【第百四十二話(2)】最後の配信(後編)
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・戦士クウリ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
【ドローン操作】
・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)
「交渉決裂だな」
魔王セージは不敵な笑みを浮かべながら、頭上目掛けて振り下ろす一撃を容易く受け止めて見せた。
地面に着地した後、ちらりと駆け寄ってくるnoiseに視線を送る。
「セイレイ、下がってろ!」
「頼む!」
俺と入れ替わる形でnoiseが割り入る。彼女は逆手に持った金色の短剣を振るい、魔王の喉元を狙って斬りかかった。
だが、魔王は後ろに身を引いて容易くそれを躱して見せる。
「千戸先生っ、どうして……どうしてですかっ!」
noiseは高ぶる感情を抑えることが出来ず、魔王セージに言葉をぶつける。
「一ノ瀬は理解しなくても良いことだ」
だが、魔王は全く聞く耳を持たない。
「……ちっ」
noiseは忌々しげに舌打ちするが、攻撃の手は休めない。
卓越した戦闘技術を駆使して、存分に返す刃で流星の如き連撃を放つ。
しかし魔王は全ての攻撃を予期しているかのように、あらゆる方向から襲い掛かる攻撃をいとも容易く捌き、躱し、いなしていく。
「どうして……どうしてっ!」
noiseの表情に焦りが滲む。
「セーちゃん、交代するね」
クウリは優しく俺の肩を叩いてそう告げた。
「頼む」
俺はクウリにゴーサインを出した。
すると、彼は悠長に欠伸しながら大鎌を顕現させる。
身体増強効果を持ったヘアピンを一度触った後、大鎌を両手に持ち直した。
それから体勢を低くして、クウリはダッシュの構えを取る。
「よっと」
力強く大地を蹴り上げた。瞬く間に舞い上がる土煙をバックに、駆け出したクウリは大鎌を振りかぶりながら叫ぶ。
「有紀姉!僕の番っ!」
「……分かった」
noiseも埒が明かないと判断したのだろう。素早くバックステップし、魔王から距離を取って戦線から離脱する。
「やあああああっ!」
クウリが声を上げて横薙ぎに振るう一閃の軌跡は、魔王の胴元を捉える。
だが。
「ふん、これが我に楯突く者の力か?四天王ともあろう者が……ぬるいな」
そう呟いた後、魔王は右手を高く掲げた。すると、突如として足元の大理石を穿ち、蔦が伸びていく。
高く伸びる蔦はクウリの振るう大鎌を容易く受け止め、彼の一閃を妨害する。
「……だめかぁ」
クウリは残念そうに呟いた後、大鎌から手を離す。それから、困ったように笑いつつホズミへと視線を送る。
「ええー……?ホズちゃん、なんとか出来る?」
すると、ホズミは呆れたようにため息を吐きながら杖を持ち直した。
「はいはい……クウリ君は下がってね」
「うんっ」
ホズミの指示に素直に従うクウリ。
彼がそそくさと離れる姿にホズミは一度苦笑いを浮かべた後、両手で持った杖を正面に突き出した。
すると、瞬く間に彼女の足元を囲うように魔法陣が形成される。
プログラミング言語が光の文字として浮かび上がり、彼女の魔法を構築していく。
「多分……これで、行けると……思うんだけ、どっ!!放て!!」
[ホズミ:炎弾]
システムメッセージが表示されるのと同時に、ホズミの杖先から鋭い矢の如く炎弾が放たれた。それは魔王を守る盾のように伸びた蔦の束へと襲い掛かる。
炎弾が蔦に直撃すると同時に、激しく土煙が舞い上がった。
衝撃波の如く襲い掛かる爆風が、ホズミが被る迷彩柄の帽子から覗く櫛通りの良い黒髪をなびかせる。
その中で、巻き起こった炎が蔦を飲み込んだ。やがて支持力を失った蔦から、するりと大鎌が重力に従うように滑り落ちる。
クウリは地面に落下する寸前で大鎌をキャッチ。ホズミへとにこりと微笑みながら感謝の言葉を告げた。
「ありがとー」
「どういたしまして……でも、光の粒子に変えた方が早かったよね」
「あっ」
ホズミに指摘されて気付いたようだ。クウリは恥ずかしそうに苦笑を漏らした後、そそくさとその場を離れた。
