【第百四十一話(2)】活路を切り開くために(後編)
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・戦士クウリ
・盗賊noise
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)
・魔法使いホズミ
[こんなところで終わらないで 50000円]
[負けるな 50000円]
[頑張って、まだスケルトンの群れは残ってる]
[お前達が俺達の希望なんだ]
[雨天ちゃんだって、もう立派な勇者パーティの一人だよ]
私達勇者パーティを応援する、沢山のコメントが流れているのが見えます。
正直、コメント欄を見ると胸の奥に重しがのしかかったような気分になります。
全員の期待に応えることが出来るのかな。負けちゃったらどうしよう。期待に応えられなかったらどうしよう。
……なんて、今でも不安に思います。
でも、ふと左手に握った小さな魔石を見ると、そんな不安を払拭してくれるんです。
私達は、これまで沢山の人達と出会ってきました。
皆の期待を背負って、今ここに立っているんです。
そんな期待を、裏切れません。
「……私は、セイレイ君達と敵対していた当初。魔物の本質は依存だって、言いました。変わることが怖くて、怯えて、魔物になってしまいたい、もう何も感じたくないって、本気で思っていたんです」
私の内側に秘めていた想いを、配信を介して伝えていきます。
皆にも私と言う存在を認めて欲しいから。雨天 水萌という、たった一人のちっぽけな配信者を。
——自分一人じゃ何もできない、ちっぽけな存在だってことを。
気づけば、私を囲うように、畝りを帯びた水流が生み出されていました。
懐かしさすら感じるその光景に、思わず心の奥底が暖かくなります。
「でも、助けてくれる人が居たんです。本心から私にとっての最善を考えて、手を差し伸べてくれる人が居たんです。皆の期待を背負って今、私はここに立っています。無力だった私も、配信者になれたんですっ」
[information
雨天 水萌がスパチャブースト”赤”を獲得しました。
赤:クラーケンの触手 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]
表示されるシステムメッセージに、感極まる想いでした。
失ったはずの力が、今再び私の元に戻ってきたんだって。
……おかえり。
「だからっ!今度は私が、皆に手を差し伸べるんですっ!!スパチャブースト”赤”あああああっ!!」
[雨天:クラーケンの触手]
宣告すると同時に、私の周囲に無数のクラーケンの触手が大地を貫いて顕現しました。
その触手の中心に立った私は、槍を両手で持って前傾姿勢を取ります。
皆さん、見ていてください。皆が与えてくれたものを、お返しする時間です。
続いて、私は再び宣告を重ねます。
「スパチャブースト”青”っ!」
[雨天:スタイルチェンジ]
流れるシステムメッセージを確認してから、私は大地を蹴り上げてスケルトンの群れへと駆け出します。
「モードチェンジ、ゴブリンっ!」
次の瞬間には、地面からふわりと浮いた気分になりました。青い光を纏って身軽になった私は、勢いのままにスケルトンの群れへと突っ込みます。
「たあああああああっ!」
まずは、群れの中心にいたスケルトンの核を槍で貫きます。次の瞬間には、スケルトンを繋ぎ止めていた骨の関節が外れ、バラバラと地面に散らばりました。
「雨天ッ!危ない!」
後方ではセイレイ君がもどかしそうにファルシオンを握りながら、そう叫んでいるのが見えます。
大丈夫です、見えていますっ!
