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【第百三十八話(1)】魔王が生み出した世界(前編)

「もう、何度目だろうね。ここに来るのは」

 穂澄は辺りを見渡しながら、ぽつりと呟いた。

 有紀、道音、秋狐の母校である塔出高校。岩壁の槍が貫いた校舎にちらりと視線を送った後、俺達は桜並木の道を通り抜ける。

 魔災と、魔王が生み出した桜の木々。その2つの破壊の痕跡が残る道のりを通り抜けた先にそれはあった。

「俺達は、道音の力を借りないとどうすることも出来ないからな……」

「そう言ってもらえると四天王冥利に尽きるよ」

 道音は照れくさそうに視線をそらしながら笑みを零す。

 彼女との戦いの過程で生み出された、体育館を書き換えて生み出した大船。かつては戦いの場であったそれも、今は貴重な移動手段として大いに活用されていた。

「さ、乗った乗った」

 道音に促され、俺達は早々に船内に乗り込む。

 

 今や体育館の面影はどこへやら。高く掲げられたマストが、俺達を覆うかのように存在を示す。壁面には手すりがそこらかしこに配置されている。その上でご丁寧に俺達が休憩できる客室を作っていると来た。

「もう、完全に我が物扱いですね」

 雨天は呆れたように船内を見渡す。それから、いそいそと客室に入り込んで姿を消した。

 

 俺達全員が乗り込んだのを確認した道音は、ぐるりと周囲を見渡して宣言する。

「目的地は魔王城。良くも悪くも目立つから助かるよ」

「じゃあ、運営権限を起動するぞ」

 須藤は手に持ったスマートフォンを操作し、運営権限を操作。

 漆黒のワンピースを身に纏う道音に、ホログラムによって生み出された真紅のコートが羽織られる。

 ”フック船長”の姿となった道音は、入り口がしっかりと締まっていることを確認。それから、高らかに声を上げた。

「じゃあ、行くよ!”ノアの箱舟”っ!」

 スキルを宣告(コール)すると同時だった。足元が突如として浮いたような、不思議な感覚に囚われる。

 事実として、俺達を乗せた大船は浮かび上がっていた。

 

