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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
292/322

【第百三十九話】今度は

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・戦士クウリ

・盗賊noise

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)

・魔法使いホズミ

 迸る稲妻が、亡者の果てを突き抜ける。

「——っ、こいつ前より硬くなってねえか!?」

 何度となくファルシオンに稲妻を纏った突きを放つも、全く手ごたえを感じない。硬い肉塊に弾かれ、核までその切っ先が届かない。

 そんな俺に並ぶように、雨天は駆け出した。

「セイレイ君っ、私なら!スパチャブースト”青”っ!」

[雨天:スタイルチェンジ]

 雨天が宣告(コール)すると同時に流れるシステムメッセージ。それを確認すると同時に、彼女は大声で叫んだ。

「モードチェンジ、インプっ!!!!」

 次の瞬間、彼女の背中から漆黒の、蝙蝠の形をした羽が伸びる。

 雨天は迷うことなく高く飛翔し、空高くから強襲するように槍の穂先を亡者の果てへと向けた。

「貫き、ますっ!」

 それから、羽を閉じたかと思うと勢いのままに降下。

 槍の穂先が、亡者の果てのターゲットマークと重なり——。


[待って、雨天を狙ってる!]

『雨天ちゃん、逃げて!!』

 そのコメント欄が流れるのと、ドローンからホズミの叫び声が響くのは同時だった。


「え?」

 だが、雨天の強襲攻撃はもう止めることが出来ない。深々と亡者の果ての核を貫くのと、その魔物の左腕が雨天を薙ぎ払うのは同時だった。

「ア゛ア゛ア゛ア゛「イタイィ」ア゛ア゛!!!!」

「あ、っ」


「雨天っっ!!」

 レインコートを纏った小柄な体が、悲鳴もなく吹き飛ぶ。

 深々と亡者の果てに突き刺さった槍が光の粒子となり、消える。

 俺は慌てて地面に倒れ伏した雨天へと駆け寄った。


「雨天、大丈夫か……!?」

 そっと抱き寄せて雨天に呼びかける。すると、彼女は細く目を開き、絶え絶えの息で言葉を返した。

「え、へへ……四天王、なめないで、ください……よっ……」

「喋るなっ!」

 ちらりと雨天の体力ゲージに視線を送れば、残り体力は2割だった。

 元々防御力に欠ける雨天が、攻撃をモロに喰らったのだ。一撃で体力が全損されていてもおかしくなかっただけに、九死に一生を得たと言っても遜色ないだろう。

「一旦休んでろ、スパチャブースト”緑”っ」

[セイレイ:自動回復]

 俺は迷わずそう宣告(コール)する。システムメッセージが流れると同時に、俺と雨天の身体に薄い緑色の光が纏い始めた。

 雨天は苦笑を漏らしながら、静かに体を休める。

「……たの、み、ました……」

「任せとけ」

 戦線を離脱した雨天を床に横たわらせて、俺はゆっくりと立ち上がる。それから、じっと亡者の果てに視線を向けた。

 残る核は5つ。無茶をすれば破壊可能だが、ジリ貧だ。

『撃てッ、サポートスキル”支援射撃”!』

 そんな俺の隣で浮いたドローンから、ホズミはそう叫んだ。

 同時に、ドローンから突如として伸びる銃口が火を噴く。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」

 銃弾に貫かれた亡者の果てが、激しい呻き声を漏らす。全身に響く痛みから逃れるように、その巨大な身体を激しく左右に揺らす。

 その動きに伴い、地響きが生まれる。

『……駄目、核まで届いてないよ』

 だが、ホズミの代わりに秋狐が残念そうな声音でそう呟いた。

 そこには変わらずに、5つのターゲットマークが亡者の果てに重なっていた。

「……ってことは、俺らのスキルで打開するしかないか……」


 脳裏に、いくつもの考えが過る。

 ——どうすれば、打開できる?

 ——以前戦った時は、ライト先生のスキルで攻略した。

 ——でも、今は雨天の決死の一撃でしか破壊できなかった。

 ぐるぐると巡る思考。

 俺は縋るように、コメント欄に視線を送る。


[雨天ちゃんにばかり無茶させられないよな]

[↑危険すぎるし、あまりにも酷だ]

[銃弾も貫通できない。同じところを連続して撃つのは?]

[難易度が高すぎる。理論上の話でしかないよ]

[クウリの風纏はどう?ぶん殴ってダンジョン外に追い出す方法は取れるんじゃないか?]

[四方が壁に阻まれているうえ、魔王城の敷地面積が広すぎる。ダンジョン外に追い出すのは厳しいだろうな]

[noiseのスパチャブースト”赤”なら可能性があるんじゃないか]

[金色の矛か。確かにそれなら、でも1回の配信で1回しか使えないスキルをもう使ってしまうか……?]

