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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
302/322

【第百四十四話(3)】天明のシンパシー(後編)

【配信メンバー】

・全ての配信者

 ホログラムの力により、自らの性別を書き換えられたものが居た。

「ストー、交代してっ!ボクだって!」

「——無茶スルナヨ!」

「人のこと言えないでしょ!」

 ストーと入れ替わるようにしてディルは漆黒の翼をはためかせて舞い降りた。それから、右手にチャクラムを顕現させてnoiseと並ぶ。

「や、こうしておねーさんと並ぶのも久しぶりだね」

「ずいぶんとあなたに振り回されたけどね?」

 noiseが厭味(いやみ)ったらしく返すと、ディルは苦笑いを浮かべながら噴き出した。

 それから、苦痛に悶えるユグドラシルと俺達を交互に見渡す。

「覚えてないかな?人間の想いというのは、どんな形であれ言葉に現れるもの。その言葉の断片が、やがて大いなる力になる……っていつかの時に言ったのさ」

 ディルの言葉にnoiseは目をぱちくりさせた。だが、やがて申し訳なさそうに引きつった笑みを漏らす。

「ごめん、覚えてない……ディルの言葉、いつも意味不明だから」

「だよねー。まあ、これまでに皆の力が集結するとは思わなかったけどね」

「確かに、言葉の欠片が大きな力を生んだというのは間違いないね」


 そう言って、二人は共にユグドラシルを見据える。

「ボクだって、本来は女性の姿で生まれるはずだった。まあ、おねーさんと同じだね」

「ディルの方が複雑な事情背負ってる気もするけど……」

「まあ、そこはお互い様ってことでっ!スパチャブースト”緑”!」

[ディル:闇の衣]

 次の瞬間、ディルを覆うように再び漆黒のマントが顕現した。


「っ、く!」

 ディルは身体を張って、ユグドラシルの振り下ろす攻撃を受け止める。

「無理しないでっ!」

「無理なんか、してないよっ!スパチャブースト”青”!」

 強がりの笑みを浮かべながら、ディルは攻撃を受け止めつつ宣告(コール)する。

 それと同時に、再びユグドラシルの全身を漆黒の鎖が縛り上げた。


 しかし”呪縛”が来ることを想定していたのだろうか。

 ユグドラシルの口から再び紅蓮の炎が零れ始めた。

「させないっ!」

 さらにそれを上回って読んでいたのだろう。noiseは迷うことなくユグドラシルに斬りかかった。

 金色の刃が、ユグドラシルの顔面に傷を生む。

「グアッ!?」

 顔面を切りつけられたユグドラシルは、困惑の悲鳴を漏らしながら頭を仰け反らせる。

 口の中で再び暴発した炎が、noiseにも降り掛かった。

「っ……」

 火の粉の直撃を受けるが、ダメージはnoiseが纏う光が肩代わりする。

 散らす光の欠片を横目に、noiseは更に連撃を繰り出す。

「皆の想いが私を守ってくれるっ、言葉の欠片が私達を作ってきたんだ!」

 光の刃が、無防備となったユグドラシルの外皮に大きな切り傷を刻んでいく。

 それと同時に、傷口から迸るホログラムの欠片が塵となり、虚空へと溶けていくのが見える。


 沢山の縁があった。

「ボクだって、皆が居たから気付けたことがあったんだ。一度気付いてしまえばもう二度と戻れないっ!だけど、悪いことじゃないんだっ!一人で居たあの頃に、戻ってたまるものかあああああっ!」

