【第百十七話(2)】全ての元凶のいるダンジョン(中編)
【配信メンバー】
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・戦士クウリ
・僧侶ディル
・遊び人アラン
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
『配信同期フレーム、正常。コメントフィード、遅延無し。配信準備出来てるよ』
白のドローンへと姿を変えた秋狐は、淡々と自身の状況を報告する。平時こそ呑気な口調で会話している彼女だったが、配信となれば真っ当に役割を遂行しているようだ。
そんな勇者一行の背中はとても頼もしく見える。
だからこそ、私も手を抜くわけには行かない。
「Sympassの管理者のいるTenmei本社だが、恐らく敵の本陣ともいえる場所だろう。油断するなよ」
代理でリーダーを務めるnoiseは、そう注意を呼び掛ける。言われなくても油断などしないのだが、その言葉により一層気が引き締まる。
私達が静かに頷くのを覚悟の意思表示と取ったnoiseは、静かに本社へと続くガラスドアに手を掛けた。
彼女がガラスドアに触れるのをきっかけとして、放射状に光の回路が描かれる。やがて私達を迎え入れるように、静かにスライドして道を作り出した。
「……あはっ、随分な演出だね」
今までの配信で見てきたダンジョンとは明らかに異なる様相。ハイテクノロジーで構成されたシステムチックなダンジョンに、思わず冷や汗が垂れる。
私の緊張を感じ取ったか、クウリは優しく微笑みかけた。
「安心してよ。僕達が何かあったら守るから」
「……頼りにしてますよ、先輩方」
「任せて?セーちゃんばっかりにカッコつけさせはしないよ」
ひっそりと先輩をライバル視しているのか、クウリはじっと正面を見据えながらそう答える。
彼らは私よりも長く、ダンジョン配信に関わってきたのだ。攻略に関する経験値に関しては雲泥の差だろう。
それが容易に理解できるからこそ、私はそれ以上何も言葉を返せなかった。
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まるでホテルのラウンジを彷彿とさせるような広々とした空間が続く。
そこは、迎え入れるものに高級感を感じさせる光景だ。
目映く照らす蛍光灯が、床一面に敷き詰められた大理石へ光沢を描く。黒色を基調として構成されたロビーは、外界と異なる雰囲気を作り出している。
もはや「拒絶」とさえ思えるような空間が、勇者一行を招き入れる。
人の子一人居ない空間がずっと続いていた。
私達は周囲を警戒しつつそのロビー内を進む。上階へと続くエレベーターを探しつつ、静かに探索をしている最中。
突如として、けたたましくアラームが鳴り響いた。
「っ、来るぞ!」
その声に対しnoiseは咄嗟に反応。腰に携えた短剣を引き抜き、素早く周囲に目配せする。
『警告、警告。侵入者発見。直ちに対処せよ。警告、警告——』
警告を知らせる赤色のランプが私達を照らす。光沢のある石材にランプが反射し、ダンジョン全体が赤色に煌めく。
同時に、地面からぬるりと沼地の如く生み出された影からいくつもの警備員を模した異形が生まれる。
確か彼等の配信で以前見た、ガードマンだ。やつらの手には警棒と思われる棒状の得物がそれぞれ握られていた。
『撃破対象数、10体!行くよ、サポートスキル”モニターシェア”!』
秋狐がすかさず報告に重ねて宣告する。それと同時に、私を含めた全員の眼前に配信画面が映し出された。
「侵入者、排除する」
その光景に驚いている余裕はない。眼前に立つガードマンは、敵意に滲んだ声音で警棒を構えていた。
「——っ……」
明らかな敵意に思わず怯む。だが、そんな私を差し置いてnoiseが先陣を切る形で飛び出した。
「私が気を引く!ホズミ、頼んだ!」
noiseはその優れた戦闘技術を持って、敵の攻撃を容易に躱しつつ立ち回る。
しかし、ただ躱すだけではない。回避する方向も意識し、敵が一点に集中するように動いているのが分かる。
