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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
300/322

【第百四十四話(1)】天明のシンパシー(前編)

【配信メンバー】

・全ての配信者

 世界を救う、希望の種。

 俺はそう呼ばれて、そう認識されて戦ってきた。


 でも、ずっと考えていた。

 本当にこの世界の希望は、俺一人なのかなって。

 

 船出 道音が心の拠り所としていたのは、学友であった秋城 紺と一ノ瀬 有紀だった。

 青菜 空莉は、育ての母を心の拠り所としていた。母を守るために、ドローンとしての力を求めるほどに。

 荒川 蘭は、自身の父親である荒川 東二がいる所が心を安らげることの出来る居場所だった。今となっては知る由もないが、きっと東二も同じ思いだっただろう。

 

 ——千戸 誠司は、かつての家庭の中に居場所を持っていた。

 自らが世界の悪になってまで、取り戻そうとするほどに。

 

 ……希望は、一体どこにあるんだろう。一体、希望とは何だろう。

 勇者と言うのは、ただ明確に世界を書き換えることの出来る分かりやすい存在でしかない。俺の価値観や行動全てが正しい訳ではない。

 何度も間違えた。何度も抱え込んで、仲間に八つ当たりして。

 

 俺からすれば、それでもついてきてくれた皆こそが希望だったんだ。


★★★★

 

「……そうか、希望って言うのは”未来”のことだったんだ」

 ちらりと、淡い緑の光に包まれたディルの亡骸に視線を送る。

 俺が放ったスキルの”自動回復”により、いずれ蘇生を果たすことは出来るはずだ。

 だが、生き返るからと言って「死ぬ時の恐怖や苦しみ」までが消えるわけではない。命という存在が消える恐怖、魔物の刃が自分の身体を貫く痛みなどの苦しみはずっと消えやしない。

 ——だから、死なせたくなかった。

 

 ディルがそんなことを理解していないはずがない。

 それをふまえた上で、覚悟を決めて俺達にヒントを与えたんだ。

「セイレイ君、ディルの意思……無駄にしないように、行こう」

「分かった」

 ホズミは”形状変化”によって作り出された真紅の拳銃を強く握る。魔石をマガジンに装填し、軽くノックした後その銃口をユグドラシルに向けた。

 彼女はユグドラシルを見据えたまま、道音に言葉を掛ける。

「道音ちゃん、浮上してっ!ユグドラシルの頭上っ!」

「了解っ!舞い上がって!」

 ホズミの指示を受けた道音は、左手を高く掲げる。その動作に連なって、大船は空高く浮上した。

 ユグドラシルは首だけを大船に向け、それから「グルゥゥ……」と小さく唸り声を上げる。

 

「……駄目だっ!!」

 その動作に不吉な予感を感じ取ったクウリは、迷うことなく大船から飛び降りた。

『っ、クウリ君っ!?』

 秋狐は悲鳴じみた声を掛けながら、慌ててドローンの姿のまま彼の傍へと下降する。

 高所恐怖症であるはずのクウリは、覚悟を決めた表情で左手を突き出す。


「頼んだよっ、スパチャブースト”青”っ!」

[クウリ:浮遊]

 クウリが宣告(コール)するのと、ユグドラシルの周囲を浮遊していた瓦礫が射出されるのはほぼ同時だった。

 身体を掠めただけで、体力を大幅に削る瓦礫の弾丸。まともに喰らえば、即死どころの問題ではない。

 だが、その瓦礫の弾丸が眼前に迫ろうともクウリは怯まなかった。

「僕なら……いけるはずだっ!!」

 

