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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
②総合病院ダンジョン編
54/322

【第二十七話(1)】 relive配信(前編)

勇者一行は、再び大理石の台座に配置された追憶のホログラム前へと立つ。

周囲には病衣を来た人達や、その面会に来た家族と思われる人達がホログラムに移し出されていた。

noiseや、ライトにとっては特に思い入れの深い場所ではある。

「さて。そろそろ追憶のホログラムを融合させるが……ホズミ。大丈夫か?」

その問いかけに、ドローンのスピーカーからホズミの返答が響いた。

「はい、大丈夫です」

「あ、待って」

そんな最中、セイレイは慌てた様子で手を上げた。

noiseは首を傾げたが、直ぐに思い当たることがあった。そして、彼女は”ふくろ”からスケッチブックと鉛筆を取り出す。

「ほら、これか?ごめんな、忘れてたよ」

それを大事そうに受け取ったセイレイ。慌てた様子で再び院内カフェへと足先を向ける。

「ありがとう姉ちゃん!!ちょっと俺、昔の姉ちゃんをスケッチしてくるよ!」

「は!?え、ちょっと、セイレイ!おい!!」

突然の報告に慌ててnoiseは引き留めるが、時すでに遅し。駆け足でセイレイは院内カフェへと走り去った。

セイレイに置いて行かれた彼らは、呆然としてお互い顔を見合わせた。

「あんのばかっ……なんで私のスケッチなんだよ……」

noiseは恥ずかしさが怒りへと昇華しているようだ。頭を抱えて蹲る。

「ぶっ、あはははっ!!確かにこのダンジョンってほぼおねーさんの話ばっかだったもんね!!セイレイ君、大正解っっっ!!」

ディルはなぜかツボに入ったようで腹を抱えて笑い転げる。冷ややかな目でnoiseはじろりと彼を睨むが、全く気に留める様子はない。

『……はぁ……。ライトさんはどこか確認しておきたいところはありますか?ホログラムが起動しているのは今だけですし』

「そうですね……それでは、病院を見る機会というのはそうないと思うので、院内ツアーでも開催しましょうか。ホズミさん、私に付いてきてください」

『あ、はい。分かりました!——それじゃあ、またセイレイ君のスケッチが終わったら合流しましょう』

ライトはそう言って、屋上庭園を後にした。ホズミのドローンがそれに続くようにして空を泳ぐ。


「あは、皆行っちゃったね、おねーさん?」

「……そうだな」

ぽつんと取り残されたのは、ディルとnoiseだけだった。

「じゃ、僕もどこかうろついてこようかなー」

ディルはのんびりと背伸びをしながらその場を後にしようとするが、noiseは彼の腕をつかんで引き留める。

「おい、待て。私はお前に色々と聞きたいことがあるんだ」

「えー……」

ディルは不快な顔を隠そうともせず、露骨に顔をしかめた。

「おねーさん怖いから二人きりになりたくないんだけど……え、何。拷問?」

「よく言うよ。どうせ私なんかいつでも殺せるくせに」

「……それが分かってて、随分と度胸あるね?」

noiseの言葉をディルは否定しなかった。呆れたようにため息を吐き、それから飛び移るようにして、ベンチに腰掛ける。

明らかに苛立ちを隠しきれないようで、親指の爪をかじりながらnoiseを睨む。

「で、何。言っとくけど僕の素性とかなら答えないけど。セイレイ君の為にならないし」

