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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
②総合病院ダンジョン編
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【第二十八話(1)】 配信者の素質(前編)

屋上でストーが放ったスキル[千紫万紅]の影響は、病棟内にまで影響していた。

一部の天井は崩落し、階段までたどり着くのもやっと、といった状態だ。


「セイレイ……一人で歩けるか?」

「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。姉ちゃん」

noiseは不安げにセイレイの顔を伺いながら、寄り添うように歩く。セイレイは辺りをきょろきょろと見渡しながら、ゆっくりと来た道を戻る。

「明かりだけは、消えなくて良かったですね……」

ライトは病棟内を照らす蛍光灯を見上げながらぽつりと呟く。一部の蛍光灯は天井と共に崩落しその役割を静かに失っていたが、それでも残った分の明かりで辛うじて足元を確認することは可能だ。

「ごめん、ごめん……僕のせいだ」

ディルは、屋上庭園でストーと邂逅(かいこう)して以降、ずっと項垂れてブツブツと贖罪(しょくざい)の言葉を呟いている。

普段の状態ならいい加減な冗談を繰り返しているはずなのだが、今の彼にはその気力すら残っていないようだ。

その呟きの内容を聞き取ったホズミ。彼女はドローンのスピーカーを介して質問を投げかけた。

『……ディルさんのせい?一体どういうことですか?』

「……僕があの集落で言ったこと、覚えているかい?」

彼の言葉に答えたのは、ライトだった。

「ストーさんが消えたのは、他の、想像もできないような大きな力が働いている……でしたか?」

ディルはその回答にこくりと頷いた。それから、言葉を静かに続ける。

「僕はセイレイ君の成長の糧になるなら、別にストーが消えようがどうでも良かったんだ。原因は大体想像がついていたし」

「おいディル、お前こんな時まで……」

容赦のない言葉に、セイレイは咎めるように突っかかった。

だが、ディルは首を横に振って、彼の言葉を制止する。

「……本心だよ。おねーさんにはダンジョン攻略をする目的があったように、僕には僕の目的がある。でも、ストーをセイレイ君の配信を荒らすような真似をすることに利用するなんてね……」

きっとその言葉に嘘偽りはないのだろう。そう感じ取ったセイレイは、何も反論することが出来ず口を閉ざした。

代わりに、noiseがディルに問いかける。

「それは、お前の正体に関係することか?——改めて聞くが、お前は一体何者なんだ?」

「……」

ディルは、じっと口を固く結んだまま、静かに首を横に振った。

彼の様子に徐々にnoiseの怒りのボルテージが上昇する。やがてその目が吊り上がっていく。

「おい!この期に及んでだんまりかよ!!皆の、お前の言うセイレイの命に関係しているんだぞ!!」

いきり立ったnoiseに胸倉を掴まれたディル。だが、それでも彼は自身の正体を明かそうとしない。代わりに、ぽつりと小さな声で言葉を紡ぐ。

「……僕の正体を語るには、君達が知らないことが多すぎるんだ。……ただ、これくらいなら言ってもいいか。僕は——」

『——Sympassの運営側、ですね?』

ドローンのスピーカーから響くホズミの回答に、ディルは観念したように諸手を上げた。

「どこまでも勘が鋭いね、君達は……」

その言葉にホズミはため息を漏らす。それから、考察と共に結論に至った理由を話し始めた。

『……スパチャも(ろく)に受け取っていなさそうな貴方が、スパチャブーストを連発できるのはおかしいですから』

「……返す言葉もないね……ただ、僕だってSympassの運営特権を利用している一人に過ぎない」

その言葉に、noiseは困惑した様子で、確認するように問いかける。

「運営特権……なあ、もしかしてみーちゃ……道音も、運営側の人間なのか?」

「恐らく、そうだろうね」

「……随分とあいまいですね?」

ライトはディルの言葉を咎めるようにして、話に割って入る。

返す言葉もないようだ。ディルは自虐的な表情を浮かべ、それから小さく笑った。

「僕だって運営の手駒の一つに過ぎないからね……だからこそ、僕はセイレイには成長してもらわないと困るんだ」

「……期待されているところ悪いが、ディル。俺は周りに恵まれているだけの、一般人だぞ?そんな俺に一体何を期待しているんだ?」

余りにもスケールの大きい話に、セイレイは責任を背負いきれていない。困惑したまま、ディルにそう尋ねる。

しかし、ディルの次の反応は彼らが予想したものとは大きく異なった。

「く、くくっ……ふっ……」

「……な、なあ、ディル?」

突然肩を震わせ始めたディルに、セイレイは心配して近づく。

だが、ディルはセイレイの手を払い飛ばし、ついには大声で笑いだした。


「あはっ、あはははははは!!セイレイが一般人!?馬鹿も休み休み言いなよ!!セイレイ君は特別なんだ、この世界に活路を見出すたった一つの希望の光!!そんな彼を生かすことが!!活かすことが!!僕が存在するたった一つの目的なんだ!!」

