表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
293/322

【第百四十話】他愛ない日々、生まれたヒビ

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・戦士クウリ

・盗賊noise

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)

・魔法使いホズミ

「追憶のホログラムを起動させる」

 亡者の果てが倒されたことにより、追憶のホログラムを守っていた結界が消失。俺は剥き出しとなった追憶のホログラムに手をかざし、そう宣言した。

 魔王城に配置されたそれが一体どのような意味を持つのか。魔王セージは、一体何を思っているのか。

 その答えを確かめる為、そっと撫でるように追憶のホログラムに手を触れた。


 突如として光が迸る。

 大地を駆け巡るプログラミング言語が、世界を構築する。

 壁面までも蝕むそのホログラムが、世界を書き換えていく。

『センセー。貴方は、一体何を考えて……』

 ドローンのスピーカーから、ホズミがポツリと呟いた。

 世界は、過去を映し出す――。


 ----


『おとーさんっ。私ね、大きくなったらおとーさんのおよめさんになるっ』

 聞こえてくるのは、幼い女の子の声だ。

 

「……ここは……公園?」

 クウリは辺りを見渡しながら、そう首を傾げた。

 いつしか、俺達を取り巻く世界が公園に書き換わっていた。

 照らす夕日が、俺達を橙色に照らす。山奥へ消えゆく夕日と重なる夜空が、色鮮やかなグラデーションを生み出している。

 一日の終わりを表現したような世界の中、映し出される人影が2つ。


 俺達の知らない女の子と、よく知る成人男性。

「千戸先生……」

 noiseがぽつりと声を漏らす。

 

『はは、嬉しいこと言ってくれるな。期待してるよ』

 そう、千戸 誠司だった。

 ホログラムに映し出される彼は娘の甘い言葉に(ほだ)されて、表情筋がこれでもかと緩んでいる。

 そして、千戸は娘であろう人物の頭を優しく撫でた。

 すると、むず痒そうに女の子は目を閉じた。だが、その笑みまでは隠すことが出来ておらず、幸せそうにニヤけている。

『ほんとっ、約束だからねっ!ぜったい、ぜーったい!!』

『勿論っ。そろそろママが晩ご飯を作って待っているかも知れないから、帰ろうか』

『うんっ!』

 そう言って、千戸は娘の手を引いて帰路を辿り始めた。


 何となくその姿を追う気にはなれず、俺達はなにも言わずに2人を見送る。

『ねえ、パパ。私ね、パパの子供で良かったと思ってるよ』

『本当?パパも、結衣が生まれてきてくれて良かったと思ってるさ』

『ほんとっ!?やったー!』

『あっ!?危ないから走るのは止めなさいっ』

 他愛ない会話を繰り広げながら、その親子は俺達の前から姿を消した。


「……」

 noiseは、反応に困ったようで息を吐きながら腰に手を当てた。

「なんなんでしょうね。私達、勇者パーティに見せる映像なんですかね、これ」

 雨天は困り果てた表情で、意見を求めるようにクウリへと視線を送る。

 意見を促されたクウリも回答に困ったのだろう。切なさと穏やかさの滲んだ表情で言の葉を紡ぐ。

「僕に意見を求められても困るかな……。魔王も、魔災前はただの人間だったはずなんだよね」

 最後に、皆の視線が俺に集う。

 勇者セイレイと言うよりは、魔王が生み出される前にセンセーと行動を共にしていた俺という一個人としての意見を求めているのだろう。

 思うことは沢山あった。

 言いたいことも沢山あった。

 だけど。


「俺も、正直魔災前のセンセーをそれほど知っている訳じゃねえ。ただ、映像を見る限り……あの日々が一番の幸せだったんだろうな」

 結局、こんなあいまいな答えしか返すことしかできなかった。


 Sympassが世界に生み出される前。俺達を育ててくれた千戸 誠司の表情全てが嘘だったとは思えない。

 ……そう思いたくないだけかも知れないが、俺達は少なくとも本物の愛情を受け取ったと感じていた。

 ならば、何が彼を狂わせたのだろう。

 どのような信念を持って、自らが世界の敵になろうとしたのだろう。

「魔災が、全てを狂わせた。俺達の世界に(ひび)が生まれたんだ」


 行動を正すべきは、魔王なのだろうか。

 魔王を倒して、それで全てが解決するのだろうか。


[魔王だって、俺達と同じ人間だったんだろ。どうしてこんな酷いこと出来るんだよ]

