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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
234/322

【第百十二話(1)】旅立ちの日-side noise-(前編)

【配信メンバー】

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・戦士クウリ

・僧侶ディル

【ドローン操作】

・秋狐(白のドローン)

 重なる足音が、全て同じ方向へと近づく。

 一足先に体育館前についていた私——一ノ瀬 有紀は、その足音の方向へと視線を向けた。

 ……と言っても、その体育館は以前の激戦の名残が残り、船の形に大きく削れていたのだが。

「うん、準備は大丈夫?」

「ゆきっちこそ」

 みーちゃん——船出は少しだけいたずら染みた笑みをこちらに向ける。彼女が右手に持っているのは、須藤から受け取った運営権限によって与えられたスマートフォンだ。内蔵されたシステムこそ異なれど、その実態は今まで使っていたスマートフォンと何ら変わりない。

 船出は改めて仲間達に視線を送った後、スマートフォンを手慣れた動作で操作し始めた。

「じゃあ、始めるよ」

 そう宣言すると共に、やがて運営権限によって能力を与えられた彼女の姿に真紅のコートが重なる。

 左手にはワイヤーフックが生み出され、彼女が「フック船長」の姿になったのだと証明していた。

「えっ、また浮かび上がるの」

 青菜は引きつった笑みを浮かべ、移動する前から大きく尻込みする。

 そんな彼に船出は憐みの籠った笑みを向けた。

「仕方ないでしょ、移動手段がこれしかないんだから」

「……そっか、そう、だよね」

 自分に言い聞かせるようにブツブツと呟く青菜。どうやら彼は高所恐怖症のようだ……。

 そんな青菜を他所に、船出は高く右手を掲げた。

「さて、今度こそ文字通り皆を連れていくよ……”ノアの箱舟”よ、高く舞い上がれ」

 船出がそう語ると共に地盤を削り、悲鳴のように軋む音を響かせながら大船は空に浮かぶ。

 同時に、何もなかった空間に突如として光が集う。その光の粒子は、やがて船に向けて高く伸びる階段を生み出した。

「さすが道音ちゃん。頼りになる―」

 秋狐はニコニコと嬉しそうに微笑みを浮かべる。だが目元は笑っておらず、どこか緊張している様子さえ感じ取ることが出来た。

「これから先、大変な戦いになるだろうから。気を引き締めて行こう」

「だねっ」

 船出の言葉に秋狐は一足先に光の階段へ迷うことなく足を乗せ、船に向けて駆け出して行った。

 彼女の動きに倣うように私もその階段を上る。一段、また一段と上る度に光の欠片が小さく舞い上がった。

「待ってて。セイレイ君」

 前園は覚悟を決めたように生唾を飲みこみ、私の後に続く。

 セイレイを失ってからの彼女は、どこか中身が抜け落ちたように空虚だ。

 ……それだけ彼女にとってかけがえのない存在だったのだろう。

「……誰か,助けて。手を引いて……」

「ほら、戦士クン。置いて行かれたくなかったらおいで?」

「あっ待って手を引かないで怖い怖い」

 腰の引けた青菜は、ディルに手を引かれながらなんとか光の階段を上っていた。

 正直、彼は違う理由で心配だ。

 

 ★★★☆


 空高く浮かび上がる船から見下ろす景色は圧巻と言わざるを得ない。

 ——その地平線遠くに至るまで、埋め尽くす桜の木々、そして樹根が辺り一面を飲み込んでいることを除けば。

「見渡す限りの桜の木々……千本桜、とでも言うのだろうか」

「須藤……」

 私の傍らで同じように景色を見下ろす須藤は、退屈そうにその景色を見下ろしている。

「昔さ、親父、お袋の三人でロープウェーに乗ったことがあるんだよ」

「……それが?」

「ちょうどその時も春でな、辺り一面満開の桜が咲いてた。世界にはこんなに美しいものがあるんだ、って感動したのにな……」

 須藤はそれ以上何も話を続けなかった。

 

