【第百三十三話(1)】仲違い(前編)
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・船出 道音(漆黒のドローン)
「はい、秋狐ちゃんのお題バトル一つ目終わり―っ!お疲れさまっ」
秋狐は両手をパンと叩く。それを合図として、食品コーナーに群れていたホブゴブリンは、ホログラムとなり跡形もなく世界から消えた。
ホズミとnoiseは、持っていた武器を光の粒子と変えて自然な立ち姿に戻る。
「正直、どうコメントするのが正解か分からないけど……ただのお遊び、ではないねこれ」
体力というよりも精神的に疲弊したのだろう。ホズミは大きなため息を吐いていた。
対してnoiseはどこか心躍るものがあったのか、ニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべている。
「紺ちゃん、次はどんなお題をするの?面白かったよ」
「……有紀さんは元気だね」
もうツッコむ気力すらないのか、ホズミは呆れたようなため息を吐いた。
ちなみに、俺達は何をしているのかというと。
「残念ながら、セイレイ君と雨天ちゃんはお稲荷ポイントが底をついたので罰ゲームでーす!いえーっ!」
「……はあ」
まるで動物でも隔離するような檻の中に、俺と雨天は正座させられていた。
ホログラムの力によって、ご丁寧に俺達の衣類も囚人服に替えられている。
ちらりと雨天の方を見れば、彼女は引きつった笑みを交えて軽く会釈を返した。
「あは、ごめんなさい」
「……別にお前は悪くねえよ。油断した俺も悪かった」
なるべく雨天を責めないように言葉を選んだつもりだったが、申し訳なさは消えないのだろう。雨天は肩をすぼめて「落ち込んでいます」感を全身で表現していた。
――だが。
「……どうです。落ち込んでる感、伝わってますか」
「その言葉がなけりゃな」
ペロッと舌を出しながら、雨天はいたずらっぽく笑みを交わす。
最近はあざとい表現を覚えたようだ。
そして、そんな俺達のいる檻の錠前に近づくのは。
「やっほー、世界を救う勇者様がなーんと情けないことでしょう。今にも暴れ出しそうなライオンを隔離するかの如く、檻の中に入れられているではありませんかっ」
「否定はしないけど言葉選びはもう少しまともなのを選ぼうぜ」
にやにやと愉しそうな笑顔を浮かべながら、空莉は稲荷寿司の乗った皿を持って現れた。
その稲荷寿司の乗った皿を、囚人に配食するかのように折の隙間から差し込む。
「はい、どうぞ。食べてっ」
「もう少しマシな渡し方は無いのか……」
せめてもの反抗と思い、苦言を呈するが空莉は余裕ぶった表情を崩さない。
というよりは明らかに優位に立った状況であり、余裕なのは間違いないだろうが。これが真っ当な四天王戦なら俺達はとっくにゲームオーバーだ。
「さすがにセーちゃん達油断しすぎだよー。僕達が殺意マシマシで襲いかかってきてたら今頃死んでるよ?」
「……敢えてその話題に触れるって事は殺す気はねーんだな」
「当然っ。でもそれは手を抜いて良いって事では無いからね」
「分かってるよ……」
全力でぶつかり合い、全力で視聴者に楽しんでもらう。
ありのままの、かつての配信の姿を再現することが彼等の狙いなのだろう。
……それが秋狐と空莉の願う、最後の四天王戦だ。
それは分かっている。
だから。
「俺達は全力でお前達の要望に応えてみせる。さあ、次のお題は何だ」
「その前にお稲荷さん食べてね」
「……俺達は、こんな困難には屈しない」
「めっちゃ話逸らすじゃん。かっこ悪いよセーちゃん」
正直、すごく嫌だ。
稲荷寿司を見ると、一番最初に食べさせられた時の痛覚がよみがえる。
喉奥を鋭利な針で突かれたような、突き抜ける痛みが。
「……う」
食べなければ先には進めないのは分かっているが……。
縋るように雨天の方を見ると、彼女はきょとんとした様子で首を傾げていた。
「ん、食べるだけじゃないですかっ。話進みませんし食べますよっ」
雨天は何の気も無しに、ひょいっと皿の上に置かれた稲荷寿司を手に取る。
慌てて俺は「おいっ」と呼び掛けるが、とっくに稲荷寿司は彼女の口の中。
「……う」
瞬く間に雨天の表情が固まる。
かと思うと、徐々に彼女の瞳から涙が溢れ始めた。
「っ……う、ひぐ……うっ……」
口を押さえ、蹲りながら彼女は泣きじゃくり始めた。大粒の涙をこぼし、何度も瞼を擦る。
ただわさび山盛りの稲荷寿司を食べただけとは思えないほど、彼女は悲劇のヒロインの様相を醸し出していた。
そんな雨天の姿を見た空莉は、困惑した様子でオロオロとし始める。
「ちょっと罪悪感を感じるリアクション止めてほしいな!?」
さすがにそれは俺も同感だ。
「っぐ……だ、大丈夫、ですっ……えぅ……」
雨天は俺達を気遣ってか言葉を返すが、かえってそれが視聴者の同情を買ったのだろう。
[あーあー泣かせた]
[雨天ちゃん可哀想]
[良い子なのにね、四天王だけど]
[クウリが女の子泣かせたー]
「ちょ、ちょっと僕が悪者みたいに言わないでよ!?」
いや、空莉は現状悪者のポジションだし、それは事実だろ。
思わず口から出かかった言葉を飲み込み、俺は覚悟を決める。
「ああもう、俺が食べりゃ良いんだろ!食べりゃ!」
「セーちゃん……!」
俺の言葉に対し、空莉が「希望を見た」と言わんばかりに目を輝かせた。やめろ、こんなことに希望を見るな。
大きく深呼吸し、脳内に酸素を十分に廻らせる。体内に廻る血液の感覚を確かめつつ、思考を鮮明になるように整える。
大丈夫だ。これまでどれほどの強敵と戦ってきたと思っているんだ。
勝てる、俺なら。
「ごふぅっ!?げふっ、げふっ!っがああああああっ、いてええええええ」
口の中を駆け巡る痛みに、思わず悶絶する。
配信中と言うことも忘れて激しくのたうち回るより他なかった。
「……うわぁ」
雨天までもがあまりの俺の反応にドン引きしている。
「ぷっ」
空莉が俺のリアクションを見て、満足そうににやついている。
いや、明らかに最初の奴よりも辛いぞ!?
