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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
299/322

【第百四十三話(2)】暗雲切り払う戦い(後編)

【配信メンバー】

・全ての配信者

[information

 スパチャブースト”赤”が再度利用可能となりました]

 システムメッセージが流れる。

 それと同時に、空から瀬川 沙羅の純粋に楽しそうな声が響いた。

『やはり最後の配信に相応(ふさわ)しくするならドラゴンだろう?お膳立てするからさ。私と言う、心の満たすことの出来ない哀れな姫君を救うつもりで戦っておくれよ』

「何が姫君だ!てめぇの良いように人を弄びやがって!!絶対許すものか!!」

 怒りの言葉をぶつけるが、瀬川 沙羅に俺の感情は一向に届かない。

 Sympassの管理者は「くくっ」と含み笑いを漏らす。

『そんな、ひどい……。実の弟に嫌われてしまうとはね』

 言葉とは裏腹に、心底嬉しそうな声だ。

 姿を見せず高みの見物を繰り広げる瀬川 沙羅に対し、より一層腹が立つ。

「瀬川 沙羅ッッッ!!覚えてろ、この配信が終わったら次はお前の番だ!!」

『この配信が終わったら、ね。楽しみにしているよ』

 その声を最後に、瀬川 沙羅の声は届かなくなった。


 魔王セージを飲み込んで生み出された漆黒のドラゴンを取り囲む瓦礫。それらを繋ぎ止める無数の樹根は、まるで強固な鎧を彷彿とさせる。

 巨大な大樹を彷彿とさせるドラゴンが、ジロリと俺達を睨む。


 もう、そこに人としての意思を感じ取ることが出来ない。

[追憶の守護者:ユグドラシル]

「……世界樹(ユグドラシル)、か。ずいぶん、大きな名前を背負ったドラゴンだよね」

 アランは流れるシステムメッセージに、引きつったような笑みを浮かべた。

 これまでの配信で相手してきた魔物とは規模が違う。


「っ、道音ちゃん、船動かしてっ!!回り込むの!!」

 突如としてホズミが叫んだ。

 見れば、ワニを彷彿とさせる鋭い牙の隙間から炎が零れているのが見える。

「グルゥゥウアアアアア!!」

「——っ、わっ……!!」

 ホズミの指示を受けた道音は、慌てて大船を動かす。再び猛スピードでユグドラシルの背後を取るように旋回。

 吹き荒ぶ風に黒髪をなびかせながら、ホズミは宣告(コール)する。

「スパチャブースト”青”っ!!」

[ホズミ:煙幕]

 流れるシステムメッセージに伴い、ホズミを中心として灰色の煙が舞い上がる。

 視界一面を覆いつくす煙幕が、大船をも包み込む。


「ひっ」

 雨天が悲鳴を上げた。

 ホズミが放った「煙幕」によって、狙いを定められなかったのだろう。俺達の頭上を掠めるように、灼熱の炎が通り過ぎた。

 直撃を避けたと言えども。

 ユグドラシルの脅威を知らしめるには、十分だった。


 煙幕が晴れ渡り、再びユグドラシルの姿が露わとなる。

 問題は、攻撃手段なのだが——。


「スパチャブースト”青”ダ」

「スパチャブースト”青”、モードチェンジ、インプっ!」

「ボクの出番だよね。スパチャブースト”黄”」

[ストー:Core Jet]

[雨天:スタイルチェンジ]

[ディル:闇纏]

 示し合わせたように、Relive配信のアカウントを利用するストー、雨天、ディルの三人が宣告(コール)を重ねた。

 ストーの背中からジェットエンジンが顕現する。

 雨天の背中から蝙蝠の羽が伸びる。

 ディルの背中から漆黒の翼が大きく広がる。

 飛翔能力を持つ三人は、それぞれ分散するように大船から飛び上がった。


 配信を開始すると同時に漆黒のパワードスーツへと身を包んだストーは、俺達に叫ぶ。

「俺達ガユグドラシルノ気ヲ引ク!任セテクレ!」

「お願いっ!私達も攻撃の手段を探すっ!」

 noiseは大声で返事を返し、それから大船の縁に手をかけて情報収集を始めた。

「ユグドラシルを纏う木の根……あれに意味がない訳、ないよね」

 彼女の意見に同意するようにホズミは頷いた。

「少なくともライト先生はあれに殺された。使わないはずが無い」

「だよね。しばらく情報を探りたいところだけど……」

 