「やっぱり、慣れないな」

 空莉はどこか引きつった笑みを浮かべながら、船内に配置された手すりを握りしめる。

 彼の隣に立った秋狐は、ニヤニヤと悪戯染みた笑みを浮かべた。

「空莉君は高所恐怖症かぁ、ドローンの姿を持ってるのに可愛いねっ」

「だから正直ドローンの姿になるのも苦手だったんだよ……」

 以前の配信では最後の四天王として、その役割を務めあげた空莉は大きなため息を吐く。

 それから、どこか遠い目をして空を見上げる。

「やっぱり、人間の姿でいるのが一番だよ。僕に四天王は務まらなかったな」

「そっか、それが空莉君の選んだ道なんだね」

「うん。見ていてね、お母さん……僕は、手に入れた力で今度こそ皆を幸せにする。皆の力を借りて、ね」

 それから、空莉の右手に光の粒子が集まっていく。集う光はやがて、ひとつの小さなぬいぐるみを生み出した。

 長い時間を共にしたことが分かる、年季を感じさせるそのイタチをかたどったようなぬいぐるみを。

 そのぬいぐるみを静かに抱きしめて、空莉は自らの想いを露わにした。

「自分だけじゃ出来ないんだ。だから、誰かの力が必要なんだ。手を差し伸べてくれる人が居るから、僕達は戦える」


 俺は、静かに空莉の隣に立って並ぶ。

「俺だって前に穂澄に言われたよ。配信は一人で成り立つ訳じゃないって」

「盗み聞きは趣味?」

「ぶっ、人聞き悪いなお前」

 空莉が返した言葉に思わず吹き出し笑いする。

 確かに以前も、空莉が秋狐と話しているところを盗み聞きしたが。


 小さく咳払いしてから、俺は自らの意見を語る。

「配信ってさ、俺達だけで成り立つ訳じゃねえ。見てくれる人が居る。応援してくれる人が居る。そんな繋がりを感じることが出来る場所なんだよな」

「セイレイ君良いこと言うねっ、勇者様の言うことは一味違うっ☆」

「お前ら茶化すの好きだな!?」

「あははっ」

 秋狐は声を上げて笑った。

 空莉と言い、秋狐と言い。どうもこの二人は相性が良いらしい。

 それから、途端に秋狐は真剣な表情を作った。

「ま、でもセイレイ君の言う通りだよ。視聴者は私達の配信を観たいと思って観てくれてるの。そんな想いを無下にする配信は絶対間違えてる」

「だよな。自分本位で動いたって、誰もついて来てくれない」

「力を持つ私達がそれを間違える訳にはいかないからねっ。インフルエンサーである私達にしか世界を導けないもん」

「……インフルエンサー、か」

 インフルエンサー。

 言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。俺達の言葉、行動に世界の人々は関心を持っている。

 俺達が話す言葉、発信する想いに人々は常にセンサーを張り巡らせているんだ。次は何をしてくれるのか、どう自分達を導いてくれるのか。

 だからこそ、人々を間違えた方向に導くわけには行かない。


「センセーも、自らのことを”世界に干渉するインフルエンサー”だって言ってたよね」

「……穂澄」

 静かに、俺達の会話に穂澄は割って入ってきた。

 彼女は手すりに小さな手のひらを乗せ、寂しげな表情で言葉を続ける。

「センセーだって、私やセイレイ君と同じ力のない一個人だったはずなんだよ?何も持たないはずの個人が、いきなり大きな力を持つと……間違えちゃうのかな」

「それは……否定できねえな」

「だよね。力の使い方が分からない。けど使わないと意味がないって思っちゃうんだろうね。力を持つことの責任を理解していないから」

「……力を持つ責任……」

「私達勇者パーティが持つスパチャブーストは、力を持つ意味を理解しているからこそ扱うことが出来る。けど、かつてのストーさんみたいに、力を持つ意味を理解できないまま大きな力を手に入れてしまったら?」

 そう言って、穂澄はちらりと有紀と話している須藤へと視線に視線を送る。

 彼は幸いにも穂澄の視線に気づかなかったようだが……引き合いに出された須藤が少し可哀想ではある。

「ストー兄ちゃんを引き合いに出すなよ……」

「一番分かりやすい例だと思うけど。総合病院ダンジョンでの一件、私は忘れてないからね」

「……まあ、穂澄の気持ちは分かるが」

 当時、道音に(そそのか)されるままに、Relive配信として俺達と敵対したストー。その時に覚醒した”自動回復”のスキルが発動していなければ、俺はとっくにこの世に居ないだろう。

 

「力を持つことの重みも知らない人間の振り回す暴力が一番恐ろしい、私はそう思ってる」

「それを止められる唯一の存在が、俺達勇者パーティなんだろうな」

「そう。もう、私達の配信に匹敵するレベルの配信者は魔王だけむぎゅ」

 難しい顔で語る穂澄の両頬を、秋狐は背後から両手で挟み込んだ。

 不本意に変顔を作らされた穂澄の両肩が、プルプルと小刻みに震える。両の目が吊り上がり、視線は背後に立つ秋狐へ向く。

 嫌な予感を感じ取り、俺は静かに彼女から距離を取った。

「穂澄ちゃん、いつも怒った顔してるねぇ、もう少し肩の力を抜いたらどう―?」

「私は真面目な話をしてるんだけど?」

「おー氷点下、こわっ。あははっ♪」

 氷のように冷たい声音で言葉を返されて尚、秋狐は余裕の笑みを絶やさない。

「秋狐さんの歌は好きだけど、空気を読まないのはどうかと思うよ」

「私からすれば、常に苛立った雰囲気醸し出してる穂澄ちゃんの方が良くないと思うなあ、ギスギスしてたら皆楽しくないもんっ」

「……そんな私、苛立った雰囲気出てる?」

 秋狐の言葉にハッとしたのか、穂澄の表情が固まる。

「出てるよーっ。余裕ないのは分かるけど、だからこそ余裕ありますよって雰囲気出さないとね」

「……秋狐さんも、もしかして余裕ない?」

「むしろ、魔王城とか本気で余裕!……とか言ってたら最強でしょ、あははっ」

 秋狐はさも「余裕です」と言わんばかりに楽しげに笑う。

 その言葉に肩の荷が下りたのか、穂澄は大きくため息を吐いた。

「……さすがだよ、秋狐さん。私も見習わないとね」

「配信者は演じてなんぼですからっ、わさび寿司食べた上で表情を崩さなかった雨天ちゃんを見習ってみよっ」

「あれは参考にならないというか」

 ”あれ”扱いされた雨天のいる客室から、小さく咳払いする音が聞こえた気がした。

 それから、観念したように穂澄は苦笑いを浮かべる。

「分かった、ごめんピリピリした空気出して。なるべく意識してみるね」

「女の子は笑顔が一番っ、笑顔に萌えるんだよっ。萌え、萌え、きゅんっ♡」

 秋狐はにこりと笑いながら片手でハートを表現した。

「でもそれはそれとして、秋狐さんは限度を覚えようね?」

「えへっ」

「誉め言葉じゃないんだけどなあ……」

 

 秋狐の言葉に緊張感が解れた俺達が進む先は、魔王城。

 自分一人だと、抱え込んだ想いに押しつぶされそうになっていただろう。

 そんな自分を支えてくれる人が居る。手を差し伸べてくれる人が居る。

「……自分一人で抱え込むもんじゃねーんだぞ、センセー……」


 桜並木が埋め尽くす世界に、これでもかと存在感を示す魔王城。

 魔王セージこと千戸 誠司が待つ場所は、確実に近づきつつあった。


 To Be Continued……

https://x.com/saishi_art/status/1929855395323138507?t=c5MO5oCUu_2TiX6UhelpDg&s=19

「天明のシンパシー、自分でアニメ化プロジェクト」の進捗です。

遊び人アランちゃんが覚醒するシーンである「悟りの書」の回を自分で描いていますが進みません……。

尺の都合でアニオリを入れたり、セリフを書き加えるタイミングを調整したりと手こずってます。棒人間バトルで学ぶアニメ化。

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