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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑪最後のダンジョン配信編
315/322

【第百五十二話(2)】皆の為に(後編)

【配信メンバー】

・全ての配信者

 駆け抜ける。

 トレントを囲い込むように、俺達は示し合わせたように散開する。

「赤色の核を探せっ!弱点はそこだっ!」

「任せてよっ、スパチャブースト”緑”っ!」

[ディル:闇の衣]

 ディルは自らが囮となるようにトレントの正面に立ち、宣告(コール)する。

 同時に覆うは漆黒のマント。ダメージを一度だけ無効化するスキルだ。

 宵闇の如く翻弄するディルは、チャクラムを投擲してトレントの木を引く。

「あはっ、こっちだよ!皆の動きに気を取られている余裕があるのかい!?」

「ギィィッ!」

 苛立った声を漏らしながら、トレントは大きく身体を左右に揺らす。

 それを攻撃の予備動作と取り、素早くディルはバックステップ。

 紙一重。

 垂直にせり上がった樹根の一撃が、先ほどまでディルが居た空間を貫いた。

「あっぶないなあ?……っわっ!?」

 追い打ちをかけるように振り下ろされる枝葉のハンマーが、ディル目掛けて振り下ろされた。

 回避の体勢を取ることが出来ず、想定外の一撃を食らう。

 漆黒のマントをはためかせながら、ディルは大きく吹き飛んだ。

「ディル先輩っ!?」

 アランの悲鳴が響く。

 だが空中で体勢を立て直したディルは、すたりと着地。

 大気中に漆黒のマントを散らした彼は引きつった笑みを浮かべながら、手をひらひらとさせる。

「へーきへーき、ちょっとびっくりしただ、けっ!」

 すかさず振り下ろされた枝葉目掛けてチャクラムを投擲。

 

 ぱきり。

 小気味いい音を奏でながら折れる枝。

「ギィッ!?」

 苦悶の声を上げながら、トレントは大きく身体を仰け反らせる。ディルは仰け反った身体の隙間から覗く幹を見上げてニヤリと笑った。

「さて、弱点発見っ♪アランちゃん、頼むよ」

 仰け反った幹の狭間から、覗かせる赤色の宝玉。

 かつて戦った時と同様の弱点が、そこにはあった。


「……ここで使うには勿体ない気もしますけど!スパチャブースト”赤”っ!」

[アラン:悟りの書]

 アランはどこか躊躇(ためら)いの言葉を零しながらも宣告(コール)を放つ。

 顕現するのは一冊のキャンパスノート。

 そのノートを手に取り、アランはスキルを選択する。


「力を貸してっ、パパ!迎撃モード、移行!」

 甲高く叫ぶと同時に、彼女の右手が漆黒のレンガに覆われていく。やがて皮膚をずしりと覆いつくしたレンガの砲口をトレントに向ける。

「高エネルギー放射準備っ!!いけええええっ!!」

 アランを中心として、衝撃波が迸る。大気を抉らんと放つ紫色の、濃縮された熱光線が瞬く間にトレントの核を貫く。

 高出力のエネルギーが、トレントの核を抉る。ひび割れた宝玉の欠片が、大気に舞い落ちる。


 ……そして、トレントの枝葉の中から、零れる種子。


「駄目だ、まだ終わってないよっ!」

 その種子に嫌な予感を感じ取った道音は、真紅のコートをなびかせて迅速に駆け出した。

 種子目掛けてワイヤーフックを放ち、素早くそれを手元に手繰り寄せる。 

「数を減らさないと!またトレントが生み出されるっ!!」

 素早く湾曲刀の一撃でそれを破壊。零れ落ちた種子の欠片が、ホログラムとなって世界から消えた。

「わかった!」

 道音の判断に従い、ホズミは赤色の杖先を零れ落ちた種子へ向ける。

「放てっ!」

[ホズミ:炎弾]

 流れるシステムメッセージと共に、ホズミの杖先から鋭い矢の如き炎弾が放たれる。

 爆ぜる爆風が、散らばる種子を飲み込む。

 だが、それでも全てを破壊しきるには至らない。


「っ、ターゲットが小さいなっ!やりづらいなあ!?」

 noiseは”ふくろ”からダガーを取り出し、次から次に投擲。的確に穿つその連撃に伴い、堅実に数を減らす。


「まとめて、どーん!です!スパチャブースト”黄”!」

[雨天:水纏]

 雨天は自らの周囲に水流を纏う。放つその奔流が、瞬く間に種子を飲み込む。

 一点に集中する種子の数々目掛けて、クウリは駆け出した。

 

「ありがとう水萌ちゃん!スパチャブースト”黄”っ!!」

[クウリ:風纏]

