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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
296/322

【第百四十二話(1)】最後の配信(前編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・戦士クウリ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

【ドローン操作】

・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)

 かつてストーが来客の対応を務めるリーダーとしての役目を担っていた海の家集落。

 セイレイ達の配信における最古残の視聴者達は、画面を食い入るように眺めていた。

「あの時の子供達が、まさか世界を背負うことになるなんて……」

「予想だにしませんでしたね。もう、今となっては私達は応援することしかできません」

 集落の人々は互いに顔を見合わせる。

 それから、コクリと頷き合い、再び小さなモニターに意識を集中させることにした。


「俺達は、もう勇者セイレイ君の配信に、全てを賭けるしかないんだ。頼んだよ」


 ----


 かつて記憶を失っていた空莉を育ててくれた、山奥の集落。

 空莉を大切に育ててくれた初老の男性は、スマートフォンをじっと見つめていた。

 画面に映る勇者パーティは、スケルトンの群れに打ち勝つべく互いに支え合いながら力を振るっている。

 

 小さな画面を眺めながら、男性は穏やかに微笑んだ。

「空莉、本当に立派に育ったね。本当に、誇らしいよ」

 感慨深そうに、そうぽつりと呟く。

 集落の人々は皆、セイレイ達の配信を食い入るように見ていた。

 世界を救う、勇者パーティの配信を。


「瀬川君……いや、勇者セイレイ君。皆に未来を見せてあげてください」


 ----


 世界に干渉する戦いだというのに、大人達は皆無力だった。

 自らの危険を顧みず、命を賭して行う配信。

 ただの好奇心によって名付けられた、名ばかりの「勇者パーティ」……本来であれば、争いなど知らぬ平穏な世界で生きる純粋な少年少女であったはずだ。

 しかし、今はそんな彼等は求められるがままに世界を取り戻す戦いに身を投じることとなった。

 そしていつしか、名ばかりだったはずの勇者パーティは、本物の勇者となっていた。


 だからこそ……彼らが訪れた集落の者達を含めた世界の皆は、スパチャを送ることでしか彼らを助けることが出来ない。

 これは、小さなモニター上で繰り広げられる、壮絶な戦いと言えるだろう。


 ★★★☆


 体力の尽きた雨天を置いて進んだ先に、それはあった。

「……明らかに、今までと違うな」

 目の前に立ちはだかるのは、俺らの身長をゆうに上回る巨大な門だった。重厚感のある、禍々しい色合いのそれが、まるで拒絶するかの如く立ちはだかる。


 そんな俺達の姿を捉えるように、ドローンの姿となった秋狐が忙しなく、ぐるぐると飛び回る。ドローンに備え付けられたカメラが、あらゆるアングルから俺達の姿を映し出す。

 眼前に表示された、ホログラムで構築されたモニターに視線を送れば、俺達を応援するコメントが次から次へと流れていた。


[いよいよ因縁の決戦か]

[アーカイブ追ってきました]

[頑張ってください!]

[情けないがお前達に託すしかない、絶対に生きて帰ってこい]

[ずっとファンです]

[お願いします勇者様、どうかこの世界を取り返してください。でなければ娘もあの世で報われません]

[死んで欲しくないです]

[俺達の世界を魔物に奪われるな]


 白いコメントフレームに囲まれたその文字列が、数多の人々の思いを乗せて踊る。

 その中に異なる色のフレームに囲まれたものがあった。


[これを使え!! ¥50000]

[世界を救ってください ¥20000]

[私を現実に返してください。これは未だこの悪夢から醒めることのない私からです ¥50000]

[微力だけど、使って ¥5000]


 青、緑、黄、赤、と様々な色のコメントフレームに彩られたものが流れている。”スーパーチャット”と呼ばれる、俺達の力の源だ。

 沢山の想いが乗せられたコメントに、思わず感極まるのを感じる。瞳が潤むのを自覚しながらも、無理に笑顔を作って誤魔化す。

 それから、深呼吸を繰り返した後、巨大な門に体重を預けた。


 きっと、この先に——。

「皆……ありがとう。俺達は魔王を倒すよ。先生……ライト先生も、きっと空の上で応援しているはずだから」

 魔王を倒す、という表現が合っているのかは分からない。ただ、魔王セージの行動は正しいとは思えなかった。

 止めなければいけない。

 その想いだけが、今俺を突き動かす理由だ。

 俺の言葉を聞いた仲間達が、それぞれの武器を用意しているのを気配で感じ取る。

 noiseは腰に携えた鞘から金色の短剣を引き抜いた。

 ホズミは両手杖を大切そうに抱える。

 クウリは大鎌も両手で構えた後、ヘアピンの位置を調整したようだ。


 やがて、俺達を取り巻くように動いていた秋狐が操作するドローンは、ぴたりと俺達の頭上で制止した。

『さて、皆。世界に新しく1ページを刻む準備は出来た?』

 もう、とっくに覚悟は出来ている。

 俺達は、もう迷わない。

 改めて大きく深呼吸し、新たな希望に向けて笑顔を作る。


 脳裏に浮かぶのは、スケッチブックに記されたいくつもの追憶の世界。

 これまでに存在した世界を描いてきた。ならば、俺はこれから生み出される世界を描かなければ。


「大丈夫だ!世界を描く覚悟は出来てる!」

『分かった、それじゃあ……最終配信”魔王戦”開始だね!!』

 秋狐はそう大々的に宣言する。

 その掛け声を開始のサインとして、俺は扉に全体重を預ける。悲鳴の如く軋む音が、周囲に重く響き渡った。


 魔王セージの待つ王室に広がる景色は、まるで大樹の根元と言ったところだろうか。大理石の敷き詰められた室内の中央に(そび)え立つ一本の桜の木が存在感を示していた。

 ひらひらと、桜の花弁が大理石の上に舞い落ちる。

 桜の木から伸びる樹根が、大理石の上を、石材で構成された壁を覆いつくしていた。


 俺達は周囲を警戒しながら、王室の先へと進む。

 やがて俺達の視線は、蔦で覆いつくされた玉座に足を組んで深く腰掛ける人物へと送られた。


 ——そう、魔王セージ本人だ。

 

