表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑨ショッピングモールダンジョン編
275/322

【第百三十三話(1)】仲違い(前編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・船出 道音(漆黒のドローン)

「はい、秋狐ちゃんのお題バトル一つ目終わり―っ!お疲れさまっ」

 秋狐は両手をパンと叩く。それを合図として、食品コーナーに群れていたホブゴブリンは、ホログラムとなり跡形もなく世界から消えた。

 ホズミとnoiseは、持っていた武器を光の粒子と変えて自然な立ち姿に戻る。

「正直、どうコメントするのが正解か分からないけど……ただのお遊び、ではないねこれ」

 体力というよりも精神的に疲弊したのだろう。ホズミは大きなため息を吐いていた。

 対してnoiseはどこか心躍るものがあったのか、ニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべている。

「紺ちゃん、次はどんなお題をするの?面白かったよ」

「……有紀さんは元気だね」

 もうツッコむ気力すらないのか、ホズミは呆れたようなため息を吐いた。

 

 ちなみに、俺達は何をしているのかというと。


「残念ながら、セイレイ君と雨天ちゃんはお稲荷ポイントが底をついたので罰ゲームでーす!いえーっ!」

「……はあ」

 まるで動物でも隔離するような檻の中に、俺と雨天は正座させられていた。

 ホログラムの力によって、ご丁寧に俺達の衣類も囚人服に替えられている。

 ちらりと雨天の方を見れば、彼女は引きつった笑みを交えて軽く会釈を返した。

「あは、ごめんなさい」

「……別にお前は悪くねえよ。油断した俺も悪かった」

 なるべく雨天を責めないように言葉を選んだつもりだったが、申し訳なさは消えないのだろう。雨天は肩をすぼめて「落ち込んでいます」感を全身で表現していた。

 ――だが。


「……どうです。落ち込んでる感、伝わってますか」

「その言葉がなけりゃな」

 ペロッと舌を出しながら、雨天はいたずらっぽく笑みを交わす。

 最近はあざとい表現を覚えたようだ。

 そして、そんな俺達のいる檻の錠前に近づくのは。

「やっほー、世界を救う勇者様がなーんと情けないことでしょう。今にも暴れ出しそうなライオンを隔離するかの如く、檻の中に入れられているではありませんかっ」

「否定はしないけど言葉選びはもう少しまともなのを選ぼうぜ」

 にやにやと愉しそうな笑顔を浮かべながら、空莉は稲荷寿司の乗った皿を持って現れた。

 その稲荷寿司の乗った皿を、囚人に配食するかのように折の隙間から差し込む。

「はい、どうぞ。食べてっ」

「もう少しマシな渡し方は無いのか……」

 せめてもの反抗と思い、苦言を呈するが空莉は余裕ぶった表情を崩さない。

 というよりは明らかに優位に立った状況であり、余裕なのは間違いないだろうが。これが真っ当な四天王戦なら俺達はとっくにゲームオーバーだ。

「さすがにセーちゃん達油断しすぎだよー。僕達が殺意マシマシで襲いかかってきてたら今頃死んでるよ?」

「……敢えてその話題に触れるって事は殺す気はねーんだな」

「当然っ。でもそれは手を抜いて良いって事では無いからね」

「分かってるよ……」

 全力でぶつかり合い、全力で視聴者に楽しんでもらう。

 ありのままの、かつての配信の姿を再現することが彼等の狙いなのだろう。

 ……それが秋狐と空莉の願う、最後の四天王戦だ。


 それは分かっている。

 だから。

「俺達は全力でお前達の要望に応えてみせる。さあ、次のお題は何だ」

「その前にお稲荷さん食べてね」

「……俺達は、こんな困難には屈しない」

「めっちゃ話逸らすじゃん。かっこ悪いよセーちゃん」

 正直、すごく嫌だ。

 稲荷寿司を見ると、一番最初に食べさせられた時の痛覚がよみがえる。

 喉奥を鋭利な針で突かれたような、突き抜ける痛みが。

「……う」

 食べなければ先には進めないのは分かっているが……。

 縋るように雨天の方を見ると、彼女はきょとんとした様子で首を傾げていた。

「ん、食べるだけじゃないですかっ。話進みませんし食べますよっ」

 雨天は何の気も無しに、ひょいっと皿の上に置かれた稲荷寿司を手に取る。

 慌てて俺は「おいっ」と呼び掛けるが、とっくに稲荷寿司は彼女の口の中。

 

「……う」

 瞬く間に雨天の表情が固まる。

 かと思うと、徐々に彼女の瞳から涙が溢れ始めた。

「っ……う、ひぐ……うっ……」

 口を押さえ、蹲りながら彼女は泣きじゃくり始めた。大粒の涙をこぼし、何度も瞼を擦る。

 ただわさび山盛りの稲荷寿司を食べただけとは思えないほど、彼女は悲劇のヒロインの様相を醸し出していた。


 そんな雨天の姿を見た空莉は、困惑した様子でオロオロとし始める。

「ちょっと罪悪感を感じるリアクション止めてほしいな!?」

 さすがにそれは俺も同感だ。

「っぐ……だ、大丈夫、ですっ……えぅ……」

 雨天は俺達を気遣ってか言葉を返すが、かえってそれが視聴者の同情を買ったのだろう。


[あーあー泣かせた]

[雨天ちゃん可哀想]

