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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
301/322

【第百四十四話(2)】天明のシンパシー(中編)

【配信メンバー】

・全ての配信者

「過去を、取り戻すっ!スパチャブースト”黄”!!」

 noiseは短剣を構えた上で、重心を低くしつつ叫んだ。

 やがて、彼女の全身が光に包まれる。noiseが失った時間が、過去が、戻っていく。


 現れるのは女子高生だった頃のnoise。栗色のおさげがふわりと揺れる。

「皆と一緒に生きるんだ!皆の時間を盗ませてもらって、生きるんだ!」

 光が駆ける。秋狐の”戦いの歌”の恩恵を受けて、より一層強く光に照らされる。

 

「グルゥウアアアアアアアアッ!!」

 そんな彼女目掛けて、ユグドラシルはいきり立った様子で強靭な筋肉を纏った右腕を振り下ろす。

 だが、それでもnoiseは躱そうともしない。

 迷いなく左腕を突き出しながら、noiseは宣告(コール)を重ねる。

「あなたの時間も盗ませてもらう!私達の未来の糧にするんだっ!!スパチャブースト”緑”っ!!」

[noise:金色の盾]

 流れるシステムメッセージと同時に、noiseの左腕に顕現する金色の盾。

 

「……くっ!?」

 金色のラウンドシールドがユグドラシルの振り下ろし攻撃を受け止める。

 だが、勢いを完全に殺しきれず、noiseは体勢を崩し片膝をついた。

 それでも、noiseの目から覚悟の焔は消えない。

「私がどれだけ迷っても、皆は私を見捨てなかった。そんな大好きな皆の為に!」

 noiseの言葉と同時に、金色の盾から伸びた光を纏う蔦が螺旋を描く。それは瞬く間にユグドラシルの全身を縛りあげた。


「有紀、助かった!」

 行動を制限されたユグドラシル目掛けて、俺は勢いに任せて斬りかかる。

 身動きの取れない今が攻撃のチャンス。そう思っていたが——。

「セーちゃん!ダメ、避けて!」

「——え?」

 クウリに指摘されて見上げれば、ユグドラシルの口から炎が零れているのが見えた。

「っ、マジか!?」

 完全に油断していた。

 俺目掛けて灼熱の炎を吐かんとしているのだ。だが、俺は既に地面を蹴り上げて跳躍している。

 死を受け入れて”自動回復”を発動させる、という選択肢が脳裏を過ぎった瞬間だった。


「っ、スパチャブースト”青”……っ」

 大船の上から、突如として漆黒の鎖が弾丸を彷彿とさせる速度で伸びてきた。

 それは炎を吐かんとしていたユグドラシルの口を一瞬にして縛り上げる。

「グルゥァアッ!?」

 炎を吐き出すことが出来なくなり、口内に溜め込んだそれが暴発。

 口の中で弾けた炎の欠片が、ユグドラシルの顔面を覆う。

[ディル:呪縛]

 表示されたシステムメッセージの答えを確かめるように視線を送れば、大船の縁に掴まったまま右手を突き出したディルがいた。

 蘇生直後で体力も十分に回復していないだろうに、それでも張り裂けんばかりに叫ぶ。

「セイレイ君、っ!ボクもサポートに回る、終わらせる、んだっ!こんな配信、っ!ボク達が生きる為に!ごほっ、ごほっ」

 気管に土埃が入ったのだろう。ディルは伝えたいことを叫んだ後に激しくむせ込んだ。

「使って」

「ご、めん。ありがと」

 ホズミから魔素吸入薬を受取り、それを迷いなく吸入する。

 表示される”Relive配信”のディルの体力ゲージが瞬く間に回復していく。


 やがて完全に体力の回復したディルは、再び宣告(コール)を重ねた。

「……スパチャブースト”黄”っ」

[ディル:闇纏]

