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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑨ショッピングモールダンジョン編
269/322

【第百二十九話(2)】沢山の言葉(後編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・秋狐(白のドローン)

「……ねえ、紺ちゃん。何か手伝えることない?」

 手持無沙汰な私——船出 道音は、腕を組んで悩む紺ちゃんに問いかける。

 彼女はちらりと私の方を見つめた後、苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

「……ナニモナイヨ」

 配信中のストーの如く片言になった言葉で返す紺ちゃん。

 含みを持った返し方にむっと来た私は、紺ちゃんの背中にのしかかる。

「なーにが言いたいんだこのやろーっ!」

 紺ちゃんはじたばたとしながら、苦言を呈する。

「きゃあ!?だって道音ちゃん頭を使う事得意じゃないでしょ!?」

「確かに紺ちゃんに丸投げしてるけどっ!少しくらい手伝わせてよっ」

「手伝ってもらうこと今は無いんだって……あっ、じゃあ先に言っておこうかな」

 完全に拒絶する姿勢だった紺ちゃんは、突如として何かを思い出したように態度を変える。

 それから私を押しのけるようにゆっくりと身体を起こしながら、目線だけを私の方に向けた。

「私ね、次の配信で敵役として出る予定だから、悪いんだけどまたドローンの役目になってもらっていい?」

「えっ?」

 唐突に発せられた次回の配信告知内容に目を丸くする。

 いや、だって。白のドローン本体である紺ちゃんが、抜けちゃったら駄目じゃないか。

「え、またドローンから抜け殻になるの?」

「抜け殻って言い方酷くない!?それでもいいんだけど、次回は道音ちゃんのアカウントから配信してもらおうかなーって思ってる」

 紺ちゃんは右手に持った鉛筆をくるくると回——いや、回そうとしているが上手くいかないようだ。

 「あっ」と声を漏らしては、持った鉛筆を明後日の方向に飛ばしている。運動音痴は相変わらずのようだ。

「……何してんの」

 私は机の下に落ちた鉛筆を拾おうと、モゾモゾと動く彼女の背中を見下ろしながらぽつりと呟く。

「やー……カッコよく言いたかったんだけどねー……。今回の配信は、私達ドローンをメインに据え置こうかと思ってね」

 いそいそとそれを拾いながら、紺ちゃんは照れ笑いを浮かべながら話を続ける。

「元、蒼のドローンの雨天ちゃんが初めて勇者一行として配信に参加するでしょ?で、最後の四天王の空莉君が今回のメインでしょ?それで配信する場所は私が管理するショッピングモールダンジョンでしょ?じゃあ道音ちゃんにも役割が必要でしょ」

「でしょ、って言われてもなあ」

 拾い上げた鉛筆の先をびしっと私へと差しながら紺ちゃんはそう語る。ただ、鉛筆の先をこっちに向けるのは危ないからやめて欲しい。

「まあ、それは良いけど……え、なに。紺ちゃんと空莉君のコラボ配信も兼ねてるの?」

「……ま、まあ、ね?」

 一応再確認を取ってみたが「コラボ配信」という言葉に、紺ちゃんは両頬に手を当てて恥ずかしそうにはにかんだ。

 ちょっと乙女じみた表情にキュンと来た。

「なるほどねー……じゃあ、いわば大型コラボになる訳か。セイレイと紺ちゃん……2つのLive配信、私のRelive配信、青菜君のLife配信、雨天ちゃんのDive配信……は、元だけど。4つのアカウントが交わって配信を繰り広げるというのは確かに一大イベントだね」