 クウリも雨天を見習ってか、自らを風の化身へと姿を変えた。

 全身に纏う暴風の奔流を、両手に構えた大鎌に集中させる。

「とりゃああああっ!」

 どこか気の抜けた掛け声とともに、クウリは大鎌を振るう。はじけ飛ぶ種子が、壁に叩きつけられ激しく爆ぜる。

 

 だが、それでも全てを破壊するには至らない。

「っ、くそっ!まだ終わんねえのかよ!」

 俺も散らかった種子を叩き潰してはいるが、焼け石に水だ。

「掃射しますっ!炎弾っ!」

 アランはスキルを切り替え、ホズミと協力して炎弾を放つ。


 しかし、それでも——。

「……時間切れ、だな」

 瀬川 沙羅はわざとらしくため息を吐く。

 残った種子が、芽を出す。伸びたそれは、瞬く間に急成長する。


 ——俺達の体躯をゆうに超える、巨大なトレントへと変貌した。


「さて、残った数は12体か。頑張っておくれよ」

「うそだろっ!?」

 12体。

 その言葉を聞いて、思わず絶望を感じずにはいられない。

 たった1体でも巨大な体躯を持ち、俺達の戦力を大幅に奪った魔物なのに。

 

 やがて、そのトレントの数々は俺達を囲うように散開し始める。

「……はは。どうやって戦うんですか。これ」

 雨天は引きつった笑みを浮かべ、尻込みする。

「乗り越えないと全部が終わるもん、絶対に負けないっ!切り替えるよ、光線銃!!」

 アランはくじけることなく、次に悟りの書を用いてスキルを変更。

 その右手にポップなデザインを象った光線銃が顕現する。

 次に照準をトレントの恐らく弱点があるであろう場所へと向けた。

 

「ああ、俺達は負けないっ。力を合わせて各個撃破を狙うんだ!」

 仲間を奮い立たせるように、俺はそう宣言する。

 数こそ多いが、一体ずつ撃退すれば対処可能なはずだ。


 そう思っていた、俺が甘かった。

「力を合わせる、か。参考にさせてもらうよ」

 瀬川 沙羅は指を鳴らす。

 次の瞬間、俺達を囲うトレント達の身体が大きく左右に揺れる。桜の花弁を辺り一帯に散らしながら、攻撃の予備動作を始めた。

 全ての魔物が、寸分違わず同じ動作をする異様な光景に滲むのは……恐怖だ。

「……っ!?」

 それは、先ほど俺達を襲った花弁の弾丸を放つ予備動作。

 ホズミの”障壁展開”でさえ防ぎきれなかったその猛攻を、12体全てから放とうとしているのだ。


「っ、スパチャブースト”緑”!」

[ホズミ:障壁展開]

 ホズミは咄嗟にスキルを宣告(コール)。俺達を薄緑色の障壁が覆う。

 それで完全に防御できるわけでないと知りながらも、放たない訳にはいかないと思ったのだろう。

「もう、出し惜しみしている余裕はありませんね!スパチャブースト”赤”っ!」

[雨天:クラーケンの触手]

 雨天も一度しか使うことの出来ないスパチャブースト”赤”を発動させる。

 俺達の前に立ちはだかるように、巨大なクラーケンの触手が地面から伸びていく。

「守って!クラーケンっ!」

 やがてそれの無数の触手は、俺達の壁となるようにぐるりと囲い始めた。

 二つの壁に囲われた俺達は、ただ身を守るしかできない。

 