「な、なんだディル!?どうしたんだ!?」

彼の様子の変化について行けないnoiseは、警戒して腰に携えた短剣の鞘を触る。

そんな彼女の様子も気にも留めず、ディルは大声で笑い続けた。

「いつかセイレイ君、君は気づくんだ!!自分が特別だってことを!!この世界の勇者は君だけだってことを!!だけど、それは今教えても意味がない!!自分で気づいてもらわないと、成長のたった一つの糧は考えて、気づくことなんだ!!あはははっ!!センセーは本当にいい教育をしてくれたよ、彼の方針は間違っていない!!正しい、正しいよ!!」

『ディルさん、貴方は一体何を言っているのですか!?センセーを馬鹿にするようなら……』

今にも宣告(コール)しそうなホズミのドローンに向けて、ディルは大きく息を吐いた後手をひらひらと振った。

「いや、僕もあの人のことは気に入っているからね。悪く言うつもりはないよ、そうさ。センセーは正しい。セイレイ君に、配信者の素質を生み出したこと、それだけでも立派さ」

「配信者の素質?」

セイレイはその言葉に首を傾げた。

「セイレイ君には言わないよ。それを言ってしまえば、その良さは死んでしまうからね、死は成長の糧だけど、何を死なせるのかは選別するべきさ。あははっ」

しかし、ディルはその質問にまともに取り合おうとしない。

故に、彼の言葉の真意を勇者達も、視聴者も、誰一人として理解できない。


★★☆☆


気づけば、勇者一行は総合病院の出入り口まで戻ってきていた。

ディルは真っ先にガラスドアに駆け寄り、そして勇者一行へと振り返る。


突然、ディルはドローンのカメラに向けて、誰も予想できなかった言葉を発した。


——一度、発してしまった言葉は引っ込めることが出来ない。

それをディルは悪用する。


「さて、今日も配信を見てくれてありがとうね。次は、ホズミちゃんと……センセーにも配信に入ってもらおうと思うから、よろしくね」

『っ、は!?ディルさん!?』

『おい、ディル!俺達は戦えないぞ!?』

ドローンのスピーカーから、ホズミとセンセーの困惑した声が響く。

だが、ディルはそれに取り合おうとせずガラスドアに手をかけ、思い切りこじ開けた。

外から洩れる陽光が、ディルの全身を照らす。


くるりと振り返った彼の表情は、その太陽の光のように楽しそうな笑みを浮かべていた。

「さて、ホズミちゃん、そろそろ配信は終わりだよね。じゃ、ばいばーいっ」

先程までの力なく項垂れていた彼はどこへやら、ディルはドローンのカメラに手を振って、一足先に総合病院を出る。

「……おい、ディル?お前、一体何を考えて……?」

セイレイは困惑した様子でディルの後姿を呆然と眺める。

「……戦えるわけが、無いだろう……だって、ホズミが居なかったら誰が、ドローンを……」

noiseは顎に手を当て、深く考え込む。

だが、考えても答えは出なかったようで、静かに首を横に振った。

「ひとまず、私達も外に出ましょう。一度得た情報を統合するべきです」

ライトはそんな呆けた表情のまま固まった二人を他所に、ガラスドアから外に出る。

セイレイとnoiseは、そのライトの言葉ハッとしたようだ。静かに頷き、ライトに続いた。

『……それでは、本日の配信を終了いたします。次回の配信日は……未定、です』


[本当に、お疲れ様]

[あんまりディルの言う事を真に受けるなよ。ホズミさんの支援が居なかったら、乗り切れなかった場面が多いのは分かってる]

[また勝手なことを言っていなくなるな、あいつは]

[行動も、目的も予想がつかない]

[というか、このアプリケーションの運営サイドというのも気にはなる。もう少しみんなで考察したいよ]

[俺もだ。またコミュニティに集まろうぜ]

[↑同意です。それでは、またコミュニティで]

[ちょっと後でアーカイブ確認するわ]


『……皆様、ありがとうございます。それでは、失礼しますね』

ホズミはそのコメント欄を確認した後、静かに配信終了のボタンを押した。


--当配信は終了しました。アーカイブから動画再生が可能です。--


★★☆☆


悠長に欠伸をしながらガラスドアから出てきたディルに、前園は慌てて駆け寄る。

「ちょ、ちょっとディルさんなんてこと言うんですか!?私、そんな動けないですよ!?」

「知ってるよー、でも、君にも配信者になってほしいんだー」

「……どういうこと、ですか?」

どこか困惑する傍ら、頭が冷えるのを感じた前園。彼女は静かに、ディルに問いかける。

だがディルはすぐに答えなかった。後ろからセイレイ達も合流したのを確認してから、静かに、聞き漏らすことのないように言葉を発する。

「前園 穂澄ちゃん。君にも、配信者の素質がある……僕は、そう睨んでるよ」


「……私、が?」

何を根拠に言っているのか。

彼女は言葉の意味を理解できず、目を丸くしてディルの顔を見つめることしかできなかった。


To Be Continued……

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