「そゆことっ!」

 パチンと指を鳴らし、嬉しそうに微笑む紺ちゃん。

 しかし、その表情は徐々に陰りを帯び始める。

「……でも、どうせならDrive配信の荒川 東二さんも呼びたかったなあ……もう、東二さんいないもんね……」

「……」

 思い返されるのは、瀬川 沙羅に洗脳される形で敵対した赤のドローンこと荒川 東二のことだ。

 敵対した彼は、実の娘であり遊び人である荒川 蘭の手によって撃破せざるを得ない結末となった。四天王の中で、唯一この世から消えてしまった存在だ。

 そのことを思い返してか、紺ちゃんは寂しげな笑みを零す。

「しんみりしても仕方ないのは分かってるけどねー……あんな配信、もうごめんだよ」

「本当に、ね」

「配信は、視聴者の怒りを扇動する為のものじゃない。こんなにもワクワクする世界があるんだって、楽しみを共有するものであって欲しいよ」

 そう、自分の想いを語る内に徐々に決意が固まっていったようだ。

「……そうだっ」

 紺ちゃんは何かに突き動かされるように、ペンを握り直して勢いのままにノートに書き殴り始めた。

「……出だしにインパクトを持ってくる?中盤がダレるのは避けたい。終わりにはセイレイ君と空莉君の激闘に持ち込めるような流れにしたい……でも、雨天ちゃんの見せ場は増やしたいよね。スパチャブースト全部を使わせたい……んむむむむ……私のスキルで環境面はクリアするとして……」

 ブツブツと訳の分からないことを紺ちゃんは呟く。

 遂には完全に配信者のモードに入り、こちらを無視し始めた。

(……これ以上は話しかけても無駄か)

 そう結論付け、私はその場を後にした。


 ----


「おう、船出か」

 再び手持無沙汰となった私は、ソファで実用書を読んでいるanother——かつての一ノ瀬先輩の元へと訪れた。

「一ノ瀬先輩、隣良いですか」

「俺の隣じゃないと駄目か?」

 彼は不思議そうに首を傾げながらも、さりげなく自身の隣に座ることが出来るスペースを作る。

 そういう細やかな気遣いをできるところはさすがだ。

「先輩の隣が良いんです、よっ」

 私は勢いのままに、一ノ瀬先輩の隣に座る。微かに彼と密着するにつれ、体温が伝播していく。

 少しだけ懐かしい感覚に、思わず笑みが零れた。

「久しぶりです、こうやって男の一ノ瀬先輩と話すのは」

「今の一ノ瀬は、外で延々と短剣を振っているあいつだからな」

 ちらりと一ノ瀬先輩は窓の方に視線を向けながら、顎でしゃくる。

 そこにはひたむきに短剣を素振りしているゆきっちの姿があった。

 彼女は周りの目も気にせず、ストイックに素振りを繰り返している。

 鋭く放たれる突きや切り払いの動作は理想そのもの。誰にでも出来そうで、絶対に到達できない領域……彼女の動きからはそう感じ取ることが出来た。

「……何と言うか、皆変わっていくんですね」

「本当にな。お前らは変化が目まぐるしすぎる気がするがな」

「あはは……」

 一ノ瀬先輩の指摘に、乾いた笑いを零すことしかできない。

 そしてぽつりと「……俺もか」と、小さく呟いた。

「一生懸命に、皆それぞれの役割を遂行しようとしている。この世界に、誰一人として部外者は居ないのだろうな」

「ですねー……誰も彼もが、世界の主役なんですよね」

「ああ。この世界にはセイレイという軸こそあるが、あいつだって完璧じゃない。俺達が、セイレイに出来ないことを補う。俺達に出来ないことを、セイレイが補う」

「そうやって、世界は成り立っていく、と」

 一ノ瀬先輩の言葉を代弁すると「そうだ」と納得がいったように頷いた。

「……頼むぞ。こんな歪なホログラムに満ちた世界など、もうあってはならないんだ」

「世界を救った時、先輩はどうなるんですか?」

 何気なくそう問いかけると、一ノ瀬先輩は天井を仰ぎながら、小さく息を吐いた。その動作からは、葛藤する様子がうかがえる。

「俺は、ホログラムの消失と共に恐らく世界から消えるだろう。あいつ……女性の方に統合されるのだろうさ」

「……そう、ですか」

 

 ……分かってはいたが、改めてそう告げられると覚悟が揺らぎそうになる。大好きだった先輩の姿が、ホログラムの消失と共に世界から消えてしまうのだと——。

 

 ——ホログラムの、消失?

