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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑨ショッピングモールダンジョン編
277/322

【第百三十三話(3)】仲違い(後編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・船出 道音(漆黒のドローン)

「そもそも、油断する方が悪いと思うんですっ」

「本性現したね」

 雨天はしたり顔を浮かべ、小さな身体で大きく威張る。

 苦笑いしてやり過ごす秋狐を余所に、雨天は言葉を続けた。

「第一印象が大事って船出先輩言ってましたもんっ」

『まあ……四天王の頃に言った記憶あるけど、解釈間違えた?』

 漆黒のドローンの姿でふわりと空を浮かぶ道音は、そのスピーカーから困惑の声を漏らす。

「間違えてないですよっ、弱く見せようとするのは騙し討ちの基本ですっ。これ以上対抗する手段はないって思わせるのが大事なんですっ」

『たち悪いなあ……』

 

 確かに、思い返せば初めて俺達と雨天が出会った時。その時も四天王としての前口上を覚えて居らず、カンペを見ながら語っていた姿が印象に残っている。

「なあ、雨天。お前俺達と初めに出会った時、ボロ出しまくったの……あれも演技か?」

「……今更ですか?」

「お前……」

 さも「何を当たり前のことを」と言わんばかりに首を傾げる雨天に対し、思わず頭を抱えざるを得ない。

 ここに来て露わとなった雨天の本性。どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか分からないが……ひとつ確かなことは。

「雨天、お前間違いなく配信者としての才能はあるよ。どっちかというと秋狐とかのエンタメ方面でさ」

「えー。勇者一行じゃないんですかあーっ」

 不満を垂れる雨天。だが、いつまでも彼女とのやりとりに構っている暇はない。

「ほら、最後は俺の番なんだからさっさと控えに戻っとけ」

「ちぇー……」

 本性がばれてから、嘘泣きは止めたようだ。

「もう少し可愛がって欲しかったです。ざーんねんっ」

 不貞腐れたように頬を膨らませながら、雨天はその場を後にした。


 それから、俺は秋狐と対峙する。

「よ、Live配信同士の対面だな」

「そう考えると熱いねっ、貴重なコラボシーンだよね」

 俺の呼び掛けに対し、秋狐は嬉しそうに翼をフワリとはためかせた。

 存在感をありありと示す翼に視線がいき、それからふと疑問に感じたことをぶつけてみる。

「お前、魔物の姿になったらハーピーなんだな」

「ん?魔物……まあそうかな。吟遊詩人の私にぴったりじゃない?」

 茶化すように、秋狐は更に大きく翼をはためかせる。

 確かに、歌という繋がりはあるのだろうが。

「鳥なのか狐なのか、どっちか一つにしろよ……」

「面倒くさいなあ、相変わらず神経質だね勇者様はっ」

「うるせぇ」

 小言を返しながら、右手に力を込める。その期待に応えるように光の粒子が集い、やがて俺の右手にファルシオンが顕現した。

 その切っ先を秋狐に向けようとしたが……さすがに止めた。

「あれ、今日はいつものポーズしないんだ。切っ先を私に向けて『お前は俺が倒す、俺が世界を救う勇者セイレイだ!ぐわっはっは!』みたいな……」

「誰の真似だよそれ。今日は別に敵対してるわけじゃねーからな……いや個人的には結構恨んでるが」

「2回もわさび稲荷食べさせられたもんねっ、3回目行っとく?」

「行かねえよ!?もうさすがに良いだろ!!」

 3回目は勘弁願いたいところだ。

 リズム感に関しては正直、自信がないが……タイミングに合わせて斬るだけなら何とかなるかも知れない。

 大きく深呼吸し、体制を整える。


 俺の構えを準備が整ったと捉えたのだろう。秋狐はクスリと笑った後、改めて自身の身体をモニターの中央へ寄せる。

「じゃ、始めるよ。そうだね、私とセイレイ君。言葉と力。2つのLive配信が並んだんだ。だとしたら、選曲はこれで決まりかな」

 彼女がそう語ると共に、秋狐を囲うようにホログラムが迸る。

 それは徐々に巨大なスピーカーの姿として、世界に生み出された。

「私もセイレイ君も、希望を描く存在。だけど、真に分かり合うなら一度くらい仲違いしないとね」

「仰々しい演出が好きだな、お前も」

 スピーカーから、静かにピアノの音が響く。

 そして、ベースの音が重なる。次に、ドラムの音が。ギターの音が。

 様々な楽器の音が、1つの曲を紡ぎ始める。

「セイレイ君、君はどれだけの言葉を受け取ってきた?どれだけ剣を振るってきた?」

 重なる音色が、やがて1つのメロディを生む。たった1つの音色を奏でるために、様々な楽器がそれぞれの役割を担う。

 ――まるで、俺達と同じだ。

 

