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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
②総合病院ダンジョン編
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【第十五話(1)】 ババを引く役割(前編)

「有紀姉ちゃん。俺は姉ちゃんを追放したいと思う」


勇者セイレイは、そう強い口調で言い切った。前園も彼に賛同するようにして頷く。

追放を言い渡された一ノ瀬 有紀は訳が分からないと言ったように困惑した様子で反論した。

「な、なんで!?私は普通にやってるだけだよ?」

「だって、有紀姉ちゃん……」

そこでセイレイは――瀬川 怜輝はアスファルトで舗装された道路へ、大の字に寝転がって叫ぶ。


「有紀姉ちゃんババ抜き強すぎ!!勝てないんだもん!!」

「セイレイ分かりやすいからねー……」

一ノ瀬は苦笑いしながら肩をすくめた。

突如として消えたストーの痕跡を辿る為。勇者一行は長くお世話になった海の家集落を離れ、次なる集落を目指していた。

最初こそ張り詰めていた様子で動いていた瀬川。しかし、ずっとそんな緊張しているとすぐに疲弊するからと、一ノ瀬がトランプでババ抜きをしようと提案した。

渋々彼女の提案を受け入れた瀬川だったが、遊んでいる内に熱が入ったのだろう。何度も熱心に一ノ瀬に勝負を挑む。

だが、さすがというか実戦と経験に富んだ一ノ瀬の能力は、ババ抜きにおいても遺憾なく発揮される。鋭い双眸でじっくりと観察し、鮮やかな手腕を見せる一ノ瀬。

純粋に勝ちに(こだわ)る瀬川にとっては、一ノ瀬は大敵だった。

「うぐ……有紀姉ちゃんもう一回勝負!!」

「次は俺も入るぞ」

千戸は、瀬川と前園の間に割って入るようにして座った。

一ノ瀬と出会うまでは外を常に警戒して行動していた彼等だったが、一ノ瀬との情報共有にて魔物は基本ダンジョンから出ることが出来ない、という情報を得ていた。

その為こうして休息の合間を縫って、心置きなく彼等はトランプを満喫する。

「っだーーーー!!姉ちゃんに勝てねーーーー!!」

「ふふっ、何度でも掛かっておいで」

「一ノ瀬さん強すぎる……何かコツがあるんですか?」

前園がそう尋ねると、一ノ瀬は「うーん」と考えるそぶりをしてから、やがて話し始めた。

「そう言われてもなあ。経験からの選択、としか言えないんだよなあ」

「経験からの選択?」

瀬川が彼女の言葉を反芻(はんすう)すると、一ノ瀬は深く頷いた。

「誰がババを持ってるんだろう、何を失うと都合が悪いんだろう、とか予想して選んでるかな、私は。ほらこんな風に」

「あっ!!」

「はい、一抜け」

一ノ瀬は手に持っていたカードを揃え、地面の上にペアとなったカードを置いた。瀬川は不貞腐(ふてくさ)れたように頬を膨らます。

しかし、その表情はどこか寂しげな表情へと移り変わる。

「……ストー兄ちゃんも、本当ならこの中に居たはず、なのにね」

その言葉に、面々は黙り込む。前園に至っては思わず涙目になっていた。

千戸はゆっくりと立ち上がり、長く続く、崩落した建物が連なる道の先へと視線を向ける。

「そうだな。俺達は消えた須藤の手がかりを見つける為にも、少しでも情報が欲しい。前園、次の目的地は”道の駅集落”だったよな?」

話を振られた前園は「はい」と真っ直ぐな目で頷いた。リュックサックの中からパソコンを取り出し、流れるようなタイピングで操作する。

開いた画面の中には、文書で情報が纏められているのが映る。

「集落の皆さんから得た情報を統合しました。以前から海の家集落と交流があったそうですね、道の駅集落は。海と山で採れるものが違うので、交易をしていた、とのことです」

その言葉に千戸は考え込むように顎髭を自身の手で撫でる。

「そう言えば、須藤も最初に会った時に『道の駅集落の方ですか』って聞いてきたな」

「はい。現状手がかりを持たない私達はこういう所から探していくしかないですね……」

真剣な会話の中、瀬川は怖ず怖ずと行った様子で尋ねた。

「……なあ、話の途中で悪いんだけどさ、”道の駅”って何?」

魔災当時六歳だった瀬川にとっては、道の駅という言葉は全く聞き慣れない単語であった。

一行の視線は年長者である千戸へと向けられる。

彼等の視線を一同に受けた千戸は小さく咳払いをしてから言葉を続けた。

「あー、道の駅というのは、要は道路の停車駅みたいなものだ。山奥とかを移動していると、ゆっくり出来るところがないだろ?ついでにその山の幸を使ったご飯を食べたり、地域の特産物を買い物したり……と、まあ言えばドライバーの為の、体と心を休めるための所だな」

