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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
225/322

【第百八話(2)】全て零から(後編)

【登場人物一覧】

・セイレイ

配信名:セイレイ

役職:勇者

瀬川 怜輝の身体を借りているだけの、作り物の存在。

どうやら知らぬ間に都心へと身を移していたようだ。


荒川(あらかわ) (らん)

配信名:アラン

自由気ままに生きている少女。

どこか掴みどころのない彼女であるが、その実力は本物である。


荒川(あらかわ) 東二(とうじ)

株式会社A-Tの社長を務める四天王。

日々娘の育て方に苦悩する、一人の父親でもある。

 ダンジョンというには、明らかに生活感の強すぎる場所だった。

 散らかった衣類は何とかして畳もうとした痕跡があるが、結局めんどくさくなったのだろう。引き出しの中には無理矢理詰め込まれた痕跡のある衣服の切れ端が姿を覗かせている。

 等間隔で並ぶ白を基調とした清潔感のあるデスクの上には、デスクトップ式のパソコンが並べられている。蘭の部屋は応接間を改造したもののようだ。元はオフィスとして機能していた場所だったのが推測できる。

 そして、ダンジョンの主である荒川 東二はそんなデスクの前に腰掛け、モニターとにらめっこしていた。

 声を掛けようと思ったが、何やら集中していたので様子を伺うことにする。


 だが、彼は俺が背後に立っていることに気づいたのだろう。

「もう少し待ってくれ。区切りの良いところまで進めたいんだ」

 こちらの方を見向きもせずにそう言葉を掛けた。

 俺としては急かす理由もないため、はい、とだけ返事をして蘭と共にソファに腰掛けて彼を待つことにした。

 蘭は退屈そうに大きな欠伸をしている。それから肩掛け式のカバンから携帯式のゲーム機を取り出し、手慣れた操作で遊び始めた。

「ゲームか……ずっと持ち歩いてるのか?」

「うん?そうだよー、これが無いと生きてらんない」

 言葉を返すのも億劫という様子で、こちらを見向きもせずにゲームを遊ぶことに集中し始める。

 仕事に専念する父親と、ゲームに没頭する娘。


「……」

 今まで仲間達と雑談をして過ごすことが多かった分、誰とも話すことが出来ない時間にもどかしさを感じる。

 時間を潰すものを持ち合わせていない為、オフィス内に配置されているデスクなどを眺めて時間を過ごすことしようとした。

 すると突然、俺の視界にゲーム機が滑り込む。

「やって」

 蘭はこちらを見ずに、そんなことを言い出した。

「え?」

「暇なんでしょ?」

「って言っても俺、ほとんどゲームやったことねーんだけど」

「困ってる人を助けるのが勇者様だよね?ほら、やってやって!」

 ワガママを体現したような蘭はバシバシとソファの座面を叩いてそう急かしてくる。

 断る理由もないため、俺は渋々彼女の要望に応えるべくゲーム機を触る。

 ……ゲームを触った記憶などほとんどないのだが、何故か手に馴染む。

「案外触れてるじゃん?」

「まあな……?」

 俺自身も理解できないが、初めてとは思えないほどに操作方法が分かる。

 何故か、とその理由を考えてみたが思い当たる理由が一つあった。


 ——インターネット上に溢れた、全ての人々の思考を切り取って、繋げた存在。それが、俺という存在だ。


「……なるほどな」

 自分自身が作り物の存在であるという事実は未だ割り切れないままだ。だが、そうした経緯によって目の前の少女のわがままに応えることが出来る、というのは捉えようによっては利点のひとつなのだろう。

「で、荒川?蘭?あー……どのゲームを触ればいいんだ?」

「勇者様の呼びやすい名前で良いよ。どうせならマルチプレイできるゲームやろやろ」

 そう言いながら彼女はカセットケースからいくつものゲームソフトを取り出し、まじまじと真剣そのものといった表情で悩み始めた。

「んー。なんかしっくりくるゲームないなあ……1人用のゲームしかないや。パーティ用のゲームでも持ってこればよかったな―」

「蘭の好きなゲームでいいぞ」

 何気なくそう言うと、蘭の表情がぴたりと固まった。それから、困ったように苦笑を漏らす。

「その言葉が一番難易度高いんだってばー……またゲーム持ってくるかな」

 蘭はそう言ってソファから飛び降りる。ゲームを持ってくるというのだから、どこか違う所に専用の部屋でもあるのだろうか?

 しかし、彼女が次に放った言葉は、俺の予想を上回るものだった。


「パパ!ちょっとダンジョンに行ってくる!」

「は?」

 あたかも買い物に行くような言い方で、蘭はそう言い放った。

 娘の行動を止めることを期待して荒川 東二へと視線を送る。だが、彼はモニターに集中したまま返事した。


「ご飯の時間までには帰って来いよ」

「はぁ!?」

 何だこの親子!?


 父親の許可を得た蘭は、意気揚々と言った様子で大きく手を上げる。それから、階段へと続く扉に手を掛けた。

 さすがに止める訳にもいかず、俺は慌てて蘭の肩を掴む。

「お、おい!?ダンジョンって何かわかってて言ってるのか!?」

「うん?ダンジョンはダンジョンでしょ?魔物さんの住み家の」

 どうやら俺達の認識に齟齬をきたしている訳ではないようだ。蘭は、ダンジョンが何たるかを把握したうえでそのようなことを言い放ったということになる。

 すると、いきなり蘭は何がおかしいのか吹き出すように笑う。

「ふ、あははっ。心配性だなあ勇者様ー。じゃあ保護者として付いてきてよ」

「当たり前だろ、危険なとこに女の子1人放っておく訳にはいかねえだろ」

「きゃーっ、勇者様素敵♡」

 蘭はわざとらしく身体をくねらせる。なんだこいつは。

 そんなやり取りを繰り返す俺達の後ろに、呆れた様子の荒川 東二がやってきた。

「蘭。あまり勇者様を困らせるんじゃない」

「えー。いいじゃん?私のカッコいい姿をお披露目できるんだよ?どやっ」

「はあ……勇者様が行くのなら俺も行くよ。スキルは使えた方がいいだろうし」

 荒川 東二はため息を吐きながら重い腰を上げる。スマートフォンをポケットにしまい込み、俺達の背後に立った。

「良いんですか?仕事中だったんですよね?」

「ちょうど一区切りついたんだ。というか、そろそろ敬語は無しにして欲しいんだがな」

 距離感があることを気にしているのか、荒川 東二は少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。

 さすがにそんな顔をされてまで、敬語を使う気にはなれない。

「……分かったよ、東二さん。だから俺も”勇者様”って呼ぶのはやめてくれよな」

「わがままを聞いてくれてありがとう、ゆ……セイレイ君」

 話に割って入るように、蘭は背筋を伸ばして俺の顔を覗き込む。

「よろしくね、セ・ン・パ・イ♡」

「東二さん。この子は一体どこからこんな言葉遣い覚えてくるんですか」

 一切真剣さを感じない蘭の口振りに、思わず東二へと質問を投げかける。

 肝心の東二はというと、呆れたように大きなため息を吐いていた。


 To Be Continued……


アランちゃんイラストです。

挿絵(By みてみん)

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