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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
256/322

【第百二十三話(2)】繋ぐ希望(後編)

【配信メンバー】

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・僧侶ディル

・遊び人アラン

【ドローン操作】

・秋狐(白のドローン)

 ずっと、見てきた。

 笑う時はどこか気恥ずかしそうに目を逸らすところも、野菜があんまり好きじゃないところも、苦手なものは最後に食べるところも、じっとしてるのが苦手なところも、ちょっと飽き性なところも、実はプレッシャーに弱いところも、ずっと見てきた。

 どれだけ世界が移り変わろうとも、セイレイ君はセイレイ君だった。

 そんな彼の助けになろうと、自分なりに手を尽くしてきたつもりだ。

 

 ひたむきに純粋で、前向きで。常に最善を探し続けるセイレイ君のことが、大好きで大好きで……仕方ないんだ。

 だからこそ、一番彼に寄り添える存在で居たい。

 隣で一緒に戦うことが出来る、存在として——。


 ----


「……その、武器……」

 真紅に煌めく刀身。陽光に照らされ、美しく輝くファルシオンが、ホズミの手に握られていた。

 ホズミは先輩の真似をするように、器用に振り回す。それから、その切っ先を先輩に向ける。

「セイレイ君。君が武器を変える必要なんて無いんだよ、自分のやり方を貫けばいい」

「……俺は、姉貴の言うことに、従わないと」

「他人の言いなりで、楽しいかな」

 ”ふくろ”から取り出した大きな魔石を、ホズミはファルシオンにあてがう。杖と同様に作られていた窪みにはまり込んだ魔石が、ファルシオンの中に溶け込んでいく。

「もう一度”雷纏”を出して。対等でありたいの、私は」

 ファルシオンから徐々に炎がにじみ出る。弾けるように生まれた焔が、やがてホズミの姿を包み込む。

 彼女の足元で波紋を生み出していた水溜まりが、生み出された焔によって蒸発していく。

 業火を纏うホズミは、決意に滲んだ声で叫んだ。

「セイレイ君っ!思い出して、本来の自分をっ!!炎纏(えんてん)!」

[ホズミ:炎纏]

 そのシステムメッセージと同時に、総支援額が37500円となった。他のメンバー同様に”纏系”は20000円を消費するようだ。

 ホズミの決意を見た先輩は、彼女の想いに答えるようにコクリと頷いた。

「……分かった。スパチャブースト”黄”」

[セイレイ:雷纏]

 先輩が宣告(コール)するのに伴い、彼の全身を青白い稲妻が纏う。

 スキルの発現を確認したホズミは、ちらりと周囲を見渡す。

「また全員に感電したら困るからね」

 そう言って、彼女は炎を纏ったファルシオンを薙ぐ。同時に、二人を中心として円状に灼熱の壁が生み出され、瞬く間に水分が蒸発する。

 囲うように生み出された蒸気の中、先輩とホズミは互いにファルシオンを構えた。

 