 そして、ディルの背中に漆黒の翼が再び伸びた。

 だが、いつもらしくない。ディルは引きつった笑みを零している。

「……はは、怖いね。やっぱり……」

 ディルの全身が震える。

 先ほど、ユグドラシルの一撃を食らって即死したのだ。蘇生したとはいえ、死に際の苦痛を身体が覚えているのだろう。

「ディル先輩、無理に動かなくて大丈夫ですよ。私達だけでも……」

 アランはディルを気にかけて引き留める。だが、彼は気丈に首を横に振った。

「いいや、大丈夫さ。せっかくの大舞台なんだ、出番を貰わないのは損だろ?」

「……ディル先輩も、いつの間にかセイレイ君のカッコつけに影響されてたんですね」

「勇者パーティはカッコつけの集団、だよっ!」 

 躊躇いを振り切るように、ディルは大船を蹴り上げて高く飛翔。

 再び戦線に復帰したディルは、俺達に向けて叫ぶ。

「これまでの配信で紡いだ縁、それら全てをぶつける時間だっ!ボク達は、一体どれだけの縁を紡いできた!瀬川 沙羅が勇者パーティの配信に縁を重視しているというのなら、それを徹底的に見せつけてやれっ!」

「……分かった!」


 全ての縁が、勇者パーティを作ってきた。

 ディルの言葉を受けて、俺達はユグドラシル目掛けて駆け抜ける。


 ----


 四天王と言う、縁があった。

 

「たあっ!」

 クウリは重量のある大鎌を、勢いのままに振り下ろす。

 狙う先は、ホズミが放った銃弾の穿った傷跡。

「グルアアアアアッ!!」

 傷口を抉る一撃に、ユグドラシルは激しくのたうち回る。それから、クウリを真っすぐに睨み、大きく息を吸い込む。

 歯の隙間から覗く炎の欠片。だが、クウリは逃げもせずに真っすぐにユグドラシルを見据えていた。


「私に任せてくださいっ!スパチャブースト”黄”!」

[雨天:水纏]

 期待に応えるように、飛翔していた雨天がクウリの前に躍り出る。タイルの上に着地した彼女の周囲に、ゆらりと揺蕩う水流が纏う。

 それから、雨天は両手を突き出したまま宣告(コール)を重ねる。

「そして、スパチャブースト”緑”ですっ!」

[雨天:純水の障壁]

 重なるシステムメッセージと共に、雨天の周囲に纏っていた水流に重なるように水滴が集う。

 やがて、それはこれまでに見たことのない巨大な水滴の盾を生み出した。


「グルゥオオオオオオオオオオオッ!」

 灼熱の炎が、タイルを穿って襲い掛かる。自らを体現する火龍の如く、業火が雨天を飲み込まんと伸びていく。

 雨天が生み出した水滴の盾は、紅蓮の業火を瞬く間に包み込んだ。

「っ、させませんっ……受け止めるんです!何も、かもっ!」

 雨天が顕現させた”純水の障壁”を中心として、水蒸気が舞い上がる。熱気を纏った水流は、やがて完全にユグドラシルの灼熱の炎を受け止めて見せた。

「お返し、しますっ!」

 そのまま”純水の障壁”を解除。膨大な量の蒸気は瞬く間にユグドラシルへと襲い掛かる。

「グルァァアアアッ!?」

 全身を高熱の蒸気に包まれ、ユグドラシルの悲鳴が轟いた。


 次の瞬間、大船の上から宣告(コール)が響く。

「スパチャブースト”赤”っ!」

[アラン:悟りの書]

