【第十章】終幕
[SympassのUIももう見納めか]
[お前らと話せなくなると思うと寂しいよ]
[でも魔災が無くなるのとネット、どっちを取るかって言ったら……]
[まー魔災だわな。さすがに]
[知ってた]
[さすがにロクに生活も出来んのにネットがあってもね]
[それはそう]
[でもちょっと寂しい]
[ウジウジすんなよw]
[は?]
[お、やんのか?]
[喧嘩すんなアホ]
[揉めんな!!]
[まあどっかで会えるだろ。魔物が居なくなったらようやく復興も始められるってもんだ]
[あー……まあ、それもそうか]
[……ホログラムの消失かー。ほぼセイレイ達の配信でしか見なかったな]
[そりゃあんだけのこと出来る人が居ないからな。まあほぼ出来レースだったが]
[運営のお墨付きは強い]
[お墨付き?うーん、そうかな?そうかも……]
[Last配信、ねえ。終わりにはうってつけな名前だけど]
[長かったな―。また平和になったらさ、俺達でネット開通させようぜ]
[↑いいね]
[↑賛成]
[わりと殺伐とした配信多かったからな。秋狐が癒し枠過ぎた]
[あれはレベチというかなんというか]
[存在自体がホログラムの人を引き合いに出されても]
[草]
[それは確かにな]
[でもさ、最後くらい俺達も力になれねーかな]
[スパチャ送れるじゃん]
[や、まあそれはそうなんだけど。なんというか……俺達ってさ、セイレイ達の戦いに貢献できてるのかなって思う訳よ]
[だからスパチャ……]
[分からなくもないけど。要はセイレイ達と共に闘いたいってことだろ?]
[それが出来るのがコメントじゃん]
[まあね。でも瀬川 沙羅って運営だろ?あいつのやり方次第では俺達完全に無力になるなって……]
[さすがに反則仕掛けてきたら切れていい]
[その前に俺達の命が切れるよ。そらプッツンよ]
[縁起でもないこと言うのヤメレ]
[まあ全部憶測にすぎないけどな]
[俺達はどう足掻いてもセイレイ達に託すしかねーよ。マジで頼むぞ]
[だよな。追憶のホログラムも見納めか]
[過去に縋る時間は終わり、次は未来を描けってことだろ]
[詩的だな。未来かー]
[正直今だから言うけど、俺さ。セイレイの配信の真似して誓いとかやってました]
[うわっ(俺もやった)]
[まじか(俺も俺も)]
[世界を救うヒーローになると誓うー!とかやって集落の皆ドン引きさせた話でもする?]
[酒の肴になりそうな話だな]
[ひでえや]
[なんならスパチャブースト青、とか言ってジャンプもしたぞ]
[お前何歳よ]
[↑35歳]
[草]
[草]
[足腰大事にな]
[ごめん一番その生々しく優しい言葉の方が刺さる]
[刺してんのよ♡]
[外道か]
[わろた]
[賑やかそうでなによりです]
[あ、魔法使いさんちっすちっす]
[こんにちは、ホズミです。天才ドローン使いです]
[前園 穂澄さんもネットに染まってきたな]
[本名やめて????]
[一ノ瀬さんと並ぶ本名シリーズ]
[これでもクール気取ってるんですが]
[彼氏が見たらドン引くぞ]
[こっちだって彼氏にしたいわこのやろう!!!!]
[うわあ!急に叫ぶな!]
[結構頑張ったよ?ホズミ頑張ったよ??ねえ????]
[あっはい]
[嫁扱いされて「よっしゃあ勝ち確!!!!ktkr」って思ってたのに]
[魔法使いがネットに染まってる勇者パーティ、嫌だな]
[草]
[まあずっとコミュニティに籠ってるから……]
[情報収集の一環です]
[物は言いようってこういうのを言うんだろうな]
[この魔法使い終わってる]
[始まってるんですがあのあの]
[ええ……]
[こうやって気分でも紛らわさないとやってられないの。分かる?ねえ????]
[気を遣って話逸らしてんのに!]
[センセー、会いたいよセンセー。なんでこうなっちゃったかなあ?]
[会いたいんだ今すぐその窓から飛び出してくれないか]
[↑シバくぞ。炎弾かますぞ]
[怖すぎわろた]
[恩義を感じてるのは分かるが、さっきのクソリプが脳裏から離れない]
[わかる]
[クソリプの魔法使い]
[ハリー〇ッターとクソリプのホズミ]
[おい]
[魔法使いさんブチ切れで草]
[色々とアウトじゃん]
[ひっど。てかちょい落ちる]
[おつおつ]
[彼氏に慰めてもらえ]
[彼女にさせてくれ]
[草]
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リビングのダイニングテーブルに座り、私はSympassのコミュニティでチャットを楽しんでいた。
「……あははっ」
他愛ないやり取りだけど、少しだけ心の傷口が埋まる気がする。
本当は、辛くて、苦しくて、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
そんな自分を内に秘めて、皆と他愛のないやり取りを繰り広げるのは楽しかった。
これが、本来のインターネットの姿だったのだろう。
でも、魔災から世界を取り戻す為にはそんな世界さえも消し去らないといけないんだ。
「……他愛ない日常……か」
セイレイが、配信の最後に語った言葉を思い出す。
何かを得るためには、何かを失わないといけない。
それは分かっている。
辛く苦しかったはずの、沢山繰り広げてきた配信の数々。それをいざ失うかもしれない、と思うと途端に愛おしくさえ感じてくる。
「ねえ、セイレイ君」
「ん、どうした穂澄」
私は、隣で絵を描くことに集中しているセイレイに話しかけた。
最近は漫画にハマったようで、二度と更新されることのない漫画の二次創作を延々と描いている。元々千戸の指導の下で画力を向上させただけあって、かなりクオリティが高い。
ただ、コマ割りがわからないようで何度も下書きを繰り返していた。
「本当に、色んな人が居たよね。この世界に」
「そうだな。俺達の思っている以上に世界は広かった。一生かけても、きっと俺達は世界の全てを網羅できねーんだろうな」
セイレイはそう言って、山積みにしていた漫画のうち一冊を手に取った。
「人生の中で1つの世界を極めることが出来るかどうか、ってレベルなんだ。世界の全てを一人で掌握しようなんて無謀にも程がある」
「うん……1つの世界、か」
私は、そう呟きながらセイレイの肩に自分の身体を預ける。
セイレイは驚いた様子で目を見開いた。
「な、なんだよ穂澄」
「ううん。私はセイレイ君と同じ世界を歩めるだけでいいんだよ。セイレイ君の見る世界が、私の世界だから」
「……」
その言葉に、セイレイの瞳が揺れた。
何やら逡巡するような、迷いの滲む表情だ。
だが、その表情を浮かべていたのも束の間。
彼はいつもの気丈な笑みに戻り、私を優しく抱きしめた。
「あわっ」
いつものセイレイらしからぬ大胆な行動に、思わず顔が熱くなる。胸の鼓動が跳ね上がる。
「ああ、ずっと居続ける。お前の世界の中で俺は生き続けるよ」
「……うん」
どこか、含みを持った言葉だった。
彼の言葉の真意を理解してはいけない気がして、私はそれ以上何も聞くことが出来なかった。
こんな、何気ない一日を過ごす為に私達はずっと戦ってきたんだ。
だから。
お願い。
一番求めた時間から、一番欠けてはいけない人を奪わないでください。
To Be Continued……