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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
230/322

【第百十話(2)】繰り返される始まり(中編)

【登場人物一覧】

・セイレイ

配信名:セイレイ

役職:勇者

瀬川 怜輝の身体を借りているだけの、作り物の存在。

どうやら知らぬ間に都心へと身を移していたようだs。


荒川(あらかわ) (らん)

配信名:アラン

自由気ままに生きている少女。

どこか掴みどころのない彼女であるが、その実力は本物である。


荒川(あらかわ) 東二(とうじ)

株式会社A-Tの社長を務める四天王。

日々娘の育て方に苦悩する、一人の父親でもある。

「ふん♪ふんふふ~ん♪」

 俺の隣で、零れそうなほどにゲームカセットを抱え込んだアランが幸せそうに笑って鼻歌を歌っている。

 そんな彼女の姿を見ていると、俺も少しだけ嬉しい。

「……アラン、油断するなよ」

 誤魔化すようにアランへとそう忠告の言葉を与える。すると、彼女はむすっと口を尖らせて反論した。

「ぶー。先輩かたーい!もう少しリラックスしよーよっ」

「ダンジョンの中だぞ?何があるかわかんねーんだ。配信はダンジョンから出るまでだろ」

「遠足みたいなこと言ってる……」

 ぶつくさと不満そうに愚痴をこぼすアラン。口酸っぱく言っている自覚はあるが、こうでもしないとアランは一切警戒などしないだろう。

 確かに彼女は類い希なる才能を持ち合わせているのだろうが、それが警戒を怠る理由とはならない。


 今回はダンジョンを攻略したと言えども、魔物が消え去ったわけではない。

 危険は、外に出るまでつきまとうのだ。

 ――なのだが。

「先輩っ、ごー!」

「……まるで犬にでもなった気分だよ!」

「悔しかったらワンワンって鳴いたらどうー?きゃはっ♡」

「お前絶対戻ったらぶん殴る……」

 アランの指示通りのタイミングで動くことによって、まるで魔物などいないかのように群れの中をくぐり抜けることが出来る。

 言い回しこそ最悪だが、彼女の勘の良さは間違いなく本物だ。

 だからこそ、油断していた。


『セイレイ君。今日はありがとうね』

 家電量販店の出入り口前に差し掛かった時、東二は俺にそう語りかけた。

「俺は何もしてないよ。結局アランが全部やってくれただろ」

『彼女と一緒に居てくれただけでも十分だよ。何せ蘭は魔災以降、14になるまで同年代の友達と遊んだことさえないんだ』

「……14……」

 俺よりも2つも年下。見た目年齢で言えば雨天と同年代ということか。

 これだけの長い年月を父親と二人だけで生きてきたのだから、価値観が狂ってしまうのも仕方ないのだろう。

『出来るだけ、蘭と仲良くしてやって欲しい。父親としてのささやかな願いだよ』

「断る理由もないからな。と言うよりも蘭は放っておくには危なっかしすぎる」

『……はは』

 東二は乾いた笑いを返すのみで、それ以上は何も会話を続けようとしなかった。

 俺もそれ以上首を突っ込む気にはならなかったので、会話を切って二度と稼働することのないガラスドアへと歩みを進める。

 