「……そこだよ」

「は?」

その返事の意図が理解できず、ディルは呆けた顔を浮かべた。noiseはぐるりとホログラムが映し出す病院の人々を見渡した後、ディルの隣に座る。

「うわっ隣に座らないでよ」

引きつった笑いを浮かべながら半身を引くディル。だが、鷹の目をしたnoiseは獲物を逃すまいと、真っすぐに彼の目を見据える。

「黙れ。私が聞きたいのは、何故そこまでセイレイに執着するのか、だ。あのダンジョンの時からずっと気になっていた」

noiseの言うあのダンジョン、というのは家電量販店ダンジョンのことだ。絶望的な状況の中、ディルは突如現れた。

そして、セイレイとコラボ配信(共同戦線)を行うことでそのダンジョンボスを撃破したことをnoiseは思い返す。

ディルは彼女の言葉を鼻で笑った。

「……そりゃ、セイレイ君は世界の希望だからさ」

「世界の希望?いきなりSympassで配信を始めただけの少年に、か?」

「何が言いたいのさ?」

まるで答えの見えない話を繰り返すnoiseに、ディルは答えを急かす。

noiseは逡巡として、大きく深呼吸をする。それから改めてディルの目を見据えた。

「お前には、明確に倒したい相手がいるんだろ」

「……っ」

核心を突かれた。

そう言わんばかりにディルの表情が、真剣みを帯びていく。

私の憶測は間違っていない。そう確信したnoiseは更に言葉を続けた。

「その鍵を握っているのは、セイレイか?だから彼の成長に力を貸している……そう思ったが、どうだ?」

「……本当に、君達は勘が鋭いね」

ディルは観念したようにため息を吐いた。それから、ベンチから大きく飛び跳ねるように立ち上がる。

「倒すべき敵がいるんだな。そいつは、一体何者なんだ?」

「それは言えない。ただ、配信が鍵を握っているとだけは言っておくよ」

「配信?Sympassが?」

noiseは怪訝な表情を浮かべる。ディルは改めてホログラムが映し出す人々を見やった。

楽しそうに笑う人々。病に侵されながらも、家族と会える時間をかけがえのないものだと信じてやまない人達をホログラムが映し出す。

「人間の想いというのは、どんな形であれ言葉に現れるものさ。その言葉の断片が、やがて大いなる力になる」

「言葉の断片?」

ディルは、ちらりと視線を上に向ける。配信の時に、よくホズミのドローンが浮いている辺りへ視線を送る。

「どんな媒体でも、それは変わらない。言葉には、間違いなく力が宿ってるんだ。様々な想いの螺旋が混ざり合って、絡み合って。それはたった一つのプロローグを生み出すのさ」

「すまない、私は自分が思った以上に馬鹿なようだ。もう少し噛み砕いて説明してくれないか?」

noiseはそう言うが、ディルはまるで取り合おうとせずくるくると舞踏を踊るように回る。

「分からないように言っているからね。十人十色、さ。その為の配信だよ。どんな形であれ、発する言葉全てに意味はある」

「今、こうして話している言葉でもか?例えそれが嘘だとしても」

その問いかけに、ディルはnoiseの方へと振り返り楽しそうに笑った。

「そう、そうだよ!嘘の感情だろうと、そこには『嘘を吐きたいと思った自分』という意味がある!君だってそうだろう?自分の素性を隠そうとした、まさしく嘘の権化!!」

「……それは」

「見た目すら変わって、中身すらも別の人格に置き換えようとした!!配信上でもそうさ、別人に置き換わった君は、一体誰なんだろうね?きっと、それはもはや一ノ瀬 有紀じゃない!!」