「準備はいいかい?じゃあ、始め」

 瀬川 沙羅がそう宣言すると同時に、無数の弾丸が射出される。

 大気を貫く轟音が、俺達に襲い掛かった。

「っ……!」

 歌を奏で続ける秋城が息を呑むのが伝わる。ただ、それでも歌を止めようとはしなかった。

 俺達を守るクラーケンの触手から、悲鳴に軋むような音が聞こえる。

「ごめんなさいっ……もう少しだけ、耐えてっ!」

 雨天はクラーケンを労わるように言葉を掛けながら、懸命に両手を組んで祈る。

「っ、なんて馬鹿げた威力なの……!」

 衝撃を完全に抑えきれていないのだろうか。

 徐々にホズミが展開した障壁に、亀裂が迸る。


「……もう、迷うわけには行かないんだっ」

 その中で、ストーは決意の言葉を零していた。


 やがて、花弁の弾丸は収束する。

 障壁は大きな亀裂を描きながらも、辛うじて俺達を守り抜いた。

 クラーケンの触手は無数の弾丸に貫かれて痕跡すら残っていない。

「……ごめんね」

 雨天はそんな触手を優しく撫でる。

 その言葉をきっかけに、完全に力尽きたのかクラーケンの触手は光と消えた。


 だが、攻撃を防ぎ切っただけだ。

 まだトレントが消えたわけではない。

「さて、次弾装填と行こうか?」

 しかしそんな俺達をあざ笑うように、瀬川 沙羅はそう告げた。

 同時に再び、俺達を覆うトレントの動きが大きく左右に揺れる。

「はっ!?」

「一度しかできないとは言っていないだろう?」

 小ばかにしたような言葉と共に、桜の花弁が再び激しく舞い上がる。

「……ごめんなさい、もうクラーケンは出せません……っ」

 雨天は申し訳なさそうに、歯を食いしばる。

「いや、いい。お前はよくやった」

「……でも」

 雨天にねぎらいの言葉を掛けるが、俺達の窮地は脱出したわけではない。


「もう、一体ずつ倒すしかない、よねっ!」

 アランは覚悟を決めたように、光線銃をトレント目掛けて放つ。

 しかし弱点が露出していないこともあり、放つ熱光線はトレントの樹皮を剥がすのみで終わった。

「っ……他に打開できるスキルは……無いのっ!?」

 打開が困難と判断し、アランは苦悩の声を漏らす。

 俺もこれまでの配信の中から打開のヒントを探っているが——


 ——俺達のスキルの中に、トレントの花弁の弾丸を対処できるスキルは、存在しない。


「……っ」

 認めたくない。

 万事休すだと。


「さて、これで終わりか。楽しかったよ、勇者諸君。この配信が終わったら、視聴者全員を洗脳させてもらうよ」

 絶望の一言だ。

 こんな幕の閉じ方なんて、あってはならない。

「お前の身勝手で、全人類を良いようにするなんて、あってたまるものか……!」

「口だけは達者だね。だがよく言うだろう?力なき正義に意味などないと。せめてこの状況を乗り越えてから言ってもらおうか」

「……っ!」

「全人類が同じ方を向く、という点では洗脳も同じだと思うがね。これで世界はハッピーエンドさ」

 瀬川 沙羅はそう告げた後、指を鳴らした。

 花弁の弾丸が、襲い掛かる予兆だ。


 ——そんな時。

「まだ、終わってないっ!スパチャブースト”赤”っ!!」

 俺達の前に出たストーは、そう宣言する。

「……ストー?」

 noiseは思わず困惑の声を漏らした。


[ストー:千紫万紅]


 流れるシステムメッセージと共に、ストーの背後に無数の砲口が伸びる。

 それらは全ての方向を指し示すように向けられた。

「ストー兄ちゃん、でも。そのスキルは……」

 攻撃対象に命中することのない、見せかけの弾丸ではないのか。

 俺はそう声を掛けようとした。だが、言えなかった。


「俺は誓ってなかっただけだよ。本心を見失って、何が正しいのか分からなかっただけさ。スパチャブースト”赤”に繋がる鍵も持たず、ただ与えられた力を振るってきたに過ぎなかったからね」

 ストーが、誓いの言葉を発していたから。

 漆黒に覆われた砲口が、強い光を放ち始める。

 秋城が描く純白の光に負けないほどの、真紅の光がストーを覆う。

「皆が俺を導いてくれたから、見失いたくないものが見えた。この力は、皆の為に使う!皆が未来を導けるように、手に入れた力なんだっ!!」

 ストーの右手に握られた、運営権限を持ったスマートフォン。

 初めて彼は、誓いを持ってスキルを放つ。


「これが、俺の持つ力だああああああっ!!!!」

 ストーの背後から伸びた砲口から、無数の熱光線が放たれた。

 もうそれは、見せかけのものではない。


「ギィッ!?「ギアッ」「ギィッ?!」」「ギッ!「ギィィィィッ」」

 トレント達の無数の悲鳴が響く。

 ストーが放った熱光線は、的確にトレント達の赤色の宝玉を貫いていた。

 ひび割れた宝玉の欠片が、次から次に大地に転がり落ちる。


「……なっ、馬鹿な。こんなの、想定外だ……!」

 瀬川 沙羅は動揺の声を漏らす。

 土煙を舞い上げながら、辺り一帯を真紅の熱光線で染め上げるストー。それでも、ストーは決意の言葉を絶やさなかった。

「もう迷うわけには行かないんだ!皆が未来を描いているのに、俺だけ自分の殻に閉じこもって迷ってばかりいる訳にはいかないんだ!!」

「……ストー、兄ちゃん……」

 今まで、俺達の中までありながらも十分な力を発揮できなかった武闘家ストー。

 彼は初めて、スキルを駆使して俺達の窮地を救った。


 大地に散らばる無数の宝玉の欠片。

 俺達を襲い掛かった脅威は、ついに晴れ上がった。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:瞬貫通

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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