 ユグドラシルは自らを囲うように飛翔する三人に向けて、煩わしそうに唸り声をあげている。

 

 注意が逸れているのをチャンスと取ったホズミは、赤色の杖の中に大きな魔石をはめ込んだ。

 それはホブゴブリンなどの強敵からしかドロップしないサイズの魔石だ。

「もう、出し惜しみなんてしないっ!放て!」

[ホズミ:灼熱弾]

 ホズミがそう叫ぶと同時に、支援額が20000円消費される。

 削り取られていく支援額と同時に、ホズミの杖先からうねるような炎の渦が放たれた。

「グゥァアアアアッ!!」

 着弾した「灼熱弾」が、ユグドラシルの悲鳴を生む。その大船に迫るほどの巨大な体躯を飲み込む炎が、火力の大きさを物語る。

 だが、ホズミは油断せずにじっとユグドラシルを見つめていた。


 そして、その不穏の予感は的中する。

「……っ、スパチャブースト”緑”っ!」

[ホズミ:障壁展開]

 すかさずホズミは俺達の前に立ち、両手を突き出した。

 俺達を包み込むように、薄緑色をしたドーム状の障壁が顕現する。

 眼前に迫るは、ユグドラシルの周囲に浮かび上がっていた瓦礫だ。

「きゃっ!?」

 しかし弾丸の如く射出された瓦礫は、いとも容易くホズミが生み出した障壁を突き破った。

 俺達を守る形で立っていたホズミの左肩と右脇腹に瓦礫の断片が襲い掛かる。

 

「う、ぐっ……は」

「穂澄ッ!」

 細身の体を抉るように貫いた瓦礫の攻撃に、ホズミは思わず蹲る。

 俺は慌てて彼女の傍に駆け寄り、彼女を介抱した。

「……っ、だいじょう、ぶっ……ごぷっ……」

 ホズミは口から血を吐きながら、苦悶の声を漏らす。

 

 ——大丈夫な訳ない。障壁をいとも容易く破壊する一撃を食らったのだ。

 見れば衣服の隙間から、真紅の流血が流れているのが見える。

 体力ゲージを見れば、6割ほど一気に削られていた。

 

「ホズミちゃん、これをっ!」

 noiseは慌てた様子でホズミに魔素吸入薬を差し出す。

 蹲るホズミは「ありがとう」とnoiseからそれを受取り、迷うことなく吸入する。

「……あの瓦礫は防げない……か」

 魔素吸入薬によって傷の癒えたホズミはゆっくりと立ち上がり、改めてユグドラシルを見据える。

 ホズミの「灼熱弾」の直撃を喰らったはずだが、ユグドラシルを纏う樹根に防がれたようだ。

 焼け焦げた樹根が、その表皮を剥がれ落とす。

 めくれ上がった樹皮の内から、焦げ目のない新たな樹根が再び覆いつくした。


 全くダメージを受けた印象のないユグドラシル。

 それを見たホズミの表情にいら立ちが募る。

「……一体、どうしろって言うの……っ」


「クソッ、コイツ……ビクトモシナイ……ッ!」

 ストーはジェットの勢いを駆使して、何度もユグドラシルを殴りつける。だが、巧みに操作する瓦礫に阻まれ、一向にダメージを与えることが出来ない。


「やっ!貫けっ!」

 雨天は降下する勢いで隙を見て強襲。器用に動き回って瓦礫の合間を縫い、ユグドラシルの皮膚を突き刺す。

 だが、その一撃さえも届かない。

「……硬あっ!?いったぁーーーー!」

 強靭な肉体に弾かれ、反動を受けた雨天は悲鳴を漏らす。

 ユグドラシルはまるで蚊でも叩き潰すかのように、雨天へと剛強な腕を振るう。

「ひっ、失礼しましたっ!」

 雨天は慌てて蝙蝠の羽を駆使し、その場から撤退。


 彼女と入れ替わるようにして、ディルが割り込んだ。

「ボクのスキルならっ、スパチャブースト”緑”!」

[ディル:闇の衣]

 そのシステムメッセージが流れると同時に、ディルの全身を漆黒のマントが覆った。

「——っ、ぐっ!」

 スキルを駆使して無理矢理襲い掛かる爪の一撃を受け止めたディルは、両手を突き出して決意の言葉を誓う。


「誓うさ。ボクのスパチャブースト”赤”の鍵は、セイレイ君の存在そのものなんだ!彼が居るからこそ、ボクの、皆の世界は煌めくんだ!どれだけ人々を混乱させようが、ボクのことを信じてくれた彼を裏切れるものか!」


