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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
240/322

【第百十四話(2)】役割分担の理解(後編)

【配信メンバー】

・セイレイ

・アラン

【ドローン操作】

・荒川 東二(四天王:赤のドローン)

 彼女の部屋へと続く扉を静かにノックする。

「蘭、入るぞ」

 だが、その呼びかけに蘭は何も答えない。

 もとより彼女の返答など関係なく、俺はそのまま扉を開いた。

 相も変わらずゲームカセットの散らかる部屋だ。その部屋の角に置かれたベッドのフレームに持たれる形で、蘭はふさぎ込むように体育座りをしていた。

「……」

「ありがとな、俺の為に怒ってくれて」

「そんなんじゃないよ」

 蘭は膝に顔をうずめたまま、静かに首を横に振った。櫛通りの良さそうな髪先が膝を撫でる。

 東二の言葉が棘となり、心の奥底に突き刺さったのだというのは容易に想像できた。俺はただ、続く彼女の言葉を待つ。

 しばらくすると、蘭は弱々しい声音で言の葉を紡ぎ始めた。

「……私ね。誰ももう、私の前で死んでほしくないの。先輩みたいに生き返る能力を持ってるからとか関係ない……”死ぬ”こと自体が嫌」

「俺だって死にたくて死んでるんじゃねえよ」

「それもそっか……誰かの命の責任を背負うくらいなら、一人でいた方がマシ。全部自己責任でしょ」

「……命を背負うって、怖いよな」

 彼女の言葉は痛々しいほどに理解できた。

 思い出すのは、魔王が現れた時の話だ。魔王が放つ力は森本先生を飲み込み、その命が奪われた出来事は今でも思い出す。


『変わらないでいてください。セイレイ君は、セイレイ君のままで』


 森本先生は、最期にそう俺に遺した。

 その言葉は、今でも俺の心の奥底に深々と突き刺さっている。

 変わらずにいることの難しさを、今になって痛感する。


 静寂を破るように、蘭はぽつりぽつりと自分の想いを零し始めた。

「強く見せたかった。有名人の先輩に引けを取らない配信者なんだ、って」

「蘭は十分強いだろ」

「……見せかけだよ。私は、結局先輩の力になれなかった……足を引っ張った」

「……」

「本当は、私だって誰かの役に立ちたい。けど、それが出来ないから……1人で良いの。身勝手に行動して、無様に散るだけの哀れな道化(どうけ)……遊び人にはうってつけでしょ?」

 虚ろな、自嘲染みた笑みをこちらへと向ける。

 ……きっと、彼女は無力感に苛まれているだけだ。手助けして上手くいったことよりも、上手くいかなかったことにばかり視線が向かっている状態だ。

 一体、どのような言葉を掛ければいいのだろう。


 そんな時、ふとある記憶がスパークするように脳を駆け巡った。

「なあ、蘭」

「どうしたの、先輩」

「お前ってさ、Sympassが実装された日さ。動画投稿したか?」

 蘭はその問いかけに目をぱちくりさせていたが、しばらくしてからコクリと弱々しく頷いた。

「……した。何か伝えないと、って思って」

「”魔災から十年経ったけど、まだこの動画見てるやついる?”だったか?」

「……!」

 その言葉に、蘭は大きく目を見開かせた。

 何かを期待するように、俺の瞳を覗き込む。

「なんで、それを知って」

「見てたよ。あの動画を見て、まだ世界には懸命に生きてる人が居るんだって勇気を貰えたからな」

 俺は蘭の頭に優しく手を乗せる。彼女はそれを拒むことなく、静かに受け入れた。

 まさかとは思ったが、当たっていたようだ。

 俺がSympassの中で、初めて配信者となる決意をした日。そのきっかけとなったのは一本の動画だった。

 

 魔災に墜ちた世界の中で懸命に生きた少女が独白するだけの、2分程度の短い動画だった。

 特に何の編集もされていない、昔の世界ならば誰も目を通すことのなかったであろう彼女の独白。だが、現に俺はその彼女の真摯な想いに強く心打たれたものだ。

 彼女は役立たずなんかじゃない。

 それどころか、俺をこの世界に誘ってくれた希望の始まりなのだ。

 

 ……まさか、こんなところでその動画投稿者と出会うとは思わなかった。

「ありがとうな、あの動画を投稿してくれて。蘭が居たから、俺は勇者になったんだ」

「え、ほんと、に」

「蘭は役立たずなんかじゃねえよ。お前が居なきゃ、世界に希望は生まれなかった」

「——っ」

「わっ」

 蘭はそれ以上何も言わず、強く俺に抱き着いた。静かにそれを受け入れるように彼女の身体を抱き寄せるが、なんと線の細い身体なのだろう。

 彼女の羽織るカーディガンの弾力を介して、温もりがじんわりと伝わる。こんな華奢な体で、父親以外の誰とも接することなく、魔物と戦って生きてきたのだと実感するにつれて込み上げてくるものがある。

「良かった……私、役に立ってたんだ……良かった……」

「……本当に、妙な縁だよな」

 誰に語り掛けるでもなく、ぽつりとそう呟いた。

 全ての糸が、同じ道へと辿るように手繰り寄せられていく。ネットというのは、広いようでとても狭い世界なのだと改めて実感する。

 ……ネット()……か。俺達から伸びた繋がりの糸のひとつひとつが、いつしか大きな網を生み出している気さえする。

 いつかの日、ディルが言っていた「全てはたった1つのプロローグに繋がる」という言葉もあながち嘘ではないのだろう。


 ★★★☆


 その日から、俺と蘭はお互いに力を合わせて困難を打開する方法を模索し始めた。

「蘭のスキル……”紙吹雪”はまず論外だな」

「うっ」

 そのことは自覚しているのか、蘭は引きつった笑みを浮かべた。

「で、”スポットライト”……これは、蘭が陽動に動く分には良いんだが、蘭以外の視界が真っ暗になるのが問題だよな」

「先輩もスポットライトの中に入ったら問題ないんじゃ?」

 おずおずと蘭は意見するが、それでは意味がない。

 俺は首を横に振った。

「俺も一緒に円の中に入ったら意味が無いだろ。どうぞ敵さんこちらへ、って招くメリットが無い」

 ……本当に使い道はないのだろうか?

 俺もそうだったが、スポットライトの外に居ると距離感がどうも掴みにくい。地形の把握が出来ない、というのも情報戦においては不利だ。

 都心部においては特に魔物が集まっている分、集団戦になりやすい。

 様々な情報が脳裏を過ぎり、やがてある考えが閃いた。

「いや、待て。もしかすると”スポットライト”は使いどころによっては有用かもしれないな」

「ほんと!?」

 活路を見出したことに、蘭は目をキラキラと輝かせる。

「可能性の話だけどな。地形戦で、敵の連携を崩して優位を取る、というのはどうだ」

「おおー!」

 まるで世紀の発見と言わんばかりに蘭は嬉しそうに拍手する。どうもそこまで評価されるとむず痒いものだが、悪い気はしない。

 それから何かを思い出したように蘭はおずおずと小さく手を上げた。

「はいっ」

「蘭、どうした?」

 蘭はなにやらしたり顔で、自らの意見を主張する。


「地形変化なら私におまかせあれっ。先輩に私のすごい力、また見せてあげられるよっ」


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

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