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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
233/322

【第百十一話(2)】分からせ(後編)

【登場人物一覧】

・セイレイ

配信名:セイレイ

役職:勇者

瀬川 怜輝の身体を借りているだけの、作り物の存在。

どうやら知らぬ間に都心へと身を移していたようだs。


荒川(あらかわ) (らん)

配信名:アラン

自由気ままに生きている少女。

どこか掴みどころのない彼女であるが、その実力は本物である。


荒川(あらかわ) 東二(とうじ)

株式会社A-Tの社長を務める四天王。

日々娘の育て方に苦悩する、一人の父親でもある。

「蘭。セイレイ君。そろそろ晩ご飯にしよう」

「すみません、色々と……」

 オフィステーブルに蘭と腰掛けて過ごしている最中、東二は給湯室からインスタントラーメンを乗せたトレーを持ってやってきた。

 何から何まで世話になりっぱなしで気が引けるものだが、彼は一切気にしていないようだ。俺の言葉に苦笑を漏らしながら言葉を返す。

「いや、こっちこそ蘭の相手をしてくれて助かっているよ」

「はは……」

 当の本人である蘭は、黙って東二が持ってきたカップラーメンをつかみ取り、いただきますも言わずに食べ始めた。

「おい、蘭。いただきますって言えよ」

「知らない」

 彼女の行動を咎めてみたが、蘭はまるで聞く耳も持とうとしない。

 どうやら今は口を利きたくないようだ。

 じっと蘭の様子を観察してみると、耳元が赤くなっていることに気付く。

(今は触れない方がよさそうだな)

 14歳、しかも同年代の異性とほとんど接したことが無いのも加わって多感な時期なのだろう。

 俺は触れない方が吉だと判断したのだが、東二はそうではなかったらしい。蘭と同様にカップラーメンの蓋を剥がしながら、彼女に語り掛けた。

「蘭はセイレイ君のことが好きなのか?」

「っ……!」

 何故か蘭はその問いかけに返事ことなく、八つ当たり気味に俺の肩をひっぱたいた。

「ってぇな!?なにすんだ蘭!」

「ふんっ」

 蘭はそっぽを向いて唇を尖らせる。

 俺としては、好かれているというのは嬉しいものだ。

 ……だがそれと相反するように、心の奥底にわだかまりを抱えていた。

(世界を救った時、俺はこの世に居ない可能性だってあるのに)

 皆が自分を慕ってくれるのは嬉しく、とても光栄なことだ。しかしそれと同時に「自分が居なくなったら皆はどうなるんだろう」という不安がついて離れなかった。

 そんな胸中を感じさせないよう、俺は蘭に語り掛ける。

「何はともあれ、今日はありがとうな」

「……」

 だが、蘭の表情はかえって曇ってしまった。

 時間をおいて、蘭はカップラーメンを机の上に置き、ぽつりと言葉を紡ぐ。

「……ごめんなさい、先輩。足……引っ張りました」

「いや、蘭は十分頑張っただろ」

 なるべくフォローするべく言葉を返すが、蘭は力なく首を横に振るのみだった。

「……あのホブゴブリン?が出た時……私、何もできませんでした。調子に乗ってたんです、私なら何でもできるんだって」

「調子に乗ってた、か。確かにそうかもな」

「否定、しないんですね?」

 うつろな笑みを浮かべ、蘭は俺に視線を送る。

 (つくろ)った言葉など意味がない。俺はそう考え、自分の今の考えを表出することにした。

「そりゃ自分一人で何でも解決してきたんだろ?調子に乗って当然だろ」

「……そうですね。私一人で何でもできる、私が居れば全部解決できるって、信じてました」

「俺だってそうだ。勇者だ世界の希望だって(はや)し立てられて、調子に乗ってたこともあるよ」

 そう言葉を返すと、蘭は期待するような目でじっと真剣な表情を作る。

「先輩も、ですか?」

「当然。出来ることが増えていくとさ、出来ないことが見えなくなるんだよな。そんで大事なことを見失って、足元をかっさらわれるんだ」

「……そう、ですか」

「ああ。最初から皆完璧じゃねえよ」

「……あの、先輩」

 蘭は決心したように、両手を俺の手に重ねる。

 彼女の真剣な表情に応えるように、俺は一旦カップラーメンを机の上に置いて彼女の言葉を待った。

「蘭?」

「私に、沢山教えてください。私も皆と力を合わせられるようになりたいです……!もう、嫌です。先輩を守ることさえ出来ない無力な私でいるのは」

「どっちかというと守るのは俺の役割なんだがな」

「茶化さないでくださいっ」

 蘭は照れ隠しするように再び俺の肩を小突く。先ほどより勢いの殺されたそれに、思わず苦笑が漏れた。

 それから、机の上に置かれたカップラーメンへと目配せする。

「とりあえずその話は食事が終わってからな。冷めちまう」

「う、あ、はいっ」

「あと敬語も無しだ。対等な仲間で居たいからな」

 俺がそう言葉を返すと、蘭は照れ笑いと共に「うんっ」と頷いた。

 ちらりと東二の様子を伺うように視線を送ると、彼は生温かい目で微笑んでいた。

「……セイレイ君。俺のこと、お義父さんって呼んでも良いぞ」

「呼ばねーよ……」

 どうにもこの親子に好かれてしまったようだが、悪い気はしなかった。

 自分に家族がいたとしたらこんな感じだったのかな、と思いを馳せる。


 そこで、ふと疑問を抱く。

(……そう言えば、皆はどうしているのだろう)