[自暴自棄だろ]

[その自棄を他人にぶつけるなって話]

[返して欲しいですね。私達の日常を]


 ただ、千戸と何の縁も持たない視聴者にとっては、怒りしか生み出さないのだろう。

 自分達と同じ世界で生きてきたはずなのに、どうしてこうも酷いことが出来るのか……と。

『……セイレイ君、進もう。何処まで行っても、センセー……千戸は、世界を再び暗雲に落とした悪だ』

 ドローンのスピーカーから、ホズミの声が響く。

 滲む葛藤と、静かな怒りが籠もった口調の彼女に対し、俺は強く頷いた。

「ああ。追憶のホログラムを融合させる。秋狐、頼む」

『あいあいさっ』

 秋狐は相変わらず場の空気を読まない返事をした後、ふわりと空を泳いで追憶のホログラムと融合。

 より一層強まる光がドローンを包み込み、やがて世界は元の――陰鬱とした世界に戻った。


 [information

 門が解錠されました]


 そのシステムメッセージが流れると同時に、奥へと続く門が自動的に開かれた。

 俺が何かを話そうとする前に、ドローンはふわりと俺の隣に浮かび上がる。

『……千戸先生。如何なる理由があろうと、私は貴方を許すことは出来ないよ』

「秋狐……?」

『日常を返して。皆を返して。視聴者を傷つけて、苦しめて……配信を何だと思ってるの』

「……」

 俺の視線に気づいたのか、秋狐は「あっ」という声を漏らした。


『ごめんねっ。なんでもないっ!じゃ、先に進もっか!おーっ!』

「……そうだな」

 きっと、その言葉は秋狐と言うよりも”秋城 紺”という一個人としての本心だったのだろう。

 配信を心から愛するが故に、彼女から零れる怒りの言葉。

 魔王は世界を滅茶苦茶にすることに配信を活用した。そのことを、心底許すことが出来ないのだろう。

 ——俺だって、同感だ。

「こんな薄暗い世界なんて、書き換えてやる。それが、俺達にしかできないことだ」


 ★★★☆


 相も変わらず、変わり映えのない直線の通路を進んでいく。

 ただのゲームでよくある魔王城を(かたど)っただけのダンジョンだと思っていた。

 しかし進むにつれて時々、魔王城内にホログラムとして映像が映し出されていることに気付く。


『おはようございます。今日もいい天気ですね』

『行ってきまーす!』

『忘れ物!忘れ物してるって!』


 様々な人達の生活の断片が、ホログラムとして映し出されては消えていく。

 noiseは映し出されたホログラムに視線を送りながら、寂しそうな表情を浮かべた。

「……魔災前の日常か……これが、住宅街の中に魔王城を生み出した理由、かな……」

『かも、ね』

 そう相槌を返す秋狐の声音には、普段のような元気は無いように思えた。

 彼女も、彼女なりに考えていることがあるのだろう。

「僕達も、ダンジョン配信を介して様々な過去の世界を見てきた。沢山の平穏な日々を見てきた……そんな世界を、どうして魔王城で見せるの」

 クウリは震えた声音でそう呟く。それは怒りと、悲しさの混ざりあった歪な声音だった。


 ——お前達には魔災以前の日本にはどんな物が存在して、どんな人が居たのか。そうした一つ一つの物を感じ取って欲しいと思う。


 三年前にセンセーが言っていた言葉を思い出す。

 歩いている最中、俺は右手に力を籠める。その期待に応えるように、光の粒子によって構築されたスケッチブックが顕現した。

 俺はそのスケッチブックの適当なページを開く。

「……魔災前の、世界……」

 スケッチブックに描かれるのは、ダンジョン配信の中で残してきたかつての光景。

 積み重ねてきたデッサンの数々が形として残っている。


 こんな時まで、センセーは俺に教育を施すつもりなのだろうか?

 俺が、世界を救う勇者であり続ける為に。

 魔王城で見せられる景色に、徐々にセンセーの本心が分からなくなっていく。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:???

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:???

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