っていた。

「……俺は、いるよ。ここに、存在するんだ……」

自分に言い聞かせるように、そうぽつりと呟く。

ふと、食堂の窓から外の景色を眺める。

真っ暗闇の世界の中、月明かりだけが微かに世界を照らす。薄暗い白に包まれた世界は、どこか儚さを感じさせる。

希薄で、今にも消えてしまいそうで、ちょっとしたことで誰の目にも映らなくなりそうな小さな光。

その時、向かいのソファで寝ていた前園がもぞもぞと身体を動かす。

「んぅ……セイレイ君……起きてた、の……?」

瀬川が起きていることに気づいた前園が、寝ぼけ眼でそう問いかける。

その彼女の言葉に、瀬川は思わず頬が緩んだ。

「……大丈夫、たまたま起きただけだ。すぐに寝るよ」

「んー……そっか、明日も特訓、頑張ろうね……すぅ……」

そう言って、前園は再び眠りについた。

前園に倣って、瀬川も眠りにつくべく横になる。

寝転がった姿勢のまま、月明かりを覆うように手をかざす。

すると、それに伴って影が出来た。その影に瀬川はどこか安心を覚える。

「大丈夫、俺は存在するんだ……ここにいるんだ……」

自分の配信は、きっと世界に影響を与えているはず。

けれど、コメント欄の人々が、本当に実在するのか分からない。もしかすると、本当は自分達以外の人々は既に存在していないのではないか、という考えすら脳裏を過ぎる。

インターネットという媒体を介するせいだろうか。存在というものを、疑ってしまう。

確かにここにいるはずなんだ。俺も、皆も。


本当に、俺は勇者として配信出来ているのかな。

戦えば戦うほど、分からなくなる。答えに近づけば近づくほど遠ざかる。

戦う意味。向き合う意味。その答えを、何度も何度も自身に問いかけてしまう。

「……皆……俺は、俺は……」

答えはあるはずなんだ。きっと、きっと。

そんなことを考えている内に、やがて瀬川は再び眠りについた。


To Be Continued……


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