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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
255/322

【第百二十三話(1)】繋ぐ希望(前編)

【配信メンバー】

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・僧侶ディル

・遊び人アラン

【ドローン操作】

・秋狐(白のドローン)

「……っは……あ……」

 無理矢理意識を繋ぎ止め、立ち上がろうと力を籠める。

 だが、現実は非情だ。まるで私の意識だけが肉体から離れてしまったかのように、ぴくりとも身体を動かすことが出来ない。

「みん、な……は……」

 ちらりと視界の片隅に映る配信画面のUIが映し出す仲間達の体力ゲージに視線を送る。

 辛うじて、全員一命は取り留めているが……私含めて皆、体力は8割を切っていた。

 どのような攻撃を食らったとしても、もう耐えることは出来ないだろう。


 そして、私達に攻撃を食らわせた先輩は、右手に握るファルシオンと全身に纏う稲妻を交互に見やる。

 切っ先を眺めるその瞳には、悲しげな感情が滲む。

「……俺は、こんなことをしたくないのに。なんで、こんなスキルなんか持ったんだろう」

「セイレイ……お前の、そのスキルが開花したきっかけは……」

 同じく地面に倒れ伏したnoiseは、何とかして気付いてもらおうと言の葉を紡ぐ。

 しかし、息も絶え絶えの彼女の声は、先輩には届かない。


 全滅間近といった私達の姿を見た瀬川 沙羅は残念そうに首を横に振った。

「残念だよ、これで勇者一行の配信も終わりか」

「私達が……居なくなれば、あなたはもう、満たされることはない……」

 残った息を掻き集めて、辛うじてその言葉を瀬川 沙羅に伝える。

 配信を盛り上げることに時間を費やした彼女にとって、勇者一行のアカウントが無くなることは不本意ではないのか。

 

 そう思ったが、彼女にとってはさしたる問題ではないようだ。

「くくっ……勇者一行がいなくなり、私が魔災を生み出した張本人と知れば世界は暗闇に落ちるだろうね。そうなれば、私の望む盛り上がる配信は二度と生まれない……そう思っているのだろう?」

「そ、う……」

 私がそう返事すると、瀬川 沙羅はなんてことのないように話を切り出した。

「いや、”前提の書き換え”を使えば何の問題も無いだろう?」

「……え」

 続いて、彼女は私達の姿を撮影する白のドローン——秋狐へと視線を送る。

『……なに?』

「この配信を観ている視聴者よ。お前達は自分は無関係……そう思っているだろう?だが、私には諸君こそが最も重要な存在なのだよ」

『なんの、話をしているの。ほら、視聴者も意味が分からないって様子じゃん』

 秋狐は加速するコメントを指摘する。その声音は静かな怒りに満ちていた。

 瀬川 沙羅はくすくすと楽しげに笑う。

「より純度の高いお前達の感情を見れなくなるのは残念だがな……勇者一行が全滅した場合、私は視聴者全員の思考を書き換えるつもりだよ。配信を狂信するように、な」

『なっ……視聴者を洗脳する気!?』

 秋狐は運営の考えを聞いて、困惑の声を漏らす。

「無いなら作ればいい!前提の書き換えとは”無い”を”有る”にする技術なのだからっ!視聴者を洗脳し、妄信させることによって私の行う配信は、より一層盛り上がる!Sympassは名実共に不滅の存在となるのだよ!」

『狂ってる……!他人の人生を踏みにじってまで、自分のわがままを貫き通すの!?』

「無論、勇者一行が全滅した際の奥の手だがな。ほら、それが嫌なら立つんだ。もう、お前達は配信から逃れることなど出来ないのだよ」

 一貫して挑発した態度を取る瀬川 沙羅。

 彼女の語る言葉は、スケールこそ桁違いだ。だが、魔災と言った非常識な現象を引き起こした彼女だからこそ、その話に説得力を持ち合わせていた。


 ……立たなきゃ。

 でも、身体が動かない。

 終わるの?