 ディルが大きく翼をはためかせるのに伴い、無数の弾丸となった羽がユグドラシルに突き刺さる。


 配信を介して、沢山の繋がりを紡いできた。

 Live配信と、Dead配信。相反した二つの存在が、今交わる。

「ディルっ、俺も加勢するっ!」

 俺は”光纏”と”金色の矛”のスキルの発動時間が切れ、元の姿に戻ったnoiseと入れ替わる。

 ディルはそんな俺を横目に、楽しそうに笑った。

「あははっ、一番最初の配信を思い出すよ。何もかもが変わったよね、あの頃と」

「ああ、懐かしいな。散々お前にかき乱されたのが懐かしいよ」

「そうだね……じゃあ、全てを取り戻すよ。生も、死も、ね」

 楽しそうにくるくると人差し指でチャクラムを振り回すディルと、ファルシオンを正面に構えた俺は、ともにユグドラシルと対峙する。


 どれだけ、間違えてきたのだろう。

 どれだけ、沢山の想いを感じてきたのだろう。


「スパチャブースト”青”っ!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 両足に淡く、青い光が纏う。両脚を蹴り上げ、ユグドラシルの頭上を越えるほどまで跳躍。“浮遊”によって浮かんだままの瓦礫を飛び越え、ユグドラシルを翻弄する。

 ディルはその間、ユグドラシルの視線を誘導するように素早く動き回り始めた。

「ほら、千戸!見てるかい!?これが、キミが育てた世界を救う勇者の姿!期待していたのだろう!?願ったのだろう!?だからキミは非情になり切れなかった!全人類を滅ぼすという選択肢を取ることが出来なかった!セイレイ君が世界を救う希望だと理解していたからっ!!」

 チャクラムの投擲と顕現を、幾度となく繰り返す。その連続する攻撃に気を取られ、ユグドラシルは苛立った様子でジロリとディルを見下ろした。

 「狙い通り」と言わんばかりにディルはニヤリと笑う。

「キミは最初から魔王に相応しくなかった!それを理解していながら、知っていながらっ!演じ続けた!魔王セージを!!中途半端だったんだよ、キミはっ!!!!ほら、見てみなよキミが育てた教え子をさっ!!」

 そう言って、ちらりとディルは大船に視線を送る。


「期待にお答えして……っ、放てっっっ!!!!」

[ホズミ:炎弾射撃]

 大船からホズミが大声で叫ぶ。その声と共に、紅蓮の弾丸が空を切り、唸りを上げて一直線に伸びていく。

 鋭く伸びた銃弾は、瞬く間にユグドラシルの眉間を貫いた。

「グルアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 断末魔とも捉えられる苦悶の叫号が、辺り一帯に響き渡る。大気を轟かせるその声に、全身が震える。

 だが、怯むわけには行かない。


「グルゥアアアッ!!」

 もはや狙いなど定めることも出来ないようだ。あちこちにやけくそ気味に樹根を散開させる。

 当然その攻撃は誰にも直撃することなく、ただ隙のみを曝け出す。

「今だっ、セイレイ君っっ!!」

「——ああ!もう、終わらせるんだっ!!」

 樹根の上に着地し、俺は迷いなく根元であるユグドラシルへと駆け抜ける。


 ——配信を始めた当初を思い出す。

 ホズミがまだ魔法使いでなかった頃の話だ。配信ナビゲーターとしての役割に専念していた時の、彼女の姿を——。

 最初からずっと、後方から俺達を見守りながら”支援射撃”を使い、俺達の戦況をサポートしてくれていた。

 

 全てが、始まりの頃に戻っていくような気持ちだった。


 取り戻せないものがあった。

 取り返せないものがあった。

 でも、取り戻せるものもあるんだ。


 沢山繰り広げてきた配信の中で、そう気づいた。

「スパチャブースト”赤”あああああああっっっっ!!!!!!」

[セイレイ:竜牙]

 右手に刻むのは、龍の刻印。

 偽物から始まった俺を、本物へと作り上げる証だ。


 

『セイレイ、課題のデッサンは終わらせたか?』

『お前達には魔災以前の日本にはどんな物が存在して、どんな人が居たのか。そうした一つ一つの物を感じ取って欲しいと思う』


「ぜああああああああああああああ!!!!」

 センセーから受け取ってきた、言葉の数々が脳裏を過ぎる。


『ただ、忘れて欲しくなかったんだ、生きていくという事が簡単ではないことを』

『俺だって、冷酷な考えでこんなことを話しているんじゃない……。助けられるなら、妻や娘を助けたかった。だが、俺にはその力が無かった……』

『他人を助ける資格は、自分を助けることの出来る者にしか無いんだ。俺達は運よく生き残っているだけなんだ。死んでしまったら元も子もない……』

『お前らが理由を持って、行動してることは知ってる。だけど、それだけじゃあどうにもならないこともあるんだ……改めて言うぞ、”魔物てんでんこ”だ。まずは自分の命を守ることを、大切にしろ』


