【第百三十九話】今度は
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・戦士クウリ
・盗賊noise
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)
・魔法使いホズミ
迸る稲妻が、亡者の果てを突き抜ける。
「——っ、こいつ前より硬くなってねえか!?」
何度となくファルシオンに稲妻を纏った突きを放つも、全く手ごたえを感じない。硬い肉塊に弾かれ、核までその切っ先が届かない。
そんな俺に並ぶように、雨天は駆け出した。
「セイレイ君っ、私なら!スパチャブースト”青”っ!」
[雨天:スタイルチェンジ]
雨天が宣告すると同時に流れるシステムメッセージ。それを確認すると同時に、彼女は大声で叫んだ。
「モードチェンジ、インプっ!!!!」
次の瞬間、彼女の背中から漆黒の、蝙蝠の形をした羽が伸びる。
雨天は迷うことなく高く飛翔し、空高くから強襲するように槍の穂先を亡者の果てへと向けた。
「貫き、ますっ!」
それから、羽を閉じたかと思うと勢いのままに降下。
槍の穂先が、亡者の果てのターゲットマークと重なり——。
[待って、雨天を狙ってる!]
『雨天ちゃん、逃げて!!』
そのコメント欄が流れるのと、ドローンからホズミの叫び声が響くのは同時だった。
「え?」
だが、雨天の強襲攻撃はもう止めることが出来ない。深々と亡者の果ての核を貫くのと、その魔物の左腕が雨天を薙ぎ払うのは同時だった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛「イタイィ」ア゛ア゛!!!!」
「あ、っ」
「雨天っっ!!」
レインコートを纏った小柄な体が、悲鳴もなく吹き飛ぶ。
深々と亡者の果てに突き刺さった槍が光の粒子となり、消える。
俺は慌てて地面に倒れ伏した雨天へと駆け寄った。
「雨天、大丈夫か……!?」
そっと抱き寄せて雨天に呼びかける。すると、彼女は細く目を開き、絶え絶えの息で言葉を返した。
「え、へへ……四天王、なめないで、ください……よっ……」
「喋るなっ!」
ちらりと雨天の体力ゲージに視線を送れば、残り体力は2割だった。
元々防御力に欠ける雨天が、攻撃をモロに喰らったのだ。一撃で体力が全損されていてもおかしくなかっただけに、九死に一生を得たと言っても遜色ないだろう。
「一旦休んでろ、スパチャブースト”緑”っ」
[セイレイ:自動回復]
俺は迷わずそう宣告する。システムメッセージが流れると同時に、俺と雨天の身体に薄い緑色の光が纏い始めた。
雨天は苦笑を漏らしながら、静かに体を休める。
「……たの、み、ました……」
「任せとけ」
戦線を離脱した雨天を床に横たわらせて、俺はゆっくりと立ち上がる。それから、じっと亡者の果てに視線を向けた。
残る核は5つ。無茶をすれば破壊可能だが、ジリ貧だ。
『撃てッ、サポートスキル”支援射撃”!』
そんな俺の隣で浮いたドローンから、ホズミはそう叫んだ。
同時に、ドローンから突如として伸びる銃口が火を噴く。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
銃弾に貫かれた亡者の果てが、激しい呻き声を漏らす。全身に響く痛みから逃れるように、その巨大な身体を激しく左右に揺らす。
その動きに伴い、地響きが生まれる。
『……駄目、核まで届いてないよ』
だが、ホズミの代わりに秋狐が残念そうな声音でそう呟いた。
そこには変わらずに、5つのターゲットマークが亡者の果てに重なっていた。
「……ってことは、俺らのスキルで打開するしかないか……」
脳裏に、いくつもの考えが過る。
——どうすれば、打開できる?
——以前戦った時は、ライト先生のスキルで攻略した。
——でも、今は雨天の決死の一撃でしか破壊できなかった。
ぐるぐると巡る思考。
俺は縋るように、コメント欄に視線を送る。
[雨天ちゃんにばかり無茶させられないよな]
[↑危険すぎるし、あまりにも酷だ]
[銃弾も貫通できない。同じところを連続して撃つのは?]
[難易度が高すぎる。理論上の話でしかないよ]
[クウリの風纏はどう?ぶん殴ってダンジョン外に追い出す方法は取れるんじゃないか?]
[四方が壁に阻まれているうえ、魔王城の敷地面積が広すぎる。ダンジョン外に追い出すのは厳しいだろうな]
[noiseのスパチャブースト”赤”なら可能性があるんじゃないか]
[金色の矛か。確かにそれなら、でも1回の配信で1回しか使えないスキルをもう使ってしまうか……?]
