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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
②総合病院ダンジョン編
35/322

【第十七話(1)】 広がる希望の輪(前編)

[皆さん、こんにちは。ホズミです]

[この間は良いもの見せてくれてありがとう。久しぶりにお袋の死と向き合うことが出来たよ]

[俺も。本当にありがとうな]

[久しぶり。ストーは元気?]

[一番重症だったもんな……]

[ストーが脱退したって通知欄に出てたけど、やっぱりしばらく療養した方が良い感じ?]

[概ねその解釈で大丈夫です。その為、しばらくはセイレイ・noise・私の三人が主体で配信をする形となります]

[分かった、無理はしないようにな?頑張ってるのは分かるけど、死んだら元も子もないから]

[ありがとうございます。ところでなぜ今回、コミュニティを更新したかというと今から配信を行うからです]

[えっ]

[は?]

[ちょっと待て、配信見る準備できてないぞ]

[コメントの打ち方は前と同じで良いのか?]

[そう言えば前回の配信でのアクションカード、正直あんまり役立ってなかったと思う]

[ほとんど正面突破だったからね]

[あと日陰で黒はあかん]

[確かに見えなかったな……]

[それに関しては私も前回の配信以降、皆と相談しました。熱源探知の有用性が確認できればそっちを優先して使うと思います]

[それが懸命だよね。堅実に行こう]

[ところで、なんで今日は急に配信することにしたの?]

[次のダンジョンの下見です。というのも、ディルが次に向かうダンジョンを提示してきまして]

[うわ出た]

[あいつ味方……だよな?]

[まあ助けてくれたと言えば助けてくれたけど]

[そう言えば、あれ以降ディルのチャンネルあるかと思って検索掛けてみたのよ。そしたらあいつのチャンネル出たんだけど、まあ変な動画しか投稿して無いのな

ほいURL http;//……]

[直近の動画見たけど何だよ僕のポッケはブラックホールって]

[あいつのオリジナルソングらしいぜ。ポケットに入れたはずのものがいつの間にか消えてしまうからブラックホールみたいだ、ってさ]

[絶妙に分かるの腹立つな]

[あいつ結構大事な情報隠してそうだもんな、コメントもまあ荒れてる荒れてる]

[ごめん俺も多分荒らした内の一人だわ]

[まあ気持ちは分かるけどさ、程々にな]

[さて、私は配信の準備に取りかかります。次はどうやら総合病院のようですね]

[総合病院か……]

[今回も追憶のホログラムがあると睨んで良いよな]

[恐らくな ただ明かりもどうするんだ?都合良く壁に穴開いてるとは限らないぞ]

[現状の考えですが、受付の辺りに非常用懐中電灯が残されているはずです。なのでそれを使おうと考えています]

[なるほど、上手くいけば良いな]

[にしても総合病院かあ。じいちゃんがお世話になったなあ]

[まあ、期待してるよ]

[ありがとうございます。それでは]

[頑張ってね]

[また参加できそうなら参加する。力になりたいし]

[そう言えば、前回の配信見てて思ったんだけど後方支援がホズミだけは正直厳しくないか。もし誰かがダウンした時に完全に状況が瓦解する]

[ダンジョンボスの時みたいにな]

[……一度相談してみます]


