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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
248/322

【第百十九話(1)】悟りの書(前編)

【配信メンバー】

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・戦士クウリ

・僧侶ディル

・遊び人アラン

【ドローン操作】

・秋狐(白のドローン)

 ろくに部屋の管理もせず、雑に散らかしたゲームカセットに埋もれる形でゲームに没頭していた。

 それはもう、ずっと時間を忘れるほどに。

 でも、ずっと同じゲームをやり込んでいると、つい他のゲームにも手を出したくなる。

「パパ!配信準備して!ゲーム取りに行きたい!」

 だから、私は唯一の肉親であり話し相手でもあるパパに声を掛けるのだ。

 パパはいつも、最初こそ嫌な顔を浮かべるけど結局私のわがままを聞いてくれる。


 ——だけど。

「……パパ?」

 私の呼びかけに、パパは答えなかった。

「ねえ、パパ!どこにいるの!」

 私は必死にパパを探す。でも、誰も居ない。

 ダンジョンの管理者である荒川 東二が姿を消したことにより、オフィス内の電気が消えていく。

「……っ」

 電灯が消え、真っ暗闇の室内に私は一人、取り残された。


 ----

 

 ——魔災が起きて、魔物に襲われて色んな人が命を落とした。どれだけ屈強な肉体を持った人物も、強力な核兵器も、魔物の前には無力だった。

 というよりも、みんな魔物との戦い方を知らなかっただけ……なんだけどね。

 私も、パパやママもそう。魔物から逃げるしか知らなくて、ママはその凶刃に命を散らした。

 ……パパは、先輩にさも「母の願いを叶える為に、覚悟を決めて父としての役割を遂行してる」ってニュアンスの言い方をしていたけど、実際はそうじゃない。

 

 ママが、魔物の凶刃に倒れた次の日だ。虚ろな目をして、パパはこう言った。

「蘭……ママのところに行こっか」

 魔災によって、めちゃくちゃになった世界で、パパもとっくに限界を迎えていた。

「パパ……怖いよ」

「大丈夫。苦しいのは一瞬だから……」

 パパは、優しく私の首を絞める。

 抱きしめるような温かさで、私の命を奪おうとしていた。

 

 ……そんな時、私には聞こえなかったけど。パパは謎の声を聴いたらしい。

『せっかく生き残った命だ、勿体ないだろう。私が二人が安心して暮らせる場所を提供しよう……ただ、私の頼みを聞いてくれるかい?』

 一体何を言っているのか分からなかったけど、藁にも縋る思いでパパはその条件を呑んだ。

 こうして、荒川 東二は配信者となった——。


 それが、こんな結末を描くことになろうとは誰が予想できたのだろうか。

 

 ----


 分かっていた。

「……そ、そう、だ……」

 楽しい時間も、家族に甘えていられる時間も、いつかは終わりが来ることを。

 ずっと、なんて存在しないことを。


 理解(わか)っていた。

 自分一人では、何もなしえることの出来ない無力な一個人だということを。


 無様にうつ伏せに倒れた私を、漆黒のレンガに身を包んだゴーレム——パパはじろりと見降ろす。

 

 パパに殴られたことなんて、無かったのにな。

 いつかの日、パパが管理してたデータを触って破損させた時は、凄く怒ってた。けど、どれだけ怒ってもそれを暴力としてぶつけることは絶対にしなかった。

「……っ」

 ふと、目頭に何か生温かい感触が生まれる。それが涙だと自覚するのに、そう時間は掛からなかった。

 

 「……スパチャブースト”青”……」

 縋るように、ぽつりと宣告(コール)を零す。

 しかし、私の言葉には何も答えてはくれない。

 当然だ。スパチャブーストを使用する権限は今、私に与えれてはいないから。

 ……よしんば、スキルを発動することが出来たとしても、どうせ紙吹雪を散らすことしかできないのだが。

「……排除モード、移行」

 運営の操り人形と化したゴーレムは、レンガで出来た豪強な右腕を高く振り上げる。

 その視線の向かう先は、私の頭部だ。もしもそれが振り下ろされれば、私の頭部はまるでトマトのように容易くはじけ飛ぶだろう。

 ——でも、もうそれでもいいと思えた。

「もう……何も、見たくないよ」


 来たる死を受け入れるように、私は静かに目を閉じた。


「させるものかっ!スパチャブースト”緑”!」

[ディル:闇の衣]


