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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑩魔王城編
290/322

【第百三十八話(2)】魔王が生み出した世界(中編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・戦士クウリ

・盗賊noise

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)

・魔法使いホズミ

「えーっと、間もなくー、魔王城ー。魔王城に到着いたしますー。右側の扉よりお降りください、お忘れ物の無いようにお願いいたしますー」

 道音は棒読みの形式ばったセリフを喋る。

 そんなやる気のない声音の彼女とは反対に、俺達の表情は意図せずとも強張った。

「……いよいよだな」

「肩の力を抜いて、深呼吸ーっ」

 俺達の緊張を解す為か、道音は普段とは異なるのんびりとした口調を続ける。

 それから、船の上から周囲を見渡してある一点を指差した。

「おっ、律儀に船着き場作ってくれてるじゃん。さっすがー」

 桜の木々が侵食する住宅街の一角に、不自然なまでに平らに削り取られた場所があった。

 恐らく魔王が意図的に作り出した場所なのだろう。配信の為とは言え、用意周到なものだ。

「……さすがに緊張しますね。前とは違って、殴られたら痛いどころじゃ済みませんし」

 客室から姿を現した雨天は、緊張の面持ちで魔王城を見据える。

 実質的に魔物との戦闘は初めてなのだ。緊張する気持ちは十分に理解できた。

 だからこそ、俺達がなるべく彼女のフォローをしなくてはならない。

「俺達が出来るだけフォローに回る。決して無理はするな」

「……善処します。あ、そう言えば」

 そこで雨天は何か引っかかることがあったのか、俺達の顔をじっと見渡す。

 俺、穂澄、空莉、有紀……そして、秋狐の顔ぶれを。

「ん、配信メンバー4人超えちゃいますね。控えは誰が入るんですか?」


「私が配信ナビゲーターの役割に移るよ」

 聞かれるのを待っていたように、穂澄は手を上げて自らの意見を告げた。

 俺達の視線が穂澄に向かうのを待ってから、彼女は言葉を続ける。

「私か有紀さんが配信ナビゲーターの役割に入った方が、配信がスムーズに進むはず。でも有紀さんには前衛で動き回ってもらう方が助かるからね」

「穂澄ちゃんの魔法も高火力なので欠かせないと思いますが……」

 雨天は首を傾げつつ、恐る恐ると言った様子で反論する。

 だが、穂澄は苦笑いを浮かべて首を横に振った。

「私のスキルは支援金を使いすぎる。重要な局面までは出来るだけ抑えておきたい」


 正直、穂澄の意見は正論と言わざるを得なかった。

 穂澄が使う魔法は、「炎弾」でさえも魔石一つと3000円を消費するのだ。魔石に関してはほとんど問題ないのだが、問題は消費する支援額の方だ。

 スパチャブーストと併用して使うことの多い彼女のスキルは、どうしても発動する為に使う消費額が多くなる。

 事実として、前回の空莉との激闘では「身体能力強化」「形状変化」「炎纏」と三つのスキルを兼ね合わせていた。

 使用額にして計90000円。

 そう多用出来るものではない。


「支援額のことを除いても、穂澄ちゃんがサポートに入ってくれるのは助かるよ」

 有紀はそう話に割って入り、自らの意見も根拠として重ねた。

「紺ちゃんのスキルも有能だけど、穂澄ちゃんがナビゲーターに回ることで”支援射撃”が使えるようになるからね。ノーリスクで使える遠距離攻撃は貴重だよ」

「最近は私も配信に参加してばっかりだったけど」

「メンバーでもナビゲーターでも戦いに貢献出来るのは穂澄ちゃんの強みだから。頼りにしてるよ」

「任せて」

 穂澄は背負ったリュックサックから、ノートパソコンを取り出す。


 それと同時に、大船が一度大きく揺れた後に静寂が包み込んだ。

「さて、魔王城に到着したよ。さ、行った行った」

 道音はそう告げると同時に、俺達へと早々に船から降りるように促した。

「そんな追い出すようなことしなくても良くない?」