「……はは。セイレイ君、今だよ」
苦笑を漏らしながら、次は俺に視線を送る。
見せ場を俺に譲るつもりなのだろう。
ならば、期待に応えないわけには行かない。
土煙に視界を奪われている今がチャンスだ。大地を蹴り上げて、俺は駆け出す。
加速する視界の中で、宣告を重ねる。
「スパチャブースト”黄”」
[セイレイ:雷纏]
そのシステムメッセージが流れると同時に、俺の全身に青白い稲妻が迸った。大気中へと散らす稲妻が、大地を這う樹根を焦がしていく。
俺はそのまま、未だ土煙の中に見えない魔王へと一直線に駆け抜ける。
「小癪な……!」
魔王セージは、忌々しげにそう呟く。
やがて土煙も晴れ上がり、焦りに滲んだ表情が見える。
配信内においては、勇者と魔王なのだろう。
だが、俺は千戸 誠司一個人に向けて言葉をぶつけるべきなのだと思っていた。
「——誓う」
やがて、俺は魔王セージの懐に入り込んだ。
そのまま振るう一閃に、魔王は大きく怯む。
「……セイレイっ……!」
「センセー。俺は誓うよ」
体勢の崩した魔王セージに対し、俺は誓いの言葉を掛ける。最後に残したこの覚醒の誓いは、センセーにこそ聞いて欲しかったから。
——十年間、ずっと。
俺を育ててくれた千戸 誠司へ送る、感謝の言葉だ。
「作られた存在である俺に、沢山の言葉を教えてくれた。沢山の感情を教えてくれた。無知で、純粋で、何も知らなかった俺を人間にしてくれたのは、センセーだよ」
「……」
右手の甲にまばゆい光が生み出されるのを感じる。抑えきれない感情が熱を帯び、それら全てはファルシオンを持つ右手に移っていく。
やがて、それは一つの紋章を作り出した。
龍を象った紋章が、俺の右手に宿る。
紛れもない、勇者の刻印だ。
「俺を人間にしてくれたのは、アンタなんだよっ!なんでそれに気づかねえっ!だから俺は誓う!全ての人々の想いを受けた、世界を救う勇者として!!誓うんだっ!!!!」
[information
セイレイがスパチャブースト”赤”を獲得しました
赤:竜牙 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]
[いけーーーー!!!!]
[勇者!!]
[俺達の世界を取り戻せ!!!!]
[世界の半分だけじゃない、全部俺達の世界なんだ]
[勇者様!!]
[頼んだ!]
[真っ暗な世界に天明を!!!!]
全ての人々の想いが、この一撃に宿る。
ホログラムと言う虚構の存在から始まったはずの勇者セイレイ。それはいつしか、本物の勇者になっていた。
俺の隣にふわりと浮かび上がる秋狐は叫ぶ。
『いけええええっっっ!!君は偽物じゃなんかない、本物の勇者なんだあああぁぁっ!!』
噓から出た実。
ふと、秋狐のキャッチコピーを思い出す。
Live配信は、いつしか本物を生み出していた。
楽しくてしょうがない。
思わずニヤリと笑みが零れる。そしてそのまま、俺は魔王の首を斬り裂かんとファルシオンを大降りに構え、高らかに宣告した。
「スパチャブースト”赤”ああああああっっっ!!!!」
[セイレイ:竜牙]
より一層強く輝く紋章。それは俺の全身を包み込む稲妻を介して、世界に光を轟かせる。
爆ぜる稲妻が、魔王の首元を貫く。
だが、奪うのは魔王セージの命ではない。
「戻ってこい!戻って来いよセンセーっ!!お前だって、人間だろうがっっっ!!」
「……セイレイ……!!」
魔王の姿に書き換えられたホログラムが崩壊する。
シルエットが書き換わる。魔王セージとしての姿を消していく。
全ては俺が。勇者セイレイが、取り戻すんだ。
もう二度と、追憶だけの存在になんてさせるものか。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
赤:竜牙
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
赤:???
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:純水の障壁
黄:水纏
赤:クラーケンの触手