 私を庇う形で躍り出たディル。彼は迷うことなく宣告(コール)し、その身に漆黒のマントを纏った。

 マントに身を隠す形で、ゴーレムの一撃を受け止める。

「っく……!」

 ダメージを肩代わりした漆黒のマントは役割を終え、黒い(もや)となり虚空に溶けていく。

 その靄を全身に受けながら、ディルは私に向けて叫ぶ。

「逃げるなよ、荒川 蘭!セイレイ君から一体何を学んだっ!一体セイレイ君はキミに何を伝えたっ!」

「な、なにを……って……」

 気道に血がたまっているのか、声が上手く出せない。ディルはそれを悟ったか、再度宣告(コール)を重ねた。

「——スパチャブースト”黄”!」

[ディル:闇纏]

 その宣告(コール)に連なり、ディルの背中から漆黒の翼が伸びる。舞い散る漆黒の羽が私に覆い被さるにつれて、鋭く穿つような痛みが徐々に治まっていく。

 配信画面を介して私の体力が回復したのを確認したディルは、再び私に語り掛ける。

「セイレイ君は決して希望を棄てなかったっ!どれだけ苦しかろうと、辛かろうと!いつも打開の一手を探していたっ!彼の背中を見て、キミは諦めるのかっ!」

「……私は強く、なれないっ……」

「ホズミちゃんから聞いた!キミは、セイレイ君達が最初の一歩を踏み出すキッカケになった動画を投稿した配信者だろ!?世界を救うきっかけを生み出した配信者を、こんなところでくたばらせるものか!」

「……それは……っ」

 それからディルは、両翼を畳んで鋭くゴーレムに特攻を仕掛けた。

「——防御態勢、移行——っ!?」

「希望を終わらせるものか!ボクはその為に、配信者になったんだっ!」

 今まで聞いたことが無いほどに、感情をむき出しにして戦うディル。その彼の姿に、強く心打たれるものを感じていた。


 ホズミに介抱されているクウリは、全身傷だらけになりながらも、私に向けてにこりと微笑んだ。

「……秋狐ちゃん。スキル権限を、僕からアランちゃんに移して……」

『……分かったよ。配信メンバーをクウリからアランへ変更』

 クウリの表情から何かを感じ取ったらしい秋狐は、その依頼を拒否することなく受諾。

 改めて私にスパチャブーストを使用する権限が受け渡された。


 ——分かっていた。

 ——理解(わか)っていた。

 ——(わか)っていた。


 傷の癒えた身体が、私に立つ力を授けてくれる。

 皆の言葉が、私に力をくれる。

 消えない希望が、私に未来を見せてくれる。


 気づけば、私の左手に一冊のノートが顕現していることに気づいた。

 私のスパチャブースト”赤”の鍵である、ノートブック。私が勇者一行のファンになってから、ずっと(つづ)ってきた一冊のノートだ。

 私はそのノートを正面に向け、立ち上がり誓いの言葉を発する。


「——誓う。誓わなきゃ……」

『……アランちゃん?まさか——』

 白のドローンである秋狐から困惑の声が漏れる。配信画面にちらりと視線を送れば「まさか」や「来た?!」など動揺のコメントが流れているが今はどうでもいい。

 私の想いを、伝えなければ。


「楽しい時間もいつかは終わる。現実を見なきゃいけない時間がやってくる。そんな当たり前で、ありきたりなことに私は気づいていなかった……。だけど、もう現実から逃げないっ。現実から、目を逸らしはしないっ!」


 ふわりと私の左手から離れたノートが宙へと浮かぶ。

 私の想いに応えるように、ひとりでにノートのページがめくられていく。

 ——その一枚ごとに記されているのは”勇者一行”の配信内で使われるスパチャブーストの一覧だ。


 [information

 アラン:スパチャブースト”赤”を獲得しました。

 赤:悟りの書

 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]


 ずっと、ファンだった。

 「このスキル、自分ならどう使うだろう」と纏めては、妄想を続けてきたノート。それが今、私の力となる。

「——スパチャブースト”赤”ああああああああっ!」

[アラン:悟りの書]


 パパ、見てて?

 もう、ただの娯楽にかまけた遊び人じゃないよ。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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