「……行きますっ。”ペンと剣”っ!!」

 今まで、noise達に対して与えた課題曲とは異なる。大きく輝きを放つ秋狐を囲うのはメロディを刻む五本線。

 音符の形をした弾幕が、リズムを刻みながら俺に襲いかかる。

「っ!」

「――消えてしまった言葉を追い求めて、振るう刃が軌跡を残して」

 秋狐が歌に重ねるのは、俺達の戦いの数々。

 彼女は、この”ペンと剣”は勇者一行の配信がモチーフになっていると言っていた。秋狐は一体、俺達の配信に何を感じていたのだろう。


 次から次に襲いかかる音符の弾幕を切り払う。だが、リズム感に関しては俺も完全に理解できているとは言えない。

「っ、やべ!?」

 捌ききることが出来ず、弾幕の直撃を喰らう。

 だが、動揺している時間はない。

 すぐに体制を立て直し、呼吸を整える。


 秋狐が歌っていたのは、希望だった。

 全員が全員、同じ想いを抱いているわけじゃない。全ての人が同じ方向へと歩みを進めることは出来ないし、間違えることばかり。

 それでも、皆が幸せになる道を探し続ければ、いずれ人は集う。

 

「……っ」

 間奏に差し掛かったところで、秋狐は叫んだ。

「光があるところに闇がある!闇があるところに光がある!人は一側面で成り立つわけじゃない!」

「それを伝える為にこの配信を開いたのか、お前は」

「勇者一行の皆だって、たった一人の人間だからっ、今日はそれを皆に知って欲しかったのっ!」

「……そうか」

 あまりにもふざけた四天王戦の配信だと思っていたが、そのような魂胆があったのか。


 俺達は勇者一行だ。だが、知らず知らずのうちに周りの期待に応えようとするあまり、完璧な姿を追い求めていたのは事実だった。

 何もかも、完璧で、スマートに決めなければならない。視聴者もきっとそれを望んでいるはずだ……と。

 だが、秋狐達の求めた姿はそうではなかったのだろう。

 俺達も、たった一人の人間であると知って欲しい。そう思って、この配信を開いたのだ。

「随分と気を遣われたものだなっ!」

「世界を救うのは英雄じゃないっ、人間だもんっ!……っと、そろそろ歌詞が始まっちゃう」

 間奏の時間が終わるのを感じ取った秋狐は素早く態勢を切替える。

 音符の形をした弾幕は、休むことなく俺目がけて襲いかかる。

 彼女の悲痛な叫びにも似た思いが、歌詞に乗って響く。


 ――暗雲に濁っていた、想いが徐々に晴れ渡っていくような感覚を抱いていた。

 リズムに乗せた言葉に、いつしか俺は共感(シンパシー)を抱いていたのだ。

 

 それは、俺だけではなかったのだろう。


[世界を救うのは人間、か。当たり前の言葉だけど言われないと気付かなかった]

[今日は皆の色んな姿を知ったけど、それも勇者一行も人間ってことですもんね]

[秋狐さんは相変わらず、シンプルな視点だから好き]

[セイレイはかっこ悪い、今日の教訓ね]


 宵闇に堕とされた人々の心が晴れ渡っていくのが、コメント欄を介して映し出される。ただ最後のコメントした奴は覚えてろよ。

 失われていたはずの思いが、言葉の力によって取り戻されていく。

 夜明けの、共鳴が――。


 秋狐も同様にコメント欄を確認したのだろう。最後のサビを終えた後、右手を高く掲げて再び叫んだ。

「セイレイ君っ!コメント欄見える!?これが、私が、君達が紡いできた配信が描いた世界!」

「見えるさ、俺達を応援してくれる声の数々が!夜明けを刻む、共鳴の言葉がっ!」

「そう!それこそっ、この曲に乗せた想い!やがて共鳴が生み出す1つの夜明け――」

 秋狐の右手に集う光が、七色に輝く巨大な音符を作り出した。

 虹色に照らされた世界が、配信画面を色鮮やかに照らす。


「……それが――”天明のシンパシー”だっ!!」

 

 秋狐は、高く右手を振り下ろした。

「スパチャブースト”青”っ!!」

 ひときわ激しく鳴り響くドラムの音を聴きながら、俺は宣告(コール)しつつ高く跳躍する。

 本来は必要ないものだが、視聴者に見せる演出として使った方が良いと判断したものだ。

「ぜああああああああっ!」

 七色の光に包まれながら、俺は勢いよく剣を振り抜いた。

 刻まれる軌跡が、音符を真っ二つに斬り裂く——。


 やがて、それは七色の光の粒子を生み出した。

 紙吹雪のように舞い上がった粒子が、ショッピングモール内を色鮮やかに照らす。

 すたりと着地した俺に、呆けた表情で俺の姿を見ていたホズミ達に、光の粒子が降り掛かる。

「……綺麗」

 雨天は、手のひらに乗せた光の粒子を見てぽつりと呟いた。


 ”ペンと剣”は最後に、高くギターの音を鳴らす。余韻を残すように響くギターの音を聴きながら、俺は静かに漆黒のドローンを見上げた。

「……これこそが、俺達の描く”Live配信”だ」


 ——clear.

 モニター上には、色鮮やかにその文字が刻まれた。


 ただそれはそれとして、noiseと雨天には罰ゲームが待っている。

 

 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:???

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