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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
298/322

【第百四十三話(1)】暗雲切り払う戦い(前編)

[桜が枯れていく]

[終わったんだな、魔王の世界は]

[ありがとう、ほんとうにありがとう]

 コメント欄を介して、俺は世界から桜の木々が消失したことを知る。

 ついに、魔王との決戦は終わったんだ。

 

 魔王セージは世界から消失した。

 魔王城を構築していたホログラムが崩壊し、やがて元の瓦礫と化した住宅街の姿に戻っていく。

「……終わったん、ですね」

 身体を休めていた雨天は、よろよろと立ち上がってこっちにやってきた。

 

 

 彼はもう、漆黒の鎧などには身を包んでいない。よれよれのカッターシャツと、伸びきったズボンを着こむただの中年男性だ。

 俺は、片膝をついた元魔王——千戸 誠司に語り掛ける。

「なあ、センセー。何でこんなことをした」

「……俺だって、家族がいた。守りたかった、救いたかった」

 答えになっていない言葉。

 だが、なんとなく意味は理解できる気がした。


 家族を救いたかったのだろう。その手段として、千戸は自らを魔王の姿へと変えた。

「……本当に、取り返しのつかないことをした。してしまった……だが、俺には……これしか……」

 千戸の瞳から、溢れんばかりの涙が零れるのが見えた。

 

 どうすればいいのか分からない。

「……っ……」

 だから、俺は静かに千戸を抱きしめる。

「センセー。大人の事情ってやつ、なんだろ?助けたかったはずの家族も助けられず、Tenmeiの事情に振り回されてさ……」

「……ああ、そうだ。大切な時間を取り戻すには、魔王になるしかなかったんだ」

「辛いよな。大人だから、何も言えなくなるって……」

「セイレイも理解しただろう。責任を抱えるとは、そういうことなんだ……」

 千戸は、それ以上何も言わなかった。

 大粒の涙を零し、静かに俺の胸で肩を震わせる。


 ——もう、魔王との戦いは終わったんだ。

 そう思っていたのに。



『くく、素晴らしい。実に見事な配信だったぞ、千戸 誠司』



「……っ!?」

 突如として頭上から鳴り響く声。

 誰の声なのか、俺達は瞬時に理解した。

「瀬川 沙羅っ!何の用だっ!!」


 実の姉——瀬川 沙羅に向けて、俺は怒鳴り声を浴びせる。

 だが、彼女は「くくっ」と余裕の笑みを絶やすことなく言葉を続けた。


『だが、大事な要素が抜けているとは思わないか?』


「大事な要素……?」

 一体何を言っているのか。

 だが、千戸はその言葉の意味を理解したらしい。


「……すまない、セイレイ。俺を、終わらせてくれ」

 千戸は、突如として俺を突き飛ばした。

「セイレイ君っ!?」

 ホズミは慌てて俺を受け止める。

 千戸は瓦礫の中でゆらりと立ち上がり、悲しみと喜びの混ざった笑みを浮かべた。

「今度こそ、正式に卒業だな。おめでとう、瀬川 怜輝。前園 穂澄……」

「何を、何を言って……センセー、私まだちゃんと話してないよ……」

 ホズミは繕った笑みを浮かべたまま、声を震わせる。

 少しでも気を抜けば涙が溢れそうなのをぐっと堪え、千戸から目を逸らさない。

 だが、千戸は柔らかな笑みを浮かべるのみだった。

「穂澄。お前にも辛い思いをさせた……これからも、セイレイの傍に居てやってくれ」

「センセー……っ……」

 ホズミは千戸へと呼びかける。

 彼が何か言葉を返す前に、瀬川 沙羅の声が空から響いた。



『魔王ならば、第二形態があるものだろう?』



 千戸の全身が、再び大きくホログラムに包まれる。

「センセー、なあ、センセー……!!」

 俺は千戸に向けて必死に呼びかける。

「千戸先生……っ!」

 noiseは恩師に向けて、届かない声を懸命に届かせようと叫ぶ。

「なんで、こんなことするの……沙羅姉……っ!!」

 クウリは空に向けて、瀬川 沙羅に訴えかける。

『……ふざけないで。本当に、ふざけないでよ……!』

 ドローンの姿をした秋狐は、煮え滾るような感情を押し殺した呟きをスピーカーから漏らす。


「いやああああああっ!!センセー!!せんせえええええええっ!!!!」

 禍々しい漆黒の歪みに包まれた千戸に向けて、ホズミは張り裂けんばかりの大声で叫んだ。

「……最後まで、ごめんな」

 そうぽつりと謝る千戸の声が響いたのを最後に、彼の声は届かなくなった。


 [information

 魔王セージは削除されました]


 端的で、無慈悲なメッセージが流れる。

 

 やがて、千戸を包み込んだ漆黒の歪みは徐々に膨張していく。肥大する歪みに、世界は再び書き換えられる。

 その歪みは俺達まで飲み込まんと襲い掛かってきた。

 「……っ、まずい!逃げろ!」

 身の危険を感じた俺は慌てて皆に呼びかけ、それから懸命に住宅街跡地から離れる。

 そんな時、叫び声が響いた。


「みんなっ!!こっち!!」

 聞きなれた少女の声。

「……道音っ!?」

 漆黒のワンピースに、真紅のコートを羽織ったフック船長の姿となった道音が俺達に手を差し伸べる。

 彼女の背後で存在感を表していたのは、巨大な大船だった。

「早く乗り込んでっ!」

「分かったっ!!」

 道音の指示に従い、俺達はすぐさま大船に乗り込む。

 

