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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑪最後のダンジョン配信編
318/322

【第百五十五話】冒険の書を書き換える

【配信メンバー】

・全ての配信者

 秋城 紺の歌声が響く。

 その声に重なるのは、沢山の人々の声だ。


「……白、だと?そんなスパチャブースト……存在しないはず、だ……」

 瀬川 沙羅は呆然とした表情で後ろずさる。

 目を見開き、今起きている現実が信じられないといった様子だ。


 だが、現に異変は起きていた。

 背後に映し出された配信画面のUIが、大きく書き換わっていく。

 コメントフレームに囲われていたはずのコメントが、突如として空を泳ぎ出した。


「……ああ、お前らの言葉、いつだって届いているよ」

 右から左へと、白抜きの文字がいくつも巡る。


[うわっ][なんか変わった?]

  [懐かしいコメントの形] [すげー][来た]

[でたこれ]   [おおー]


 コメント欄、という枠組みに収まらない。

 俺達の配信に重なり、コメントが壁面を覆いつくす。


「……っ、知らない……!私が作り出した配信の形は、これじゃあないっ……!」

「視聴者を見下すようなことやめろよ。皆だって、ただの道具じゃねえんだぞ」

「うるさいっ、私はただ望む配信を……!」

 目の前の現実を拒むように、瀬川 沙羅は頭を抱えた。

 拒絶するように覆いつくす樹根が、やがて巨大なモンスターへと姿を変える。


 もう、イザナミと表現することは出来ない。

 そこに居るのは、ただ一体の巨人。魔物だ。


 巨大な体躯を持った異形の生物が、俺の前に立ちはだかった。

 もはや本来の姉貴としての意思を感じ取ることは、出来ない。

『私は、私は私は……!!こんなはずじゃあ……!!なんで、こうも上手くいかない!どうしてだ……』

「もうこんな世界、終わらせようぜ。皆の力を借りて、世界を書き換えるんだ」

 やがて、俺の全身を光の粒子が纏う。


 重なる歌声。

 次から次に流れるコメント。

 それらの全てが光の欠片となって、俺を勇者へと書き換える。

 

 集う光が、俺の衣服を白銀の鎧に変える。

 集う光が、俺の右手に再び龍の紋章を宿す。

 集う光が、俺の持つファルシオンに純白の光を灯す。


 全損していた仲間達の体力ゲージが、命の灯火を吹き返す。

 

[セイレイ:天明のシンパシー]


  [激熱]  [一 転 攻 勢]

[始まったな][ktkr]  [うおおおおおお]

[待ってた][本物の勇者になりやがった、神かよ]


 右から左に流れる白抜きのコメントが、沢山の想いを乗せる。

 それは配信を介して生み出される、ひとつの作品のようだ。


「行くぞ、姉貴!!」

『もうやめてくれ!何も感じたくない、考えたくないんだ!現実なんて、何も見たくないんだ!』

「んな訳にも行くかよ!!」

 白銀の鎧をまとった俺は、迷いなく異形の魔物と変えた瀬川 沙羅へと駈ける。

 もう、宣告(コール)は必要ない。


「……これは……っぅ……」

 体力の戻ったnoiseが、頭を抱えながら起き上がる。


「はは、すごいやセーちゃん。本当に、本当に……」

 クウリは呆然とした表情で、空に浮かぶコメントを見渡していた。


「っ、先輩。光が……私達にも」

 アランは、自身と仲間達の身体を交互に見やる。光の粒子は、仲間達にも伝播していた。


「私達の最後の見せ場ですっ。いきましょう!」

 雨天は強く頷き、右手に槍を顕現させた。


「セイレイ君だけに頑張らせる訳にはいかないからね。俺達だって!」

 ストーは強く拳を握り、瀬川 沙羅を睨む。


「見えるよ、私にも未来が……」

 道音は瞳に涙を潤ませながら、胸元で両手を組み合わせる。


「ははっ、これはボクのオリジナルにも予想できないよねっ。いいねいいね、もっと見せてよセイレイ君。キミにしかできない物語を!」

 ディルは心底楽しそうに笑う。それから、チャクラムを顕現させて巨人を見上げた。


「行こう……皆。これから未来を作っていこうっ!」

 ホズミは決意に滲んだ声で、そう叫んだ。

 