[information

 ディルがスパチャブースト”赤”を獲得しました。

 赤:堕天の光 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]

 流れるシステムメッセージ。

 それと同時に、ディルの両手に全ての光を飲み込むような、底知れぬ闇が広がっていく。

 ”僧侶”という二つ名が似合わない存在の彼だからこそ、持ち合わせる誓いがあった。

「いつかの日に言っただろう千戸 誠司!死とは”二度と元には戻らない”ことだとっっ!キミのせいでボクは希望にならざるを得なかったんだ!!その行動の代償を今、払ってもらうよ!!スパチャブースト”赤”っっっっ!!」

[ディル:堕天の光]

 鋭く収束した漆黒の光が、稲妻を帯びる。レーザーの如く伸びる光が、ユグドラシルを覆う樹根を貫いた。

「グルアアアアアアアアアアッ!!!!」

 これまでにないほどの激痛に悶え苦しむユグドラシル。

 それから、怒り狂ったままに激しく爪をディル目掛けて振り下ろした。

「ディルっ!!」

 俺は慌ててディルに呼びかけるが、それよりもユグドラシルの振り下ろした爪が彼を斬り裂くのが先だった。

「――世界に光を」

 直撃を喰らう寸前、ディルはそう呟いた。

 

 瞬く間に、ディルの体力ゲージが全損する。

 漆黒の翼がホログラムとなり、虚空に溶けていく。


「っ、スパチャブースト”青”っ!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 俺は何のためらいもなく宣告(コール)し、大船から飛び降りた。

 背後から秋狐の「あっ、馬鹿っ!?」という悲鳴にも似た叫び声が聞こえたが、気にする余裕はない。


 落下していくディルの身体を、空中で受け止めた。

「……ディル、ありがとうな」

 腹部から血を撒き散らしながら、急速に体温を奪われていくディルの亡骸を抱きしめる。


「セイレイ君ッ!」

 徐々に近づく地面を前に、ストーは俺達を掴み上げた。

 そのまま高く飛翔し、俺達を大船に連れ戻す。


「ディル君……本当に君は、セーちゃんの為なら何でもするんだね。すごいよ」

 クウリは切なさの籠った瞳で、亡骸となった彼の頬を撫でる。

 俺はもう一度冷たくなったディルを抱きしめて、宣告(コール)した。

「……スパチャブースト”緑”。とりあえずお前は休んでいてくれ」

[セイレイ:自動回復]

 そのシステムメッセージが流れるのと同時に彼の全身を緑色の光が包んだ。

 そして、そのままディルの身体を静かに横たわらせる。


「……活路、見えたかも知れない」

 ホズミは、ディルが放った一撃に悶え苦しむユグドラシルに視線を送りながら呟いた。

 一度自分の持つ赤色の杖に視線を送った後、次に白のドローンに視線を送る。

 正確には、ドローンを介して配信を観ている視聴者に向けて、だ。


「皆、思い出して。私達の配信の中で、もっとも貫通力の高いスキルは何だった?」

 彼女がそう問いかけると、己の記憶を手繰り寄せるようにコメント欄が流れる。

[何、って。全部覚えてない……]

[セイレイのスキルじゃないよな。火力は高いけど……]

[支援射撃?]

[亡者の果てに通用しなかっただろ。雨天の攻撃の方が貫通してた]

[でも、ユグドラシルには通用していない]

[noise姐さんの金色の矛かな]

[俺もそれしか思い浮かばなかった]

 

 しかしそんな中で。1つのコメントが流れた。


[魔王セージに殺された配信者のライト。彼の使っていたスキル”光線銃”は、亡者の果てに唯一通用したスキルだった。魔王セージの防御を貫いた唯一のスキルもそれだ]


 答えを示すコメントが流れ、ホズミはこくりと頷いた。

「そう、”光線銃”……それが希望の光。ディルの”堕天の光”を見て思い出したよ。これなら、行けるはず」

 それから、ホズミは右手に持つ赤色の杖を握りしめて叫ぶ。


「誰一人、私達の配信に無駄な人はいないっ!皆の力を借りて、困難を乗り越えるんだっ!スパチャブースト”赤”!!」

[ホズミ:形状変化]

 ホズミの持つ杖が、銃の形に変化していく。


 To Be Continued……

スプラやってるんでもしかしたら更新遅れるかもです

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:堕天の光

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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