【第百二十四話】配信とは
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・僧侶ディル
・遊び人アラン
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
「姉とは呼んでくれないんだね」
瀬川 沙羅は俺の呼びかけに残念そうな表情を浮かべる。
もう、散々俺達を良いようにしてきたこいつに、親しみを感じることは出来ない。
「ふざけんな。誰がお前を姉貴なんて呼ぶかよ」
「おーこわっ。私は怜輝とただ配信をするって昔からの願いを叶えただけなのに」
「こんなの配信って言えっかよ!」
ついに我慢できず、彼女を怒鳴りつける。
怒りの奔流は収まらない。俺は、世界を代表する配信者として彼女に言葉をぶつけなければならない。
「荒川 東二を!雨天 水萌をテメェの都合で散々弄んで、いいようにしてきて何が配信だっ!挙句自分の願いが叶わなくなれば全世界の人類を洗脳しようとする、なんて馬鹿げたこと考えてんじゃねえよっ!」
だが、どれだけ言葉をぶつけても彼女の表情は眉ひとつ動かない。
「力を持つ者が世界を動かす権限を持つんだ。配信など、所詮道楽のひとつさ」
「道楽じゃねぇっ!俺は皆の言葉を、ちゃんと配信って形として返さなきゃならねーんだよ!」
「……ほう。ならば聞こうか、怜輝。君の言う、配信とは何だい?」
明らかに、挑発されている。
試すような言葉だが、俺は勇者として答えなければならない。
ちらりと視線を送れば、縋るように俺を見る雨天の姿が目に映る。
レインコートから覗く、潤む瞳と視線が交わった。彼女の視線は、如実にこう伝えていた。
——助けて、と。
「……ああ、そうだ。配信ってのは、皆の声を集めて、届かせることだよ」
その回答に、瀬川 沙羅は関心深そうに目を見開く。
「ふむ。もう少し詳しく聞こうか?」
「どれだけ望んでも、手を伸ばしても、誰にも届かない声があるだろ。こんな魔災に墜ちた世界だ。俺達は沢山の辛い思い、苦しい思いを経験してきた」
俺は右手を突き出し、その拳に力を籠める。
期待に応えるように集う光の粒子が、やがて愛刀のファルシオンを生み出していた。
その切っ先を瀬川 沙羅に突き付けながら、言葉を続ける。
「嫌だ、怖い、助けて。何度も、何度も聞いたし……言った。でもちっぽけな一個人の声じゃ届かない」
「ふむ」
「だから、集めて広げるんだ。小さな”助けて”の声を拾って、皆で救う。俺はその橋渡しをしているだけだよ」
「……ふふっ」
瀬川 沙羅は俺の言葉を聞き終えた後、くすりと嬉しそうな笑みを零した。
「……何がおかしいんだよ?」
「いや、なに。配信に対して高尚な考えを持っているんだな、と思って」
「称賛か?皮肉か?」
「称賛さ。私には持ち得ない考えだからね。立派な弟を持って光栄だよ」
「誰がっ……弟だっ!」
もう、迷わない。
俺は低く構え、瀬川 沙羅目掛けて駆け出した。
狙いは、彼女の右手に持つスマートフォンだ。それさえ破壊すれば、彼女は配信を続けることなど出来なくなるはず。
そう思っていたが。
「忘れてないだろうか?最後の四天王を」
「……っ!?」
俺の攻撃を弾き返すのは、鋭利な大鎌だった。
瀬川 沙羅を庇うように立つ彼は、愁いを帯びた目で俺を見る。
「……空莉っ、お前……」
体勢を崩した俺に追撃を浴びせることもなく、青菜 空莉はぽつりと語り始める。
「ごめん。僕……思い出したんだ。Live配信、じゃなかった」
「……どういうことだ」
徐々に、クウリの姿が歪んでいく。
半透明に、虚像と消えるクウリ。
『三人のドローンを制した今、最後に残ったのはLife配信……青菜 空莉。僕だけだよ』
それはいつしか、緑色のドローンの姿になっていた。
ドローンの姿に変わったクウリの背後で、うんうんと満足したように頷いた瀬川 沙羅は俺達に背を向ける。
「さ、運営からの放送は以上。私は一足先にお邪魔させてもらうよ」
「っ、おい……待てっ!」