「おい、これ最初の奴と違うだろ!?何入れた!」
痛覚が食道を抜けて、胃の中で留まる。頼むからこの時だけは幽門は仕事しないで欲しい。さっさと十二指腸に流れ出て欲しい。
最初のわさび山盛り稲荷寿司がハンマーだとしたら、今回の稲荷寿司は鋭利な刃物だ。
同じ「辛い」なのに、何故にこうも違うのかと空莉に問いかける。すると、彼は右手でVの字を作りながら答えた。
「唐辛子入れましたっ!どう?どう?あははっ!」
「性格悪いぞお前……」
恨み言のように呟くと、さすがの空莉も悪いと思ったのだろう。次いでコップに入った飲み物を差し出してきた。
「ごめんごめん、これでも飲んで落ち着いて」
「……」
さすがに信用ならなかった為、不信感マシマシの目で空莉を見つめる。
すると「何も入ってないって」と空莉は笑いながら答えた。
「……信じるぞ?」
口元が未だヒリヒリする為、俺は慎重にそのコップに入った飲み物を口に運ぶ――。
「ごふぅっ!?」
突如として押し寄せてきたのは強烈な酸味だった。
激痛に悶える中に追い打ちを喰らい、激しくむせ込む。
「……てめぇ……さすがに……」
「あははっ!辛いものは入れてないってだけだよ。酢を入れましたっ」
「屁理屈だろ……」
この配信が終わる頃には、俺こいつのこと信用できなくなっている気がする。
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しばらく悶え苦しんだ後、ようやく檻の中から俺と雨天は釈放された。
俺達をホズミとnoiseは迎え入れ、それからちらりと秋狐へと視線を送る。
「おかえり、恥ずかしいところ見せまくりの勇者様」
「お前も配信終わったら覚えてろよ」
「こっわ、女の子に言う発言じゃないねっ」
秋狐はけらけらと楽しそうに笑う。
それから「ついてきて」と言い、大きな翼を揺らしながら一足先に続く通路へと歩みを進めた。
しばらくして着いたのは、大広間だった。
恐らく催事などに用いられていたであろうスペースには、巨大なモニターが配置されている。映し出されるのはピアノで言う所の五本線のようなものだ。
不規則な間隔で五本線の間をバーが通り抜ける。そのバーが特定のラインに接触した際「miss」と表示される——と言ったことを繰り返していた。
「……このモニターはなんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたっ、これはね」
秋狐がモニターに映し出された映像について説明しようとするとnoiseが話に割って入る。
「わ、懐かしいなこれ。音ゲーってやつだよね!」
「先に言わないでよ!?てか有紀ちゃんゲーム好きだったもんね……」
「まあね?てことは私達、音ゲーさせられるの?」
「そゆことっ」
ちょっと二人で話を先に進めないで欲しい。
noiseと雨天は魔災以前のゲームを知っているのだろうが、俺とホズミに関してはそれが一体何なのか訳も分からないのだ。
特にホズミは放置してはいけないと思う。
「ねえ、二人で話を先に進めないでよ。テンポ重視なのは分かるよ、でも肝心のプレイヤーの私達を放置するのはどうかと思うけど?」
案の定低い声音で、苛立ったオーラを全開にして話しかけていた。
秋狐はホズミの声に「ひっ」と引きつった笑みを浮かべつつ、いそいそと次のお題について説明する。
「次のお題はね”音に合わせてリズムを刻め!”だよっ。曲はもちろん私、秋狐が提供しますっ」
「……リズム、ね」
お題の名前を聞きながら、ホズミはちらりとnoiseへと視線を向けた。
一体その視線が何を意味しているのか分からないが、ろくでもない意味合いなのは確かだろう。
俺達は次なるお題に挑戦せざるを得ないのだった。
To Be Continued……
https://www.nicovideo.jp/watch/sm45002526?ref=garage_share_other
新作の棒人間バトルです。小説更新が遅れた理由でもあります。ゴメンナサイ
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:???