 ふと思い立ち、腰に巻いた”ふくろ”からセイレイのスケッチブックと鉛筆、そしてバインダーを取り出す。

「一ノ瀬?」

「セイレイだったらきっとこうしただろうね」

 絵など全く描いたことはない。

 だが、こうしなければならない気がした。

 絵を描くことなど高校の美術の授業以来だ。静かに壇上に腰掛け、見様見真似でスケッチブックに十字の線を引く。

 ぎこちない線が、スケッチブックに次から次に書き加えられていく。

「……セイレイは、本当に絵が上手だったんだな」

 自分の絵を見る度、思わずそんな自虐じみた言葉が漏れる。

 走る線はたどたどしく、直線を引いたはずなのにいつの間にか明後日の方向へと流れる。上手くいかないことにどこかイラっとしながらも、私は鉛筆を走らせ続けた。

 そんな私の隣に座ったのは、前園だ。

「どうしたの、穂澄ちゃん」

「ううん。何でも」

 前園に言葉を投げかけるが、彼女は力なく首を横に振るのみだった。

 セイレイのことを気にしているのは分かるが、さすがにメンタルケアが疎かだ。

「大丈夫。きっとセイレイは戻ってくるよ。ほら、穂澄ちゃんも何か描きな?」

 そう言ってセイレイのスケッチブックを前園に差し出す。すると、彼女は黙ってスケッチブックを受取った。

 それからじっと私の方を向き、小さな手を私に向ける。

「ボールペン貸して」

「え?あ、うん」

「ありがと」

 ボールペンを受取った前園は、軽くノックしてペン先を出した。

 それから一切の迷いもなく、スケッチブックに彼女の想いを書き残す。


「セイレイ君のあほ!あほー!何で消えちゃったの!作り物とか関係ないもん!ずっと見てきたもん!あほー!」

 ペンを走らせる度、前園の口から怒りの言葉が表出される。

「絶対に探し出すっ。絶対に、セイレイ君のアカウントを見つけ出してやるっ!」

「……うん。そうだね」

 スケッチブックに残したのは「バカセイレイ」の文字だった。


 ----


「それじゃあこの自然公園辺りに降ろすよ」

 船出が宣言すると同時に、ゆっくりと大船は降下する。

 草木の生い茂る原っぱの上に、深く大船の形をした体育館が沈み込む。

「さて。目的地?かな。Sympass本社はビル群が多いから、そこまで行くのは無理そう」

 スマートフォンを操作し、地図を確認した船出は申し訳なさそうに首を横に振った。

 おおよそ分かっていたものだが、これ以上は徒歩で移動せざるを得ないのだろう。ただそれでも、ある程度の距離まで移動することが出来たのは大きい。

「ありがとう、みーちゃん」

「ううん、大丈夫。私と須藤はここに残って船を守るよ。万が一魔物が来ても私達なら対処できるし」

「分かった」

 これから先、長い戦いになる。

 各々の役割分担を正確にしなければいけないと判断した船出は、あらかじめそう己の役割を伝えた。

 正直、船出が戦力として抜けるのは心許ない気もするがやむを得ない。

「配信中のドローン操作は紺ちゃんに任せていいのかな」

「ん?むしろ私それしか役割無くない?」

 秋狐は「何を当たり前のことを」と言わんばかりに首を傾げた。それから自身の身体をふわりと浮かび上がらせ、やがて自らの姿をドローンへと書き換える。

『雨天ちゃんもおいでっ』

 彼女に呼ばれた雨天は、おずおずとドローンに歩み寄る。

「あ、はいっ。お願いします……」

『緊張しなくていーよっ。ほら、肩の力抜いてリラックスーっ』

「は、はいぃ」

 おずおずと手を伸ばした雨天の身体が、瞬く間に光の粒子となりドローンに吸い込まれていく。

 完全に雨天の姿が消えたのを確認すると共に、白のドローンは私の方を向いた。

『さて。セイレイ君が不在の今、リーダーは有紀ちゃん……noiseちゃんに任せても良い?』

「私?」

『この中だと一番リーダー向きなのはnoiseちゃんだよ。時点でディル君』

 唐突に名前を呼ばれたディルは困ったように肩を竦めた。

「ボクはそういうの向いてないよ。というかどこを見てそう思ったのさ」

『セイレイ君を狂信してる君なら、絶対間違えることはないからね』

「随分と高評価だね。まあ誉め言葉として受け取っておくよ」

 ディルはそう言い残し、一足先にビル群が見える方向へと歩みを進める。

 私達も彼に続くように歩みを進めた。

 そんな私達を撮影するように、秋狐が操作するドローンのスピーカーから彼女の声が響く。

『じゃ、始めますかーっ。秋狐率いる、新たなLive配信!目指すはセイレイ君の復帰だっ!』


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

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