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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
228/322

【第百九話(3)】市街戦配信(後編)

【配信メンバー】

・セイレイ

・アラン

【ドローン操作】

・荒川 東二(四天王:赤のドローン)

 雷鳴が俺の視界を埋め尽くす。迸る稲妻に伴って、魔物の群れが大きく仰け反るのが分かる。

 心地良さすら感じるほどの駆け巡る爽快感が、俺にさらなる力を与える。

『セイレイ君。あまり無茶はしないでくれよ?』

「分かってるよ東二さん!アンタに責任を感じさせることはさせねぇよ!」

 加速する思考のままに、向上した動体視力を余すことなく活用して敵の攻撃を回避。ゴブリンの攻撃を身体を無理な姿勢で躱し、返す刃で喉元を切り裂く。

「グォォォ……!」

「……っと、危ねぇな!怪我したらどーすんだっ」

 オーガの振り下ろす一撃を回避し、その胴元を雷の纏ったファルシオンで貫く。

 瞬く間に傷口から全身に迸る電流が、オーガの筋収縮を狂わせる。

「グガァァァッ!!」

「次!」

 その全身が絶命するのを視界の端で確認し、迷うことなく駆け抜ける。

 ちらりと後方に視線を向ければ、アランが槍一本を駆使して魔物を華麗に薙ぎ払う姿が見えた。

「スキルを使わないと戦えない勇者様の代わりに私が相手してあげるっ♡ほらほらっ、雑魚じゃないって証明してみたらどうかな?ね、ほらっ」

「……あいつバケモンかよ。スキルも無しで……」

 彼女が槍を振るう度に灰燼が巻き上がる。

 複数の魔物に囲まれながらも、まるで雑草でも刈るかのように悉く魔物の群れを掃除していく。

 

 アランのスキルの全容を把握している訳ではない。

 しかし一切スキルを使用する気配を見せないことから、恐らく「紙吹雪」のように効果のないスキルなのだろう。

「……ん?私のスキル気になる?」

「効果のないスキルなら別に見せなくていいよ」

「そんなつれないこと言わないでよー先輩っ♡えいっ、スパチャブースト”緑”☆」

「要らねえって!?」

 まるで聞く耳を持たないアランは迷うことなく宣告(コール)。俺の傍らを飛ぶドローンから「おいっ」と東二の慌てた声が聞こえる。

 それと同時に、どういう訳か周囲が暗くなっていく。

「!?おい、アラン何をした!?」

 一瞬俺の視界が狂ったとさえ感じたが、周囲の魔物に目配せするとやつらも同様に慌てた様子だ。ということは、周囲全体が実際に暗くなっているのだろう。

 そんな中、光に照らされるのはアランただ一人。

 視界不良を引き起こした原因であるアランは、自身を中心に降り掛かる光を浴びて楽しそうに笑う。

「ほら、雑魚のみなさぁーんっ!ご覧あれっ、こんなに可愛く可憐な私を見て!」

『こら!蘭!セイレイ君もいるんだからやめなさい!』

「パパ、固いことは言わないっ!私が全部やっちゃえば解決、でしょ?ね♡」

 東二は慌ててアランのことを咎めるがまるで彼女は聞く耳を持たない。

[アラン:スポットライト]