千戸は自分なりの解釈で説明する。魔災当時は高校二年生だった為に自動車運転経験の無い一ノ瀬も、彼の言葉に興味津々と言った様子だ。

「そんな場所が各地にあるんですね。ちなみにその目的地の道の駅集落はどれほどの規模なんですか?」

彼女の質問に答えたのは、千戸では無く前園だった。その事は彼女も気になっていたようで事前に情報収集をしていたのだろう。

「はい、次に向かうところはかなり大きな道の駅らしいです。規模も多種多様、と言ったところでしょうか」

「道の駅というか、もうそれは道のターミナルじゃないかな」

瀬川が茶化すようにそう言う。彼の言葉がどこかツボに入ったのだろう、前園は「ぶっ」と吹き出した。

「セイレイ君、何だよ道のターミナル、って……ふふっ。道の駅中心に(おびただ)しい数の車が出たり入ったりするの……?高速道路じゃん、それ……っ」

「穂澄ちゃんの想像力も大概だね」

一ノ瀬は困ったように苦笑を漏らした。

会話の内容に呆れながらも、どこか楽しそうに会話を続ける彼等に千戸はどこか安心する。

大きく背伸びをして、それから真剣な表情で呟く。

「さ、まあ行けば分かるだろ。ババを引かなければ良いがな」


★☆☆☆


「やっぱり道のターミナルじゃん」

「違うって」

瀬川のボケに一ノ瀬は呆れたように、頭部に軽いチョップを食らわせた。彼はわざとらしく「いてっ」とダメージを負ったようにふらつく。


事実、そこは道の駅と言うには、かなり広大な場所だった。辺り一面草木が広がり、舗装されたレンガで出来た道の脇には巨大な樹木が並ぶ。

食堂や直売店などの施設も完備しており、広場の中心には子供達の為に作られたであろう遊具が配置されていた。

車が出たり入ったりする、と言う意味ではターミナルという言葉は適切だろう。恐らく、魔災以前はかなり賑わっていたであろう広大な土地を持つ道の駅がそこにはあった。

そして、彼等が特に関心を寄せたのは、魔災から十年の月日が経ったのにも関わらず、整備が行き届いていることだ。海の家集落近辺の自然公園は草木が伸びきっており、完全に放置されていたのを彼らは思い出した。

開けた視界と、開放的な空間に思わず瀬川は感動する。まさに解き放たれた野犬のように、一目散に広場に向けて駆け出した。

「うおおおおおお、すげええええ!!一杯走れるっっ!!!!」

「あーっ!!こらバカ!!まずは集落を管理してる人への挨拶が先でしょうが!?」

駆け出した瀬川。彼を前園は慌てて追いかけるが、彼と違ってそれほど体力の無い前園は直ぐにバテてしまった。

「まってぇ……セイレイ君、優先順位違うからぁ……」

そんな二人の様子を遠巻きに眺めがなら、一ノ瀬は呆れたように溜息を付いた。

「……挨拶は私と千戸先生でいこうか」

「ああ、そうだな。おーい、二人ともー!!挨拶は俺達で行ってくるー!!」

千戸は彼等に聞こえるように大声で呼び掛けると、瀬川は「はーい!」と元気いっぱいに返事した。前園も「お願いしますぅ……」と息も絶え絶えになりながら返事する。

二人の返事が返ってきたのを確認した大人二名。集落のリーダーがいると思われる建物を探す為、集落内を移動し始めた。


----


瀬川は走り飽きたのか、ベンチに腰掛けて広場を整備する人達を遠巻きに眺めていた。

「おっそ」

「遅いね……結構時間経ったよね?」

前園も賛同するように頷く。千戸と一ノ瀬が、集落の管理者に挨拶をすると言ってから、かなりの時間が経過している。具体的にどれほど時間が経ったのか、というのは分からないが、明らかに陽光は傾きを見せていた。

「よっと」

弾むようにベンチから飛び上がった瀬川。彼は凝り固まった身体を解すように、大きく背伸びと欠伸をした。そして本を読んで時間を潰している前園に語りかける。

「なあ、探しに行こうぜ?待つの疲れたよ」

彼の提案に前園はこくりと頷いた。本をリュックサックに戻し、彼女もゆっくりと腰を上げる。

「そうだね、多分管理事務所があると思うから、そこを目指して歩こう」

「先導は前園に任せるよ」

「セイレイ君に任せたら迷子になるもんね」

「ひどっ!?」

瀬川はぶつくさと不満そうに文句を垂れなながらも、前園に付いていくようにして大人達を探すため行動を開始した。


To Be Continued……

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