表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑨ショッピングモールダンジョン編
279/322

【第百三十五話(1)】LiveとLife(前編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・船出 道音(漆黒のドローン)

 見上げれば、一面を覆いつくす青空。

 灰色のアスファルトの上に、等間隔で白線が刻まれている。車一台さえない、まっさらな屋外駐車場を俺達は進む。

 色鮮やかに飾られた店内とは異なり、装飾など何一つ残っていない。


 灰色の敷地内に静かに浮かんでいたのは、緑色のドローンだった。

『……セーちゃん、どうだった?紺ちゃんの企画』

 緑色のドローン——四天王、青菜 空莉はそう問いかける。

 俺はわざとらしく、おどけるようにして両腕を開きながら答えた。

「最高だったよ、面白かった。いつもと違う配信の形で新鮮だったな」

『そっか、それなら良かった。そう言ってもらえると企画した甲斐があるよ』

 空莉がそう言葉を返すと同時に、ドローンにラグが生まれ始めた。

 そのラグは、やがてドローン全体を飲み込んでいく。歪んだホログラムが、やがて人の姿へと変わる。

「……僕が望んだ世界だった。ただ、皆が、笑い合える世界。皆が、対等でいられる世界」

 藍色の髪を揺らす、ポンチョを羽織った空莉は、静かにそう語り始めた。

 空を仰ぎながら、彼は話を続ける。

「魔災で辛いことがあっても、皆で力を合わせれば乗り越えられる……はずなんだ」

「ああ、お前の言う通りだよ。実際に俺達はいくつもの困難を超えて来ただろ」

「うん。それを成し遂げたリーダーの、セーちゃんに聞きたいんだ」

 

 やがて、空莉の周囲に突風が吹き荒ぶ。それはつむじ風となり、空莉を囲っていく。

「生きるって、何だと思う?」

「……難しい質問だな」

 唐突に問われたところで、その質問に答えられるだけの考えを持ち合わせていなかった。

「”Live”配信として、考えて欲しいんだ……ただその日を生き延びられれば。ただ心臓を動かしていれば。ただ強者に支配されて、自我を殺したとしても……生きてるって言える?」

「それは……」

 空莉の質問に「はい」と答えることは出来なかった。

 それは、真の意味で「生きる」とは言えないのだろう。それを分かった上で、空莉はこの質問を投げかけているのだと理解した。

 答えに窮しているのを感じ取った空莉は「だよね」と自嘲の滲む笑みを浮かべる。

「僕は皆で生きること……それを成せなかった。力があればできるって信じていたのに、出来なかった……なんでっ、なんで……!」

 より一層、空莉を纏う風が強くなる。

 大気中の空気を全て吸い込もうとする程にまで吹き荒ぶ風に、俺達の髪や衣服も大きく乱れる。

 乱気流の如く巻き起こる突風に、やがて空莉のシルエットが不鮮明となり——。


「なんで、僕は出来なかったの!力を持ってなお、成せなかったの!セーちゃんと僕、何が違うの……!」

 大鎌を構えた空莉の臀部から、茶色の尾ひれが長く伸びる。それは彼の怒りに応えるように、激しく揺らめく。

 空莉の肌から、まるで早送りするかのように茶色の毛が伸びる。

「……見てよ。これが魔物になった僕の姿……鎌鼬(かまいたち)だよ」

「空莉……」

 鎌鼬の姿となった空莉は、大鎌を構えて俺達と対峙する。


 戦闘前の緊張を感じ取った秋狐は、慌てた様子で俺達の間に割って入った。

「ま、待ってね、ルール説明してないっ!ルールは……」

「お稲荷ポイントを全損されたら負け、でしょっ!」

 秋狐の説明を遮って、空莉は大地を蹴った。


 次の瞬間、空莉が世界から消える。

「っ!?」

 瞬きした次の瞬間には、俺の眼前に大鎌を振りかぶった空莉が飛び掛かっていた。

 慌ててファルシオンを顕現させ、防御態勢を取る。

「先手、必勝だよっ!」

 眼前に火花が迸る。

 視界を埋め尽くすほどの火花に脳を焼かれると同時に、両腕に響くような痺れを感じた。

「クソっ!」

 重い一撃に弾き飛ばされ、俺の両足が地面から浮く。


「あああああああもう男子ってなんでこう……」

 秋狐はもどかしそうに手をこまねいている。結局どうすることも出来ず、俺達の姿を目で追うことしかできないようだった。


 空中で体勢を立て直した俺は、素早く着地する。だが、既に眼前に立つ空莉は空いた左手を高く掲げていた。

「——切り刻め、突風」

[青菜 空莉:風刃]

 左手に生み出された真空の刃が、瞬く間に俺に襲い掛かる。

 咄嗟の攻撃に、対応することが出来ない——。


「させませんっ!」

 俺を庇うように、雨天はその身ひとつで飛び出した。

 それから両手を素早く前に構えると共に、彼女は叫ぶ。


「誓いますっ!!」

 もはや見慣れた、巨大な水滴が彼女の前に生み出された。それは彼女を庇う盾となり、風刃をいとも容易く受け止めて見せる。

「……水萌ちゃん」

 空莉はどこか感慨深そうに、穏やかな表情を浮かべて雨天に視線を送る。


「演じたって良いんですっ、本物じゃなくたっていいんですっ!偽りの繋がりだって、いつかは本物になるんですからっ!だから、私は誓うんです、偽物を本物にして見せるんだってっ!」