 これで、最後だから。

 微かに動かした口から、そんな言葉が聞こえた気がした。


『なんで私の言う通りにならないんだ!なんで、私の望む世界を作らせてくれないんだ!』

 巨大な体躯へと姿を書き換えた瀬川 沙羅は、いきり立った様子でその拳を振るう。

 すかさず飛び上がってそれを回避。大地を穿つ一撃が、激しく土煙を舞い上げた。

 俺は伸びた腕の上に着地し、迷うことなく駆け抜ける。

「姉貴は誰かの為に行動したことがあるかっ!!誰かにとっての最善は何かを考えて行動したことがあるかっ!!」

『黙れっ!怜輝に何が分かる!私は怜輝の為に……!!』

「独りよがりで世界を壊して何が俺の為だっ!!」

 巨大な腕の上から、更に俺は高く跳躍する。

 それから、視聴者に向けて大声で叫んだ。

 

「おい、配信を観てるお前ら!武器をコメントしてくれ!」

 俺の期待に応えるように、次から次にコメントが流れていく。


[出でよ剣!]  [斧] [槍]

[じゃあ釜] [←おい誤字ってんぞ]

[弓]  [剣]


 無数のコメントが、俺の想いに応える。

 白抜きのコメントは壁面から飛び出し、やがて形を文字通りの形状へと変えた。

『っ、ぐ……なんだこれは……!』

 ありとあらゆる武器の数々が、弾幕の如く巨人に突き刺さる。

 そして、俺達の仲間も負けてはいない。


「目を逸らすな、瀬川 沙羅!これが、皆で力を合わせるという事だっ!」

 空高くジェットエンジンを駆使して飛翔したストーは、迷いなく”千紫万紅”を放つ。

 赤熱した、いくつも重なる熱光線が次から次に巨人の肉体に着弾。激しく土煙を巻き上げ、巨人は大きく身体を捩らせる。

『っ、ぐ……こんなシステム、実装してない……!実装してないんだっ!!』

「瀬川 沙羅さんはセイレイ君を完全に理解できてなかったようだね。彼はいつだって俺達の想像を上回ってくるさ」

 苛立った様子で、次に彼女は樹根の形を変えて、無数の槍を出現させる。

『降り注げっ!!お前達を再び死に追いやろう!!』


「させるもんかっ!沙羅姉の好きなようには、させないっ!!」

 だが、不可視の斬撃がそれを防ぐ。

 

 クウリの”瞬貫通”だ。

 

 空中で木屑となった樹根の先に、クウリは穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

『青菜 空莉……っ!!』

 瀬川 沙羅は忌々しげな声を零す。

「ね、皆で何か一つの作品を生み出すって素敵でしょ?」

『っ、認めない……認めない……!』

「強情だなー……」

 クウリは苦笑を漏らした。

 次に彼はnoiseへと視線を向けた。

「はいっ、有紀姉。頼んだよ」


 パスを受取ったnoiseは、道音にも視線を向けた。

「みーちゃん、行くよっ」

「任せて!」

 二人は同時に、巨人へと駆け抜ける。

 背負うのは、全ての視聴者と合唱を繰り広げる秋城 紺の姿だ。


 駆け抜ける中、道音は叫ぶ。

「紺ちゃんが光を、私は影を背負ってきた!」

 次に、noiseも同様に己の決意を語る。

「そして、私は光と影の両方を背負って、生きてきたっ!これは、そんな私達の」

「そう、私達の……!」

 noiseは刀身の伸びた光の刃を、道音は湾曲刀を構える。

 狙うは、巨人の足元。

「「共に刻んできた物語だっっっっ!!!!」」

『っっっっ!?!?!?』

 バランスを崩した巨人。その中で、瀬川 沙羅は動転した声を漏らす。


『私の何が理解できると言うんだ!私は、今まで1人で……!』

「理解できますよ。私だって、1人で閉じこもっていたんですから」

 バランスを崩した巨人は、まるで子供が駄々をこねるように地面を叩く。

 そんな中、雨天は穏やかな表情を浮かべながら近づいた。

『雨天 水萌っ、縁を持たないお前に、何が理解できるとっ!』

 いきり立った瀬川 沙羅の意図に応えるように、樹根の鞭が彼女に襲い掛かる。

 

