【第百三十一話】予想外の奇襲
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・船出 道音(漆黒のドローン)
「……なんだこれ?」
上空から見える景色を見下ろしている最中、明らかに異質なものが視界に映り込む。
noiseは俺の視線に合わせて、遠くを見やる。するとぎょっとした様子で目を見開いた。
「お祭り騒ぎって感じだね!?紺ちゃんやりすぎじゃない!?」
ショッピングモールを取り巻くように、いくつもの風船が空高く舞い上がっている。
色とりどりの旗をワイヤーで括り付けた、ガーランドと呼ばれる装飾が施設周辺を鮮やかに飾っていた。それはダンジョンと呼ぶには、明らかに鮮やかすぎる。
そして、ショッピングモールが近づくにつれて徐々に秋狐の声が響き始めた。
『セイレイ君の配信をご覧中のみなさーん!こーんにちはー!』
「お、おー?」
反応に困り、曖昧な返事を返す。すると、再び秋狐の声が響いた。
『聞こえなーい!こーんにちはーっ!!』
「こんにちはー!!」
半ば自棄となって言葉を返すと、秋狐は『よし』と納得したような声を出した。何がよし、だ。
隣を見ればnoiseが「ふっ」と笑いを堪えて顔を背けている。
何だか恥ずかしい気分になったが、今はそれどころではない。
「おい、秋狐!これは一体何だよ!?」
『見てのとーりっ!今日は一大コラボイベントだからね、大々的にやろうと思って!』
「四天王戦の空気台無しだろ!?」
『元からそんなのなーいっ!今日はセイレイ君達も楽しもうっ!』
秋狐はまるで空気を読まず、楽しそうな声音で叫び続ける。
それから、そんな彼女の声に重なって空莉の声が響いた。
『やっほー!セーちゃんっ』
「お前まで何してんだよ!?」
どこか重苦しい雰囲気になるだろうと予想していただけに拍子抜けだ。
困惑を隠すことが出来ず、空莉に向かって大声で問いかける。
すると、空莉の「ぷっ」と小さく噴き出す声が響いた。
『安心して、紺ちゃんとしっかり企画練ってきたから!皆が楽しく配信出来て、なおかつ本気で戦うことが出来るようにする仕組みをねっ!』
「お、おう!?」
全く予想外の方向からの、ある意味での奇襲に俺達は面食らう。
隣で立つ穂澄は、小難しそうに眉をひそめていた。
「これならいっそ、普通に戦ってくれる方がありがたいんだけどなあ……」
『ホズちゃんも肩の力抜いてっ、今日はみんなで楽しく配信しよう!』
「……はあ……」
テンションの高い秋狐と空莉について行くことが出来ず、ホズミは大きなため息を吐いた。
雨天もおろおろとした表情で、どうすればいいか分からないといった様子で俺の裾を引っ張る。
「セイレイ君っ、私どうしたらいいんですかっ。無理ですっ、さすがについて行けないですっ」
「……俺だってついていけねぇよ」
恐らく、魔災前の配信サイトに求められる配信者としての姿は、秋狐達の方が正しいのだろう。
だが常に生きるか死ぬか、の戦いに身を移すしかなかった俺達にとっては初めての配信だった。
船を操作する道音も、困惑した様子で苦笑いを浮かべる。
「……頑張ってね、あのテンションについていこう……」
「四天王ってなんだろうな……」
これまでの四天王も、俺らの想像するものと大きく異なっていたが今回は段違いだ。
★★★☆
駐車場の開いていたスペース——というよりは、秋狐が意図的に作ったであろうスペースに大船を着地させる。
船から降りた俺達を迎えるのは、色とりどりの飾りだった。辺り一面に舞い上がる紙吹雪と、豪勢な装飾が俺達を圧倒する。
「……本当に、よくこんなものセッティングしたな」
「ふふんっ、サポートスキル”モニターシェア”っ」
俺達を迎えるように、秋狐の宣告する声が響く。それと同時に、俺達の眼前に配信画面のモニターが表示された。
コメント欄に視線を送れば、俺達と同様に困惑している言葉が流れている。
[一体何をさせられるんだ]
[警戒しづらいなこれ]
[四天王、四天王……?]
[魔災前の配信って大体こんな感じの企画やってたよな]
[分かるけど!]