 これも、彼なりの配信に向けた演出なのだろう。

 魔王はゆっくりと身体を起こし、俺達勇者一行に冷笑を浴びせた。

「来たか、勇者よ」

 短く告げたその一言は、重く、鋭い威圧感を放つ。


「……っ……」

 分かってはいても、放つ威圧感に思わず身震いする。

 しかし、そんな意識すら消し飛ばされそうなほどの威圧感を受けてなお、noiseは毅然とした表情を崩さずに歩みを進めた。

 やがて、彼女は右手に携えた短剣の切っ先を魔王へと向ける。金色に輝く短剣が、陰鬱とした魔王城内でも強く光り輝いていた。


「私……いや、私達はお前を倒し、世界を取り戻す」

 たった一人で、魔災に墜ちた世界を生きてきたnoise。彼女はあえて、”私達”と言い直した。

 皆と共に、配信の中で様々な世界を見て来たから。もう、一人ではないから。

 noiseは、覚悟を決めた表情を浮かべて宣言した。


「そして……私は私であり続けるんだ!!」

 かつて女性の姿となった一ノ瀬を助けてくれた千戸 誠司。彼は「一ノ瀬が一ノ瀬らしく生きる」ことが出来るように手助けしてくれた。

 その感謝の気持ちを込めて、noiseはそう叫ぶ。


 ——一瞬、魔王セージの瞳が穏やかに微笑んだ気がした。

 だが、それも束の間のこと。すぐに魔王としての威厳ある表情へと戻り、不敵な笑みを零す。

「我を倒す、か……くく……!ははははははははは!!!!」

「何が可笑しい!!」

 noiseは魔王セージの高笑いに対し、激しい剣幕を返す。

 

 一触即発と言った雰囲気で、腰を低く構えて突撃の体勢を取るnoise。彼女に対し、魔王セージは右掌を向け、宥めるような動作を繰り出した。

 「はは……まあ待て。四天王を倒したお前達を我は高く評価しているのだ」

 そう言って、次に鋭い眼光を俺に向ける。俺の一挙一動を見逃すまいと観察する目つきに、思わず息を呑んだ。

「では、勇者よ。まずは提案と行こうじゃないか」

「提案……?」

 一体、この期に及んで何を提案しようというのか。

 怪訝な表情を作りながら、俺は魔王の続く言葉を待つ。


「我の元へと下らないか?我の(しもべ)となれば、世界の半分をお前にやろう」

「は……?」

 一体魔王は何を言っているのか。

 何故、ゲームの常套句をここで話すというのか。

 理解できずに眉をひそめていると、魔王は静かに話を続けた。

「勇者セイレイ。お前は、配信を介して沢山の世界を見てきたな」

「……そうだな」

「俺は、瀬川 沙羅の力を借りて……世界を書き換えるつもりだ」

 その言葉に、思考がフリーズする。

 だが、考えるのを止める訳には行かない。そう自分に言い聞かせ、何とか言葉を返す。

「……何の冗談を言っているんだ?世界を、書き換える?」

「そうだ」

「お前、一人でか?」

「いいや違う。だから、お前を誘っているというんだ。沢山の人々と接して、沢山の人々の力を借りてきた勇者セイレイ。二人で、世界を書き換えるんだ」

「……」

 それは、願ってもない話だ。

 事実として瀬川 沙羅には、それを可能にするだけの力を持っている。

 ”前提の書き換え”を活用すれば、勇者セイレイの、魔王セージの望む世界へと書き換えることだってできるはずだ。

 魔災に伴い失った人でさえも蘇らせることが出来るのだろう。

 ——だが、大事なことが抜けている。


「……魔王の世界でもねえ。俺の世界でもねえ……」

 心の奥底から、怒りが滲み出るのを感じた。

「セイレイ君、突っ走っちゃダメ!」

 ホズミは慌てて制止の言葉を掛けるが、もう我慢の限界だった。


「スパチャブースト”青”……」 

 留まることを知らない怒りの奔流に身を任せて、静かに宣告(コール)する。

 すると俺の期待に応えるように、両脚に淡く、青い光が纏い始めた。

 [セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 流れるシステムメッセージが流れると同時に、地面を蹴り上げて高く跳躍。ファルシオンを両手で握り、迷いなく上段から斬りかかった。


「元々テメェの世界じゃねえだろうがっ!!!!俺達の世界だ!!!!」

 そう、たった一個人の考えだけで決めていい世界ではない。

 皆で作り上げる世界だった。皆で刻む配信だった。

 魔王セージにも、それを理解してもらわないといけない。


 教師と、教え子。

 俺達は、勇者と魔王として相対する。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:???

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:クラーケンの触手

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