 あまりにもぞんざいな扱いを受けたことに、有紀は不満を漏らす。だが道音はどこ吹く風と言ったところか。

 ストーへとちらりと視線を向けた後、苦笑いを浮かべる。

「皆が魔王城を攻略している間にディル達を呼んでくるよ」

「ディルと蘭を?」

 都心部でSympassのサーバー維持の仕事を(おこな)っている、遊び人アランこと荒川 蘭と僧侶ディル。一体2人を呼ぶ理由とは何なのだろうか。

 俺の疑問が顔に出ていたのか、道音はこくりと一度頷いた。

「魔王城のダンジョン配信はセイレイ達に任せても大丈夫だと思う。けど、魔王戦となるときっとそうはいかない」

 

 ……一体、何を考えているのかおおよその理解が出来た。

「総力戦の準備か」

「そ。勇者一行の全戦力をぶつける準備。私達にしかできない配信を、徹底的に見せつけるんだ」

「いや待て、配信メンバーは4人までだぞ?2人が来たところで参加できないんじゃ……」

 自らの意見を主張する道音だったが、肝心の配信メンバーの人数上限の問題が残っている。

 そこを指摘するが、道音は「あははっ」と楽しそうな笑い声を浮かべた。

「安心してよ、そこに関しては考えがある。きっとディルも私の意図を理解できるはずだよ」

「……分かった、お前らのアイデアを信用する」

 奇抜な発想を持つディルの名前を出されては、俺としてもこれ以上否定する材料を持っていない。


 道音とストーの乗った大船が再び浮かび上がり、空に消えるのを見届けてから俺達は配信の準備を始めることにした。

 秋狐は聳え立った魔王城を見上げながら、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

「うわー、センスわっる。もう少しなんかさ、なかったの?時代のニーズに合ってないよ」

「千戸先生もそこまでゲームやる側じゃないだろうし、仕方なくないかな……」

 辛辣な意見を述べる秋狐に対し、有紀はセンセーをフォローするようにそう声を掛ける。

 勇者パーティの盗賊が魔王のフォローをするというのも随分変な話なのだが、今更だろう。

 

 だが、秋狐の文句は止まらない。

「第一、何なの!何で住宅街に魔王城置いちゃったの!立地条件最悪だよ!魔王城って言うのなら住宅街じゃなくて……」

「……住宅街……?」

「ん、どしたの有紀ちゃん?」

 何か引っかかることがあったのか、有紀は顎に手を当てて物思いに耽り始めた。

 だが、答えが出なかったのが首を静かに横に振る。

「いや、現時点ではただの憶測だから断言できないけど……きっと、”住宅街”ということに千戸先生は意味を持ってるはず」

「んー……そうなのかな。まあ、入ればわかるかな?」

 秋狐は有紀の推測に辿り着けなかったようで、首を傾げたまま再び魔王城を見上げた。

 それから、次に穂澄へと視線を向ける。

「穂澄ちゃん、そろそろ配信始める?」

「うん、配信の告知も終えたしいつでも始められるよ」

 インカムを装着し、魔王城前に伸びた桜の樹根に腰掛けた穂澄。

 

 秋狐は穂澄の様子を準備完了と取ったのか、自らの姿をホログラムに変える。人型の姿をしていた彼女のシルエットが、徐々に小さくなっていく。

 やがて、彼女は小さな白のドローンへと姿を変えた。

『さて、いよいよ始まりましたセイレイ君主導のLive配信。実況は私、大人気配信者秋狐と、魔法使いのホズミちゃんが務めます。よろしくお願いします』

 秋狐は一体なんの真似をしているのか分からないが、実況でもするような平坦な声音でそう語る。

 そして、何かに期待するようにじっとホズミを見た。

「……」

『ホズミちゃん、”よろしくお願いします”って言って?』

「……あっ、よろしくお願いします?」

『よし』

 ホズミは何に付き合わされているのか分かっていないまま、曖昧な返答をした。

 だが、秋狐はそれでも満足したのだろう。

 納得したように俺達の後ろに続く。

『今回の配信メンバーは、勇者セイレイ、戦士クウリ、盗賊noise、魔物使い雨天 水萌のフルアタ編成ですっ』

「いちいち説明しなくたっていいんだよ」

『解説は大事だからねーっ』

 さっきから視聴者意識を重視した言葉を繰り返す秋狐。

 続いて、彼女が映し出すカメラは巨大な門を映し出した。それはまがまがしい装飾の施された、重苦しい雰囲気を放っている。

 