 炎と雷。

「いくよ、セイレイ君っ!」

「……うんっ!」

 まるで示し合わせたように全く同じタイミングで駆け出した二人。互いに振り下ろしたファルシオンがぶつかり合い、稲妻と業火が激しく大気中に舞い上がる。

 ホズミがいくら”身体能力強化”によって身体機能が向上していると言えども、近接経験においては先輩に分があった。

 押し込むように、ホズミの持つファルシオンの根元に自身の剣を押し込む。それと同時に、ホズミの持つファルシオンの切っ先が明後日の方向へと傾く。

「……っと、さすがセイレイ君だ」

 自身が不利と悟ったホズミは、すぐさまバックステップし距離を取った。それから再び低い構えを取り、前傾姿勢のままに真っすぐに駆け出す。

「やっ!」

 ダッシュの勢いのまま、鋭い突きを放つ。先輩はすかさずファルシオンを縦に構え、防御の姿勢を取った。

 それでもホズミは構わず、炎を纏った一撃を先輩に浴びせる。

「辛いなら辛いって言って!一人で抱え込まないでよっ!」

「そんなこと言ったって……っ、誰が俺のことを分かってくれるんだよっ!」

 体重の乗った一撃に、先輩は大きく弾き飛ばされる。しかし空中で体勢を立て直した彼は、再び稲妻を纏った身体で高く跳躍。

「勇者なら、カッコ悪いところを見せる訳にいかないだろっ!?」

「それで私達が迷惑被るんだから、とっくにカッコ悪いよっ!」

 空中から強襲攻撃を仕掛けた先輩の一撃を、ホズミはサイドステップで回避。

 彼女が先ほどまでいた場所に舞い散る稲妻が、高く舞い上がる。

「もう、嫌なんだよ!俺の選択で皆が辛い思いするのがっ!辛い思いをさせるのなら選びたくない、何も考えたくねえんだよ!」

「自分一人で考えろ、決めろなんて私達は言ってないでしょ!?」

「作り物の俺の言葉なんて、誰が信じるんだよっ!!」

 徐々に口調が元の先輩に戻りつつある。

 ホズミもそれは気付いていただろうが、あえてそれに触れる気はないようだ。


 炎を纏った連撃を”身体能力強化”の勢いに乗せて、先輩の持つファルシオンに打ち込んでいく。

「皆の言葉に揺れ動くセイレイ君は作り物なんかじゃないっ!!」

「……っ!」

「私はそんな他人想いのセイレイ君だからついていたの!好きになったの!そこに作り物がどうか、なんて関係ないっ!!」

 ホズミの猛攻に、言葉に、先輩が押されていく。


 甲高い金属音が、静かに鳴り響いた。

「……なっ……」

 ついにホズミは先輩の持つファルシオンを弾き飛ばしたのだ。

 舞い上がるファルシオンから迸る稲妻が、やがて収束する。それは光の粒子となり、世界から消えた。

 同時に、先輩の全身に纏う稲妻も虚空へと消える。

「セイレイ君は、紛れもない人間だよ。皆の言葉に揺れ動きながらも前を向く、たった一人の人間だよ」

「……俺は……自分の意思に従っていい、のか?」

 縋るように、先輩はじっとホズミを見る。

 自身も全身に纏う炎を搔き消して、彼女はくすりと微笑んだ。

 そして、彼女は“ふくろ”から、先輩のスケッチブックを取り出した。

「……それは……」

「正しくないと思ったら、いつでも言うよ。いっぱい間違えよう、正解は私達で作るんだ」

 ホズミは優しく、先輩の胸元にスケッチブックを押し付ける。それはかつての人々の思いを、配信を介して描いてきたものだ。

「……何をするんだ?」

「セイレイ君が、沢山描いてきた想い。これまでの配信で描いてきた世界の数々。それは、紛れもなく君が積み重ねてきたもの……君の力の鍵、だよ」

「そうか……そう、だったな……」

 スケッチブックが先輩に触れた瞬間、それは強く光を放ち始める。溶け込むように消えゆくそれを、私達は静かに見送った。

[information

 勇者セイレイがスパチャブースト“赤”の鍵を手に入れました。

 条件が揃い次第、発動が可能となります。]

 いつしか、二人を取り巻いていた炎の障壁は虚空へと溶けていた。

 静かに先輩は、自らの胸元に手を当てる。

「……ありがとな」

「一緒に、未来を描こうね」

「ああ。もう、迷わない」


ーーーー


「皆、大丈夫か。スパチャブースト”緑”っ」

[セイレイ:自動回復]

 それから、先輩はすかさず宣告(コール)を放った。同時に彼の全身に緑色の光が纏う。

 先輩は仲間全員に「悪かった」と言葉を掛けながら、優しく触れていく。

 

 そして、彼は最後に私の頭をポンと叩いた。

「……大変だったな」

 先輩の優しい声に、私は心の奥底から込み上げてくるものを感じ取る。

 ついに堪えきれなくなり、いつしか嗚咽が漏れ出した。

「う、先輩……パパが……パパが……」

「……そうか」

 彼は何も言わず、私に背を向ける。


「……おい、瀬川 沙羅」

 それから、静かに先輩は瀬川 沙羅に怒りの滲む声を掛けた。

 私達の怒りの代弁者として、勇者セイレイは再び立ち上がった。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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