「力に応えて!クラーケンっ!」
私はクラーケンの触手に向けてそう叫びました。
その想いに応えるように、私の背後から斬りかかっていたスケルトンをクラーケンは叩きつけます。がしゃりと骨が叩きつけられる音と、舞い上がる灰燼にスケルトンは絶命したと判断。確認すらせず、更に群れの奥深くに潜り込みます。
やがてスケルトンの群れのうち一体……杖を持ったスケルトンが、私目掛けて魔法を放とうとしているのが見えました。
恐らく、ホズミちゃんと同じスキル——”炎弾”でしょう。
「スパチャブースト”緑”っ!」
それを予期して、私は再び左手を突き出しながら宣告を重ねます。
[雨天:純水の障壁]
もはや何度も放ってきた、巨大な水滴が私の眼前に盾の如く生み出されました。
「オワ、ラセ……テ」
スケルトンは、嘆きの言葉と共に炎弾を放ちます。鋭い矢の如く襲い掛かる火の玉は、私が顕現させた巨大な水滴に一直線に吸い込まれていきました。
水滴の中に集められた”炎弾”が、水滴の中で蒸気となっていくのを感じます。
集めた想いが、水滴の中で膨張していきます。
「今、お返ししますねっ!」
私はそう叫び”純水の障壁”を解放しました。すると、高熱の蒸気となったそれが、一騎にスケルトンを飲み込みます。
高熱の蒸気に当てられたスケルトンは、各々苦悶の声を漏らしながら、地面に片膝をつくのが見えました。
もう、ここまで来たら出し惜しみなんてしません。
「……っ、はっ……ぜっ……」
ですが、もう体力も限界に近いようです。
なので、最後のひと踏ん張りと行きましょう。
「……は、っ、スパチャブースト”青”……っ!」
[雨天:スタイルチェンジ]
再び、そのスキルを発動させます。ここまで来たらラストスパートですっ。
全力で、飛ばします……っ。
「モー、ドチェンジ……っ、オー……ガ……」
掠れた声でそう呼びかけると、私の想いに応えるように槍の穂先に青い光が纏い始めました。
残った体力を絞り出すように、触手と共にスケルトンに立ち向かいます。
振るう触手の一撃が、スケルトンの群れを遠くまで弾き飛ばしました。
叩きつける槍の一撃が、スケルトンの頭蓋骨を粉砕します。
「……っ、スパチャブースト”黄”……っ」
[雨天:水纏]
更に宣告を重ねると、私を守るように水流が生み出されました。私の意思に従うように、荒れ狂う水流がスケルトンを次から次に飲み込みます。
もう、まともに声を出すことすら出来ません。
呼吸すらまともに出来ているのか怪しいです。
「……っ、は……っ、さい、ご……です……」
私は、残る力を振り絞って、スケルトンの頭蓋骨を叩き割りました。
そのスケルトンが灰燼と消えるのを見届けてから、私は大きく後ろに倒れ込みました。
皆が、慌てて私の元へと駆け寄ってくる足音が聞こえます。
大切な仲間達と向かい合いたいのですが、もう体力の限界です。しばらく動けそうにありません。
「……わ、たし……がん、ばり、ました……」
息も絶え絶えになりながら、辛うじてそれだけを発します。
セイレイ君は優しく私の手を握って、辛い気持ちを殺した表情で頷きました。
「雨天、お前はよく頑張ったよ。よくここまでついてきてくれた」
「あ、たり、まえ……です」
「後は任せてくれ。ホズミと交替する」
そう言って、セイレイ君は私の隣に静かに座りました。
彼の真似をするように、クウリ君も一ノ瀬さんも座ります。
「水萌ちゃん、すごかったよ。カッコよかった」
クウリ君は私をねぎらうように、そう穏やかな微笑みを向けてくれました。
「せめ、て……かわい、い、って言って、ほしい、です」
「……可愛かったよ」
私がそう言葉を返すと、クウリ君はどこか照れくさそうにそっぽを向いて呟きました。
『……むっ』
案の定、秋狐ちゃんが不貞腐れた声を漏らしていましたが、クウリ君は気付いても居ません。ちょっと面白いです。
「雨天ちゃん、お疲れ様。いつの間にか立派な配信者になったね」
一ノ瀬さんは穏やかにそう語り掛けます。相も変わらず、オンとオフの落差が激しい人です。
「……へへ」
皆がほめてくれるので、つい頬が緩みます。
そんな中、新たに一つの足音が遠くから聞こえてきました。
「雨天ちゃん、よく頑張ったね。後は私に任せて」
「……ほず、み、ちゃん……」
ホズミちゃんは、リュックサックを背負って私の元へと歩み寄りました。
一ノ瀬さんに「”ふくろ”に入れといて」とリュックサックを預けた後、スカートを抑えながら私の隣に屈みこみました。
「本当に、ちょっと歩いただけでもバテてた頃とは全然違うよ。すごかった」
「くろ、れきし……ですよ」
「あははっ、本当にね」
久しぶりにホズミちゃんが笑っているのを見た気がします。それだけでも、私が頑張った意味があるというものです。
私は静かに握りこぶしをホズミちゃんに近づけると、期待に応えてグータッチを返してくれました。
「じゃあ、行ってくるね。雨天ちゃんはゆっくり休んでて?」
「はい、おね、がい……します……ね」
もう、私は戦力になれそうにありません。
魔王の元へと歩みを進める勇者パーティの後ろ姿を見送った後、私は体力回復の為にゆっくりと身体を休めることに決めました。
……本当に、誇らしいです。
一歩踏み出せば、こんなに広い世界があるんだな、って。
とても幸せです。
手を差し伸べてくれた、セイレイ君達には本当に感謝しかありません。
「たのみ、ましたよ……。せかいに、きぼうを、みせてください、ね……」
To Be Continued……
次回は「最後の配信」です。
※最終話ではないです。
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
赤:???
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
赤:???
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:純水の障壁
黄:水纏
赤:クラーケンの触手