『さて、まずはサポートスキル”モニターシェア”だよ』

 秋狐はまず、そう宣告(コール)した。

 すると俺達の眼前に配信画面が共有される。


[魔王が作った木の根に私の娘の命は奪われたんです。お願いします、仇を討ってください]

[もう、これ以上滅茶苦茶を許すな]

[世界を救ってくれ]

[お願いします。終わらせてください、こんな救いようのない世界を]


 今まで以上に、切なる願いの籠ったコメントが流れている。

 それもそのはず。魔王が世界中に生み出した桜の木々は、瞬く間に魔災に墜ちた世界を飲み込んだのだ。

 どれほどの死傷者が出たのか分からないが——少なくとも、ひとつの集落は滅びた。


「……ライト先生……見ていてください」

 俺は、かつて命を救われた……そして、今はこの世に居ない配信者の名を呟く。

 森本 頼人。道の駅集落のリーダーを務めていた、俺達勇者パーティの配信に臨時として参加していた人物だ。

 拳銃を武器として使用していた彼は「光線銃」のスキルを発現。二度も俺達の配信における窮地を救った人物だった。

 ——だが、魔王が世界に現れると同時に、樹根に飲み込まれてその命を失った。

 そして、彼が管轄を担っていた道の駅集落も、同時に滅ぼされた。


 ——変わらないでいてください。セイレイ君は、セイレイ君のままで。


 ふと、脳裏にライト先生の遺言が脳裏を過ぎる。

 強くなれ、とも、世界を救え、とも言わなかった。彼は、俺がただ変わらないことを望んでいた。

「……それが、一番難しいな」

 思わず自嘲の笑みが零れる。変化する世界の中で、どれだけ狂わされてきたのだろう。

 胸の奥が詰まるような気分になるのを振り払うように、俺は首を横に振る。

 覚悟を決めて、俺は体重を預けるように両手を門に重ねた。


 それから、いつもの掛け声を——。

「……行くぞ、Live配信の——」

 

『……ぷっ』

 後ろから吹き出し笑いが聞こえ、俺はちらりと後方に視線を送る。

「……秋狐」

『ん?なーんにも言ってないよっ、ほら、いつもの掛け声掛け声っ』

 明らかに秋狐の笑い声だったが、当の本人はすっとぼけた様子で楽しそうに空を泳いでいる。

 笑われたことに恥ずかしくなり、顔が熱くなる。

 それを振り払うように、半ば自棄となって叫んだ。


「あーもう!行くぞ!Live配信の時間だっ!」

『ぶっ、あははははっ!Live配信の時間キター!』

「お前は空気読め!」

 せっかく、最終決戦が近いというのに秋狐はどこまでも空気を読まない。

 俺は恥ずかしさを誤魔化すように、思いっきり魔王城へと続く扉をこじ開けた。


 重苦しく、悲鳴かと間違えるような摩擦の音が響き渡る。

 完全に開き切った扉の先には、陰鬱とした空気が広がっていた。それはまるで俺達を飲み込む巨大な口のようだ。

「……もう、茶化す余裕もねえな。進むぞ」

 俺達は、各々に武器を顕現させて先に進むことにした。


 それから、ちらりと眼前に映るモニターに視線を送る。

 すると、ひとつのシステムメッセージが流れていることに気づいた。

 [information

 スパチャ支援額上限が解放されました。

 10000円→50000円]


 ちょうど、スパチャブースト”赤”1回分の使用額上限だ。

「……いよいよ、か」

 全てが、始まりに繋がっていくのを感じる。

 そう。俺達の配信は終わりに続くわけではないんだ。


「行くぞ。俺達は、世界を始まりに導くんだ」

 世界を、新たに始める為の戦いなんだ。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

赤:???

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

赤:???

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

赤:???

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