[でも、早々に全滅するよりはマシだ]


 沢山の意見が交わされている。

 コメントのその一つ一つに目を通すが、俺達の連続使用が可能なスキルでは打開が困難——というのは総意なようだ。

 ちらりと意見に出たnoiseに視線を送れば、彼女も同様にコメント欄を見ていたのだろう。

 一つ頷いて、金色の短剣を正面に構えた。

「早々に使ってしまうのは惜しいが……こうするしかないのだろう。セイレイ、引き付けてくれるか」

「任せろ」

 noiseの意図をくみ取って、俺はファルシオンを構え直す。

 そして、クウリは静かに亡者の果ての背後に回り込んでいた。


 互いに別々の位置を取った俺達。

 noiseは、その中で決意の宣告(コール)を放つ。

「……私が、活路を切り開くっ!スパチャブースト”赤”っ!!」

[noise:金色の矛]

 noiseが持つ、金色の短剣の切っ先から激しく伸びた光が、長い刀身を作る。

 それと同時に、彼女がかつての姿——女子高生の姿へと変化していく。

 ふわりと灰色のブレザーを纏い、膝丈まで下ろしたスカートと栗色のおさげを揺らしながらnoiseは叫んだ。

「皆、頼んだよ!」

「うん!」

「行くぞ!」

 俺達は各々の立ち位置から、亡者の果ての周囲を回り込むように駆け出す。

 亡者の果ても誰をターゲットにしたらいいのか分からないようで、俺達それぞれの姿を見渡しているようだ。

「ア゛ア゛「タスケテ」「オワラセテ」ア゛「コロシテ」ア゛ッ」

 数多の嘆き声を重ねながら、亡者の果てはハムのように浮腫んだ両手を地面に叩きつける。

 舞い上がった土煙が俺達の視界を奪う。だが、視界など今はアテにしていない。


「皆、コメント欄を見ろっ!」

 ちらりと空高くに舞い上がったドローンに視線を送る。配信を介して送られるコメント欄から、沢山の情報が届く。


[次はセイレイの方を見てる!]

[左手はクウリ]

[薙ぎ払い攻撃警戒]

[地響きが予備動作になってる。飛んで避けられるか!?]

[noise、背後を取ってる!今なら叩けるはずだ!]

 

 視聴者のコメントが戦いを支援してくれる。

『勇者、”青”を使って背後に回り込んで!盗賊、右上に核あるっ。戦士、右腕振り下ろし攻撃!左側に回避!』

 流れるコメント欄から、ホズミが的確に情報を処理。俺達の戦況がスムーズに運ぶように適宜指示を送る。

 まるで、それは皆で作り上げる1つの作品のようにも思えた。

 

「核、残り1つ!」

 5つ目の核を切り上げたnoiseは、そう周囲に伝達した。配信画面に視線を送れば、確かに残るはターゲットマーク1つだけだ。

 だが、その核は頭頂部に存在していた。

「っ、リーチが足りない……」

 noiseはもどかしそうにそう呟く。

 俺達の身長をゆうに上回る亡者の果て。その頭頂部に一撃を浴びせようとすると、頭上からの攻撃は必要不可欠だった。

 だが、noiseにはそれを可能にする跳躍力はない。


 そして、この場には高さを補助するものは何もない。ただまっ平らな空間が広がるのみで、頭頂部に一撃を浴びせる手段など何もなかったのだ。

 さらに加えて、不利な状況が重なる。

「noise!身体が……!」

 noiseの姿が、女子高生の姿から本来のそれに戻っていく。

 指摘されて気付いたのか、noiseは慌てた様子で全身を見渡した。

「クソ、時間切れか!?」

 ”金色の矛”は時間切れだ。長く伸びた光の刀身が収束する。それは、元の短剣の長さへと戻った。

 noiseは「チッ」と忌々しげに舌打ちするが、スキルが使えなくなるのはどうしようもない。スパチャブースト”赤”は一度の配信で一度きり。

 絶体絶命も良いところだ。


「ア゛ア゛ア゛「ナサケナイ」「オワリ?」ア゛」

 どこか、亡者の果てから嘲笑うような声が響く。

 貫通力の持つスキルを失った俺達は、どう打開すればいいのか思考を巡らせる。

 そんな時、少女の声が響いた。


「スパチャブースト”青”っ!」

[雨天:スタイルチェンジ]

 そのシステムメッセージが流れると同時に、再び声が響く。

「モードチェンジ、インプっ!」

 すると頭上に舞うドローンのカメラを遮るように、漆黒の蝙蝠の羽が影を落とした。

 

 ——雨天だ。

 体力の回復した彼女は、長い槍の穂先を亡者の果ての核に向ける。

「これで、終わりですっ!」

 雨天は、蝙蝠の羽を閉じて鋭く強襲の構えを取る。

 大気を貫き、風を切る音が響く。

 垂直に描く青の光と化した彼女は、その穂先を核目掛けて貫き放った。


「とりゃああああああああっ!!」

 甲高い彼女の声が響く。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」

 亡者の果ての悲鳴が響く。


 天地を貫く一閃を放った雨天は、ふわりと槍から手を放して地面に着地。

 それから、ちらりと俺へと視線を向けた。

「……セイレイ君が助けてくれたんです。今度は、私の番です」

 クスっと嬉しそうに笑う彼女。

 同時に、亡者の果てに大きくラグが生み出された。そのラグは、徐々に全身を取り巻く。

 歪んでいくシルエットから零れだす灰燼は、やがて全身を蝕む。


 そして、ついに亡者の果ての全身が世界から消えた。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:???

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:???

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