 間一髪だった。

 漆黒の歪みは俺達が先刻まで立っていた場所を飲み込んだ。

 ふわりと浮かび上がる大船は、今までに見たことのない速度で浮上する。

「……っ、はっ……セン、セー……なんで……」

 懸命に深呼吸を繰り返す俺に、一人の人物が声を掛けてきた。

「先輩、久しぶり……なんて言ってる余裕ないよね」

 俺の顔を覗き込む一人の少女。赤みがかったセミロングの黒髪に、可愛らしいサクランボを模した髪飾りが揺れる。

「アラン、か」

「いきなり船出先輩に呼ばれたと思ったら……すごいことになっちゃったね」

 遊び人アランは、大船の縁に手を乗せてそう呟いた。

 

 そんな彼女の隣に立つのは、これまた見慣れた人影だ。

「……よう、ディル。久しぶりだな」

「ん?ああ、久しぶり。セイレイ君……とんでもないことに巻き込まれたね」

 長らく俺達と行動を共にしていたディル。そんな彼の表情は、怒りと悲しさの入り混じった色をしていた。

 歯を食いしばりながら、再び彼は外の景色に視線を送る。

「……千戸 誠司の意思をも弄ぶなんて。自分のオリジナルとは言え、反吐が出るよ」

「全くだ」

 俺がそう言葉を返すと、ディルは俺達をぐるりと見渡した。

「休んでいる暇はない。再び配信の準備に取り掛かるよ」

「……あ、うん」

 ホズミは、今だ放心状態と言った様子だ。

 上の空で返すホズミに対し、ディルは真剣な表情で語り掛ける。

「ホズミちゃん、ショックなのは分かるけど。千戸はこんな姿でいることを望まないだろう?終わらせるよ、全部」

「……っ」

 ディルは、あえて残酷な言葉選びをする。

 もう二度と千戸は帰ってこない、そう端的に告げられた言葉にホズミの瞳は絶望に揺れる。

 

 だが、ホズミは気丈だった。深く深呼吸した後、ゆっくりと顔を上げる。

「……分かった、ディルの言う通りだ。配信の企画内容を教えて」

「総力戦だよ。ボク達配信者全員の力で、魔王セージを打ち倒すんだ」

 

 再び船の外に視線を送れば、魔王セージを飲み込んだ巨大な歪みが形を変えているのが見えた。

 それは、やがて巨大なドラゴンを作り出す。


 ホズミはその巨大なドラゴンを見た後、再び視線をディルに戻した。

「総力戦って言ったって、配信メンバーの制限があるでしょ。それにスパチャの問題だって」

「私がドローンの姿になる。Relive配信のアカウントを使うんだ」

 事前にその反論意見を予想していたのだろう。道音はホズミの言葉を遮って、そう告げた。


 それから、道音はちらりとアランに視線を送る。

「で、スパチャの問題は……アランちゃんが解決してくれる」

「どういうこと?」

 道音に話を促され、アランはポケットから一台のスマートフォンを取り出した。

 それは、彼女の父親——荒川 東二の遺品であるスマートフォンだ。

「パパの貯金を使います。それなら、スパチャブーストだって遠慮なく使えます」

「用意周到、だね」

「ディル先輩と船出先輩のアイデアですっ」

 アランは照れくさそうに笑みを零した後、雨天を手招きした。

「雨天ちゃんはこっちにおいでっ」

「あっ、はいっ」

 呼ばれた雨天はそそくさとアランの隣に駆け寄った。

「Relive配信には私……遊び人アラン、武闘家ストー、僧侶ディル、魔物使い雨天 水萌が入ります」

「で、Live配信は俺……勇者セイレイ、魔法使いホズミ、盗賊noise、戦士クウリが入るってことだな」

 俺とアランはお互いに頷き合う。


 俺達の準備を待っていたかのように、魔王セージだったもの——巨大な漆黒のドラゴンは俺達の大船に高度を合わせるように飛翔。


「グルゥオオオオオオオオ!!!!」

 激しい咆哮を響かせながら、そのドラゴンは俺達を威嚇した。

 ドラゴンの周囲に舞い上がる巨大な瓦礫。それはドラゴンを守るように、旋回しつつ浮遊する。


 巨大なドラゴンの咆哮を受けてなお、道音は怯むことなく叫ぶ。

「皆、始めるよ。私達はもう一回生きるんだ。それが、Live配信の役目だからっ!!」

 

 勇者セイレイこと、瀬川 怜輝。

 魔法使いホズミこと、前園 穂澄。

 盗賊noiseこと、一ノ瀬 有紀。

 戦士クウリこと、青菜 空莉。

 遊び人アランこと、荒川 蘭。

 武闘家ストーこと、須藤 來夢。

 僧侶ディルこと、瀬川 沙羅の人格をコピーした存在。

 魔物使いこと、雨天 水萌。

 白のドローンかつ吟遊詩人秋狐こと、秋城 紺。

 漆黒のドローンこと、船出 道音。


 全ての配信者が集う大船。

 失われた世界を取り戻す為に。もう二度と、悲しみを生み出さないように。

「俺達は、未来を作るっ!」


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:竜牙

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

ストー

青:Core Jet

緑:Core Gun

黄:Mode Change

赤:千紫万紅

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

赤:???

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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