[良い子なのにね、四天王だけど]

[クウリが女の子泣かせたー]


「ちょ、ちょっと僕が悪者みたいに言わないでよ!?」

 いや、空莉は現状悪者のポジションだし、それは事実だろ。

 思わず口から出かかった言葉を飲み込み、俺は覚悟を決める。

「ああもう、俺が食べりゃ良いんだろ!食べりゃ!」

「セーちゃん……!」

 俺の言葉に対し、空莉が「希望を見た」と言わんばかりに目を輝かせた。やめろ、こんなことに希望を見るな。

 

 大きく深呼吸し、脳内に酸素を十分に廻らせる。体内に廻る血液の感覚を確かめつつ、思考を鮮明になるように整える。

 大丈夫だ。これまでどれほどの強敵と戦ってきたと思っているんだ。

 勝てる、俺なら。


「ごふぅっ!?げふっ、げふっ!っがああああああっ、いてええええええ」

 口の中を駆け巡る痛みに、思わず悶絶する。

 配信中と言うことも忘れて激しくのたうち回るより他なかった。

「……うわぁ」

 雨天までもがあまりの俺の反応にドン引きしている。

「ぷっ」

 空莉が俺のリアクションを見て、満足そうににやついている。

 いや、明らかに最初の奴よりも辛いぞ!?

「おい、これ最初の奴と違うだろ!?何入れた!」

 痛覚が食道を抜けて、胃の中で留まる。頼むからこの時だけは幽門は仕事しないで欲しい。さっさと十二指腸に流れ出て欲しい。

 最初のわさび山盛り稲荷寿司がハンマーだとしたら、今回の稲荷寿司は鋭利な刃物だ。

 同じ「辛い」なのに、何故にこうも違うのかと空莉に問いかける。すると、彼は右手でVの字を作りながら答えた。

「唐辛子入れましたっ!どう?どう?あははっ!」

「性格悪いぞお前……」

 恨み言のように呟くと、さすがの空莉も悪いと思ったのだろう。次いでコップに入った飲み物を差し出してきた。

「ごめんごめん、これでも飲んで落ち着いて」

「……」

 さすがに信用ならなかった為、不信感マシマシの目で空莉を見つめる。

 すると「何も入ってないって」と空莉は笑いながら答えた。

「……信じるぞ?」

 口元が未だヒリヒリする為、俺は慎重にそのコップに入った飲み物を口に運ぶ――。


「ごふぅっ!?」

 突如として押し寄せてきたのは強烈な酸味だった。

 激痛に悶える中に追い打ちを喰らい、激しくむせ込む。

「……てめぇ……さすがに……」

「あははっ!辛いものは入れてないってだけだよ。酢を入れましたっ」

「屁理屈だろ……」

 この配信が終わる頃には、俺こいつのこと信用できなくなっている気がする。


----


 しばらく悶え苦しんだ後、ようやく檻の中から俺と雨天は釈放された。

 俺達をホズミとnoiseは迎え入れ、それからちらりと秋狐へと視線を送る。

「おかえり、恥ずかしいところ見せまくりの勇者様」

「お前も配信終わったら覚えてろよ」

「こっわ、女の子に言う発言じゃないねっ」

 秋狐はけらけらと楽しそうに笑う。

 それから「ついてきて」と言い、大きな翼を揺らしながら一足先に続く通路へと歩みを進めた。


 しばらくして着いたのは、大広間だった。

 恐らく催事などに用いられていたであろうスペースには、巨大なモニターが配置されている。映し出されるのはピアノで言う所の五本線のようなものだ。

 不規則な間隔で五本線の間をバーが通り抜ける。そのバーが特定のラインに接触した際「miss」と表示される——と言ったことを繰り返していた。

「……このモニターはなんだ?」

「よくぞ聞いてくれましたっ、これはね」

 秋狐がモニターに映し出された映像について説明しようとするとnoiseが話に割って入る。

「わ、懐かしいなこれ。音ゲーってやつだよね!」

「先に言わないでよ!?てか有紀ちゃんゲーム好きだったもんね……」

「まあね?てことは私達、音ゲーさせられるの?」

「そゆことっ」

 ちょっと二人で話を先に進めないで欲しい。

 noiseと雨天は魔災以前のゲームを知っているのだろうが、俺とホズミに関してはそれが一体何なのか訳も分からないのだ。

 特にホズミは放置してはいけないと思う。

「ねえ、二人で話を先に進めないでよ。テンポ重視なのは分かるよ、でも肝心のプレイヤーの私達を放置するのはどうかと思うけど?」

 案の定低い声音で、苛立ったオーラを全開にして話しかけていた。

 秋狐はホズミの声に「ひっ」と引きつった笑みを浮かべつつ、いそいそと次のお題について説明する。

「次のお題はね”音に合わせてリズムを刻め!”だよっ。曲はもちろん私、秋狐が提供しますっ」

「……リズム、ね」

 お題の名前を聞きながら、ホズミはちらりとnoiseへと視線を向けた。

 一体その視線が何を意味しているのか分からないが、ろくでもない意味合いなのは確かだろう。


 俺達は次なるお題に挑戦せざるを得ないのだった。


 To Be Continued……

https://www.nicovideo.jp/watch/sm45002526?ref=garage_share_other

新作の棒人間バトルです。小説更新が遅れた理由でもあります。ゴメンナサイ


【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:???

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