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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
226/322

【第百九話(1)】市街戦配信(前編)

【配信メンバー】

・セイレイ

・アラン

【ドローン操作】

・荒川 東二(四天王:赤のドローン)

 乗り込んだエレベーターの稼働音をBGMに、ふと外の景色を見やる。

 魔王が生み出した桜の樹根が侵食する街並みは、地平線のずっと遠くまで続いていた。

「いつ見ても桜咲いてるんだもん、飽きちゃった」

 俺の隣に立った蘭は、そう気だるげに大きな欠伸をしながら話しかけてくる。

「……だよな」

「てかさあ。なーんで魔王さんは世界を滅茶苦茶にしようって思ったんだろうねぇー?先輩は知ってる?」

 ……どうやら俺の呼び名は”先輩”で確定したらしい。

「さあな。センセーの本心は結局分からないままだったよ」


 ただ、たったひとつだけ心当たりがないと言えば嘘になる。

 勇者一行の盗賊である、一ノ瀬 有紀がかつて俺に語っていた仮説の話だ。


 ——一ノ瀬を女性へと書き換えた”前提の書き換え”の力。あれを世界中に干渉させることが出来るとしたら。

 魔災を「無かったこと」に出来るのではないか。

 そう、彼女は語っていた。


「……前提の書き換え、か」

 全世界を滅ぼすほどに強大なホログラムの力だ。今更驚きはしないが……。

「先輩難しいこと考えるの好きだねー?もう少し気楽に行こうよ、人生長いんだからね?」

 俺の思考に割って入るように、蘭は俺の両肩に手を乗せてきた。

 間延びした彼女の口調が、俺の調子を狂わせる。

「世界を救う勇者なんだから考えないといけねー問題だろ」

「考えまくってるとハゲるよ?気楽にいけばいいんだよー」

「誰がハゲだ」

「言ってない言ってない」

 心底楽しそうに、笑いを堪えてそう話す蘭。

 ただ、彼女の言う事も一理ある。

「……まあ、お前の言う事も一理あるな。もう少し肩の力を抜くことにするよ」

「あはっ、こんな女の子の言う事に従っちゃう先輩情けなくて可愛いね♡」

 やっぱこいつのこと一発ぶん殴った方が良いだろうか?

 蘭とそんなやり取りをしている背後で、彼女の父親である東二はエレベーターの階層が表示されたディスプレイに視線を送っていた。

「二人とも、そろそろ外に着くぞ。大丈夫だと思うが、無理のないようにな」

「えー」

「えーじゃない」

 重力が足元に加わる感覚を覚えると同時に、ガラス窓からは無骨なコンクリートと鉄骨しか見えなくなった。

 どうやら、一階に到着したようだ。

「……っ」

 それと同時に肌で感じるのは、全身から突き刺すような殺気だ。

「じゃあ、俺は配信を開始するよ。セイレイ君も気にせずお金使ってくれていいからね」

「え、スパチャブースト使えるのか?」

「貯金はこういう時に使わないとね」

 どこか質問に対する答えになっているようでなっていない言葉を返す東二。

 彼はポケットから取り出したスマートフォンを素早く操作し、配信を開始した。

『怪我だけは無いようにしてくれよ。蘭、セイレイ君を頼むよ』

 瞬く間に当時は自身の姿を赤色のドローンへと変えた。もう何度も見てきたその光景だったが、改めて彼が四天王なのだと実感する。

「もちろん、ぺーぺーの先輩にはサポートが必須だもん!ねっ♪」

 蘭は俺の方を見ながらいたずら染みた笑みでウィンクをした。

(いや、逆だろ)

