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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑨ショッピングモールダンジョン編
274/322

【第百三十二話(2)】インチキ禁止(後編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・船出 道音(漆黒のドローン)

 だって、今まで危険が常だったのに。

 急にこの配信中は死ぬことがありません、なんて言われたら気が抜けるもんじゃないですか。

 ああ、今日は遊んでも良いんだって、思うもんじゃないんですか。

 なのに。


「セイレイ君っ、三時方向警戒!」

 穂澄ちゃんは、冷静な判断力に任せて的確にホブゴブリンの位置を把握。素早く仲間達に指示を送っています。

 どうでもいいんですけど穂澄ちゃんの立ち位置って、もはやセイレイ君の嫁みたいなものではないかと思います。

「分かった!っと、有紀!頼んだ!」

 セイレイ君は大きく動き回り、陽動を買って出ています。相も変わらずに無茶振りが好きなようですが……。

「任せろ、スパチャブースト”緑”っ!」

[noise:金色の盾]

 一ノ瀬さんはセイレイ君を庇う形で躍り出たと思ったら、左腕を前に突き出しました。

 左腕に顕現する金色の盾を駆使して、ホブゴブリンが打ち飛ばす瓦礫を(ことごと)く受け止めます。金色の蔓が瓦礫を縛り付けますが、今回は攻撃を受けることがメインでしょう。

 ちらりと配信画面を見れば、総支援額は57500円でした。


 そして肝心の私、雨天 水萌はというと——。

 

「ひっ」

 襲い掛かる瓦礫から身を縮こまらせて躱します。瓦礫の鋭利な部分が私が被るフードを掠めました。

 風圧と轟音が瞬く間に、私の抹消に至るまでを恐怖が埋め尽くします。

 本当に、こんな末恐ろしい環境にセイレイ君達は常に身を投じていたのだと思うと、改めて勇者一行というのはすごいのだと再認識させられます。

「雨天、下がってろ!俺が何とかするっ!」

 そんな私を見かねてか、セイレイは怒鳴りつけるように言い放ちました。

「ひっ、あ、はいっ」

 私は逃げるようにして戦線を離脱しようとします。

 ですが、本企画を管理している秋狐ちゃんはそれを許しません。

「だーめっ、雨天ちゃんっ。はい、バリアーっ!」

 ステージから命からがら逃げようとした私へと、彼女は両手を向けます。

[秋狐:虚像の盾]

「きゃっ!?」

 すると、秋狐ちゃんの両手を軸として正六角形で構築——ハニカム構造というらしいです——された盾に私は真正面からぶつかりました。

 鼻先からぶつかっただけに、痛いです。鼻の奥が熱を持ったみたいにジンジンして辛いです。

 尻餅を突き、茫然とする私を秋狐ちゃんは柔らかな笑みで見下ろしました。ただ、どこかその笑顔には圧があります。

「雨天ちゃんっ、逃げちゃダメでしょ?」

「う、その……」

「視聴者に背中を見せてどうするの、一度配信者になるって誓ったのなら出来るところまでやって欲しいな」

「……」

 秋狐ちゃんに厳しい言葉を浴びせられましたが、いずれも事実なので言い返す口実もありません。

 そのために黙りこくるしかなかったのですが、秋狐ちゃんはそんなしょげた私の肩を叩きました。

「まー……そうだね、本気になることって最初は恥ずかしく思えるよね。なんでこんなことに一生懸命に……って」

「そう、ですね。本気を出すってなんだろう、そんな一生懸命にならなきゃダメなのかなってのはいつも考えます」

 気が付けば、漆黒のドローンを操作する船出先輩のカメラはこっちを向いていました。

『ね。私は雨天ちゃんの本気、見てみたいな』

「……うー……ウジウジしているのもさすがにカッコ悪いですよね……」

 さすがに、カメラを向けられたままカッコ悪い姿を見せているのは恥ずかしいです。


 それに、そろそろウジウジしている余裕もなくなってきたかもしれません。

「ぐっ!?」

「セイレイ君っ!」

 セイレイ君の悲鳴が響きました。それに重なるように、穂澄ちゃんの悲鳴じみた声が響きます。

 ホブゴブリンが放つ瓦礫の一撃を躱し続けることが出来ず、ついに一撃を貰いました。

「——っ!」

 私も慌てて彼の元に駆け寄ります。

 ですが、セイレイ君は軽くよろけたのみですぐに体勢を立て直しました。

「……あれ?痛くねえな」

 呆けた顔で、自分の身体と私達の姿を交互に見ます。

 そんな私達の元へと、翼の生えた秋狐ちゃんが空から声を掛けて来ました。

「だから、死なないように設計してるって。でもあんまりぼーっとしてる余裕ないかもよ?セイレイ君、体力ゲージを見てっ」

 目元を叩きながら、秋狐ちゃんはそう促します。セイレイ君は怪訝そうな表情をしながらも、配信画面に映った体力ゲージ——もといお稲荷ポイントへと視線を向けます。

「げっ……あとちょっとしかねーじゃん」

「だから言ってるんだって、あははっ」

 秋狐ちゃんは楽しそうに声を上げて笑いました。

 お稲荷ポイントは残り3割ほど。次に何か一撃を貰えば、罰ゲーム直行です。

 本来ならば視聴者達がそんな私達を助けてくれようと、スパチャを送ってくれるのですが……今回は状況が違います。


[正直もっかい罰ゲーム受けたとこ見たい]