「……待って。ホログラムが消えるってことは。セイレイは、ディルは、紺ちゃんは……?」

 あることに気付き、思わずそう問いかける。

 ホログラムの実体化の恩恵を受けて、この世界に存在する勇者セイレイと僧侶ディル、そして吟遊詩人秋狐。もし、世界を救いホログラムを消し去ったとしたら……。

 その答えの先を示すように、一ノ瀬先輩は神妙な表情を浮かべていた。

「……答えるべきではなかったか」

「セイレイも、ディルも……紺ちゃんも、世界から消えるってこと、ですか。世界を救う英雄が、救った世界の先から……」

 一ノ瀬先輩は、繕うような苦笑を漏らしつつ静かに首を横に振る。

「他の皆には言うなよ。躊躇されては困る」

「……」

 何も返すことが出来ずに黙りこくっていると、一ノ瀬先輩は「じゃあな」と言って静かにソファから立ち上がる。それから、何も言わずにリビングから姿を消した。

 私は一ノ瀬先輩が居なくなったことによって出来たスペースを存分に使い、ソファへ横になる。

(……セイレイが、ディルも、紺ちゃんも……消える?世界を救った先に、皆はいない……)

 知らされる真実に、頭の中にぐるぐると渦巻くようなモヤが生まれる感覚を抱く。

 世界を救わなきゃ……でも、救ってしまったら。

 

 希望の光は、二度とこの世界に姿を現すことがなくなる。

「……ううん。きっと、そんなはずはない。上手くいく、上手くいくんだ」

 せっかく皆が力を合わせて、代表者である瀬川 沙羅へ抗う為に力を合わせているんだ。絶対にこの企画を、失敗させるわけには行かない。

 頭の中に生まれた(もや)を無理矢理振り払い、思考を切り替える。

 

「あ、公共交通機関」

 そんな私の元へ、ストーはひょっこりと茶化すような言葉を駆けつつ歩み寄った。

「誰が公共交通機関なの」

「唯一の遠出できる移動手段だからな、船出は」

 のんきに皮肉を返しながら、ストーは私が寝転ぶソファの隣に立つ。

 それから、途端に真剣な表情を作った。

「なあ……聞こえたよ」

「……うん」

 ストーは、端的にその言葉だけを告げる。

 主語は無かったが、何を意味しているのかはおおよそ理解できた。

「世界を救うには、あまりにも辛すぎる代償だよな」

「でも、視聴者は……世界を生きる皆に、私達の都合は関係ない」

「俺だって、セイレイ君達には消えて欲しくない。大切だよ、皆のことが」

 そう語りながら、ストーはソファの縁に腰掛ける。

 どこか達観した表情を浮かべながら、静かに目を閉じた。

「大切だからこそ、彼等の覚悟を無駄にするわけには行かない」

「ストーは、怖くないの。セイレイ達が消えるって知らされて」

「怖いさ」

 だが、ストーは首を横に振り「でも」と言葉を続けた。


「……世界を救えなくなって、またセイレイ君達に敵視される方がもっと怖い。懲り懲りさ、あんな目を向けられるのは」

「そう、だね」

 ストーの言葉に、揺らいでいた覚悟が落ち着いていく。

 もし、自分一人で抱え込んだ話なら、きっと何がなんでもセイレイ達の配信を阻止しようとしただろう。それが、彼等を傷つける結末になったとしても。

「ありがとう。ストーが居てくれてよかったよ」

「今晩のおかず一品よこせよ?」

「ごめんやっぱなしで」

 茶化すように言葉を返したストーに、私は思わず吹き出し笑いをした。

 

 ——考えなきゃ。

 セイレイ、ディル、紺ちゃんが世界から消えないように。

 誰も彼もが、悔いの残らない世界を作ることの出来る結末を。

「……悔いの、残らない結末……」

 私の中で、ひとつの()()()()()が見えた気がした。

 

 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:???

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