「ああああああああああああっっっっ!!!!」

 振り下ろしたファルシオンに、沢山の光が集う。

 受け取ってきた、感じてきた喜怒哀楽。それら全ての想いを還すように、力を籠める。

 

 ——頬を伝う、涙がファルシオンに落ちた。


 ホログラムと化したドラゴンが、世界から消えていく。


 ----

 ---

 --

 -


 瓦礫の残骸と化した住宅街の上に、俺達は大船から降り立った。

 もう、そこには俺達以外の何も残っていない。

「……センセー……」

 魔王城も、魔王セージも、そこには何も。

 確かにそこにいたはずの、魔王セージが居たはずの地面を撫でる。


『そんなところを撫でたって、もう何も残ってないだろう?』


 空から、瀬川 沙羅の呆れたような声が響く。

 微かな怒りの炎が生まれるのを感じながら、俺は地面を撫でることを止めなかった。


 すると、俺の想いに応えるようにぼんやりと、声が響いた。

 微かに残った光の粒子が、少しずつ集まっていく。

 そして、それは七色の光を放ちながら俺達の眼前で浮上した。

『……セイ、レイ……穂澄……本当に、強く……なった、な……』

 聞き逃してしまいそうなほどに、薄氷のように儚い声。だが、それは俺らの耳にしっかりと届いた。

 予想外の事態だったのか、瀬川 沙羅の息を呑む音が聞こえる。

『……馬鹿な。削除したはずだ、そんなこと……ありえない』

『瀬川 沙羅……俺が何をしていようとしていたのか、理解していたな?』

 存在を必死に保とうとしているのだろう。光の粒子となった千戸は、何度も不規則に明滅を繰り返していた。

 そんな千戸の姿に動揺しながらも、彼女は質問に答える。

『……当たり前だろう。視聴者を消し去り、配信としての意味を無くそうとした。それが君の狙い、だったね?』

「……センセー、そんなことを考えて……」

 ホズミが、茫然とした表情を浮かべる。

 それは失望だったのか、希望だったのか。俺には表情の真意を捉えることは出来なかった。

『……ディルの言う通り、俺は非情になり切れなかった。セイレイは、この世界において紛れもない希望だ。だから、俺はセイレイが勇者として強くなれるように、仕向けるしか』

「俺……そんなこと望んでなかったよ。ずっと、センセーには優しいままのセンセーで居て欲しかった」

 千戸の言葉を遮り、俺はそうはっきりと告げた。

 すると、千戸は深いため息を吐く。それから、ぽつりと観念したように言葉を続けた。

『……そう、だな。瀬川 沙羅の意思に逆らうのなら、何もしなければ良かったんだろうな……。セイレイと、穂澄と生きている……そんな幸せの日々を受け入れていれば……』


「遅い。遅すぎる。もう、全部手遅れだ……俺は、俺は……」

 千戸からその言葉を聞けた嬉しさ。

 瀬川 沙羅に理不尽に滅茶苦茶にされたという確かな怒り。

 あの頃にはもう戻れないんだ、という悲しみ。

 穂澄と、千戸と三人で暮らしていた頃の楽しかった思い出。


 喜怒哀楽が入り混じる。

 どんな感情で接することが正しいのだろう。

 俺は、千戸にどんな感情をぶつけるのが正しいのだろう。

 分からない。

 どれもぶつけたいと思った。全ての感情を、一同にぶつけてしまいたい。

 けれど、どれも正しくない気がして、言えなくて、苦しくて。


 だから、堪える涙も抑えきれずに、俺はこう返すしかなかった。

「……俺さ。センセーと居ることが出来て……良かった。アンタの教え子で、後悔していない」

『……そう、か……』


 千戸は、その言葉に満足したようだった。

 俺達の眼前で煌めいていた七色の光は、徐々にその輝度を落としていき——やがて、消えた。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:瞬貫通

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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