 思わずそうツッコもうと思ったが、彼女はこんな都会の中でずっと生きてきたのだ。

 戦闘経験は言わずもがな……だろう。


 やがて、重みのある音を響かせながらゆっくりとエレベーターの扉が開く。

 俺は蘭から距離を取り、右手に力を籠める。

 すると想いに応えるように光の粒子がどこからともなく掌の中に集っていく。それは徐々に剣の形を作り出し、いつしか俺の愛刀であるファルシオンを生み出していた。

 傍らで蘭はのびのびとした様子で大きく背伸びする。頭上に高く伸ばした手の中に、光の粒子が集い始めた。

「んー……さあて、今日も魔物さんを分からせますか、っと」

「……分からせ?」

 どうも蘭の発する言葉は訳の分からないものが多い。

 だが、俺の疑問符など彼女はまるで聞いていなかった。光の粒子は徐々に横に伸びていき、槍の形を作り出す。

 やがてその小柄な体躯に似合わないほどの大きな槍が彼女の両手に生み出されていた。

 何度もその槍の石突で床を叩いた後、ちらりと俺の方を向く。

「先輩、私にも役職欲しいなー。ほら、魔法使いとか戦士とか!私も勇者一行の仲間だー……ってやりたい!」

 唐突にそんな言葉を言い放った蘭に、思わず呆気に取られる。

「は?要るかそれ?」

「モチベが違うんだよー、ね、可愛い女の子の頼みは聞くもんだよ」

「自分で可愛いって言うのか……」

 特に必要ないのではないか、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 それから、俺は彼女に似合いそうな言葉を考えることにした。


 思い出すのは、部屋内に散乱したゲーム機やカセットの類。

 どうやら彼女はゲームが好きなようだ。娯楽が好きで、どこか掴みどころがない彼女に似合う役職——。


「……遊び人?」

「なんでよりによってそれなの!?」

 背後で俺達の姿を撮影しているドローンのスピーカーから『ぶっ』と東二の吹き出す声が聞こえた。

 蘭は不服そうに頬を膨らませて抗議する。

「やだやだやだ遊び人はやだ!なんか不名誉!」

「え、えー……」

 とはいっても正直、それ以外に思いつかない。

 そんな俺を庇うように、赤色のドローンがふわりと空を泳ぎ俺達の間に割って入った。

『遊んでばかりでちゃんと勉強してない蘭にはぴったりじゃないか』

「パパまで!?可愛い愛娘を庇う気はないのっ!?鬼!悪魔!四天王!」

『四天王は事実だけどな……自戒の念を込めるという意味でもぴったりじゃないか』

 別にそこまで考えて命名したわけではないが。

 どうやら東二にとっては蘭の役職はおあつらえ向きだったようだ。うんうんと納得したように何度もうなずく声が響く。

 蘭はしばらく不服そうに俺を睨んでいたが、やがて観念したように槍を握り直しながらぶつぶつとぼやき始めた。

「こんな形の分からせ要らない……どうして……どうして……」

「いいから案内してくれよ。ゲーム取りに行くんだろ、遊び人さんよ」

「ぶー!あそこ!」

 冷やかしも兼ねてそう呼ぶと、蘭は破裂しそうなほどに頬を膨らませた。それからびしっと並ぶビルの街並みの奥を指差す。

 そこには遠くからでも目を引くほどに存在感を放つ、家電量販店の店名が示されていた。

 

 それから自身の視線を正面に降ろした先に見えるのは、人々の代わりに無数に闊歩する魔物の姿だ。

 ゴブリン、オーガ、ゾンビなどこれまで戦ってきた魔物が、交差点や通路を埋め尽くすほどまでに散在している。

「……確かにこれは今までとは違うな」

「いいからいくよっ、セ・ン・パ・イ♡」

「はいはい」

 蘭——いや、配信名は「アラン」か。彼女は低く構え、槍を両手で握る。彼女の動きに連なって赤みがかった黒髪がふわりと揺れた。

 

 俺はファルシオンを正面に突き出し、その切っ先と魔物の群れを合わせる。

 いつも行っている「アタリを取る」動作だ。スケッチブックが無くても、やることは変わらない。

 徐々に魔物の群れが俺達の存在に気付き始める。明らかに敵意の滲んだ視線が、一斉に襲い掛かる。

「……冷静になれ。セイレイ……」

「ダジャレ?セイレイとレイセイ……ぷぷっ」

「うるせぇ」

 そろそろ彼女には空気を読んで欲しいものだが……。

 目を閉じて大きく深呼吸する。

 水深く、奥底に沈む自分をイメージするにつれて、思考が自身の身体に定着する感覚が戻る。

「……始めるぞ。新たな配信の開幕だ」

「ひゅー!先輩かっこいー!」

「言ってろっ!スパチャブースト”青”!」

 俺はアランを置き去りにして、自身の宣告(コール)を戦闘の合図とした。

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 赤色のドローンから表示されたホログラムで構成されたモニターに、システムメッセージが表示される。

 それと同時に、俺の両足に淡く、青い光が纏い始めた。


 青色の光が、俺に希望を与えてくれる。

 ——取り戻す。全て。

「俺はっ!皆の所に帰るんだ!」


 To Be Continued…… 

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