 その時だ。

「――っ!?」

 全身を突き刺すような、冷たいさっきが肌を撫でる。

 直感的に嫌な予感を感じ取り、とっさに隣を歩くアランへと視線を投げかける。

 当然、彼女なら分かっているものかと思ったが――。

「……どうしたの?先輩」

「……」

 気付いていないのか。

 彼女に説明する時間も惜しく、俺は右手に力を込める。

 俺の期待に応えるように、光の粒子は徐々に集い始めた。

「えっ、先輩?何してるの?」

「アランっ!」

 嫌な予感の正体を掴むように、俺はファルシオンを持ったまま、素早くアランを抱き寄せるように飛びついた。

 目を丸くした彼女が、視界の端に映る。しかし次の瞬間には行く末は、ボロボロのカーペットが眼前に迫っていた。

「っぐ!?」

「なっ、なにっ。えっ」

 耳元からアランの動転した声が聞こえる。彼女に状況を説明しようと身体を起こそうとした時。


「きゃあっ!?」

 俺達が先ほどまで居た空間を、巨大な棍棒が薙いだ。彼女を庇うように飛び出していなければ、今頃二人ともミンチだっただろう。

「ガアアアアアッ!」

「――っ」

 響く叫び声の中に潜ませるように悪態を吐く。耳をつんざくような声が鼓膜をこれでもかと刺激する。

 これまで、勝てるレベルの相手としか出会ったことが無かったのだろう。アランは「ひっ」と身体を縮こまらせて俺にしがみ付く。

 ちらりと視線を叫び声の根源へと辿れば、見えるのは筋骨隆々の緑色の皮膚。

 身体を纏う煌びやかな装飾が、照明に反射して光のカーテンを生みだす。

 ……間違いない。以前戦ったことのあるホブゴブリンだ。

「――っ、アラン!逃げろ」

「えっ、でも」

 目をパチパチとしばたたかせて、アランは縋るように俺のパーカーの裾を掴む。

 だが、彼女には悪いが足手まといだ。

 ここは、嫌われてでも彼女を遠ざけるべきだ。


「良いから行けよっ!!テメェが居ると足手まといなんだよっ!!」

「ひっ、あ、はい」

 再び身体をびくりと震わせ、アランはすかさず立ち上がった後、逃げるようにして俺の元を離れた。

 一人先にガラスドアをこじ開け、ダンジョンの外へと逃げ出す。

「……さて」

 ゆっくりと俺は身体を起こし、ジロリと不届き者を見下ろすホブゴブリンをにらみ返す。

 残ったのは、俺とホブゴブリン。そして、俺の傍らを飛ぶ赤のドローンだけだ。

『セイレイ君。さすがに言葉は選んで欲しかったよ……』

 ドローンのスピーカーから東二の躊躇いの籠もった声が漏れる。

「悪い、東二さん。アランについてやってくれ」

『……無理はしないでくれよ。スキルは存分に使ってくれて良いから』

「助かるよ」

 そう行って、赤のドローンも俺から離れるようにして居なくなった。


 何度もファルシオンを振り回してその感覚を確かめる。俺の姿を撮影するものが誰一人として居なくなったことに苦笑を漏らす。

「……穂澄に怒られそうだな。こんなの配信じゃないって」

 もはや、今やっているのは配信ですら無い。

 コメントもなければ、共に戦ってくれる仲間も居ない。

 名実ともに、たった俺一人での戦いだ。

「グオオオッ……」

「奇跡でも、起こらねーかな」

 ホブゴブリンの威圧するような声に対して、思わずそんな言葉が漏れる。

 だが今は少しでも彼女達が逃げる時間を稼ぐ……あるいは、倒して危機を免れるようにしなければならない。

「……スパチャブースト”青”」

 覚悟を決めて、俺は宣告(コール)した。

 同時に、両脚に淡く、青い光が纏い始める。「五秒間跳躍力倍加」が発現した証拠だ。

「グオオオオオオッ!」

「当たるかよ!」

 ホブゴブリンの振り下ろし攻撃を、迷うことなく横っ飛びで回避する。襲い掛かる衝撃波が全身の衣服をはためかせる。舞い上がる土煙が、ホブゴブリンのシルエットを掠めた。

 俺は迂回するようにしてホブゴブリンの背後に回り込む。それから、勢いのままにファルシオンで横薙ぎの一閃を食らわせる。

「ぜあああああっ!」

「ガッ……」

 ホブゴブリンは苦悶の声を漏らしつつ、ゆっくりと身体を捻る。

 瞬時に次の攻撃が来ると判断し、大きくスライディングの要領でホブゴブリンの足元に滑り込む。

「っ!?」

 その判断は正解だった。先ほどまで俺の居た空間が、ホブゴブリンの棍棒で薙ぎ払われる。

 商品棚を巻き込みながら、大きく土煙を舞い上げる。凄惨な音が、静寂の店内に響き渡った。

「グォォォオオオオオ……」

「はっ、付き合ってやるよ」

 再び距離を取る俺を苛立った声音で睨む付けるホブゴブリン。

 更に挑発するように、俺は空いた左手で手招きのジェスチャーをした。

 その動きに応えるように、ホブゴブリンがゆっくりと巨大な図体をこちらへと寄せる。


 To Be Continued……

【配信メンバー】

・セイレイ

・アラン

【ドローン操作】

・荒川 東二(四天王:赤のドローン)

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