 ドローンが表示するシステムメッセージにはそう表示されていた。

 彼女の周囲以外の光景が真っ暗闇に変化するスキル——。

 ——正直、効果が無いどころか俺にとってはデメリットも良いところだ。


「ほら、先輩?待っててね、可愛い可愛い後輩のアランちゃんが今そっちに行くよっ♡」

 当のアランはそう声を掛けると共に、彼女は俺の元へと駆け抜ける。

 同時にスポットライトも彼女を追いかけるように移動。やがてスポットライトに当てられ、隠されていた魔物の姿が露わとなった。

「あはっ♡情けないねっ、ね?こんな可愛い美少女にやられるんだから光栄に思っていーよっ」

 スポットライトに当てられた魔物から、徐々にアランの槍の餌食となる。

 有限実行とは言うが。

 あからさまに彼女以外にとってはデメリット効果を持つ「スポットライト」を放ったアランはものの見事に俺の元へと駆け付けた。

「ね、来たよ先輩♡褒めて褒めて!」

「……あ、ああ」

 彼女を囲う光が、徐々に俺にも覆い被さった。

 俺の手足や衣服を明色へと書き換えるその光に視線を送る。その光の中心にいるのは紛れもない彼女だ。

 アランはきょとんと首を傾げながら、俺の続くリアクションを待っている。

「……そのスキル、二度と使うなよ」

「えー!?」

 期待した反応ではなかったのか、彼女は残念そうに頬を膨らませて不服の意を示した。

 その反応に連なるように、暗くなっていた周囲の景色が元の様相を取り戻していく。まるでトンネルから出た時のような、まばゆい光が網膜を刺激する。

 戻る光に目を細めながら、俺は彼女の姿を視界で捉えた。

「……ん?どう、惚れた?」

 くすりと悪戯っぽく微笑むアラン。何となく彼女にからかわれ続けるのも癪だったので、俺は適当に言葉を返す。

「かもな」

「ぶー……えっ!?」

 本当に感情の寒暖差の激しい少女だ。彼女は「あわわ」と両手に口を当てておろおろしている。

『セイレイ君……蘭をあんまりからかわないでやってくれよ』

 そんな傍らで、東二の苦笑を漏らす声がドローンから響いた。

 魔物の群れを打開することよりも、正直アランの相手をする方に気力を使った気がする。

 

 気づけば一掃していたのだろう。

 俺達を取り巻く魔物の群れは綺麗さっぱりいなくなっていた。

「……東二さん、アランの協調性のなさ……どうにかしてくれよ」

『それに関してはすまない……』

 どうやら彼も手を焼いているようだ。トーンの落ちた声で返されては俺もどうすることも出来ない。

 

(今までが上手くいきすぎてたんだな)

 失礼だとは分かっているが、ついかつての勇者一行と比較してしまう。

 以心伝心と言わんばかりにお互いに意図を理解して、役割分担を違うことなく遂行できていた今までが奇跡だったのだ。

「さて、どう攻略するかな……」

「大丈夫だよ?先輩は私について行くだけで良いんだよっ」

「ああ、頼りにしてるよ」

 正直、今はダンジョンのことよりも彼女のことが気がかりだった。

 仲間達と合流しなければいけないというのは当然のことだが、あまりにも彼女の自分勝手さは目に余る。


 恐らくアランは外の世界を知らなさすぎるのだろう。荒川 東二というSympassの庇護の元で存在する四天王。

 その実の娘である彼女は、どれほどこの魔災に墜ちた世界で恵まれていたのか想像に難くない。

 さらに加えて、彼女は奇しくも配信者……ひいては戦闘の才を持ち合わせていた。

 ほとんど無駄スキルと言わざるを得ない「紙吹雪」と「スポットライト」……そして、恐らく”黄”も開花していたところで同様のスキルだろう。それらのスキルを持ってなお、この日まで生き延びることが出来たのだ。

 

 日々困難と向き合って、確実に成長を実感してきたnoise——一ノ瀬とは大きく異なるケースだ。というか一ノ瀬がアランと出会ったら卒倒しそうな気がする。

(……分からせ、か)

 彼女の言うその言葉の真意は知らない。

 だが出会ってしまった以上は、少しでも彼女達の力になるべきなのだろう。


「とりあえず、家電量販店にゲームを取りに行くんだな。行こう」

「わーい!ゲームっ、ゲームっ♪」

 まるでダンジョンに向かうとは思えないほど高いテンションで飛び跳ねる彼女。

 遊び人の役職に相応しいアランは、我先にスキップしながらダンジョン化した家電量販店へと足を運ぶ。

(noiseが見たら「自ら危険に実を曝すなんて馬鹿か?」とか鼻で笑いそうだな)

 ふと、そんな思考が脳裏を過ぎる。

 それから、離れ離れとなった仲間のことを考えてしまっている自分に苦笑が漏れた。


 ……勇者セイレイとして、誇れる自分でいなきゃな。

 俺は改めてそう胸に誓い、一足先に進む荒川親子の後に続く。


 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・アラン

 青:紙吹雪

 緑:スポットライト

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