 次の瞬間、クウリへと襲い掛かってきた瓦礫がぴたりと空中で制止する。その空中に留まった瓦礫の上に勢いよく着地したクウリは、想像以上の衝撃に苦悶の声を漏らす。

「——っう……痛ぁ……」

『馬鹿クウリ君っ!下手したら死んでたよ!?』

 想像以上の激痛に蹲るクウリの隣に、白のドローンがふわりと降り立つ。

 だが、クウリは強がった笑みを浮かべて言葉を返した。

「その時は、皆が助けてくれるでしょ?」

『……ああもうっ……!』

 説教が通じないと理解したのか、秋狐はもどかしそうに唸り声を上げた。

『分かったよ、皆馬鹿ばっかりだもんねっ!』

 ホログラムが白のドローンを包み込む。

 その次の瞬間、彼女はドローンの姿から、サイバーチックな雰囲気の和服を纏った人間の姿へと戻っていた。


 ——バーチャルシンガー、かつ吟遊詩人としての秋狐の姿だ。


「これまでならアカウント貸与、だったけど。もうアカウントを貸さなくても良いもんね……なら!」

 秋狐は右手を高く掲げる。

 次の瞬間、彼女の周りに宙を浮かぶ五線譜が生み出された。


 五線譜に揃えられ、均一に並べられた音符。それらはまるで秋狐を囲う夜空のように、美しく煌めく。

[秋狐:戦いの歌]

 流れるシステムメッセージと共に、50000円が消費された。


 空中に浮かび上がったまま、秋狐は静かに目を閉じる。

「……行くよっ、これが有名配信者!秋狐の”戦いの歌”だよ!」

 彼女の周囲に、突如として生み出されたホログラムは、やがて巨大なスピーカーを生み出した。

 こんな時でも自己アピールを欠かさない彼女は、差しだすように右手を伸ばしたまま歌を紡ぎ始める。


 透き通るような、優しい声。

 それでいて、どこか切なさの残る声が、響き渡った。


「なんだ……?光が……!」

 秋狐が歌を紡ぐのに伴って、純白の光が俺達を包み始めた。

 もちろん、それは彼女の近くにいるクウリも例外ではない。

「紺ちゃん、綺麗な声だね」

「~~っ」

 紡ぐ秋狐の歌声に、クウリの言葉が揺らぎを生む。

 だが、そんなことお構いなしにクウリは空中で停滞した瓦礫に次から次に飛び移っていく。


「うんっ、僕だって誓わなきゃね。皆が覚悟の言葉を配信を介して伝えてるから、僕だって!」

「グルゥゥアアアアッ」

 徐々に距離を縮めつつあるクウリを迎撃せんと、ユグドラシルはクウリを睨む。

 

 だが、それを予期して隣に立つアランは叫ぶ。

「させないよ!スパチャブースト”青”!」

[アラン:紙吹雪]

 空中から降り注ぐ紙吹雪が、やがてユグドラシルの周囲に降りかかった。

「グルゥァァ!?」

「ざんねーんっ、ブラフでーすっ♡」

 困惑の悲鳴を漏らすユグドラシルに対し、アランは挑発的な言葉を浴びせる。

 それから楽しげに指を鳴らした後、大船の縁に手をかけて真下にいるクウリへと叫ぶ。

「クウリ先輩っ、やっちゃってくださいっ!見せ場は作りました!」

「ありがとう、皆っ!」

 それから、クウリは顕現させた大鎌を両手で握る。

 見据える先は、瓦礫と巨大な体躯を繋ぐ樹根だ。


「ただ僕だけが強くなればいい訳じゃない!皆で強くなるんだ!皆で困難を乗り越えるんだ、独りよがりは、もう終わりにする!だから、誓う、僕は四天王として誓うんだっっ!!」

 

[information

 クウリがスパチャブースト”赤”を獲得しました

 赤:瞬貫通 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]


 四天王として対峙したクウリが使用していたスキル。それが再び、俺達の前に蘇る。

 だが、クウリは”瞬貫通”を決め手の一撃として使う気はないようだ。

「僕の力は、僕だけで完結するものじゃないっ。皆がより動きやすくするためのスキルなんだっ!!スパチャブースト”赤”!!」

[クウリ:瞬貫通]