★☆☆☆


Sympassのコミュニティを閉じた前園。パタリと閉じたパソコンをリュックサックの上に置き、前方にそびえ立つ総合病院を見上げる。

摩天楼のように高くそびえ立つ総合病院。敷地面積は広く、まるで観光名所付近のホテルを彷彿とさせる広さだ。

その全ての要素が、かつて人々の治療の為に使われていたのだ。前園は医療技術がそれほどまでに普及していたのだと、再認識せざるを得なかった。

同じく呆然とした表情でその総合病院を呆けた顔をして見上げている一ノ瀬の隣に立つ。

「これが、ディルさんが言っていた目的地、ですか?」

「……うん。そうだね、ここは……」

前園に気づいた一ノ瀬は何故か、どこかぎこちない表情を浮べながら一ノ瀬は答える。その顔付きはどこか緊張と言うよりは、恐怖に怯えるような表情にも見えた。

苦虫を噛み潰したように顔をしかめている彼女に前園話し掛ける。

「……一ノ瀬さん?」

「う、ううん?どうしたの穂澄ちゃん?」

「いや、何か病院に苦い思い出でもあるんですか?」

目の前の総合病院跡地と、前園を交互に見比べる。そして小さく溜息を付いた後、前園へと向き直る。

「うん……別に隠すことでも、ないか。えとね、この病院は……」

「姉ちゃん、どうしたの?」

どこか表情の硬い一ノ瀬の様子が気になったのか、瀬川が彼女の隣に駆け寄った。一ノ瀬はチラリと瀬川の方を見た後苦笑して彼の頭を撫でる。

「な、なんだよー?」

「ふふっ」

いきなり頭を撫でられて訳が分からなさそうに瀬川はむくれる。

「もしかしたら追憶のホログラムでバレるかも知れないし……先に言っとくかな。ここね、私が昔入院していたところなんだ」

「姉ちゃんどこか身体が悪いの?」

心配そうに眉を顰め、瀬川は彼女の顔色を窺う。だが一ノ瀬は大きく首を横に振った。そして、何故か自分の両手をじっと見つめる。

「ううん、身体はどこも悪くない……悪くは無いんだけど、私の身体は……」

「……一ノ瀬さん?」

前園は心配そうに彼女の手を握ってじっと見つめる。前園の手の温もりにハッとした一ノ瀬は恥ずかしそうに苦笑し、総合病院の自動ドア前に立っている千戸と森本の方へと視線を向けた。

「……ごめん、今この場で説明してもすぐに理解できないと思うし、後で良いかな?とりあえずダンジョンの下見、だよね」

「また抱え込んでいる物があるならいつでも言ってね、俺達いつでも話聞くからさ」

過去に彼女が魔災以降抱え込んできたものを打ち明けたのを聞いている瀬川にとって、再び何かを気にしている様子の一ノ瀬は気が気でなかった。

だが一ノ瀬は気を引き締めるように、腰に巻き付けている短剣の鞘を軽く触る。小さく息を吐き、ゆっくりと顔を正面へ向けた。

「ありがとう。でも、私は大丈夫。さあ、配信の時間だね」

背筋を這うような冷たい彼女の声音。瞬く間に雰囲気の変わった彼女の姿が、一ノ瀬からnoiseに移り変わったことを物語る。

その覚悟に合わせるように、瀬川もこくりと頷いた。

「うん。分かったよ姉ちゃん、じゃあ穂澄も頼んだぜ」

「……分かりました。二人がそれでいいなら、配信を始めましょう」

勇者一行へと姿を変えた三人。彼等はダンジョン前の、二度と動くことの無い自動ドアへと足を運んだ。


----


「お待たせ、センセー。森本さん」

瀬川はじっと自動ドアから中の様子を探るように、じっと観察していた二人へと声を掛ける。

その声に振り向いたのは、漆黒のスーツに身を纏った、すらりと背の伸びた五〇代の初老の男性、森本 頼人(もりもと よりひと)だ。

「……懐かしいですね。私はかつて、この病院で勤務していました」

彼は何処か懐かしむような、しかしどこか心苦しそうに口元をキュッと結びながら語る。

遠く秘めた過去のパンドラの箱。森本の口から一度開かれたそれは、止めどなく思い出として広がっていく。

「あの頃は、毎日が戦場でした。生きるか死ぬか、左右するのは私達の選択です。もし選択を誤れば、もし急変の兆候を見逃せば。人の命という大きな責任を背負って私達は業務に励んでいました。ただ……」

そこで言葉を切り、大きく空を仰ぐ。青々と澄み渡る空がそこには広がっていた。

「魔災。私はその非現実的存在に打ち勝つことは出来ませんでした。何度も、私は己の限界を、人間の限界を実感しました。持てる手札で必死に戦いましたが、それでも限界はあった。医者という職業に期待されることが辛かった、医者だから人の命を助けなければ、と思う自分自身を何度も恨みました」

「森本先生……」

同じく医者志望だった一ノ瀬は、どう言葉を掛けて良いものかと躊躇するように俯いた。

森本はそこで言葉を切り、勇者一行を見渡す。

「私はこの日まで、貴方達と出会うまで医者という性分を隠していたんです。期待されるのが怖かったから」

「……なあ、森本さん」

千戸は何かを言いたそうに彼へと近づく。だが、それを遮るように森本は手を前に差し出した。

「でも、貴方達と話していて気づきました。私はまだ、人の命を諦めたくありません。人が生きる未来を諦めたくないんです」

深々と頭を下げる森本。彼が何を言おうとしているのか、未来を描こうとしている勇者一行は気づいてしまった。

その選択が、彼自身を地獄へ誘う可能性を知りながら、勇者一行は黙って続く言葉を待つ。


「その配信に、私……森本 頼人を参加させてくださりませんか。私は、救えたはずの他人を救えない未来をもう、二度と見たくありません。あなた方が希望を見せてくれたように、私も希望を皆に見せたいのです」

勇者が描く希望の配信は、徐々にその輪を広げていく。


To Be Continued……

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