 ターミナル・ステーションダンジョン以降離れ離れになってしまった仲間達。

 彼らがいったい今、何をしているのだろう。

 気になった俺は、二人へと問いかけることにした。

「なあ。ここのパソコンでSympassって開けるか?」

「開けなかったら先輩の配信見れてないよ」

 蘭は苦笑いと共に言葉を返す。どうやら調子は元に戻ったようだ。

「だよな。後で俺の仲間がどうしているのかアーカイブ追って良いか?」

「あ、私も気になってた!見よ、見よー!」

 俺の提案に蘭は嬉々として同意する。

 意見の合致した俺達は、Sympassで仲間達の配信を確認することにした。


★★★☆


 アーカイブで言えば、1週間ほど前に(さかのぼ)る。

 勇者一行の盗賊である一ノ瀬 有紀。彼女と四天王である船出 道音は母校の塔出高校の校門前に立っていた。

「またここに戻ってくるとはね」

 船出はどこか寂しげな表情と共にぽつりと呟いた。

「そうだね。じゃ、行こっか」

 一ノ瀬が主導となる形で校舎の中へと進む。彼女に続く形で仲間達も同様に歩みを進めた。

 もう、その校舎はかつての姿を映すことはない。かつての生徒達の亡骸を埋めた校庭を通り、ずたずたに岩壁の槍で貫かれた校舎の脇を通り抜けていく。

「俺は初めて見たが……これは酷いな」

 後ろを歩く武闘家の須藤 來夢は呆然とした声で呟いた。苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ、その右手には力が籠る。

「魔災さえ無ければ、って今でも思うよ。戻れるのなら、あの頃に戻りたい」

 船出は淡々と、しかしどこか切なさの滲んだ声音で言葉を返し、一足先に進む。

 自らの能力を駆使し、かつての母校を再現していた船出としては特に思うことがあるのだろう。

 そんな彼女達にひょこひょことついて行く四天王の雨天 水萌は、唇をかみしめて泣きそうな表情を浮かべていた。

「セイレイ君と、一緒に校庭を歩いたのが懐かしいですっ……。もう、あの面影も、景色も、何もないんです。どこに行っちゃったんですか、どこに……」

「水萌ちゃん。それは今から探しに行くんだ。セーちゃんはきっと生きてる」

「……ですね」

 戦士の青菜 空莉は、不安げな顔色を浮かべながら、それでも雨天を励ますべく気丈に笑みを作った。

 彼の胸中は理解していただろう。だが、雨天はそれに触れることなくこくりと頷くのみだった。


 それぞれの思いを馳せる中、魔法使いの前園 穂澄と並ぶ形で白のドローンはふわりと空を泳いでいた。

 かつては前園が操作する形で動いていたが、今は元来の所有者である秋狐こと秋城 紺が入り込んでいる。

 新たに吟遊詩人として勇者一行の仲間入りを果たした秋狐は、そのカメラを校庭に並ぶ墓標へと向けた。

「……秋狐さん?どうしたの?」

『……ちょっと待ってて』

 前園は秋狐に問いかけた。しかし、秋狐はそれに返事をせず、じっと校庭にカメラを向け続ける。

「よっと」

 しばらくしてから、秋狐は白のドローンの姿から人間の姿へと変化した。

 ウェーブがかった橙色の髪と、どこかサイバーチックな雰囲気の纏う和服が特徴的だ。そんな秋狐は、校庭を神妙な表情で眺める。

「……塔出高校。1年1組。相田 雄介。秋野 隼人。朝倉 甲斐。岩崎 梢……」

「秋狐さん?」

「金山 香住。木下 由美。榊原 華……」

 秋狐は静かに、透き通る声で生徒の名前を読み上げていく。

 読み上げる名前に心当たりは一切なかったが、何を意味しているのかは理解した。

「肥田 修。丸山 真紀。宮村 茉奈……」

 きっと、塔出高校に通っていた生徒の名前なのだろう。

 魔災に巻き込まれ命を落としたであろう生徒の名前が、秋狐によって読み上げられていく。

「……2年4組。秋野 和人。石川 湊。竈山 椿。佐原 未来。鶴山 真水……」

「真水……」

 一ノ瀬はかつての想い人の名前をぽつりと漏らす。


 やがて全校生徒の名前を呼び終えた秋狐は、ひとつ小さく頷いた。

「……皆さん。塔出高校、卒業おめでとうございます。どれだけ月日が経とうとも、私は貴方達を忘れることはありません。皆さんが生きた証は私達、勇者一行が紡いでいきます」

 いつの間にか秋狐の隣に立っていたディルは真剣な表情を浮かべ、言葉を続ける。

 そこには詭弁に塗れたいつもの彼の姿はなかった。

「ボク達が居る限り、キミ達が生きた証は消えることは無いよ。世界を取り戻すんだ。もう、キミ達のような人々を生み出すわけには行かない」

「随分とディル君もしおらしくなったね」

「成長した、って言ってもらいたいものだね」

 苦笑いを零すディル。

 彼の返事を聞いた秋狐は、それから再度校庭へと視線を向けた。

 それから、静かに歌を紡ぐ。


「君が代は 千代に 八千代に さざれ石の……」

「……紺ちゃん」

 彼女が「君が代」を歌い始めたことに気づいた船出は、寂しげに言葉を漏らす。

 それから、船出も彼女の歌声に重ねるように、静かに歌を紡ぎ出した。


 ——貴方の命が、いつまでも、長く続きますように。


 そんな想いの込められた「君が代」を、勇者一行は校庭に向けて歌い続けた。

 ずっと、ずっと、ずっと。

 皆の想いは潰えることが無いって、伝えるように。


 To Be Continued……

【配信メンバー】

・セイレイ

・アラン

【ドローン操作】

・荒川 東二(四天王:赤のドローン)

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