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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑪最後のダンジョン配信編
314/322

【第百五十二話(1)】皆の為に(前編)

【配信メンバー】

・全ての配信者

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 流れるシステムメッセージが、俺に力を与える。

 限界を超えろと言わんばかりの力が、淡く、青い光となって迸る。

「——弾けろっ!」

 大地を蹴り上げ、高く跳躍。

 樹根に囲まれた瀬川 沙羅の頭上目掛けて、ファルシオンを振り下ろす。

 だが、瀬川 沙羅はにやりと笑い、俺と視線を交える。

「直情馬鹿は相も変わらずだね」

「知った事かっ!!」

 横に薙ぐ腕。

 瀬川 沙羅の動きに連なって、球状に固められた樹根が鞭の如くしなやかに、俺を側面から打ち付ける。

「——ぐっ!?」

 咄嗟にファルシオンで防御態勢を取るが、激しいインパクトを伴ったその攻撃は骨の髄まで響く。

「セイレイ君っ!」

 ホズミの悲鳴が聞こえたのも束の間、俺は舞い上がる土煙と共に地面に叩きつけられた。

 口の中に血の味が滲む。視界がかすむ。

 激痛が侵食する右腕を抑え、ゆっくりと立ち上がった。

 ちらりと配信画面に視線を送れば、体力ゲージは5割ほど削られていた。

「どうだい?ご挨拶としては上等だと思うのだが」

「随分と余裕じゃねえか……っ」

 瀬川 沙羅は余裕の笑みを崩さない。

 だが、そんな彼女目掛けてホズミは迷うことなく叫ぶ。

「これなら、ダメージ無しはあり得ないでしょ!」

 片手ずつに顕現させた、赤色と青色の杖。その両方の杖を重ね合わせると同時に、ホズミを取り囲むように光の奔流が舞い上がる。

 やがて、2本の杖は巨大な弓矢に姿を変えていた。

[ホズミ:極大消滅魔法]

「……いけええええええっ!!」

 流れるシステムメッセージと同時に、ホズミは叫ぶ。

 張り裂けんばかりの轟音と共に、七色の矢が大気を切り裂きながら瀬川 沙羅に襲い掛かる。

 だが、それでも彼女は飄々とした表情を崩さない。


「ここがダンジョンという事を忘れていないかい?」

 そう呟くと同時に、彼女の盾となる為にホログラムとして構築されるホブゴブリン。

 巨大な体躯を持って、その極大消滅魔法を受け止める。

「……なっ……!?」

 ただ彼女自身の防御の為だけに。

 生み出した魔物は、ホズミの魔法に衝突した後七色の光に飲み込まれる。そして、瞬く間にホブゴブリンは世界から消えた。

「随分と豪華な魔物の使い方だな……?」

「まあ、私の特権だね。さて、魅せてくれよ。お前達のダンジョン配信を」

 瀬川 沙羅は再び、右手を横に振るう。

 次の瞬間、四方八方に伸びた樹根から芽吹く種。

 あらゆる場所から落ちる種が地面に転がる。転がった種は、やがてそのシルエットの形を変えていく。


 それはゴブリンだった。

 それはスケルトンだった。

 それはインプだった。

 それはオーガだった。

 それは……。


 多種多様な魔物の群れが、俺達を囲う。

「——っ!?」

「さあ、紡いだ絆は私、ただ一人を上回ることが出来るのか……見ものだな」

「くそっ!」

 悪態を吐いたところでどうにかなる問題ではない。

 四方八方から襲い掛かる魔物を対処しなければ、俺達に勝ち目はないのだ。

「アラン!秋城!お前らは中央に移動しろ!」

 武器を持たない二人に俺は素早く指示を出す。

 アランは自らの役割を理解していたのか、早々に中央に避難。

「秋城先輩もこっちへ!サポートを頼みますっ!」

「う、うん!じゃあ、行くね。”戦いの歌”っ」

[秋狐:戦いの歌]

 アランに手を引かれ、中央へと避難した秋城。彼女は素早く息を整え、吟遊詩人としての役割に専念する。

 それと同時に、俺達の全身を純白の光が覆いつくす。


 澄み渡る音色が、配信を介して響き渡る。

 どこまでも遠く、全ての人々に伝わるように。

 

「相変わらず美しい声だ。惚れ惚れするよ」

 余裕を崩そうともしない瀬川 沙羅は、不敵に微笑む。

 何か彼女に物申したい気分だったが、今はその余裕が無い。


「乗り越えるぞっ!俺達の連携を見せる時だっ!」

 まず、俺が真っ先に魔物の群れへと駆け抜ける。

「スパチャブースト”黄”っ!!」

[セイレイ:雷纏]