noiseは、静かに、沸き起こる怒りを覚えた。今すぐディルの詭弁染みた口を塞ぐべく、その腰に携えた短剣でずたずたに切り裂いてやりたい衝動に駆られる。

だが、その反面彼の言っていることを否定できない自分もいた。

このにじみ出た言葉の刃をどこに向けていいのか分からなくなる。結局、彼女はじっとディルを睨むことしかできなかった。

その彼女の胸中を悟っているのだろう。ディルはニコニコと作った笑みを浮かべながら、noiseが座るベンチを蹴り上げる。

「……逃げんじゃねえよ。自分自身の言葉からさ。自分が発した言葉の意味から逃げるな」

ディルは、冷ややかにそう言った。noiseはその言葉を否定することが出来なかった。

じっと自分の手を見つめるように、noiseは深く俯く。だが、ディルは笑みを零して屋上庭園の入口を見やる。

「さ、そろそろ皆戻ってくる頃かな?おねーさんも、もっと自分の存在、自分が与えた周りへの影響に責任を持ってね、あははっ」

noiseは何も言い返すことが出来ず、静かにベンチから重い腰を上げた。


★★☆☆


しばらくして、再び勇者一行は揃った。

「ごめんお待たせ!皆待った?」

セイレイはスケッチブックを持って慌てて駆け寄る。だが、ディルはくすくすと笑いながら首を横に振った。

「大丈夫だよ、色々と収穫もあったことだし。ね、おねーさん」

「……ああ」

noiseは未だに暗い顔が消えず、引きつった笑いを浮かべる。だが、どこか上機嫌のセイレイはそれに気づかなかったようだ。

「そうなの?ライトも大丈夫?」

次にセイレイはライトの方へと視線を送る。彼は安心したような表情を浮かべ、こくりと頷いた。

「大丈夫です。もう、思い残すことはありません」

ライトが浮かべる表情からはもう愁いを感じることはなかった。それから、セイレイはホズミのドローンに視線を向け、こくりと頷く。

そのジェスチャーの意図を理解したホズミ。ゆっくりとドローンを操作し、追憶のホログラムへと近づける。

『……それでは——追憶のホログラム、融合します」

ゆっくりと、空を泳ぐドローンが追憶のホログラムに近づく。

それに連なって、光が一層強く輝く。


その時、静かな宣告(コール)が屋上庭園内に響いた。


「スパチャブースト”緑”」

[ストー:CORE GUN]

突如として、システムメッセージがコメントログに流れた。


『きゃああっ!?』

その宣告(コール)と共に、鋭い弾丸が、追憶のホログラムを貫く。あまりにも突然のことに、よろよろと揺れるドローンのスピーカーからホズミの悲鳴が響いた。

弾丸に穿たれた追憶のホログラムは、徐々に大きな亀裂が入り始める。

やがて、それは甲高い悲鳴のような物音を立て、瞬く間にその原型を留めることなく崩れ去った。

「追憶のホログラムが……!!」

ライトの驚愕の声と共に。

そのホログラムが映し出していた景色は、元の瓦礫だらけの殺風景な景色に戻った。


『あは♪だめだよぅ、ゆきっち。させない、そんなこと、させないよ?』

瓦礫と土煙が舞う、殺風景な屋上庭園に響く、まるで弾むような少女の声。

——その声は、テンションこそ大きく異なるが、先ほど追憶のホログラムで聞いた声と同じものだった。

「——っ!?」

セイレイはすかさず、その声のした方へと振り向く。

土煙舞う中に立っていたのは。

成人男性ほどの骨格をした、漆黒のパワードスーツ。

銃の形に変形したその右手から溢れるのは硝煙。それを振り払うように、彼は大きく腕を振り下ろした。

そしてその傍らで、闇の象徴のような漆黒のドローンが空を泳ぐ。

『……ストー……!?ストーさんなのですか!?貴方は!?』

コメントログに表示されたその配信名を見たホズミは動揺を隠せない。彼女の動揺は、やがて勇者一行に伝搬する。

彼らの視線は、漆黒のパワードスーツに身を包んだ男へと向けられた。

「ストー兄ちゃん!?ストー兄ちゃんなの!?」

「……私の知る、須藤さんとは大きく異なりますね……?一体、これは……」

「……」

だが、そのストーと思われる男性は何も喋ることなく、勇者一行と対峙する。

フルフェイスに覆われた彼からは、表情を読み取ることが出来なかった。


そんな彼らの傍らで、ディルは珍しく余裕のない苛立った様子で漆黒のドローンを睨む。

「はぁ?何してんのさ?ふざけるのも大概にしろよ、余計な茶々入れんじゃねえよ」

『まがい物くんに言われたくないなあ♪人間の、まがい物くんっ。あはははっ!!』

「……チッ」

漆黒のドローンのスピーカーから響く少女の声に、ディルは思わず舌打ちをした。

noiseは、驚愕と絶望に表情が歪む。震えた声で、その漆黒のドローンに話しかける。


「ねえ、嘘だよね……?嘘だと言ってよ、ねえ?」

『あは、気づいた?私のしょーたいっ♪』

楽しそうに、その態度を表現するように、ドローンはストーの周りをくるくると踊るように空を泳ぐ。

生きていた事よりも。noiseは、彼女の行動が許せなかった。

やがて、noiseの表情は怒りに満ちていく。


「お前は一体何をしてるんだっ!!道音っっっっ!!!!」

noiseは感情のままに、懐から短剣を抜き出し叫ぶ。涙を振り払うように、大きく首を左右に動かし、漆黒のドローンを睨む。

『えー……?何してるって、ゆきっちと同じ配信だよー?ここから先は、私のrelive配信の時間っ♪あはっ』


To Be Continued……


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