「散々演技で振り回した雨天ちゃんが言うと説得力あるなあ」

 雨天の誓いの言葉に対し、秋狐が苦笑いを浮かべる。


[information

雨天 水萌がスパチャブースト”緑”を獲得しました。

緑:純水の障壁]


「秋狐ちゃんは黙っててくださいっ!スパチャブースト”緑”っ!」

[雨天:純水の障壁]

 やがて、取り戻したのは雨天の本来のスキルだった。風刃を受け止めた水滴を、雨天は手慣れた動作で操作する。

「受け取った想いっ、お返ししますっ!くらえっ!」


「何で私!?」

 ——何故か、受け取った風刃を秋狐へと返す。弾丸の如き速度で襲い掛かるそれに、秋狐は目を丸くする。

「あっぶな!」

 彼女は慌てた様子で高く飛翔し、それを回避。虚空へと溶けて消えた風刃を見届けた後、雨天は口を尖らせた。

「ぶー、つまんないです。当たってくださいよっ」

「こ、こっわ……瀬川 沙羅さんとんでもない配信者を生んだなあ……」

 冷や汗を垂らす秋狐は今も見ているであろう運営に対し、恨めしそうに呟きを零した。

 

 雨天の覚醒を見た空莉は、楽しげな笑みを浮かべる。

「雨天ちゃんもようやく皆と対等になれたんだね」

「ふふんっ、空莉君も戻って来てくださいよっ」

「それは……この配信の結果次第、かなっ!」

 空莉はターゲットを雨天に切り替える。低い姿勢から、風を纏いながら猛ダッシュ。

 雨天もそれを理解していたのか、右手に槍を顕現させてから宣告(コール)した。

「スパチャブースト”青”っ!」

[雨天:スタイルチェンジ]

 流れるシステムメッセージを確認すると同時に、雨天は再び叫ぶ。

「モードチェンジ、ゴブリンっ!」

 彼女の両脚に青い光が纏い始めると同時に、勢いよく駆け出した。

 小柄な体で疾走する彼女が放つ槍が、空莉を捉える。

「とりゃっ!」

 空莉が振るう大鎌の一撃を躱しながら、雨天は駆ける勢いを利用して彼の肩を深々と貫いた。

「っ!?」

 血液の代わりに、空莉の肩からガラス片のようにホログラムの欠片が舞い上がる。痛みこそないのだろうが、慌てた様子で空莉はバックステップして距離を取った。

「……やるね、雨天ちゃん。成長したね?」

「だとしたら皆のおかげですよっ」

 嬉しそうに、雨天は仲間達へと視線を送る。その彼女の期待に応えるように、ホズミは赤色の杖を突き出して叫んだ。

「隙だらけだよ、放てっ!」

[ホズミ:炎弾]

 そのシステムメッセージが流れると同時に、ホズミの杖先から鋭い矢の如く炎弾が襲い掛かる。

「——っ!」

 空莉は慌ててバックステップし、炎弾を回避。彼が先ほどまでいた地点を灼熱の業火が貫き、激しく土煙を舞い上げる。

 その煙の中に飛び込むようにnoiseは駆け抜けた。

「空莉っ!どうだ、たった一人では厳しいだろ!」

 noiseは空莉に呼びかけながら、流れ星のように次から次へと剣戟を放つ。

 相対する空莉は素早く攻撃を受け止めながら、苦悶の声を漏らしていた。

「っ、そんなこと言われても……っ!僕が何とかしないと、何とか……!」

「私もそう思っていた!戦えるのは私だけだから、って!全部背負い込もうとしたんだ!」

「僕の気持ちを分かった気にならないでよっ!一人にしてよっ!!」

 苛立ったように叫ぶ空莉。それから、大鎌でnoiseが居た空間を薙ぎ払った。

「っ……!」

「noiseッ!!」

 その一撃をnoiseはもろに喰らう。苦悶の声を漏らす彼女に向けて、俺は叫んだ。

 ちらりと配信画面を見れば、noiseのお稲荷ポイントは全損していた。


「……あちゃー……有紀ちゃん、退場ね」

 秋狐の宣言に対し、noiseは観念したように金色の短剣を鞘に納めた。

「スキルも使ってないのに……油断したなあ、ごめん皆。あとは頼んだよ」

 noiseは駄々をこねることもなく、苦笑いを浮かべながら戦線を離脱する。それから「見学席」と書かれた区間の中に自ら入り込んだ。

 

 空莉は、じっと己の大鎌を見つめていた。

「……戦えるのは、僕だけだったんだ。僕だけ……有紀姉と、僕は……同じ、なんかじゃ……同じ……」

 ブツブツと葛藤の言葉を漏らす空莉。それから、思いを断ち切るように首を横に振った。

 それから、大鎌の切っ先をホズミへと向ける。

「……次はホズちゃん、君を斬るよ」

「へえ、言うじゃん。じゃあ、私も全力で相手するよ……スパチャブースト”赤”」

[ホズミ:形状変化]

 宣告(コール)すると同時に、ホズミが持つ赤色の杖が形を変える。赤色の杖だったそれは、徐々に空莉が持つ大鎌そっくりの形に変化した。

「相も変わらず合わせてくれるんだね」

「皆と対等でありたいの、私は」

 それから、ホズミは更に宣告(コール)を重ねる。


「……スパチャブースト”黄”」

[ホズミ:身体能力強化]

 そのシステムメッセージと同時に、ホズミの全身を纏う黄色の光。

 同時に、ホズミは大鎌を構えて駆け出した。


 総支援額、23000円。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