[え、逆に怖い]
[非常用に貯めとけ 10000円]
「やっぱり皆も状況の理解が追い付かねえよな」
「否が応でも理解してもらうよーっ、何なら視聴者さえ敵に回るかもねっ」
俺達の眼前に立つのは、にまにまと楽しそうな笑みを浮かべた秋狐だ。
しかし、どういう訳だろうか。
「何でお前、翼が生えてんだ?」
まずツッコむべきなのは、秋狐の背中から存在感をありありと示す大きな純白の翼だった。
「あっ、これ?ハーピーだよハーピー」
「……お、おう?」
翼の存在を認識されたことが嬉しかったのか、秋狐はわざとらしくその翼を大きくはためかせる。
「ぶっ」
それに伴ってより一層激しく飛び散った紙吹雪が俺達の顔に降りかかった。
思わず顔をしかめると、秋狐はより一層楽しそうな笑みを零す。
「ぷっ、あははっ!良いね、いいリアクションくれるじゃんっ、それでこそだよ、それでこそ!」
「お前……後で覚えてろよ……」
笑いすぎて酸素を消費したのか、秋狐は「はー」と大きく深呼吸を繰り返す。
「……秋狐さん、視聴者が敵に回るってどういうこと?」
ホズミは、どこか警戒した表情を浮かべて俺達の前に出る。
右手に杖を顕現させ、いつでも魔法を打てるようにその照準を秋狐に向けた。相も変わらずに判断が早いものだ。
「……ふふっ、どういうことだと思う?」
彼女の緊迫した空気を感じ取ってなお、秋狐は余裕綽々の表情を崩さない。
にやりといたずら染みた笑みを浮かべると同時に、彼女もゆっくりと低く身構えて両手を大きく広げる。
「一体、何をするつもりなの」
ホズミはその動作により一層警戒し、いつでも魔法を放てるように杖先を秋狐の方へと突き出した。
一触即発。
二人の間に火花が散り、早々に戦いの火ぶたが切られるものかと思っていた——。
その刹那。
「あっぷっぷ!!」
「んふっ」
突如として、秋狐は変顔を作った。
まるでくしゃくしゃにした紙屑のような顔に、穂澄も思わず破顔する。
秋狐、やめろその顔。お前、仮にも有名配信者だろうが。
緊迫した空気がほどけたのを確認した秋狐は、くるくると楽しそうにその場で一回転する。
それから、ゆっくりと翼をはためかせて空に浮かび上がった。
「大丈夫、セイレイ君達の思うような配信にはならないよっ。ちょーっと私の企画に踊らされてもらうだけっ」
「……どういうこと?」
「空莉君っ、おいで!」
ホズミの質問を無視し、秋狐は両手をぱんと叩く。
そのご指名に伴って、緑のドローンの姿として空莉が秋狐の隣に降り立った。
『や、セーちゃん達。ご無沙汰―っ』
「お、おう……お前、何か上機嫌だな」
『なんだか、身体が軽くなった気分なんだ。空でも飛べそうな気分だよ』
「……そりゃドローンだからな」
『あはっ、そうだった!お稲荷ポイントあげるねっ』
「いらねえよ……」
以前に張り詰めた雰囲気のまま別れただけに、反応に困って仕方がない。
そんな反応に窮した俺を他所に、緑のドローンに大きくラグが生じ始める。その姿は徐々に全身を埋め尽くし、やがて人の姿となった空莉が俺達の前に現れた。
「こっちの方が落ち着くなー、やっぱり」
「よう、元気にしてたか?」
「お陰様でっ。長旅でお疲れでしょ、はいこれ」
空莉はにこにこと楽しそうな笑顔を浮かべながら、俺の眼前に一つの稲荷寿司を差し出した。
「……あ?何だこれ」
「おいなりさん」
「そうじゃなくて」
「良いから、良いからっ」
ずい、と空莉はその稲荷寿司を俺の口元に近づける。
明らかに嫌な予感しかしないが、毒を盛っている訳ではないだろう……俺はそう空莉を信頼することにした。
ゆっくりとその空莉が差し出した稲荷寿司に口を運ぶ。ちらりと目線を空莉の方に向ければ、とても楽しそうに目を細め——。
「っっっっ!?!?」
突如として口の中に、ツンと突き抜けるような激痛が迸る。
額から汗が吹き出し、視界が大きく歪むような感覚さえ生み出される。
「セイレイっ!?」
noiseが慌てた様子で俺を介抱しようと駆け出してくるのが見えた。だが、俺は慌ててそれを阻止する。
「ごふっ、ごふっ!?お、おま……何を……」
「あははははははっ!!100点っ!!さいっこうだよセーちゃんっっ!!やっぱり配信者はこうでなくっちゃ!」
空莉はけらけらと大声で馬鹿笑いしながら、俺の反応を楽しんでいる。
「お前、何入れやがった……いってぇ……」
激痛を殺すように涙目で蹲りながら、俺は空莉と秋狐を交互に睨む。
すると、秋狐は両手を大きく広げた。彼女の背後に、ホログラムを介して大きなモニターが生み出される。
そこには、どこかポップなデザインのサムネイルがでかでかと表示されていた。
「はーい!今回の企画はーっ!”秋狐ちゃんのお題バトル”でーすっ!皆さんには私が出したお題にそって、戦ってもらいまーすっ!」
「……お題バトル?」
noiseは「訳が分からない」を前面に出した表情で首を傾げた。
秋狐は俺達の方をぐるりと見渡しながら、にこりと微笑む。
「もしっ、戦いの中で脱落したら!秋狐特製!”わさび爆盛り稲荷寿司”を食べてもらいますっ!!」
「……ひえっ」
俺達の後ろで、雨天が引きつった笑みを漏らす。
ある意味で最悪な四天王戦が幕を開けた。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:???