[でも、早々に全滅するよりはマシだ]
沢山の意見が交わされている。
コメントのその一つ一つに目を通すが、俺達の連続使用が可能なスキルでは打開が困難——というのは総意なようだ。
ちらりと意見に出たnoiseに視線を送れば、彼女も同様にコメント欄を見ていたのだろう。
一つ頷いて、金色の短剣を正面に構えた。
「早々に使ってしまうのは惜しいが……こうするしかないのだろう。セイレイ、引き付けてくれるか」
「任せろ」
noiseの意図をくみ取って、俺はファルシオンを構え直す。
そして、クウリは静かに亡者の果ての背後に回り込んでいた。
互いに別々の位置を取った俺達。
noiseは、その中で決意の宣告を放つ。
「……私が、活路を切り開くっ!スパチャブースト”赤”っ!!」
[noise:金色の矛]
noiseが持つ、金色の短剣の切っ先から激しく伸びた光が、長い刀身を作る。
それと同時に、彼女がかつての姿——女子高生の姿へと変化していく。
ふわりと灰色のブレザーを纏い、膝丈まで下ろしたスカートと栗色のおさげを揺らしながらnoiseは叫んだ。
「皆、頼んだよ!」
「うん!」
「行くぞ!」
俺達は各々の立ち位置から、亡者の果ての周囲を回り込むように駆け出す。
亡者の果ても誰をターゲットにしたらいいのか分からないようで、俺達それぞれの姿を見渡しているようだ。
「ア゛ア゛「タスケテ」「オワラセテ」ア゛「コロシテ」ア゛ッ」
数多の嘆き声を重ねながら、亡者の果てはハムのように浮腫んだ両手を地面に叩きつける。
舞い上がった土煙が俺達の視界を奪う。だが、視界など今はアテにしていない。
「皆、コメント欄を見ろっ!」
ちらりと空高くに舞い上がったドローンに視線を送る。配信を介して送られるコメント欄から、沢山の情報が届く。
[次はセイレイの方を見てる!]
[左手はクウリ]
[薙ぎ払い攻撃警戒]
[地響きが予備動作になってる。飛んで避けられるか!?]
[noise、背後を取ってる!今なら叩けるはずだ!]
視聴者のコメントが戦いを支援してくれる。
『勇者、”青”を使って背後に回り込んで!盗賊、右上に核あるっ。戦士、右腕振り下ろし攻撃!左側に回避!』
流れるコメント欄から、ホズミが的確に情報を処理。俺達の戦況がスムーズに運ぶように適宜指示を送る。
まるで、それは皆で作り上げる1つの作品のようにも思えた。
「核、残り1つ!」
5つ目の核を切り上げたnoiseは、そう周囲に伝達した。配信画面に視線を送れば、確かに残るはターゲットマーク1つだけだ。
だが、その核は頭頂部に存在していた。
「っ、リーチが足りない……」
noiseはもどかしそうにそう呟く。
俺達の身長をゆうに上回る亡者の果て。その頭頂部に一撃を浴びせようとすると、頭上からの攻撃は必要不可欠だった。
だが、noiseにはそれを可能にする跳躍力はない。
そして、この場には高さを補助するものは何もない。ただまっ平らな空間が広がるのみで、頭頂部に一撃を浴びせる手段など何もなかったのだ。
さらに加えて、不利な状況が重なる。
「noise!身体が……!」
noiseの姿が、女子高生の姿から本来のそれに戻っていく。
指摘されて気付いたのか、noiseは慌てた様子で全身を見渡した。
「クソ、時間切れか!?」
”金色の矛”は時間切れだ。長く伸びた光の刀身が収束する。それは、元の短剣の長さへと戻った。
noiseは「チッ」と忌々しげに舌打ちするが、スキルが使えなくなるのはどうしようもない。スパチャブースト”赤”は一度の配信で一度きり。
絶体絶命も良いところだ。
「ア゛ア゛ア゛「ナサケナイ」「オワリ?」ア゛」
どこか、亡者の果てから嘲笑うような声が響く。
貫通力の持つスキルを失った俺達は、どう打開すればいいのか思考を巡らせる。
そんな時、少女の声が響いた。
「スパチャブースト”青”っ!」
[雨天:スタイルチェンジ]
そのシステムメッセージが流れると同時に、再び声が響く。
「モードチェンジ、インプっ!」
すると頭上に舞うドローンのカメラを遮るように、漆黒の蝙蝠の羽が影を落とした。
——雨天だ。
体力の回復した彼女は、長い槍の穂先を亡者の果ての核に向ける。
「これで、終わりですっ!」
雨天は、蝙蝠の羽を閉じて鋭く強襲の構えを取る。
大気を貫き、風を切る音が響く。
垂直に描く青の光と化した彼女は、その穂先を核目掛けて貫き放った。
「とりゃああああああああっ!!」
甲高い彼女の声が響く。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」
亡者の果ての悲鳴が響く。
天地を貫く一閃を放った雨天は、ふわりと槍から手を放して地面に着地。
それから、ちらりと俺へと視線を向けた。
「……セイレイ君が助けてくれたんです。今度は、私の番です」
クスっと嬉しそうに笑う彼女。
同時に、亡者の果てに大きくラグが生み出された。そのラグは、徐々に全身を取り巻く。
歪んでいくシルエットから零れだす灰燼は、やがて全身を蝕む。
そして、ついに亡者の果ての全身が世界から消えた。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
赤:???
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
赤:???
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:純水の障壁
黄:水纏
赤:???