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【第百三十八話(3)】魔王が生み出した世界(後編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・戦士クウリ

・盗賊noise

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)

・魔法使いホズミ

『サポートスキル”光源開放”』

 俺達の背後につくドローンのスピーカーからホズミの声が響く。

 それと共に、魔王城内通路の両端に掛かった松明に火が灯される。

『さすがに蛍光灯が付く、みたいなことはないかー』

 秋狐はどこか面白くなさそうな声音でそうぼやいた。


 ただひたすらに真っ直ぐな道のりが続いている。魔王城の敷地面積はかなり広大なものであったはずだが、肝心の内装はというとただ一直線の通路が続くのみだった。

「見せかけの外観って感じですね。一ノ瀬さんの家みたいです」

「私は関係なくない!?」

 雨天は呆れた表情で率直な感想を漏らす。しかし、引き合いに出されたnoiseはたまったものではないようで、雨天に食って掛かった。

 しかし、雨天は全く動じることなくため息を零すのみだ。

「設定上は私達四天王を率いる魔王ですよ?」

「設定上って言わないでよ……」

「少なくとも、これまでの配信相手の中で一番ナンセンスですね。一体、魔王セージは何を仕掛けようとしているんですかね」

「……きっと、進めばわかるはずだよ」

 noiseは何かセンセーの意図を悟っているのだろう。雨天の問いかけに神妙な表情を浮かべて黙りこくってしまった。


[お前らが人類の希望なんだ。終わらせてくれ、魔王が生み出した世界を 50000円]

[いくらでもお金なら差し上げます。だから、どうか世界を救ってください 50000円]

[辛い。俺達は何も出来やしないから。せめてこれだけでも…… 50000円]

[すまん、貯金使い果たした……これが俺の残った分だ 1000円]


 チャットログに視線を送れば、様々な色のコメントフレームに囲われたコメントが流れているのが見える。

 もう、視聴者は娯楽の一環としてこの配信を観ている訳ではない。

 生きるか死ぬか、その全てを俺達に託しているんだ。

 ちらりと総支援額に視線を送れば、154000円と表記されていた。記憶している限りでは、過去最高額の総支援額だ。

「……魔王がどんな思いを抱いていようと、沢山の人を殺めたこと……その罪を償ってもらわないとな」

 視聴者の言葉を受けて、俺は改めてファルシオンを持つ手に力を込めた。

 

 世界の人々の言葉を受けて、自らの中に強い想いが生み出されていくことに気付く。

 これまでの配信で紡いできた、スケッチブックに描いてきたかつての世界。過去に置いてきた思いの数々が、ひとつの力を生み出そうとしていた。


 ----


 細長い通路を抜けた先に、広がっていたのは大広間だった。

 長方形の広々とした空間に配置されたものは何ひとつない。ただのバトルフィールドとして配置されたであろう空間に放り出されるようにして、俺達は足を踏み入れる。

 ——いや、何もない訳ではなかった。その空間の奥には、今までの配信で散々見てきたものがあった。

「……追憶のホログラム……」

 七色に光る結晶体。追憶のホログラムが、空間の奥には配置されていた。


 だが、次の瞬間にはその追憶のホログラムを、薄緑色の障壁が覆っていく。

「セーちゃん。これは……」

「多分俺も同じこと考えてるよ」

 クウリはその状況に何かを察知したのだろう。俺の傍によって耳打ちする。

 だが、俺も追憶のホログラムを覆う障壁が何を意味するか、理解できない訳じゃない。


 次の瞬間。

 地中の奥深くから、全身を飲み込むかのような大きな地響きが鳴り響いた。

 ビリビリと電気が迸るような振動に、思わず足を取られる。

「わ……っ!」

 雨天は慌てて姿勢をかがめ、頭を守るかのように両手で覆う。

「何が来る!?」

 noiseも腰を引くし、腰に携えた短剣を引き抜いて臨戦態勢を取る。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 いつかの配信で聞いた悲鳴のような声が響き渡る。

 その声が響いたかと思うと、天井を貫いて巨大な肉塊が俺達の眼前に叩き落とされた。

 地面に叩きつけられるに連なり、より激しく大地が揺らされる。土煙が舞い上がる。

 

 いや、それは肉塊ではなかった。いくつもの人間を寄せ集めて、固めたような異形だった。

 赤黒く、弾力性を孕んだ皮膚が覆っている。ドーム状になった肉体から伸びるのは、浮腫んだような四肢。その歪な姿から覗く、口を大きく開いた嘆くような表情の顔。

 それらはゆっくりと歪んだ視線を俺達に向ける。

「……総合病院ダンジョン以来、だな」

 noiseは引きつった表情を浮かべながら、静かに金色の短剣を構える。

「初めて見ましたけど、気持ち悪いですね……」

 雨天はげんなりとした様子で、静かに右手に槍を顕現させた。

「セーちゃん。対処方法は分かるんだよね」

 クウリは確認するように、俺にそう問いかける。


 俺は無言で頷き、それから眼前に表示された配信画面のシステムメッセージに視線を送る。

[追憶の守護者:亡者の果て]

「……久しぶりだな」

 思わず鼓動が高鳴る。

 高揚している訳ではない。沢山の人々を弄ぶように作られたその魔物に、嫌悪感を抱いているだけだ。


「ア゛ア゛ア゛ア゛「コロシテ」ア゛ア゛「コワイ」ア゛ア゛ア゛」

 沢山の声が重なっている。苦しみに満ちた声。悲痛に満ちた声。

 負の感情を真っ向に受けて、額から冷や汗が垂れる。

「ふざけんなよ。魔王セージ……これが、お前が生み出した世界かよ……っ」

 ファルシオンを握る手に力を籠める。未だスキルを宣告(コール)していないが、全身に稲妻が迸るような気持ちだった。

 魂が、そのスキルを叫べと読んでいる気がする。


[頑張って。確か、複数の核で構成されているはずだ 50000円]

[いくつもの生命を継ぎ接ぎして作った魔物、ってだけで胸糞悪い]

[俺達も気付いたことはコメントする。負けないでくれ]


「皆の言葉、頼りにしてるよ」

 ファルシオンの切っ先を、亡者の果てに合わせる。

 ”勇者セイレイ”を象徴する「アタリを取る」姿勢だ。そのまま、俺は更に宣告(コール)を重ねる。

「もう、理不尽に苦しませるものかっ!スパチャブースト”黄”!」

[セイレイ:雷纏]

 「待ってました」と言わんばかりだった。俺の想いに応えるように、全身に青白い稲妻が迸る。

 心地良さすら感じる稲妻を纏い、俺は迷うことなく駆け出す。

『セイレイ君突っ走らないでっ!まだ使ってないでしょ!?サポートスキル”熱源探知”』

 俺の傍らに着いたドローンのスピーカーから、ホズミの困惑する声が響く。それと同時に叫ぶ宣告(コール)

 それに連なり、眼前に表示された配信画面へ重なるように亡者の果ての核が赤色のターゲットマークとして表示される。

「助かる!」

 俺はホズミの支援に感謝の言葉をぶつけながら、核が表示された場所目掛けて稲妻を纏ったファルシオンを薙いだ。


「ぜあああああああああっ!!!!」

 掛け声を重ねて、振るう一閃。

 青白い稲妻が、暗雲とした魔王城内に轟く。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:???

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:???

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