[面白くない?カッコつけのセイレイが悶えてるところ見るの]

[草]

[いいぞ秋狐ちゃん、やれやれーっ]

[新曲聴きながら配信見てます]


「鬼かテメェら!?」

 セイレイ君が口悪く悲鳴じみた声を漏らしました。

 明らかに視聴者達は、セイレイ君の罰ゲームを期待しているようです。

 こういうことだったんですね、企画前に「視聴者が敵に回る」って言ってたのは。

「お前らの言いなりにはならねーぞ!世界を救う希望の勇者、こんな困難には負けはしねぇっ!」

 右手に顕現させたファルシオンをカメラに向けて突き出しながら、セイレイ君は高らかに宣言しました。

 状況が状況なら、世界に希望を与える存在なのですが。

[わさび山盛り稲荷寿司を避けるためにカッコつけてるセイレイカッコ悪い]

「うるせぇ!!」

 視聴者はどうも辛辣なようです。

「……ぷっ」

 一ノ瀬さんはそっぽを向いて、カメラに感づかれないように笑っていました。

 

 客観的に見る分にはすごく面白い状況なのですが、セイレイ君にとっては面白くないようです。

 大きく深呼吸したかと思うと、じっと姿勢を低くしてホブゴブリンの動作を観察し始めました。

「……右のやつは俺の右手側を見ているな。誘導か?だとすると上方向に逃げるのが良いか……?」

 ブツブツと、平時以上に真剣に動作を観察しています。

 ……どれだけ嫌なんでしょう。罰ゲーム。


 さすがに可哀想なので、私も出来るところはフォローしていきたいと思います。

 プロの世界というものがどういうものか分かりませんが……。

「セイレイ君、私なら対応できますよっ」

 配信開始時に会得したスパチャブースト”青”のスキルである「スタイルチェンジ」ですが、感覚的に私はどのようなスキルなのか理解していました。

 初配信にはおあつらえ向きでしょう。

「……任せてもいいのか?」

「はいっ!」

 セイレイ君はじっと不安そうに私の目を見ます。

 運動不足で、皆の足を引っ張った記憶しかないので不安になるのも当然でしょう。

 私は右手に槍を顕現させ、瓦礫を今にも飛ばさんとするホブゴブリンを見据えました。

「ガァッ!」

 ホブゴブリンはその強靭な肉体を駆使して、大胆な動作で瓦礫を弾き飛ばしました。打ち飛ばした瓦礫は、すぐさま秋狐ちゃんがホログラムを操作して補填しているようです。

 舞い上がる土煙と共に、私とセイレイ君がいるところへと弾丸の如き瓦礫が襲い掛かってきました。

「っ……」

 敷き詰められたタイルの上を跳ねながら、アスファルトと鉄骨で構築された瓦礫が襲い掛かってきます。

 死にはしないと分かっていても、怖いものは怖いです。

 ですが、それ以上に怖いことは。


 セイレイ君達に失意の目を向けられることです!

「スパチャブースト”青”ですっ!!」

[雨天:スタイルチェンジ]

 そのシステムメッセージが流れたことにより、スキルの発動を確認。全身に淡く、青い光が纏うのを確認した私は続いて叫びます。

()()()()()()()()()()()()()

 次の瞬間、纏っていた光が一気に私の両腕に移行しました。

 それを確認した私は、光纏う両腕に任せて大きく槍を振るいます。

「とりゃあああああっ!」

 精一杯の掛け声に任せ、飛び掛かる瓦礫目掛けて槍を薙ぎました。

 耳をつんざくような轟音が、私の眼前で鳴り響きます。舞い上がる土煙が、私の全身を隠します。

 ですが、私はそんなことも構わずに勢いのままに槍を振り抜きました。

「グガァッ!?」

 次の瞬間に響いたのはホブゴブリンの悲鳴でした。

 土煙が晴れて何が起きたのかを認識すれば、どうやらはじき返した瓦礫がホブゴブリンへと直撃したようです。

 予定外のピッチャー返しとなった一撃に、ホブゴブリンは体勢を崩し片膝をつきました。

「……マジか……」

 セイレイ君も驚いた様子で、目を丸くしています。

「やったっ!」

 自分のスキルが通用したことに、思わずガッツポーズ。

 私だって、やればできるんだ!

 初めの第一歩なのかもしれませんが、こうして何かの形で貢献できたことに感動していました。


「雨天ちゃん!油断しちゃダメだって!」

「え?」

 穂澄ちゃんは、そんな私に向けて慌てた様子で叫びます。

 完全に忘れていました。ホブゴブリンが3体いるってことに。


「あ」

 完全に意識外に追いやられていたホブゴブリンが放った瓦礫の一撃が、私とセイレイ君目掛けて襲い掛かります。

「ぶべっ」

「ぐっ!?」

 もろに顔面からそれを食らった私と、ついでに流れ弾を食らったセイレイ君のお稲荷ポイントが底を尽きました。


 カッコをつけるのも、簡単じゃないですね……。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:???

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