早々にその場を後にしようとする彼女を慌てて追いかけようとする。だが、瀬川 沙羅は冷徹な視線を俺に向けた。
「私はあくまでもこの場においては前座さ。もしよければ今回の公式発表はどうだったか教えてもらいたいものだがね」
「逃がすものか!……スパチャブースト……」
すかさず宣告を放とうとする。だが、瀬川 沙羅はにやりと笑った後に、自身の周囲から蔦を伸ばす。
「こんなところで配信しても面白みに欠けるだろう?また相応しい舞台は用意するからさ、それまで待っててくれよ」
次の瞬間、俺の両足に蔦が絡みついた。
「っ、クソ!足が……」
「じゃあね。君達が描く配信の末路を楽しみにしているよ」
「——クソっ!」
瀬川 沙羅は足元から巨大な樹根を伸ばす。
「よっと」
悠々とそれに乗り込んだ彼女は、伸びゆく樹根と共に屋上から姿を消した。
残されたのは、俺達と緑のドローン……青菜 空莉だけだ。
「……空莉。どういうことだ……いや、問いただすべきはお前じゃねえな」
『え?』
俺は未だにへたり込んだままの雨天に視線を合わせ、なるべく威圧感を与えないように落ち着いた声音で問いかける。
「……雨天」
「ふぇ……なん、ですかあ……?」
弱々しい声音で、どこか怯えた声を上げる雨天。何を聞かれるのか分かっているのか、全身が硬直していた。
だが、聞かない訳にはいかなかった。
「……お前も、もしかして船出も。空莉が四天王だってこと……分かってたよな?」
「……っ……うん」
その問いかけに、雨天は弱々しく頷いた。
——思い返せば、俺達が雨天と出会った時。
空莉が俺達の旅について行くという決心の付いていなかった頃。彼女はこう言っていた。
『え、えーっと。ほら。勇者パーティと旅すれば、記憶が復元されると思うよ?根拠、ないけど、うん』
やたらと歯切れ悪く、そう言葉を返していたのを覚えている。
憶測も混じるが、最初から空莉の記憶を復元させるという道筋は作られていたのだろう。
空莉は、雨天を庇うように緑のドローンの姿となって彼女の前に浮かんだ。
『水萌ちゃんを責めないであげて。全部、沙羅姉が仕込んだことだったんだ……そして、僕は』
「俺達と、戦わないといけない。それが、次の企画ってことか」
『そういうこと』
それから、空莉は申し訳なさそうにカメラを下に向けた。
『……本当に、ごめん。こんな企画、止めなきゃいけない……でも、そうしないと』
「分かってるよ。魔王セージと出会う為の過程として必要なことなんだろ」
『……うん』
力なく返事する空莉。
これまで共に配信をしてきて、今更彼に刃を向けるのは気の引ける話である。
だが、向き合わなければならない話なのは確かだ。
——そして、もう一つ考えるべきことがあった。
瀬川 沙羅のいた場所に残されていたのは、一台のスマートフォンだ。
「……ちょっと触らせて」
アランは、それを拾い上げて手慣れた動作で操作する。
ある程度触ったところで、彼女はそれを持ったまま周囲に目配せしつつ語る。
「これが、この都会における追憶のホログラムと同等の役割をしてるみたい」
「このスマートフォンが?」
確認を取ると、アランはこくりと頷いた。
「うん。操作すれば、都会から魔物はいなくなる、けど……」
「けど?」
「Sympassのサーバーを維持していたパパが居なくなったから……誰かが、ここに残らないと……誰か」
そう話を続けるアランは、静かに目を伏せた。
分かってしまった。
彼女が次に何を言おうとしているのか。
「先輩」
アランは、覚悟の決まった目で俺を見据えた。
唇が震えているのが分かる。瞳が、涙に濡れるのが伝わる。
「……ここで、お別れ、です」
To Be Continued……
ep104 にて雨天の該当する発言が、
ep134 にてLife配信に関する匂わせがありますね。
まあ、Li■e配信って伏字にしてますけど!!!!←
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏
アラン
青:紙吹雪
緑:スポットライト
黄:ホログラム・ワールド
赤:悟りの書