 その宣告(コール)と共に、クウリは大鎌を勢いよく水平に薙いだ。

「グルゥオオオオオオオ!!」

 無数の不可視の斬撃が、ユグドラシルと瓦礫を繋ぐ樹根を斬り裂く。

 大きく傷のつけられた樹根が、悲鳴のような音を立てて軋み始めた。瓦礫を支えるほどの力を失っていくのが目に見える。

 

 鈍い音が響く。

 やがて、瓦礫を支えきれなくなった樹根が大きくひしゃげて折れた。

 

 瓦礫の弾丸と言う攻撃手段を失ったユグドラシル目掛けて、ホズミは迷いなく真紅の拳銃のトリガーを引いた。

「ナイスだっ、クウリ君!撃つよっ!!」

[ホズミ:炎弾射撃]

 拳銃が火を噴くと同時に、鋭く唸りを上げた紅蓮の弾丸がユグドラシルを纏う樹皮を貫く。

「ガゥアアアアアアッ!?」

 まさか樹皮の鎧を貫かれると思っていなかったのか、ユグドラシルが苦悶の声を漏らす。

 大きく身を捩らせ、隙だらけとなったユグドラシル。

 

「スパチャブースト”青”っ!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 その隙を狙い、俺は迷いなく宣告(コール)。それと同時に大船から飛び降り、クウリが浮かび上がらせた瓦礫の上に着地する。

 着地ダメージを無効化した俺は、そのままクウリに話しかけた。

「やるじゃねーか、クウリ。戦士の二つ名は伊達じゃねえな」

「セーちゃんには負けるよ」

「んなことねーよ」

 俺とクウリはそう軽口を叩き合いながら、グータッチを交わす。


 そんな俺達に向けて、更に重ねる宣告(コール)が1つ。

「先輩っ、私に任せて!スパチャブースト”黄”!」

[アラン:ホログラム・ワールド]

 大船から響くアランの宣告(コール)に伴い、俺達の足場となっていた瓦礫の形が大きく書き換わる。

 それは徐々に面積を広げ、大理石が埋め尽くす巨大なタイルへと形を変えた。

 

 その現象を生み出したアランに視線を送ると、彼女は楽しそうにvサインを作っていた。

「これで先輩達も戦えるでしょ!やっちゃって!」

「ありがとうな!」

「全部終わってからまたゲームに付き合ってねっ!」

 アランはにこりと嬉しそうに微笑んだ。


 やがて大船がゆっくりとタイルの上に近づき、noiseはその上にすたりと着地した。

 大船を操作している道音に「ありがとう!」と声を掛けた後、腰に携えた金色の短剣を引き抜く。

「さて、ここからは私達の番だな」

 noiseは隙の無い構えを取りつつ、そう俺に語り掛ける。

 

「ああ。皆が紡いだ希望、決して無駄にはしない」

 俺はファルシオンを正面に突き出し、その切っ先をユグドラシルに合わせた。

 いつもの”アタリを取る”構えを取って意識を集中させる。

 

「僕達で未来を作るんだ。沙羅姉の勝手になんか、させない!」

 クウリは大鎌を両手で構え、低く姿勢を取る。


 背後から響き渡る秋狐の歌声。純白の光はやがて俺達にも伝播し、暖かな光を生む。

 ユグドラシルの周囲を囲うように浮かぶのは、ジェットエンジンを伸ばしたストーと、蝙蝠の羽を生やした雨天。

 道音が操作する大船に乗っているのは、真紅の拳銃を構えたホズミと、スキルによる支援を繰り出すアラン。


 全ての配信者が、それぞれの役割を担って戦っている。

 この配信を生み出すまでに、どれほどの過程があったのだろう。


「皆で、生きる。生きるんだ——」

 前傾姿勢を取り、ダッシュの構えを取る。

 もう、誰も置いて行くわけには行かないんだ。


「——零から!!」


 生きる、零から。だから(セイ)(レイ)

 それが、勇者セイレイの由来の1つだ。


 To Be Continued……

300話ぴったりで全てのスパチャブーストが埋まりました。奇跡。


【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:瞬貫通

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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