 次の瞬間、俺の全身を青白い稲妻が迸る。稲妻を纏った肉体は、より一層俺の姿を加速させる。

 全身のシナプスをより迅速につなぐ稲妻が、より大きな力を与える。

「ぜああああああっ!」

 振るう刃を介して、ゴブリンが苦悶の声を上げる。

 高く跳躍し、振り下ろす斬撃が衝撃波を生み、目の前の魔物の群れを吹き飛ばす。

「ギッ……!」

「——っ!」

 しかし、いつの間にか俺の背後を取っていたゴブリンが弓を構えていた。

 次の瞬間、放たれる鋭い矢が。


「セイレイ君に傷をつけさせる訳が無いだろっ!」

 ストーが両腕を突き出し、その腕に纏うガントレットで弾く。

 それから、自身も俺の前に躍り出て、弓を持ったゴブリンの首根っこを掴む。

「はあああああっ!!」

 威勢のいい声を上げながら、ストーはゴブリンを魔物の群れ目掛けて放り投げた。

 まるでボウリングの如く、魔物の群れがなぎ倒される。

「俺が皆を守るんだ!スパチャブースト”青”っ!!」

[ストー:Core Jet]

 ストーの背中から、扁平状のジェットエンジンが伸びる。

 甲高い唸り声を上げると同時に、ストーの姿が亜音速の如く視界から消えた。

 次の瞬間目にもとまらぬ速さで、襲い掛かる魔物の数々を打ち付けるストーが視界に再び戻る。

「もう、二度と同じ過ちなんて……するものかっ!」

 荒ぶる感情に身を任せ、ストーは次から次に襲い掛かる魔物を薙ぎ払う。

 

 だが、周りが見えていない。

 眼前の魔物に気を取られ、背後から襲い掛かるホブゴブリンが棍棒を振り上げているのに気付かない。

「スパチャブースト”青”」

[noise:影移動]

 そんな彼の背後から、影を伸ばして姿を現したのはnoiseだった。

 ぬるりと影を纏って地面から這い出たnoiseに、ぎょっとした表情を浮かべるストー。

「うおっ、急に出るなよ」

「スパチャブースト”緑”!」

[noise:金色の盾]

 ストーのリアクションも気にせず、noiseは淡々と叫ぶ。

 それから、ホブゴブリンの一撃を金色の盾を駆使して容易く受け止めて見せる。

 スキルの発動条件を満たした金色の盾は、やがて光纏う蔓を放出。

「グガァッ!?」

「ほら、ストー。背後も気を付けてよ」

「……助かったよ!」

 呆れたような苦笑を漏らすnoiseに対し、ストーはむくれたような表情を浮かべた。

「……くらえっ!」

 そして拘束されたホブゴブリンの胴元目掛け、ジェットエンジンの勢いそのままに拳を打ち付ける。

 弾丸の如く放たれた一撃に伴い、ホブゴブリンの全身が灰燼と消える。

 

 noiseはストーの背後を取りながら、挑発じみた言葉を浴びせる。

「ね、目先の敵しか見えないお馬鹿さんの背後はちゃんと見てあげるから。次行くよ」

「戦闘以外取り柄のない馬鹿に言われたくないな、っ!」

「お前、言ったな!?後で覚えてろよっ!?」

 憎まれ口を叩き合いながら、二人は互いに背を取って魔物を迎撃する。

 戦闘技術に長けた二人が放つ軌跡に伴って、その周辺の空間に灰燼が巻き起こる。


 だが、他の皆も負けてはいない。

「——迎撃態勢に、移行」

 遠くから秋城達目掛けて、ガードマンはその巨大な右腕を振り下ろすのが見える。

「っ……!」

 アランはじっと次に襲い掛かる攻撃に対し、咄嗟に身構えた。

 だが、避けようとはしなかった。


 ——仲間達を信じていたから。

「スパチャブースト”青”っ!」

 ガードマンの叩きつける一撃に伴い、弾ける衝撃波。それは大地を抉り、アラン達に襲い掛かる。

 だが、その衝撃波は、アラン達に衝突する前に空中で停滞。

[クウリ:浮遊]

 流れるシステムメッセージと、アラン達の前に立つクウリ。

 クウリは左手を正面に突き出し、衝撃波の一撃を防いで見せた。

「僕の力は、皆を守るためにあるんだっ!」

 左手を振り下ろすと同時に、衝撃波は瓦礫へと姿を戻す。それらは地面に叩きつけられ、小気味良い音を鳴らした。

 転がる瓦礫をよそ目に、クウリは低い姿勢から駆け出す。

「ふ、っ、とべえええええっ!!スパチャブースト”緑”っ!!」

 魔物が密集しているところに迷うことなく躍り出たクウリは、宣告(コール)すると同時に左手を地面に叩きつける。

[クウリ:衝風]