「言われなくてもっ。炎弾よ、放て!」
[ホズミ:炎弾]
ある程度敵が纏まるのを待ってから、ホズミは赤色の杖を正面に突き出して宣告した。
すると、瞬く間にホズミの杖先から鋭い矢の如き炎弾が、ガードマンの群れに喰らい付く。赤熱の閃光を放ちながら、大きく爆ぜたそれに伴いガードマンのうち3体は大きくその姿を灰燼と変えた。
その魔法に連なり、配信画面に表示された「総支援額」の数字が減少。
残金は105000円だ。
「有紀姉!交代っ」
「分かった!」
noiseに入れ替わる形でクウリが前に出る。両手で携えた大鎌を、なんてことのないように激しく振り回す。
振るう一撃に伴い、姿勢の崩れたガードマンが激しく吹き飛ばされる。ガラス窓に叩きつけたガードマンは、noiseが素早くとどめを刺していった。
「あはっ、先輩達ばっかりにカッコつけさせないよっ♪」
私だって、彼等に負けるわけには行かない。
クウリの背後に近づいていたガードマン目掛けて低く槍を吐き出す。
「——侵入者……はい……じょ……」
胸元を深々と貫かれたガードマンはぐたりと姿勢が崩れる。絶命を確認し、槍を引き抜くとそのガードマンは地面に倒れ伏した。
「アランちゃん、やるね」
「伊達に先輩に指導されてませんから……っ!」
私は先輩から高く評価された天性の勘を頼りに、ガードマンの猛攻を潜り抜ける。瞬く間に敵の懐へと到達した私は、そのまま素早く槍を突き出す。
「たっ!」
だが、魔物の方が一枚上手だった。
ひらりと踊るように私の突きを躱したかと思うと、素早く懐に入り込み警棒を振り上げる。
「……やっば」
「侵入者、排除——」
「させないよ。スパチャブースト”青”」
[ディル:呪縛]
その声と共に、伸びるのは弾丸の如くガードマンへと襲い掛かる漆黒の鎖。瞬く間にガードマンを縛り上げた鎖を放ったのは、指先で銃の形を作ったディルだった。
「さすがです、僧侶さんっ♪」
「なんかその喋り方いつかのボクを思い出して癪だよ」
「知ったこっちゃありませーんっ♡」
茶々を入れながら、私は行動の抑制されたガードマンの喉元へと深々と槍を突き立てる。
瞬く間に姿を灰燼と変えたのを確認し、私はそれを振り払うように槍を振るった。
流れる連携によって魔物を殲滅させると、配信画面にシステムメッセージが流れる。
[information
エレベーターが稼働しました。次の階へと進むことが出来ます]
「なるほど、そういう形か」
そのシステムメッセージに同様に目を通したホズミは納得したように頷いた。
おおよそ、彼女の考えていることは理解できるが念のために尋ねる。
「そういう形、というのは?」
「各階に配置された魔物を殲滅したらエレベーターが動くようになるんだよ。さすがに全階層、というのはないだろけどね」
「全階層はないって、どういうこと?」
どうしてそう言い切れるのだろうか。疑問に感じたため、私は話のついでで質問を投げかける。
すると、ホズミは天井——恐らく上階を見据えているのだろうが——を見やりながら質問に答えた。
「瀬川 沙羅さんは、異常なまでに配信に執着してる。そんな彼女が、テンポの悪い配信を望むとは思えないからね」
「どこまでも、彼女の目的は配信にある……と」
「うん。だから、彼女は何かしらのイベントを用意する……イベント……」
「……?」
そこで言葉を切ったホズミは、何か心配そうに私をじっと見た。
「え、どうしたの、ホズミさん?」
「……いや。憶測であればいい話。というよりも、それをやろうものなら、私は彼女を許せなくなる」
「……?」
まるで要領の得ない発言だったが、ホズミはそれ以上何も言おうとしなかった。
何やら不穏なものを感じ取ったが、これ以上問い詰めても彼女は何も答えないだろう。
答えの続きが発せられるのを諦め、私達は次の階へと続くエレベーターに乗り込んだ。
[総支援額]104500円。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏
アラン
青:紙吹雪
緑:スポットライト
黄:ホログラム・ワールド