【第百二十三話(2)】繋ぐ希望(後編)
【配信メンバー】
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・僧侶ディル
・遊び人アラン
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
ずっと、見てきた。
笑う時はどこか気恥ずかしそうに目を逸らすところも、野菜があんまり好きじゃないところも、苦手なものは最後に食べるところも、じっとしてるのが苦手なところも、ちょっと飽き性なところも、実はプレッシャーに弱いところも、ずっと見てきた。
どれだけ世界が移り変わろうとも、セイレイ君はセイレイ君だった。
そんな彼の助けになろうと、自分なりに手を尽くしてきたつもりだ。
ひたむきに純粋で、前向きで。常に最善を探し続けるセイレイ君のことが、大好きで大好きで……仕方ないんだ。
だからこそ、一番彼に寄り添える存在で居たい。
隣で一緒に戦うことが出来る、存在として——。
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「……その、武器……」
真紅に煌めく刀身。陽光に照らされ、美しく輝くファルシオンが、ホズミの手に握られていた。
ホズミは先輩の真似をするように、器用に振り回す。それから、その切っ先を先輩に向ける。
「セイレイ君。君が武器を変える必要なんて無いんだよ、自分のやり方を貫けばいい」
「……俺は、姉貴の言うことに、従わないと」
「他人の言いなりで、楽しいかな」
”ふくろ”から取り出した大きな魔石を、ホズミはファルシオンにあてがう。杖と同様に作られていた窪みにはまり込んだ魔石が、ファルシオンの中に溶け込んでいく。
「もう一度”雷纏”を出して。対等でありたいの、私は」
ファルシオンから徐々に炎がにじみ出る。弾けるように生まれた焔が、やがてホズミの姿を包み込む。
彼女の足元で波紋を生み出していた水溜まりが、生み出された焔によって蒸発していく。
業火を纏うホズミは、決意に滲んだ声で叫んだ。
「セイレイ君っ!思い出して、本来の自分をっ!!炎纏!」
[ホズミ:炎纏]
そのシステムメッセージと同時に、総支援額が37500円となった。他のメンバー同様に”纏系”は20000円を消費するようだ。
ホズミの決意を見た先輩は、彼女の想いに答えるようにコクリと頷いた。
「……分かった。スパチャブースト”黄”」
[セイレイ:雷纏]
先輩が宣告するのに伴い、彼の全身を青白い稲妻が纏う。
スキルの発現を確認したホズミは、ちらりと周囲を見渡す。
「また全員に感電したら困るからね」
そう言って、彼女は炎を纏ったファルシオンを薙ぐ。同時に、二人を中心として円状に灼熱の壁が生み出され、瞬く間に水分が蒸発する。
囲うように生み出された蒸気の中、先輩とホズミは互いにファルシオンを構えた。
炎と雷。
「いくよ、セイレイ君っ!」
「……うんっ!」
まるで示し合わせたように全く同じタイミングで駆け出した二人。互いに振り下ろしたファルシオンがぶつかり合い、稲妻と業火が激しく大気中に舞い上がる。
ホズミがいくら”身体能力強化”によって身体機能が向上していると言えども、近接経験においては先輩に分があった。
押し込むように、ホズミの持つファルシオンの根元に自身の剣を押し込む。それと同時に、ホズミの持つファルシオンの切っ先が明後日の方向へと傾く。
「……っと、さすがセイレイ君だ」
自身が不利と悟ったホズミは、すぐさまバックステップし距離を取った。それから再び低い構えを取り、前傾姿勢のままに真っすぐに駆け出す。
「やっ!」
ダッシュの勢いのまま、鋭い突きを放つ。先輩はすかさずファルシオンを縦に構え、防御の姿勢を取った。
それでもホズミは構わず、炎を纏った一撃を先輩に浴びせる。
「辛いなら辛いって言って!一人で抱え込まないでよっ!」
「そんなこと言ったって……っ、誰が俺のことを分かってくれるんだよっ!」