 流れるシステムメッセージと同時に、彼を中心として荒れ狂う突風が巻き起こる。


「ガウッ!?」

「グギャッ」

「ッギィ……!!」

 それらは、魔物の群れを次から次に吹き飛ばす。

 苦悶の声を漏らしながら、散り散りに魔物の群れは飛び散った。


 体勢を崩した魔物の数々。

 それを逃すほど、俺達は甘くない。

「飲み込めっ、スパチャブースト”黄”!」

[雨天:水纏]

 攻撃の隙を逃すまいと雨天は叫ぶ。同時に、彼女の全身を水流が纏い始めた。

「だりゃあああああっ!」

 雨天が操作する力に伴い、瞬く間に魔物の数々は水流に飲まれる。

 激しく打ち付ける水流と共に、それはやがて灰燼に姿を変えていく。

「終わらせるん、ですっ!」

 雨天が放つ広範囲の攻撃に飲まれた魔物達は、やがてその姿を世界から消した。


 その中で、アランはただ見ているだけではない。

「勇者、3秒後右回避!僧侶、5秒後ジャンプして!武闘家、今だっ!ガードマンの右脇腹!魔物使い、オーガになって地面を叩く!」

 優れた感性を用いて、俺達に的確に指示を送る。

 

 かつて、魔物の視線を掻い潜るという芸当を見せた彼女にしかできない行動だった。

 戦況を俯瞰的に把握し、戦況を操作していく。


 瀬川 沙羅が生み出した魔物の数々も、徐々に数を減らしつつあった。

「……ほう、やるではないか。ならば、これはどうだい?」

 しかし彼女は、感嘆とした声を漏らしつつも表情を崩さない。

 そのまま、右手で指を鳴らす。

 指鳴らしの音に応えるように、彼女の盾となるように巨大な桜の樹が伸びていく。


 いや、樹木に見えただけの、魔物だった。

 商店街ダンジョンで、俺達の敵として現れたトレント。そのかつての敵が、再び俺達と相まみえる。

「……また、お出ましかよ」

 思わず悪態を吐かずにはいられない。

「ギィィィッ」

 巨大なトレントは、その幹を激しく揺らしながら俺達を威嚇する。

 全身に咲き誇る桜の花弁を撒き散らすその行動。


 俺は、その動作に嫌な予感を覚えた。

「——っ!まずい、皆!!集まれっ!!」

 瞬時にその行動の意味を察知し、俺は仲間達を中央へと集める。

「ギィィィィィィ!!!!」

 大地を抉り、激しく巻き上がる土煙。

 地面に迸るモニターを蝕み、ひび割れたガラスへと姿を変えながらも襲い掛かった。

「っ、スパチャブースト”緑”っ!!」

 ホズミは咄嗟に両手を前に突き出し、素早く宣告(コール)する。

[ホズミ:障壁展開]

 その表記と共に生み出される、薄緑色の障壁。


 紙一重だ。

 鋭く唸りを上げ、弾丸となった桜の花弁が一斉に襲い掛かる。

「きゃっ……!」

 ホズミはあまりの勢いに顔を背けた。だが、体制は崩さない。


 障壁を穿たんと留まることなく襲い掛かる花弁の弾丸。

「……前より、強化されてる……っ!」

 以前戦った時よりも威力の強まったそれにより、障壁に亀裂が迸り始めた。

 

「……させないっ。スパチャブースト”青”!」

 ホズミの隣から伸びる人差し指。

 そこから、漆黒の鎖が鋭く唸りを上げながら、トレント目掛けて襲い掛かる。

[ディル:呪縛]

「ギィィッ!?」

 まさか全身を縛られるとは思っていなかったのだろう。

 瞬く間に全身を漆黒の鎖で縛られたトレントは、苦悶の声を上げる。

「さ、見せつけるよ。ボク達の配信をね」

 ディルはトレントを見やりながら、確固たる表情で語った。


 その言葉と同時に、ホズミの展開した障壁が消失。薄緑の障壁に覆われた俺達の姿が顕となる。


 皆の力があって、初めて乗り越えられる未来。


 魔物なんかに、負けるわけには行かない。

「行くぞ!姉貴、見てろっ。これがLive配信だっ!!」


To Be Continued……

7月7日完結です。

最終話まで既に執筆は終わってます。

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:瞬貫通

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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