 だが、雨天は逃げなかった。

「縁を持たなかったから、ですよ。誰かが差し伸べる手を受け入れるって怖いですよね。変わるのって怖いんです。当たり前です」

 雨天は左手を高く振り上げる。

 それと同時に、クラーケンの触手が彼女の盾となるように伸びていく。

「ねっ、同じですよね。私が居ますよ、だから目を逸らさないでください」

『っ、私は……』

 温かい雨天の言葉に、心が揺らぐのが見える。

「私だって、勇者パーティの1人になれたんですか、らっ!!」

 クラーケンの触手が、樹根の鞭を防ぐ中彼女は駆け出した。

 背後に伸ばす蝙蝠の翼を持って高く飛翔し、雨天は巨人の頭上目掛けて槍を構える。

「寄り添ってくれる人はいますっ、敵じゃない人だっているんです!そんな手を伸ばしてくれる人を、拒絶しちゃダメなんです!!」

『そんな、こと言われても……っ!』

 雨天の強襲を防ぐことが出来ず、巨人の額に深々と槍が突き刺さる。


 そんな雨天と並ぶ形で、ディルは漆黒の翼をはためかせて空を舞っていた。

「やあ、理解者と言う点ではボクが一番かな?」

『ディル、お前はどうして……』

「どうしてボクは希望を描く側でいるのか、かい?当たり前さ、皆が希望を描く側に居るから。それだけだよ」

『希望を……』

「皆がやる気もなく、その日暮らしをしているだけならボクはこうもならなかったよ。けど、皆が前を向いているんだ、ボクだけ置いてけぼりは嫌じゃん?」

『……詭弁だ』

「詭弁は誰のせいか、なっ!あははっ」

 ディルはけたけたと笑いながら、チャクラムを投擲する。

 巨人の胴体に浅い傷をつけたチャクラムは、すぐさま光の粒子となり消失する。

 次にディルは、先ほど付けた浅い傷目掛けて右手で銃の形を作った。

「ほら、希望はすぐそこだよ」

 ”堕天の光”を放つ。

 収束する漆黒の熱光線は、稲妻を迸らせながら瞬く間に胴体を貫く。

『っ、あああああ……ありえない、ありえないんだ……!!こんな、配信なんて……!!』


「あはっ、本当にすごいや。先輩」

 アランは一人、コメントを眺めて楽しそうに笑っていた。

 彼女は戦闘に参加することなく、秋城の隣でくるくると楽しそうに踊る。

「せっかく歌配信も同時にするんだ!盛り上げなきゃねっ、おー!」

 高く右手を突き上げると、その彼女の動きに連なり紙吹雪が舞い上がった。

「……あははっ」

 秋城はそんな彼女の振る舞いに、どこか楽しげな笑みを零す。


「……不可能を可能にしてきたのは、いつもセイレイ君だよ」

 最後にホズミは倒れ込んだ巨人へと歩み寄る。

 右手に持つ赤色の杖を、ファルシオンへと書き換えて。

『……前園 穂澄……』

「皆で前を向くことを諦めなかったセイレイ君だから出来たことなの。誰一人として置いて行きたくない、そんな強さを持ってた。だから、私達もついて行こうって思えたんだ」

 彼女は、俺の真似をするようにファルシオンの切っ先を巨人へと向ける。

「……穂澄」

「うん、終わらせよう」

 俺と穂澄は、共に低い姿勢を取る。


 俺は全身に青白い稲妻を纏い。

 ホズミは全身に燃え滾る炎を纏う。


「ぜあああああああああああっっっ!!!!」

「たあああああああああああっっっ!!!!」


 雷と炎が、世界を激しく照らす。

 そうだ、夜は明けるんだ。


 俺と穂澄は、共にファルシオンの切っ先を重ねた。

 より一層強く照らす光が、世界を包み込む。


 [いけえええええええ][キタコレ]

[明るい] [未来を!] [すげえ]

  [勝ったな風呂入ってくる][きたあああああ]

 [おおおおお]

 


 

 最初は、何も知らない真っ白なキャンパスから始まった。

 何の力も持たない、無力な存在でしかなかったんだ。


 だけど、世界に希望を見て。

 もしかしたら世界を変えられるかもしれないって思って、力を求めて。

 混じって。

 混じって。

 たまにはぶつかって、上手くいかないこともあって。

 それでも、光はずっと俺達を導いてくれた。


 沢山の言葉の色が、光となって混ざり合った。

 そんな光が導く色も、同じく白だ。


 

 

 だからこそ。

 こういうのだろう。


「世界を、書き換えるっっっっ!!!!」

『……世界を、書き換えるんだ……私は、私は……っ……!!』



 馬鹿と。

 天才は。


 ——紙一重、なのだと。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

白:天明のシンパシー

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:瞬貫通

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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