体重の乗った一撃に、先輩は大きく弾き飛ばされる。しかし空中で体勢を立て直した彼は、再び稲妻を纏った身体で高く跳躍。
「勇者なら、カッコ悪いところを見せる訳にいかないだろっ!?」
「それで私達が迷惑被るんだから、とっくにカッコ悪いよっ!」
空中から強襲攻撃を仕掛けた先輩の一撃を、ホズミはサイドステップで回避。
彼女が先ほどまでいた場所に舞い散る稲妻が、高く舞い上がる。
「もう、嫌なんだよ!俺の選択で皆が辛い思いするのがっ!辛い思いをさせるのなら選びたくない、何も考えたくねえんだよ!」
「自分一人で考えろ、決めろなんて私達は言ってないでしょ!?」
「作り物の俺の言葉なんて、誰が信じるんだよっ!!」
徐々に口調が元の先輩に戻りつつある。
ホズミもそれは気付いていただろうが、あえてそれに触れる気はないようだ。
炎を纏った連撃を”身体能力強化”の勢いに乗せて、先輩の持つファルシオンに打ち込んでいく。
「皆の言葉に揺れ動くセイレイ君は作り物なんかじゃないっ!!」
「……っ!」
「私はそんな他人想いのセイレイ君だからついていたの!好きになったの!そこに作り物がどうか、なんて関係ないっ!!」
ホズミの猛攻に、言葉に、先輩が押されていく。
甲高い金属音が、静かに鳴り響いた。
「……なっ……」
ついにホズミは先輩の持つファルシオンを弾き飛ばしたのだ。
舞い上がるファルシオンから迸る稲妻が、やがて収束する。それは光の粒子となり、世界から消えた。
同時に、先輩の全身に纏う稲妻も虚空へと消える。
「セイレイ君は、紛れもない人間だよ。皆の言葉に揺れ動きながらも前を向く、たった一人の人間だよ」
「……俺は……自分の意思に従っていい、のか?」
縋るように、先輩はじっとホズミを見る。
自身も全身に纏う炎を搔き消して、彼女はくすりと微笑んだ。
そして、彼女は“ふくろ”から、先輩のスケッチブックを取り出した。
「……それは……」
「正しくないと思ったら、いつでも言うよ。いっぱい間違えよう、正解は私達で作るんだ」
ホズミは優しく、先輩の胸元にスケッチブックを押し付ける。それはかつての人々の思いを、配信を介して描いてきたものだ。
「……何をするんだ?」
「セイレイ君が、沢山描いてきた想い。これまでの配信で描いてきた世界の数々。それは、紛れもなく君が積み重ねてきたもの……君の力の鍵、だよ」
「そうか……そう、だったな……」
スケッチブックが先輩に触れた瞬間、それは強く光を放ち始める。溶け込むように消えゆくそれを、私達は静かに見送った。
[information
勇者セイレイがスパチャブースト“赤”の鍵を手に入れました。
条件が揃い次第、発動が可能となります。]
いつしか、二人を取り巻いていた炎の障壁は虚空へと溶けていた。
静かに先輩は、自らの胸元に手を当てる。
「……ありがとな」
「一緒に、未来を描こうね」
「ああ。もう、迷わない」
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「皆、大丈夫か。スパチャブースト”緑”っ」
[セイレイ:自動回復]
それから、先輩はすかさず宣告を放った。同時に彼の全身に緑色の光が纏う。
先輩は仲間全員に「悪かった」と言葉を掛けながら、優しく触れていく。
そして、彼は最後に私の頭をポンと叩いた。
「……大変だったな」
先輩の優しい声に、私は心の奥底から込み上げてくるものを感じ取る。
ついに堪えきれなくなり、いつしか嗚咽が漏れ出した。
「う、先輩……パパが……パパが……」
「……そうか」
彼は何も言わず、私に背を向ける。
「……おい、瀬川 沙羅」
それから、静かに先輩は瀬川 沙羅に怒りの滲む声を掛けた。
私達の怒りの代弁者として、勇者セイレイは再び立ち上がった。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏
アラン
青:紙吹雪
緑:スポットライト
黄:ホログラム・ワールド
赤:悟りの書