 瀬川 沙羅に洗脳された先輩も。

 今まさに、彼女の良いようにされているクウリも。

 勝手に彼女の目的に巻き込まれようとしている視聴者も。

 

[助けて。 10000円]

 ごめん。

[なんで俺達が、こんなやつの良いようにされないと駄目なんだよ。なあ、頼むよ。世界を救えるのはお前達だけなんだよ。 10000円]

 出来ない。

[死にたくない 10000円]

 もう、立てない。

[世界を救ってください。その為なら、もうお金なんて惜しくありません。 10000円]

 私だって、立ちたいよ。

 でも——。


 絶望の滲む配信に、ひとつの宣告(コール)が生まれた。

「……スパチャブースト”黄”……」

[ホズミ:身体能力強化]

 全身に黄色い光を纏ったホズミが、よろよろと立ち上がる。

 スキルで無理矢理、身体活動を繋ぎ止めているようで、何度も身体をよろめかせていた。

「……させない。あなたの好きになんか……」

「ほう。まだ立つか、まるで世界を救う勇者様のようだ」

「生憎、世界を救う勇者はセイレイ君なの……私はただの配信ナビゲーターだから」

 赤色の杖を支えにしながら、彼女は正面を睨む。

 そんな彼女に向けて、noiseは残った力で”ふくろ”を放り投げる。

「……つ、かえ……ホズミ……」

 地面を滑るそれは、ホズミの靴底にコツリとぶつかって停止した。ホズミは静かにそれを拾い上げ、自身の腰に巻いた。

「ありがとう、noiseさん」

 そう言って、ホズミは何の迷いもなく”ふくろ”から取り出した魔素吸入薬を吸い込む。

 同時に、瞬く間に彼女の体力ゲージが回復していく。


 傷の癒えたホズミは、赤色の杖を正面に向けた。

 先輩は、ホズミの戦闘スタイルを真似るべくファルシオンを変形させようと、それを光の粒子に変えていく——。

 だが。

「セイレイ君が合わせる必要なんて無いよ」

「……?」

 彼女の言葉の意図を理解できなかった先輩は、首を傾げながらファルシオンの変形を中断させた。

 ホズミは、静かに息を吸い込む。

 そして。


「……誓うよ」

 誓いの言葉を、紡ぎ始めた。

「……ほう」

 瀬川 沙羅の目が関心に見開いた。


「一人で抱え込むって辛いよね。この役割は自分だけにしかできないんだって思うと、苦しくて、抱え込むしか出来ないの。責任から逃れたい……でも、期待されてしまった以上は応えるしかない。出来ないって言えたら、助けてって言えたら……セイレイ君も、ずっとそんな苦しみを抱えて来たんだよね?」

「……俺は……」

 ホズミの言葉に、先輩の返す声が震え出す。

「水族館ダンジョンで言ってたよね?皆の思う正しいを通したい、皆の描く世界を貫き通したい、でも色んな言葉を聞けば聞くほど、何が正解で何が不正解なのか分からなくなるって」

「……そ、それは……」

「分かるよ。理想を描ける人は、理想を描けない人の代わりに、言葉を伝えないといけない。それが出来るからこそ、配信なんだ。勇者なんだ」

「……っ」

 ホズミの持つ杖が、光を纏ったプログラミング言語に包まれていく。

 徐々に、ホズミの持つ武器が書き換えられる。


「セイレイ君が出来ない時は、私が代わりに前に立つよ。セイレイ君が周りに合わせる必要なんてないよ」

 光を纏うシルエットが、徐々に変形していく。

 それは、ファルシオンの形に。

「——私が、理想を描き続けるセイレイ君に合わせるからっ!!」

 [information

 ホズミ:スパチャブースト”赤”を獲得しました

 赤:形状変化 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]


 総支援額、57500円。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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