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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
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【第八章】終幕

 Tenmei本社でのダンジョン配信を終え、先輩を含め勇者一行と別れを告げた私とディル。

 気づけば、私達はパの管理していたダンジョンへと戻って来ていた。

 それから、オフィスへと繋がるエレベーターへ乗り込もうと昇降ボタンを押す。

 しかし。

「……あれ」

 何故か、昇降ボタンはいくら押せども全く反応しない。

 不思議に思い、繰り返し押してみるが、得られる結果は同じだった。

「……蘭ちゃん、ちょっといいかい」

「ディルさん、これは……あっ」

 ディルに問いかけようとした時に気付いてしまった。何故昇降ボタンが反応しないのか。

「……そっか、パパが居なくなったから、ダンジョンが攻略された扱いになっちゃったんだね……」

「うん、そういうこと。必要な荷物だけ運び出したらTenmeiに戻るよ」

「……分かりました」

 私と視線を合わせようとせず、どこか冷たい印象の受ける振る舞いで答えるディル。

 彼なりに何か思うところがあるのだろうが、一体彼が何を考えているのかは分からない。


 やむを得ず、私は非常階段を活用し、オフィスへと進む選択肢を選ぶことにした。


 ----


 電灯はもう、二度と付くことはない。

 入り込む光源は窓から、ブラインドの隙間を縫って差し込む日差しのみだ。室内を舞う埃が、日差しに照らされて静かに輝く。

 「終わってしまった」……オフィスに戻って、まず抱いた印象はこれだった。

 室内の配置自体は今までと何一つ変わらないはずなのに、全てが大きく様変わりしてしまっていた。

「……パパ、先輩……」

 パソコンでオフィスを触っていたパパの姿も、私の隣で一緒にゲームをしてくれた先輩の姿も、もう二度と見ることはない。

 当然と言わんばかりの事実が、私の胸をキュッと締め付ける。

 その心境を十分に理解したのだろう、ディルは優しく私の肩を叩いた。

「昨日まであったから今日もある……なんて、幻想だよね。いつ、どこで何もかも無くなってしまうかなんて、誰も分からないんだ」

「……そう、ですね」

 遠い目をして語るディルに、私はふと聞きたいことが思い浮かんだ。

 ――元Dead配信のディルに。

「あの、ディルさん」

「なんだい、今更かしこまって」

 もしかすると、私の望む回答では無く、傷付くような言葉が返ってくるかも知れない。

 でも、聞かないといけない気がした。

「……ディルさんは、人が死ぬことについてどう思いますか」

「随分と抽象的だね。あのね、死ぬって言っても色々あるんだよ。老衰や事故死、病死、脳死、それから……」

「”死”という概念についてどう考えるか聞きたいです」

 いつもの詭弁じみた呟きを遮って、私は答えを促す。

 ディルは一瞬目を丸くした後、大きなため息を付いた。

「あくまでもボクの解釈だよ?死って言うのは、要はジェンガと同じさ」

「ジェンガ?あの積み木を引き抜く遊びの?」

 質問を返すと、ディルは「そう」と頷いた。

「皆、人生の中で色々なイベントを重ねていくでしょ?得るものもあれば、失う物もある。その経験の全てが、積み木として重なっていく」

「はい」

「でも、皆必要に駆られてジェンガから積み木を引き抜いかないといけない。今まで育ってきた場所という積み木を引き抜かないといけないかもしれない。両親という積み木を引き抜かないといけないかも。健康な身体という積み木を引き抜かないといけない可能性だってある」

「……もしかしたらその引き抜いた積み木は、一番誰かにとって大切かもしれないってことですよね。引き抜いた瞬間に崩れちゃうかも」

「そう。何が人生の崩れるトリガーなのか、だなんて誰にも理解できないし、本人も分かってないかも知れない。でも、崩れるって分かっていても、積み木を抜いていくしか無いんだ」

 ディルの言いたいことは何となく分かる。

 分かるが……。

「何か、その考え方ってマイナスじゃないです?失うだけの人生、みたいな捉え方になっちゃいそうです」

「いや、失った経験から新しい経験を得て、違う積み木として積み重ねていくんだよ。色んな経験を繰り返していくことが、ボク達のジェンガ……つまり、人生を作るってことさ」

「相も変わらず、ディルさんの言うことは難しいです」

「これでもわかりやすく言ってるつもりなんだけどね」

 ディルは吹き出すように苦笑を漏らした。

 それから、真剣な表情を作り直してオフィスの中をぐるりと見渡した。

「確かに、今日は蘭ちゃんの中から、いくつもの積み木が引き抜かれた。でも、まだジェンガは崩れてない」

「……そう、でしょうか」

「ボクはそう思うよ?むしろ綺麗なままのジェンガの方が、ゲームとして成立してないからつまらないと思うけど」

「ゲーム……」

 ポツリと付け加えて言ったディルの言葉を反芻する。

 魔災に墜ちた世界だというのに、私はパパという後ろ盾もあり随分と娯楽に満ちた生活を送ることが出来た。

 それは紛れもない、恵まれた環境によるものだったのだろう。


 でも、今日私はそれを失った。

 ディルのいう「ジェンガの積み木を引き抜かれた」状態だ。

「……でも、まだ折れてない。遊び人アランは、まだ戦える」

 そう改めて決意の言葉を零すと、ディルは満足そうに頷いた。

「うん。ボク達はまだ崩れていない。死んでないよ」

「……ですねっ。戦いましょう、セイレイ君達のためにっ」

「そうだね。ボク達は裏方として彼等を支えるんだ」

 

 To Be Continued……

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