 大船に乗っていたアランが宣告(コール)するのに伴って、彼女の眼前に一冊のキャンパスノートが顕現する。

 勇者パーティの昔からのファンである彼女が生み出す”悟りの書”。それは、自らの願ったスキルを自在に発動させることが出来る。

 その”悟りの書”を手に取り、アランは叫んだ。

「パパっ、力を貸して!迎撃モード、移行ッ!!」

 誰のスキルを選ぶでもなく、アランは自分の父親、かつ四天王である荒川 東二のスキルを選択。

 瞬く間に、彼女の両腕がゴーレムの姿——漆黒のレンガに覆われる。

 アランはそれに重ねるようにスキル名を叫ぶ。

「——Core Jet!」

 武闘家ストーのスキルを発動させるに伴い、アランの背中にジェットエンジンが顕現する。それが火を噴くのに伴って、アランは大船の上から勢い良く飛翔した。

 

 やがてユグドラシルの頭上へと浮かび上がった彼女は、ゴーレムの姿となった両腕を突き出す。

「高出力エネルギー放射準備っ!いけえええええええっっっ!!」

 アランが叫ぶと同時に、レンガに包まれた両腕の先から高エネルギーを含有した熱光線が放たれる。

 鋭い貫通力を有したそれは、再びユグドラシルの樹皮に覆われた身体を貫いた。

「グルゥッゥゥッ!」

 激しく身を捩らせながら、ユグドラシルは全身を覆っていた樹根を外していく。まるで包装をめくっていくかのように、徐々にユグドラシルの漆黒の皮膚が露わとなる。

 防御力が下がるのも厭わずに、ユグドラシルは宙に浮かぶアラン目掛けて鋭い槍となった樹根を突き出した。

「……っ、やばっ」

 空を切るように、唸りを上げながらアランに襲い掛かる。


「させるもんかっ!」

 だが、その樹根の槍はワイヤーフックを駆使して舞い降りた道音によって阻止される。

 フック船長の姿となった彼女は、右手に持った湾曲刀を存分に振るい、無数に襲い掛かる樹根の槍を切り払う。


 まるで優雅に踊るかのように、可憐に攻撃を捌いて行く。

 その攻防に伴って、ユグドラシルの樹根の鎧が解け始めた——。


 ----


 同じ人物から、戦闘技術を学んだ者がいた。

「スパチャブースト”赤”っ!」

[noise:金色の矛]

 樹根の鎧が解け、弱点が露わとなったのを逃すほど甘くない。

 noiseは迷うことなく宣告(コール)する。

 それと同時に、彼女の持つ短剣に光の刃が重なる。

 天地を貫かんと伸びる刃が、彼女の想いを後押しする。

「行くよっ!」

 栗色のおさげを揺らしながら、noiseは迷うことなく駆け出した。

 だが、一体どこにそんな余力が残っていたのか。

「グルアアアアアアアアアッ!」

 残った樹根を、勢いのままに地面に伸ばす。そして、地上に残っていた住宅街の瓦礫を持ち上げ、迷うことなくnoiseへと投げつけてきた。

「っ、何だとっ!?」

 想定外の迎撃にnoiseは目を見開く。防御は不可能かと思われたが——。

「スパチャブースト”赤”ッ!」

[ストー:千紫万紅]

 noiseを庇うように伸びる無数の熱光線が瓦礫を穿つ。

 勢いを殺がれた瓦礫が、再び大地に墜とされる。

「……ストー」

「モウ、俺ハ他人ニ流サレナイ。自分ノ正シサヲ貫ク」

「やっと気づいたんだね」

「……今更、ダガナ」

 自嘲染みたストーの言葉に、noiseは困ったような笑みを浮かべながら肩を竦めた。

 それから、共に並んだ二人。

 盗賊と武闘家の二人は、ユグドラシルに向けて存分に持ち合わせた戦闘技術を振るう。


 ユグドラシルが薙ぎ払う尻尾の一撃を紙一重で乗り越え、noiseは光の刃で切り裂く。

 振り下ろされる爪の一撃の合間を掻い潜り、ストーはジェットエンジンの勢いを駆使して正拳突きを放つ。

 交互に繰り出される二つの流星が、徐々にその身体に傷を作る。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:瞬貫通

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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